東京地方裁判所 昭和30年(ワ)3830号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告らの子光一は昭和二九年一二月三日深更自宅附近の路上で被告会社にやとわれていた井上喜好の運転する乗用自動車に激突され数時間後死亡した。みぎ光一はわずか二五才にして生命を絶たれその将来ある前途を失わしめられたものであるから、その精神的損害は極めて甚大でこれを金銭の賠償で慰藉するとなれば金五〇万円を下らない。原告らは父母として光一の死亡によりみぎ慰藉料請求権を相続したから各相続分に応じ損害金の支払を求めると主張したが、光一がその生前に慰藉料請求の意思を表明した旨の主張も立証もしなかつた。
判決は光一において慰藉料請求権を行使する意思表示をしたと否とにかかわりなく慰藉料請求権が発生すると解すべきものとしてつぎのとおり説明している。曰く。
「従前の判例の多くは、慰藉料請求権は所謂一身専属権であるから、少くとも請求の意思の表白があつて純粋の金銭債権に転化した場合に限り相続の対象になりうるとしているところ、原告等は、本件において、光一がその生前に慰藉料請求の意思を表明した旨の主張も立証していないから、右判例に従う限り、光一の慰藉料請求権の相続は否定されなければならないが、被害者において生前に慰藉料請求の意思を表明したか否かにより慰藉料請求権の相続性の有無を区別するにおいては、即死その他これに準ずる場合としからざる場合とで結論を異にし、その結果として招来されるところが妥当性を欠くに至ること既に論ぜられているとおりであつて、結局、右判例の見解は現在においては修正されるべきものと考えられるから、光一において慰藉料請求権行使の意思表示をしたと否とにかかわらず右慰藉料請求権は相続性を有するものと解するを相当とする」