東京地方裁判所 昭和30年(ワ)7609号 判決
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〔事実と判断〕原告は自動車損害保険等を営む株式会社である被告との間にその所有の五〇年型シボレー自家用自動車一台を保険の目的として「保険金額車輛につき百万円、車外賠償につき十万円、乗務員傷害につき十万円、保険の範囲は保険の目的に生じた衝突等陸上運送中に生じた事故による損害、保険期間一カ年」という内容の損害保険契約を締結し、間もなく保険の目的自動車を塗装修理のため自動車修理業者訴外園田幸雄方に寄託していたところ、その寄託中園田方の店員訴外川合正光は原告の承諾をえて、みぎ自動車を空車のまま運転中他の自動車と衝突破損し修繕費三〇万四一一〇円を要し、同額の損害をうけた。そこで原告は被告に対し前記保険契約にもとずき保険金の給付を求めた。被告は、原被告間の本件保険契約の内容となつている自動車保険普通保険約款第四条には保険事故発生の場合の保険者の免責条項の定めがあり、その免責事由として第二号に「保険の目的が被告会社の承認した以外の用途、使用地域又は格納場所において使用又は格納されたとき」とあり、第四号に「保険の目的が法令又は取締規則に違反して使用又は運転されたとき」とあるのを援用して、まず第一にみぎ第一号の「自家乗用」とは、一般的に保険の目的自動車の所有者である原告が自家のために使用し、その他客の送迎、故障修理のため修理店に運ぶ等の普通の乗用を指すのであるが、本件事故は原告の自陳するように、右の如き普通の乗用の際生じた事故ではなく修理のため寄託をうけていた塗装店の店員が原告に無断で外出し、外出先で衝突事故を起したのであるから自家用乗車外の用途による事故で、前記第二号の免責条項にあたるものであり、また本件事故は運転者河合の道路交通取締法第八条第一項に違反する所為によつてひきおこされたもので、所為みぎ事故は前示約款第四号にあたるもので、被告はみぎ約款により保険金支払いの義務はないと抗争した。判決はみぎ免責約款をつぎのように解釈して被告の抗弁を排斥した。曰く。
「保険の目的についての用途による種別欄によれば、本件自動車の用途として使用された『自家用乗用』という用語は『営業用乗用』『自家用貨物車』『営業用貨物車』と対比されるものであることが認められる。ところで右各種別の理由を考えてみると保険契約においてその種別を採用しているのは各種別による保険事故発生の危険率よりして保険料の率を算定し、これにより適正な保険料額を定め、社会的に健全な保険契約を結ぶことを可能ならしめ、保険の機能を十分に発揮させるためであることは疑がない。右の観点からすれば『自家用乗用』とは原告が原告方の所有のため乗用に供する場合を通常とすることは勿論であるが、原告が社会上の一単位として社会生活を営む上において知人等(原告会社であるが、その代表者、その他業務担当者等が取引に関連して知己となつている者等)にその知人等の所用のため臨時に一時的に乗用を許容する場合のあることは当然予期されるところではあるし、その乗用が原告自身の所用のための乗用の場合に比し、使用方法に特別の差異がないものならば、用途上の危険性については消長をきたすものとは考えられないので、上叙乗用の許容は、社会的に見て広い意味で『自家用乗用』の用途に使用されたものと解するに相当である。……中略……前段限定の事実からすると、前々段に述べた見解よりして、本件衝突当時における河合の自動車使用は原告自身の所用のためにする乗用の場合に比し、用途に関する限り、乗用に特段の差異があるものと考えられないので、河合の使用は『自家用乗用』の用途の範囲を逸脱したものとは云えない。」
「被告は本件衝突事故は河合が自動車運転中道路交通取締法第八条第一項に違反する注意義務解怠による過失によつて惹起したものであるから約款第四条第四号の免責事由があつた旨主張する。ところで本件事故が被告主張の原因により起つたものであることは、原告の敢えて争わないところであるが、自動車衝突事故の場合においてその運転者に法令上運転者として遵守すべき運転、操縦上の注意を怠つたという過失が全然なかつたというような場合はむしろ少いので、多少の過失の存するのが通例であることは経験則により明白であるから、運転者に道路交通取締法第八条第一項違反があつたからとてこれを保険険者の免責事由となるものとすれば、衝突事故の発生を保険事故とする損害保険契約をすることは保険契約者にとり、その契約の目的の大部分が意味のないものとなるわけであるし、又被告が援用する約款第三条において『保険契約者、被保険者、保険金を受取るべき者又はこれらの者の代理人若くは保険の目的に関する使用人の悪意又は重大なる過夫』を免責事由とするに拘らずその但書として『運転中における運転手又は助手の重大なる過失を除く』旨を定め、これを同条の免責事由としていないことを考えあわせると、本件当事者間にその存在について争いのない約款第四条第四号の『保険の目的が法令又は取締規則に違反して使用又は運転されたとき』とは保険の目的である自動車を運転し又は使用すること自体が法令(取締規則を含む)により禁止又は制限されている場合『その禁止又は制限が運転者(無免許運転の如き)又は自動車運転の時期場所に関すると否とを問はず』その規定に反して使用し又は運転した場合を指称し、本件の如き自動車操縦士の過失を含まないものと解するのが相当である。