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東京地方裁判所 昭和29年(行)53号 判決

原告 桑原一子 外一名

被告 国

一、主  文

原告桑原一子の訴を却下する。

原告永田安子は日本国籍を有しないことを確定する。

訴訟費用中原告桑原一子と被告との間に於て生じた部分は同原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は昭和二十一年三月二十九日附で原告等に対しなされた日本国籍回復の許可は何れも無効であることを確認する。右請求が理由のないときには原告桑原一子が婚姻によつて取得した日本国籍を有することを確認する、原告永田安子は日本国籍を有しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、

一、原告桑原一子及び同永田安子は日本人である父垣下七松、母同はるゑの長女及び三女としてアメリカ合衆国カリフオルニヤ州において大正七年十月二十一日及び大正十三年五月三日夫々出生し、日米両国籍を取得したが、昭和二年九月十二日ともに日本国籍を離脱して米国籍のみを保有した。その後第二次世界大戦中原告等は米国において日本人収容所に収容されたとき周囲の日本人に強要されて米国籍を離脱し、昭和二十一年一月十三日日本に来、原告一子は昭和十四年三月四日米国カルフオルニヤ州において事実上婚姻した桑原正明と共に知歌山県海草郡本脇村に住み、原告安子もそこに同居していた。ところが昭和二十一年二月二十六日原告等名義で日本国籍回復許可申請がなされこれに基いて昭和二十一年三月二十九日和歌山県知事より国籍回復許可があり原告等は何れも日本国籍を回復したものとして和歌山県新宮市佐野九十九番地に夫々一家創立した旨戸籍簿に記載されている。その後原告一子は桑原正明と昭和二十一年八月二十一日原告安子は永田繁雄と昭和二十七年七月十六日婚姻しその旨夫々戸籍簿に記載されている。

二、然しながら右国籍回復許可申請は原告等の父垣下七松により原告等に無断でなされたものであるから当然無効である。従つて右申請に基いて和歌山県知事がなした前示許可もまたその前提を欠き効力を生じないことが明らかであるからその無効であることの確認を求める。

三、仮にかゝる確認の請求が容認され得ないものであるとしても前述の事実よりして国籍回復許可は当然無効であるから原告一子は昭和二十一年八月二十一日日本人たる桑原正明と婚姻したことによつて取得した日本国籍を有するものである。そこで予備的に同原告は婚姻によつて取得した日本国籍を有することの確認を求める。又原告安子については前述の事実よりして国籍回復許可は当然無効であるから同原告は日本国籍を有しないのである。そこで予備的に同原告は日本国籍を有しないことの確認を求めると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は原告等の請求を棄却するとの判決を求め、原告等の主張事実中原告等がその主張の日時場所において日本人たる父垣下七松母同はるゑの間に生れ日米両国籍を取得したが、昭和二年九月十二日日本国籍を離脱し米国籍のみを保有することとなつたこと、その後原告等主張の日に原告等名義で国籍回復許可申請がなされ、これに基いて昭和二十一年三月二十九日和歌山県知事から夫々その許可があり、和歌山県新宮市佐野九十九番地に夫々一家が創立された旨戸籍簿に記載されていること、原告一子は桑原正明と昭和二十一年八月二十一日原告安子は永田繁雄と昭和二十七年七月十六日夫々婚姻し、その旨戸籍簿に記載されていることは認めるが、垣下七松が原告等に無断で国籍回復許可申請をしたことは否認する。その余の事実は不知と述べた。(立証省略)

三、理  由

一、先ず国籍回復許可無効確認の訴について考える。

国籍回復許可は一定の要件を具えた者が所定の申請をなした場合に当該行政庁がその申請者に対し日本国籍を取得せしめるためになすところの行政処分(旧国籍法(明治三十二年法律第六十六号)第二十五条第二十六条参照)で、これによつて日本国籍を取得した者は日本人として国に対する包括的法律関係を有することになる。従つてそれ自体は当該行政庁が申請人に対して日本国籍を取得せしめるという法律効果を伴う公法上の行為であるからそれ自身としては確認訴訟の対象とならないことは明らかである。何となれば確認訴訟は特別に規定がある場合を除いては現在における権利義務又は法律関係の存否を目的とする場合に限り許されるものであり、そして国籍回復許可処分の無効確認の訴について特にこれを認めた規定はないからである。されば国籍回復許可処分の無効確認の訴はその訴旨を当該行政処分によつて生ずべき国に対する包括的法律関係たる日本国籍の不存在確認を求めるにあると解することによつてのみ適法なものといい得るのである。

