東京地方裁判所 昭和31年(ワ)7913号 判決 1962年4月04日
判 決
東京都台東区浅草田中町二丁目一二番地
原告
大久保重直
右訴訟代理人弁護士
常盤温也
瀬崎憲三郎
野村雇温
東京都港区芝西久保桜川町二番地
被告
日都族客自動車株式会社
右代表者代表取締役
中野勝義
右訴訟代理人弁護士
石井嘉夫
音喜多賢次
右当事者間の昭和三一年(ワ)第七、九一三号株式名義書換請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、原告訴訟代理人は「被告は別紙目録記載の株式につき原告名義に株主名簿の名義を書き換えよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、「原告は、昭和三一年七月下旬頃訴外京浜交通株式会社から別紙目録記載の株式をそれぞれ株主発行の宛名白地の譲渡証書とともに譲り受けたから、本訴により名義書換を求める。」と述べ、本件株券は偽造であるとの被告の主張に対し次のとおり述べた。
「一、本件株券は偽造でない。訴外後藤一夫及び同鬼沢操が被告会社代表取締役新井敏治から委任され適法に作成したものである。
被告会社の発行済株式の総数は一万株であつて、訴外田島広嘉、同鬼沢操、同後藤一夫及同新井敏治の四人が設立当初から均分すなわち二、五〇〇株づつを有する実質上の株主であつた。もつとも設立当時右の四人が他人名義で引き受けた株式があつたが、本件株券作成にあたつては、真実の株主名義に株主名簿を改め右四名に株券を発行したものである。そして新井敏治の株式(株券番号第〇二五号より第〇四五号まで)は鬼沢操に譲渡され、鬼沢名義に書き換えられた。
二、仮に然らずして前記四名にこの四名以外の名義の株式が譲渡されたものとしても、この譲渡は株券発行前であるが、裁告会社が本件株券を譲受人である右四名に対し発行したから右株券発行前の譲渡は有効となり、本件株券の効力に影響はない。
三、仮に然らずとするも、少くとも右四名の設立当初からの同人等名義の株式、すなわち田島名義株券番号第〇七六号から第〇八七号(一二〇〇株)、鬼沢名義株券番号第〇〇一号から第〇一二号(一、二〇〇株)、後藤名義株券番号第〇五一号から第〇五八号(八〇〇株)及び新井名義株券番号第〇二六号から第〇三七号(一、二〇〇株)以上四、四〇〇株については本件株券の発行は有効であるから、右の限度においてはその株式の譲受により原告は株主となつたものである。
第二、被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として
「一、請求原因事実を否認する。
二、原告主張の株券は偽造株券である。
この株券は、訴外後藤一夫が昭和三一年七月初頃被告会社代表取締役新井敏治の知らぬ間に勝手に作成したものである」と述べ、
本件株券は有効であるとの原告の主張に対し、「原告の主張事実のうち被告会社の発行済株式の総数の点は認めるが、その他の点は否認する。田島等四名が当時有していた株式は、田島及び新井が各一、〇〇〇株、鬼沢及び後藤が各五〇〇株であつた。従つてこの点においても本件株券は株式に対応せず勝手に作成されたものであることが明らかである。」と述べた。
(立証省略)
理由
原告は、別紙目録記載の株式を譲り受けたと主張し、この株券にもとづき、名義書換を請求するに対し、被告は、右株券は偽造であつて被告において発行したものでないと争うので、まず、原告が譲り受けたと主張する別紙目録記載の株券すなわち甲第六号証の一ないし四五、同号証の五一ないし七〇及び同号証の七六ないし一〇〇の株券が被告において適法に発行したものか否かを判断する。(証拠)によれば被告会社の発行済株式総数は一万株(この点は当事者間に争がない。)、その株主数は一八名で、株主に対し株券が発行されていなかつたが、昭和三一年六月頃被告会社と訴外安全石油株式会社との間に被告会社への融資の話合が進められ、その担保として被告会社株式を差し入れることとなつたため、同月一八、九日頃百株券一〇〇枚の印刷を了し、株券を発行することゝなつたが、被告会社の代表取締役新井敏治、取締役後藤一失、同鬼沢操、同田島広嘉の四名は株主一八名のうち右四名のみが真実の株主で他の一四名は単なる名義上の株主にすぎないものとし総株式を右四名に均分に分配することを相談し、それぞれ二、五〇〇株について右四名名義の株券を作成したが、株券の額面に誤り(被告会社株式の額面は五〇〇円であるにかかわらず五〇円と印刷した。)があつたため、前記訴外会社に株券の受領を拒絶され、右株券を廃棄し、右後者は更に額面五〇〇円の株券の印刷を注文したところ、前記訴外会社との融資の交渉は打ち切られ、さし当り株券発行の必要がなくなつたが、折角株券が印刷されたことであるし、また被告の金融の必要は依然存するところから、将来株式を担保とし、あるいはこれを売却する必要があると考え、右後藤と鬼沢とが同月下旬頃新井に無断で前回と同様四人名義の各二、五〇〇株の株券(甲第六号証の一ないし一〇〇)を作成したことが認められる。もつとも、証人鬼沢操は右株券の作成発行については代表取締役新井敏治に連絡した旨及び本件株券が作成された後被告会社の全株式を一括して他に譲渡するため右新井は自己の二、五〇〇株について印鑑証明書(甲第五号証の一)及び譲渡証書(甲第五号証の二)を交付して右株式を鬼沢に譲渡した旨供述(第一回証言)するけれども、右供述は、甲第五号証の一、二の日付がいずれも第一回の五〇円株券作成の日以前である事実及び証人新井敏治及び同後藤一夫がいずれも新井が第二回目の本件株券作成については関知しない旨供述(両証人とも第一回証言)するところに徴し、直ちにこれを信用することはできない。なお、本件株券作成後である昭和三一年七月四日付で新井が鬼沢に被告会社株式その他を譲渡する旨の売買契約書(甲第八号証)が存するが、この契約が真実成立したとしても、これにより代表取締役である新井が本件株券の発行を認めたとするに十分ではない。その他前記認定事実に反する証拠は信用できない。従つて本件株券は被告会社の株主に対し発行されたものと認めることはできない。
以上の如く、本件株券は被告会社が正当に発行したと認めるに足りる証拠はないから、被告会社の株券と認めることはできない。
原告は少くとも前記四人の有する株式数に相当する株券は有効である旨主張するが、本件株券はすべて正当に発行されたものと認められないことは以上述べたところで明らかであるから右主張は採用できない。
従つて、原告の名義書換を求める本訴請求は、その株券が被告会社の正当に発行したものと認められないから、その他の点を判断するまでもなく理由なしとして棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第八部
裁判長裁判官 長谷部 茂 吉
裁判官 上 野 宏
裁判官 和 田 啓 一
目録(省略)