東京地方裁判所 昭和30年(タ)207号 判決
「先づ子が認知無効の訴を提起するにあたり、父が死亡した場合検察官を以て相手方とし、訴を提起することができるかどうか、いいかえれば検察官はこの訴において被告としての当事者適格があるかの問題であり、これにつきこの訴に適用される人事訴訟手続法を通覧するに、父が死亡した場合検察官を以て相手方とすることを認めた明文はない。けれども子の認知の訴については、父が死亡した場合には検察官を以て相手方とすることが同法第三十二条第二項、第三項を以て規定されている。そこで考えるのに、子が父の認知を得ることによつて受ける法律上その他の利益と子が認知をした父と客観的親子血縁関係が存在しないとせられることによつて受ける法律上その他の利益を対比してみて、子たるものの立場からすれば、認知されることと、せられた認知が否定されることと、その価値の上において差があるとは思われないし、またその両者が社会秩序に及ぼす影響においても径庭はないものと解される。とすれば、これらの対比の点から観ても彼の場合には検察官を以て相手方とすることが許されるのに、此の場合にはそれが許されないとするには、いかにも法律上均衡を欠くものと思われる。それから認知によつて生ずる親子関係に基く諸関係は、認知の当事者が死亡しても、なお、残存するものであるから、その認知が効力を否定されることによつてその残存諸関係を規正するためにも認知無効の訴の必要があり、またこの訴について検察官を以て相手方とすると解することにつき妨げとなる規定はないしするから、法律上の均衡を計る上からはまた訴の必要あることからしても、認知無効の訴につき人事訴訟手続法第三十二条第二項、第二条第三項を類推適用して、検察官を以て相手方とするを相当とする。」