ところが(イ)原告一子についていえば同原告は現在婚姻により取得した日本国籍を有していることを前提として本訴請求をしているところからみて、同原告が日本国籍を有しないことの確認を求めているものとは到底考えられないのであつて、原告一子の申立の趣旨とするところは同原告は婚姻によつて取得した日本国籍を有するのであつて国籍回復許可によつて取得した日本国籍を有するものではないという点に存するものと解すべきである。然してその後段は同原告が婚姻によつて取得した日本国籍を有するとする前段の主張を導き出すための附加的説明にすぎず、結局原告一子の申立は原告一子が婚姻による日本国籍を有することの確認を求める趣旨に帰することになる訳である。次に(ロ)原告安子についていえばその申立の趣旨とするところは、結局国籍回復許可の行政処分は無効であるとして同原告は日本国籍を有しないことの確認を求めるにあるというべきである。従つて原告等の国籍回復許可無効確認の請求は原告等の予備的に申立てている請求と全く同一趣旨のものに外ならないので次において判断する。

二、原告一子が婚姻による日本国籍を有することの確認を求める訴について、

この点に関する原告一子の請求は(イ)原告一子が日本国籍を有することの確認を求める部分と(ロ)その有する日本国籍が婚姻によるものであることの確認を求める部分とに区分し得るところ、原告一子が日本国籍を有することそれ自体は被告においてもこれを争わないのであるから、原告一子がかかる当事者間に争のない法律関係の存在確認を特に訴求しているものとは考え得られないので、原告一子の本請求は結局右(ロ)の部分にのみ存するか又は右(イ)及び(ロ)を不可分的に結合したものに存するかのいずれかであると認めるべきであるところ、もし前者の場合であるとすれば日本国籍なる国に対する包括的法律関係の取得原因事実そのものが確認の訴の対象となり得ないことは明らかであり、又後者の場合であるとするならば、日本国籍なるものに包摂される複数的法律関係の内容は法定されており、その取得原因の如何によつてその内容に差異を生ずるものではなく、従つて原告一子の有する日本国籍が婚姻によつて取得されたものであるということは、同原告の有するとする日本国籍たる法律関係の内容とはなり得ないものであつて、国籍取得原因は畢竟過去の法律事実に過ぎないのである。ところでかかゝる過去の事実については確認の訴を提起し得ないのであるから原告一子の右確認の訴は法律上許されないものといわなければならない。

三、原告安子が日本国籍を有しないことの確認の訴について、

原告安子が大正十三年五月三日アメリカ合衆国カリフオルニヤ州において日本人たる垣下七松その妻同はるゑの三女として生れ、昭和二年九月十二日日本国籍を離脱したこと、その後昭和二十一年二月二十六日同原告名義の国籍回復許可申請がなされその申請に基いて昭和二十一年三月二十九日和歌山県知事より国籍回復の許可が与えられたことは当事者間に争がない。

ところで右国籍回復許可申請が同原告の意思に基いたものであることについてはこれを認めしめる証拠はなく、却つて証人垣下七松の証言、同原告本人尋問の結果によれば同原告は昭和二十一年一月十三日アメリカ合衆国より日本に帰り和歌山県海草郡本脇村の原告一子夫婦のもとに住んでいたものであるが、前記原告等の父垣下七松は矢張り同じく米国から帰日し婚姻した次女秀子が日本国籍を取得していなかつたため婚姻の届出が出来ないでいたところ、その生れる子供が私生子として取扱われるということであり、又当時主要生活物資は殆んど配給制で日本国籍を有しない者は配給物資を貰えないということであつたので、秀子のため日本国籍回復許可申請をしたが、そのとき原告安子についても同原告に相談なく一緒に日本国籍回復許可申請手続をしたものであることを認めることができる。してみれば原告安子の本件国籍回復許可申請はその意思に基かないものであるから申請として効力を生じないことは明らかであり、これに対する前示国籍回復許可もその前提を欠き無効であるから同原告は日本国籍を有しないものである。しかるに被告は右回復許可申請に基き原告安子が日本国籍を取得したものとして争つているのであるから日本国籍を有しないことの確認を求める原告安子の請求は理由がある。

よつて原告一子の訴は却下すべく、原告安子の請求は認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟第法八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲 柳川真佐夫 鈴木重信)

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