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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)1349号 判決 1955年10月28日

原告 株式会社アイゼンベルグ商会

被告 伊藤長三郎 日本バルブ製造株式会社管財人

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「原告は日本バルブ製造株式会社に対し、金五十三万九千七百六円の更生債権ならびにこれと同額の議決権、および金五千二百三十四円四十銭の劣後的債権ならびにこれと同額の議決権を有することを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として、先ずつぎのとおり述べた。

「一、原告は、船舶、車輛、工作機械その他一般機械類等の販売ならびに輸出入を業とする株式会社であり、日本バルブ製造株式会社(以下日本バルブと称する)はバルブの製造ならびに販売を業とする株式会社である。

二、原告は、日本バルブに対し、昭和二十八年六月三十日より同二十九年六月三十日までの間数回にわたりサンダース・バルブを代金合計百十九万五百六十九円で、納入先日本バルブ指定、代金支払時期現品引渡と同時もしくは検収後払の約で売り渡したところ、日本バルブは同二十九年六月十二日右代金中六十五万八百六十三円を支払つたのみで、残額金五十三万九千七百六円の支払をしない。

三、よつて、原告は日本バルブに対し、その後再三右代金の支払を催告したが、その支払を受けられないうちに、日本バルブは昭和二十九年九月三日東京地方裁判所において会社更生法による更生手続開始決定を受けたので、原告は同年十月二十七日同裁判所に前記売買による更生債権金五十三万九千七百六円ならびにこれと同額の議決権、および遅延損害金として右金額に対する更生手続開始決定の日たる昭和二十九年九月三日より債権届出期間の最終日たる同年十月三十一日まで商法所定の年六分の割合で計算した金五千二百三十四円四十銭の劣後的債権ならびに同額の議決権を届け出たところ、管財人は昭和三十年一月二十七日の更生債権及び更生担保権調査の期日において、右届出更生債権中五十二万千八百二十一円ならびに同額の議決権、および劣後的債権中五千六十円四十銭ならびに同額の議決権について異議を述べたので、原告は本訴において、右届出更生債権ならびに劣後的債権およびこれらと同額の議決権を有することの確認を求めるため本訴請求に及んだ次第である。」

原告訴訟代理人は、つづいて前記請求原因をつぎのとおり変更すると述べた。

「一、原告は船舶、車輛、工作機械その他一般機械類等の販売ならびに輸出入を業とする株式会社であり、日本バルブはバルブの製造ならびに販売を業とする株式会社である。

二、原告は日本バルブとの間に、昭和二十八年五月頃以来、訴外英国サンダース・ダイヤフラム・バルブ会社(以下サンダース会社と称する。)との技術提携ならびにこれによる製品販売に関し、大略左のような基本条項を骨子とする協定を締結すべく準備中であつた。

(イ)  原告は、日本バルブがサンダース会社と技術提携をすることについて斡旋をする。

(ロ)  右技術提携後、日本バルブはサンダース会社の製品と同一の品を日本において製造する。

(ハ)  原告および日本バルブは、共同の出資によつて、右製品の販売会社を設立し、右製品は原告の手を経て新会社に引き渡され、販売されるものとする。

(ニ)  原告および日本バルブは、日本バルブの提出する原価計算書を基礎として両者間の仕切値段を決定する。すなわち日本バルブの工場原価に双方の協定する利潤を加えた価格を以て右仕切値段とする。原告は右仕切値段に前記利潤と同率の利潤を加えた価格で新会社に引き渡すものとする。原告および日本バルブならびに新会社間の代金決済は、新会社の手許において精算のうえ、新会社から原告および日本バルブに直接支払うものとする。

三、ところで、前記協定が原告および日本バルブとの間に締結されるまでの暫定期間、とりあえず、右サンダース会社のバルブ製品につき相当の販売実績を挙げるため、昭和二十八年五月頃、原告・日本バルブ間で、左のような契約を締結した。

(1)  原告は、サンダース会社から既に輸入し、または今後輸入すべきサンダース・バルブを日本バルブの倉庫に保管し、日本バルブは右バルブを、原告の委託を受けて、販売することができる。この場合においては、日本バルブは原告出荷の指図に基き、右倉庫より販売先に出庫引き渡すものとする。

(2)  原告は、右販売に関する諸勘定を他の勘定より截然区別出来得るよう、原告会社バルブ課に帳簿を備えつけ、日本バルブは、原告の委託を受けて販売したサンダース・バルブの代金をその責任において回収し、たゞちにこれを原告に引き渡すこと。

(3)  右販売に要する人件費、広告費その他の経費はすべて最終利益計算に包含されるものとし、右販売によつて得た最終利益は原告および日本バルブが折半して取得する。

四、右契約に基き、日本バルブは原告の委託によつて、昭和二十八年六月三十日より同二十九年六月三十日までの間数回に、サンダース・バルブを代金計百十九万五百六十九円で販売しながら右販売代金の中金六十五万八百六十三円を昭和二十九年六月十二日原告に引き渡したのみで、残額五十三万九千七百六円を引き渡さない。

