東京地方裁判所 昭和30年(ワ)4091号 判決 1957年7月15日
原告 鈴木艶
右代理人弁護士 大内省三郎
被告 疋田伊市
<外八名>
右被告九名代理人弁護士 是恒達見
右復代理人弁護士 落合長治
被告 木村新太郎
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
原告が従前から本件土地に対する借地権を有していたことは成立に争のない甲第一号証の一及び同第二号証によつて明らかであるが、右地上に原告主張の建物を所有していた者は、訴外山田敬太郎であつて、被告等は右山田から建物の一部分を賃借してこれを使用し、その敷地を占有していた者であることは、当事者間に争のないところであるから、本件土地に対する原告の使用収益を妨げ原告に対して賃料相当の損害を蒙らしめた者は建物所有者である訴外山田であつて、被告等ではなく、例えば訴外山田が建物を収去して土地を明け渡そうとしている場合に被告等が故らに退去せずこれを妨害したというような特別の事情のない限り、被告等の占有と原告の損害との間には相当因果関係を欠くものといわなければならない(最高裁、昭和二九年(オ)第二一三号、昭和三一・一〇・二三判決参照)。よつて、特別事情の有無について判断する。
被告等が建物収去土地明渡の仮執行宣言付の第一審判決に対して控訴し、被告等のうち疋田、間野、押之見及び柿沼の四名が強制執行停止の申立をしてその旨の決定を得たことは当事者間に争のないところであるが、前記甲第一号証の一及び第二号証によれば、訴外山田も建物収去土地明渡の仮執行宣言付第一審判決に対して控訴していることが明らかなので、被告等が控訴したからといつて故さらに本件土地に対する原告の使用収益を妨げたものというわけにはゆかない。また被告疋田外三名が強制執行停止決定を得たことによつて訴外山田に対する原告の建物収去土地明渡の仮執行宣言付判決に基く強制執行は事実上不可能になつたものとみなければならないから、右の被告四名はこれによつて控訴審の判決があるまでの間本件土地に対する原告の使用収益を故らに妨げたものとして原告に対してその損害賠償する義務があるようにみえないでもないが、建物収去土地明渡の強制執行は、実際問題として、本件の場合のように多数の者が当該建物を現に使用している場合には判決確定後も容易に実行されないのが実状であることは、遺憾ながら、当裁判所に顕著な事実であるから、例えば原告が訴外山田に対して強制執行に着手し同人もこれを受諾していたのに被告等が執行停止の決定を得てこれを妨げたというような特段の事情につきなんら主張立証のない本件の場合には右の事実も亦相当因果関係の存在を肯定せしめるいわゆる特別の事情を組成するものということはできない。
右のとおり、原告の請求はそれ自体理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判官 石井良三)