大判例

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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)10090号 判決

東京都中央区築地三丁目一〇番地

原告 理研電線株式会社

右代表者代表取締役 岡秀宝

右訴訟代理人弁護士 福永福雄

同 瀬崎信三

新潟市川端町六丁目四四番地

被告 株式会社佐久住商会

右代表者代表取締役 久住健三郎

右訴訟代理人弁護士 広瀬通

同 藤山藤作

二、主文

1、被告は原告に対し、三、九三八、〇二一円及びこれに対する昭和三二年一月一九日以降完済に至るまでの年六分の割合による金員を支払わねばならない。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

3、この判決は仮に執行することができる。

4、被告において一〇〇万円の担保を供するときは前項の仮執行を免れることができる。

三、事実

1、原告は主文第一及び第二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因として別紙中の当該記載のとおり述べた。

2、被告の答弁は別紙中の当該記載のとおりである。

四、争点

原告主張の電線売買は原被告間になされたものか、原告と訴外東都電球株式会社との間になされたものかが唯一の争点であつて原被告の法人格、営業目的、問題となつている取引の数量、金額等には争がない。

五、立証≪省略≫

六、理由

1、本件訴訟の各証拠を通じてみると、原告主張の電線取引はその初から甚だ契約方法がずさんであつて、後日の紛争の因を包蔵しその判断に当つても明瞭な根拠を見出すことは頗る困難である。そのことは右取引に関係した被告及び訴外東都電球株式会社についてもいえることである。

2、しかしながら、右取引の当事者は、原告と被告或は右訴外会社のいずれかであることについては当事者間に争のないことでありこのことと、原被告双方に有利な各証拠を照合し、当裁判所が一般取引社会における通念と考えることをも考え合せ、原告主張の本件取引の当事者は原被告であると判断する。すなわち、

(1)  原告主張の本件取引商品と同種類の電線を、本件取引に接近した昭和三〇年九月二七日被告が原告から買い入れてこれを前記訴外会社に売り渡したことは当事者間に争がなく、証人小柴文雄、北沢敏夫、長峰信夫の各証言によれば、右取引が発端となつて本件取引に発展したことが認められること

(2)  証人長峰信夫、井上金重、益子久雄の各証言によれば、訴外会社では右昭和三〇年九月の取引も本件取引もともに被告からの買入として帳簿上の処理をしていたことが認められ、しかも証人長峰信夫は右昭和三〇年九月の取引についても被告のあつせんによつて原告の製品を仕入れた趣旨の表現を用いており、少くとも訴外会社においては、被告が原告から買い入れた原告製品を訴外会社に転売したことを「被告のあつせん」を受けたと表現し、そのような漠然とした観念を抱きながら、社内の処理としては被告からの買入として扱つていたことが推察されること

(3)  証人北沢敏夫の証言によれば、被告は本件取引商品と同様の電機通信機関係原材料を生産会社から元卸を受けて需要家に売りさばく業務をも営み、いわゆる外口銭をとつて、生産者からの仕入値段そのままで需要先に転売することを本件取引外でも行つていたことがうかがわれ、このような取引によつて転売を受けた需要家が被告からの買入を「被告のあつせん」を受けたと表現することもあり得ないことではないと思われること

(4)  証人小柴文雄、関根寛治、熊谷徳、米沢猛、北沢敏夫の各証言によれば、原被告は昭和一六年頃以来互に製品等の売買を続けて、相互に信用状態を知つていたので、従来の現金決済方式を改め、本件取引商品について数量を特定し年間の安定した取引にするに当つて従来の取引高よりも数量金額が格段にかさみ決済も手形払いになつたのにもかかわらずあえて信用調査をしなかつたこと、それが訴外会社との取引ならば改めて原告本社において訴外会社の信用状況を調査し、東京都にある原告本社と同じく東京都にある訴外会社との直接取引の形式となる筈であつたことが認められること