五、よつて、原告は日本バルブに対しその後再三右代金の引渡を催告したが、その引渡を受けられないうちに、日本バルブは昭和二十九年九月三日東京地方裁判所において会社更生法による更生手続開始決定を受けたので、原告は同年十月二十七日同裁判所に、前記変更前の請求原因の中で述べたとおり、金五十三万九千七百六円の更生債権、ならびに金五千二百三十四円四十銭の劣後的債権およびこれらと同額の議決権を届け出たところ、管財人は、昭和三十年一月二十七日の更生債権および更生担保権調査の期日において、右更生債権中五十二万千八百二十一円ならびに同額の議決権、および劣後的債権中五千六十四円四十銭ならびに同額の議決権について異議を述べた。

六、よつて原告は右更生債権ならびに劣後的債権およびこれらと同額の議決権を有することの確認を求める。」

被告訴訟復代理人は、原告の請求原因の変更について異議を述べ、訴却下の判決を求めた。

理由

日本バルブ製造株式会社(以下日本バルブと称する。)につき、東京地方裁判所が、昭和二十九年(ミ)第二一号事件として同年九月三日更生手続開始決定をなし、同時に更生債権、更生担保権ならびに株式の届出の期間を同年十月三十一日までとしたこと、原告が右届出期間内である同月二十七日同裁判所に、原告が日本バルブに対して売り渡したサンダース・ダイヤフラム・バルブの代金百十九万五百六十九円の残金五十三万九千七百六円の債権ならびにこれに対する遅延損害金として昭和二十九年九月三日より同年十月三十一日まで年六分の割合で計算した金五千三百二十四円四十銭の債権(劣後的)、およびこれらと同額の議決権を、届け出たこと、裁判所書記官の作成した更生債権者表にも右届出のとおり記載されていること、日本バルブ管財人が昭和三十年一月二十七日の更生債権および更生担保権調査期日において、原告の右届出更生債権のうち金五十二万千八百二十一円ならびにこれと同額の議決権、および劣後的債権のうち五千六十円四十銭ならびにこれと同額の議決権について異議を述べたこと、ならびに右調査の結果が更生債権者表に記載されていることはいずれも当裁判所に顕著な事実である。

ところで、更生債権者はその債権の内容および原因等を裁判所に届け出ることを要し(会社更生法第百二十五条第一項)裁判所書記官はこれに基いて更生債権者表を作りこれに右の事項を記載し(同法第百三十二条)更生債権調査の期日においては右第百三十二条に掲げられた事項を調査し(同法第百三十五条)右調査の結果は更生債権者表に記載され(同法第百四十四条第一項)異議のある更正債権については、その権利者は異議者に対し、訴をもつてその権利の確定を求めることができるが(同法第百四十七条第一項)右権利確定の訴は右第百四十四条第一項の規定により更生債権者表に記載された事項についてのみ提起し得る(同法第百五十条)ものである。

すなわち、債権の内容および原因については、債権調査期日には右届出にかかり更生債権者表に記載された債権のそれについてのみ調査され、したがつて異議ある債権の確定を求める訴訟も右届出にかかり更生債権者表に記載された債権の内容および原因にのみ限定されるものである。なんとなれば、更生債権確定の訴は、調査期日においてなされた異議の排除を目的とするものであるが、もし更生債権確定訴訟において、届出られ、更生債権者表に記載されたのと異る内容および原因を主張するときは、他の更生債権者等にその債権についての異議を述べる機会を奪うこととなり、債権調査期日に管財人、更生債権者等を関与せしめ、右の者等に、届け出られた更生債権等について異議を述べる機会を与えた、会社更生法の趣旨にも反することとなるからである。したがつて、更生債権者が債権確定訴訟において、届出にかかり更生債権者表に記載されたのと異る原因を主張したり、増額したり、またあらたに優先権を主張したりすることは、結局債権調査の手続を経ない債権について更生債権確定の訴を提起することとなり、不適法であつて許されないものといわざるを得ない。

原告は、本件において、まず、その届出にかかり、且つ更生債権者表に記載されてあるとおりの、原告、日本バルブ間のバルブの売買を原因とする債権を主張しながら、のちにその原因を、原告、日本バルブ間の委任関係に基くものであると変更主張したのであるが、右変更主張された原因は更生債権者表に記載されないものであるから、前説明のとおり、結局右変更は不適法であつて許されないものといわなければならない。

(なお原告の主張自体によつても、原告の届出更生債権のうち一万七千八百八十五円ならびに同額の議決権、および届出劣後的債権のうち百七十四円ならびに同額の議決権については、債権調査期日に異議なく、したがつて確定しているものであるから、(会社更生法第百四十三条)この部分についてさらに確認を求めることはこの部分については訴の利益を欠き不適法と言わざるを得ない。)

よつて原告の本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 入江一郎 高橋太郎 高林克己)

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