(5)  成立に争のない甲第一〇号証の一、二及び証人益子久雄の証言によれば、訴外会社は、昭和三一年五月二日会社更生法による更生手続開始申立をし、その手続において債権者名簿を裁判所に提出したが、同名簿には本件取引金額の大部分を占める二、九六六、四八〇円の債務を債権者が被告であるとして記載されていることが認められ、別に同名簿中原告を債権者とする六七〇、八二〇円の債務の記載も認められるが、成立に争のない甲第一号証の一ないし三乙第二号証の七、八及び証人長峰信夫、井上金重の各証言を綜合すれば右二、九六六、四八〇円の債務は被告に対する本件取引商品の買掛債務であつて、訴外会社が本件取引商品の買受代金一部支払のために振り出した甲第一号証の一ないし三の約束手形三通は訴外会社から被告を通じて原告に交付されたものであるが、そのうち甲第一号証の一及び三の約束手形はいずれも受取人白地のままで振り出され、その二の約束手形のみ被告との話合で受取人欄に原告名を記載して振り出されたものであることが認められるので、前記債権者が名簿上原告を債権者とする六七〇、八二〇円の債務は右甲第一号証の二の約束手形金額に相当することからすれば、恐らく、訴外会社は被告との話合上右手形のみが原告の手中にあることを知つていたので売買契約上の債務というよりは、自己振出の約束手形上の債務として債権者を原告と表示した前記名簿上の記載をしたものであろうと推察され、さらに推測を進めれば、右手形を除く他の前記二通の手形はこれを被告に対する買掛債務支払のために振り出して被告に交付したが果してそれが原告に交付されて原告を受取人として補充されるか、或は被告の他の決済のために使用されるかは関知していなかつたともいえないことはないこと(なお、甲第一号証の一の手形については、成立に争のない乙第一号証の一七によれば、それが原告に取得されたことが訴外会社に知れていた筈であるが、同手形債務について前記名簿に何等の記載のないのは甲第一号証の二の手形のみについて特別の話合が被告及び訴外会社との間にあり、訴外会社としては甲第一号証の一の手形債務は被告に対する買掛債務に含まれるものとして特に前記名簿上これを掲げなかつたものであろう。そうでなければ、訴外会社が甲第一号証の一の手形が原告に所持されていることを見落したのであろうが、その後者の場合であることを知るべき何の資料もない。)

(6)  証人小柴文雄、関根寛治、北沢敏夫、長峰信夫、井上金重の各証言によれば、本件取引については終始原被告間においてのみ交渉がなされ、原告と訴外会社とは直接に交渉をしたことがなく、代金支払のための約束手形の授受も右両者間で直接になされることなくすべて被告を通じてなされていることが認められること

等は本件取引が原被告間になされたとする原告の主張を裏付ける事柄である。しかし、他方において

(1)  成立に争のない甲第五号証の一、二、乙第一号証の一ないし一三(同号証の二、四、七、一一、一二、一三はいずれもさらに一、二に分れる)同号証の一六、一七、第二号証の一ないし八、第三、第四号証の各一ないし八、第五、第六号証の各一ないし四、第七号証の一ないし一五、証人小柴文雄、熊谷徳の各証言によつて真正に成立したと認める甲第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし一四、第六、第七号証によれば、本件取引のうち昭和三一年二月二一日頃までは取引商品の出荷案内書、代金の請求書等は被告宛に記載されて被告宛に交付されていたが、同日頃それまでの右取引分については赤字の出荷案内書を改めて作成して被告に交付してこれをとりまとめた代金請求書を訴外会社宛に作成、発行し、同月二八日頃以降の取引分は訴外会社宛に出荷案内書を作成発行し、中間においてその後の代金の一部をとりまとめて訴外会社宛の代金請求書を作成発行し、原告においては社内の伝票、帳簿等に被告発注にかかわる訴外会社に対する直送分である旨の記載はされているが、訴外会社宛の出荷案内書や請求書には特に被告の発注品である旨の記載がないこと

(2)  前出乙第一号証の一七、第二号証の八、甲第一号証の一ないし三、証人小柴文雄、関根寛治の各証言によれば、原告は当初本件取引の代金は現金決済によるべきことを被告に求めながら、結局約束手形によること、しかも訴外会社振出の約束手形で被告の裏書のないものによることを承諾し、その手形を被告を通じて受け取りながら、受領証は訴外会社宛のものを作成して発行していることが認められること

(3)  成立に争のない乙第八号証、第九号証の一ないし三及び証人北沢敏夫の証言によれば、前記昭和三〇年九月中の取引及び本件取引外の昭和三一年中の原被告間の取引については、被告から註文書が発行されているのに、本件取引については、そのような註文書が発行されたことの主張立証がないこと

(4)  証人井上金重の証言及び同証言によつて真正に成立したと認める乙第一一、第一二号証によれば、訴外会社が被告から資材を買い入れた場合には、被告から納品書及び請求書が訴外会社宛に発行されていたが、本件取引についてはそれ等の発行がなかつたことが推測される。

等は原告の前記主張に極めて不利で、被告主張のように本件取引は原告と訴外会社との間になされたのであるとするのに有利な裏付となる事柄である。とくに前認定のとおり本件取引が年間契約(当事者は原告と被告または訴外会社のいずれであるにせよ)に基くものであるのに、その基本契約に関する契約書の作成がなされた形跡もなく、前記のようにずさんな契約方法に由来するものである場合においては、前認定のような書類の作成、発行、手形の授受等の状況は基本契約の当事者及び形態を推測する有力な資料となるものであり、右書類及び手形の関係に於ては原告または訴外会社の作成にかかわるものには原告と被告、被告と訴外会社間の取引の存在を思わしめるものはあつても、被告の作成関与にかかわるものには本件取引が原被告間に行われ、被告がその商品をさらに訴外会社に転売したことを思わしめるものを見出し難いのである。

そうとすれば、書類及び手形の関係において形式的に観察すれば、原告の前記主張を容れることは極めて困難なようであるが、もともと前記のとおりのずさんな基本契約に基いてなされた取引においては関係書類もまた極めて簡易に扱われ、証人小柴文雄、関根寛治の各証言に現れているように、被告の申出によつてその事務取扱上の便宜を図るため、訴外会社に直送されることになつていた本件取引分について特別に直接訴外会社宛の出荷案内書及び請求書を作成したり、被告との信頼関係に安んじてその裏書のない訴外会社振出の約束手形を代金支払の方法とし受領したりすることも全くあり得ないことでもなく、安定した年間取引契約に安心感を持ち、個々の取引に関する註文書の授受を省略することも全く考え得られないことではなかろう。そして、前認定の各事実に証人北沢敏夫、長峰信夫、井上金重の各証言を綜合すると本件取引の基本契約はもとより、各個の取引における品種数量価格の決定、関係書類、代金支払に関する約束手形等の授受もすべて原告と訴外会社との間に行われたことがなく、常に被告を通じて行われたことが推測されるので、前記のとおり年間取引契約の基本契約が漠然としており、その契約に基く個々の取引にも右のように被告が常に深く関与し、しかもいわゆる外口銭を受領していることをも考え合せると、本件取引における被告の立場は単なる仲介あつせん者或は訴外会社の代理人の域を超え買主を訴外会社とすれば、そのための商法上の保証人に類似するものを持つと同時に、訴外会社を転売先とすれば、直接の買受当事者となる要素をも多分に持つものであつて、あえてこれを法律の定型にあてはめて結論すれば、究極の責任関係と右形態とからしてむしろ被告が本件取引の買受当事者であるとすることもあながち事を不当に曲げた判断とはいい得ず、原告の主張には被告の主張に僅に勝る根拠があるものということができる。

3、なお、証人小柴文雄、関根寛治、熊谷徳、瀬崎信三は被告が本件取引に関する紛争が生じた後の交渉に際し、原告に対し少額宛の支払をなして代金支払の責を果そうと協議したことを証言しているが、右は紛争中の事後処理に関することであるからそれを以つて本件取引の当事者を判断する資料とするのは妥当でなく、その他結論的に右取引の相手方を被告または訴外会社のいずれかであるとする各証人等の証言もそれだけではいずれも主観的見解としてしか、受け取れず、右判断の資料とはなし得ないので、各証言部分はいずれも前記結論を得るための資料として採用していない。

4、以上のとおりであるから被告に対し三、九三八、〇二一円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された翌日であることの記録上明かな昭和三二年一月一九日以降完済までの商法所定年六分の割合による損害金の支払を求める原告の請求を正当として認容することとし、仮執行の宣言については本来この種訴訟においては第一審判決の即時的執行を期すべきであると思料されるのであるが、前記判断の経過に鑑み、無担保による仮執行を許すとともに比較的低額の保証を以つてその免脱を許すべき旨の宣言を附するのを相当とし、民事訴訟法第一九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(判事 畔上英治)

<以下省略>

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