東京地方裁判所 昭和31年(ワ)8402号 判決 1958年11月17日
原告(反訴被告) 安谷量寿
右代理人弁護士 田中安恵
被告(反訴原告) 宗教法人曹洞宗
右代表役員 高階瓏仙
被告(反訴原告) 日尾野留弘
右両名代理人弁護士 鍜治利一
主文
原告の本訴並びに被告等の反訴はいずれもこれを却下する。
訴訟費用は本訴に関して生じた分は原告の、反訴に関して生じた分は被告等の、各負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、先ず原告の本訴請求につき判断する。
原告は訴提起の当初において、主管者権限確認並びに登記抹消を求めその後右請求を損害賠償請求に変更したのであるが(右訴の変更について原告の意図は訴の交換的変更と解せられるが、被告等は旧訴たる主管者権限確認及び登記抹消請求につき訴取下の同意をなさないので右訴の変更は追加的変更と解すべきである。)、被告等は右訴の変更は請求の基礎に変更があるから許されないと主張するので考えてみるのに、原告の主張に徴すると、原告の主管者権限確認並びに登記抹消請求は、いずれも被告曹洞宗が昭和二十七年九月十三日、当時宗教法人令による宗教法人来迎寺(以下「旧来迎寺」と略称する。)の住職であつた原告を罷免した行為の無効であることを前提として原告が依然旧来迎寺の主管者である事実に基くものである。しかるに、損害賠償請求原因は、債権者本件原告、債務者本件被告等間の当庁昭和二十七年(ヨ)第四九三二号主管者職務遂行妨害排除仮処分申請事件につき被告等が当庁より原告の旧来迎寺主管者としての職務遂行を妨害してはならない旨の決定をうけているに拘らず、敢て該決定を無視して原告の右職務執行を妨害し、原告に対し物質上、精神上の損害を与えたというのであるから、その請求の因つて生じた事実関係及び法律関係は原告が旧来迎寺の主管者であること及び原告の職務執行妨害による被告等の不法行為である。してみると、前者の請求の基礎たる事実関係と後者の請求の基礎たる事実関係とは、原告が旧来迎寺の主管者であるという一点において共通であるから、右は請求の基礎に変更ある場合には当らないものといわなければならない。しかしながら、原告は訴提起(昭和二十七年十月六日)後四年余を経た昭和三十一年十二月三日附請求の趣旨訂正並請求原因補充申立書を以て訴を変更したのであつて、それまで双方の攻撃防禦は右罷免の有効、無効及び原告の罷免されるに至つた経緯(原告と来迎寺檀信徒との紛争関係等)に集中されてきたものであるところ、訴請求の当否を判断するについては更に原告主張の仮処分違反の行為による被告等の不法行為の成否、これによる損害発生の有無及び範囲等に関し審理を必要とし、そのため著るしく訴訟手続を遅滞させることが明らかである。
そうだとすると、原告が主管者権限確認並びに登記抹消請求に損害賠償請求を追加的に変更することは、結局、不適法として許されないものといわなければならない。よつて、当裁判所は本判決において原告の訴の変更を却下することとする。
そこで、以下、訴変更前の申立たる原告の主管者権限確認及び登記抹消請求につき判断を進める。
ところで、原告が右両請求において確認及び登記抹消の対象として挙示する宗教法人来迎寺が、宗教法人令による宗教法人来迎寺であること原告の主張に徴して明らかであるところ、原告は右来迎寺につきその主管者として宗教法人法附則第五項により新宗教法人来迎寺の寺院規則を作成し、昭和二十七年九月十一日所轄庁たる埼玉県知事に対し右規則の認証を申請し、昭和二十九年三月三十一日埼玉県知事の認証を得たうえ、同年四月十日浦和地方法務局所沢出張所において新宗教法人来迎寺として設立登記を了した旨自陳しているのである。果して原告主張の如く新宗教法人来迎寺が成立したものとすれば、同法附則第十八項によりその設立登記をした日において前記宗教法人令による旧来迎寺は消滅することになり、かつ、同法附則第十九項により旧来迎寺の登記用紙は登記官吏の職権により当然閉鎖さるべきこととなる。してみると、原告の旧来迎寺に関する主管者権限確認請求は、過去における法律関係又は権利の確認を求めることになるから許されないものというべく、又、登記抹消の請求も訴の利益を欠くものというべく、いずれも不適法として却下を免れない。
二、次に反訴請求につき判断する。
まず、反訴請求中解散法人来迎寺代表者権限確認請求につき検討する。反訴原告等は反訴被告安谷量寿に対して、同人が宗教法人来迎寺の解散法人の代表者清算人の権限を有しないこと並びに反訴原告日尾野が右解散法人の代表者清算人の地位権限を有することの確認を求めているのであるが、およそ、法人の代表者の地位権限の確認を求める訴については、その代表権限が法令に基くものであると委任関係によるものであるとを問わず、その法人自体を被告として訴を提起しなければならないものと解する。けだし、ある法人の代表者が何人であるかにつき自称代表者間に争がある場合、自称代表者の一方が当該法人を被告とせずして他方の自称代表者を被告として右法人の代表者権限確認を求めたとしてもその訴訟における判決の効力は右法人に及ばない結果勝訴した自称代表者としても当該法人との関係において代表者たる地位の確定を得られず、敗訴した自称代表者と雖も右法人に対し自己が依然代表者である旨主張し得るものであるから、結局、自称代表者間の訴訟においては真正代表者の法的地位の確定は得られないこととなる。
このことは、自称代表者が数人現出し、それぞれ法人を被告とすることなく、互に代表者権限確認訴訟を提起し、その判決の結果が区々となつた場合を想定すれば、法人を被告としない前記の如き訴訟が混乱を惹起するのみで何ら真正代表者の確定をもたらすものでないことが明らかとなるであろう。
以上説示の如く、法人を被告としない代表者権限確認訴訟は、結局、被告につき正当な当事者適格を欠くものといわねばならないのである。従つて、本件反訴において、反訴原告等が反訴被告として安谷量寿個人のみを被告として解散法人来迎寺の代表者権限確認を求める訴は当事者適格を欠き不適法として却下を免れない。
進んで、反訴請求中不動産引渡請求につき判断する。
反訴原告日尾野は、反訴被告に対し、解散法人来迎寺の代表者清算人たる職務を行うため反訴被告が占有する同寺所有の不動産の引渡を求めているが、凡そ解散法人の清算人は同法人の財産に関し自己の名において訴訟遂行する機能を有しないから右反訴原告が清算人たる職務を行うためその必要があるならば、当該法人を以て原告として訴訟を提起すべきであつて、自ら原告たる適格を有しないものというべきである。従つて、本件において反訴原告日尾野が反訴被告に対して右物件の引渡を求める請求は、当事者適格を欠くものであるから、不適法として却下を免れない。
三、よつて、原告の本訴及び被告等の反訴請求は、いずれも訴訟要件を欠く不適法なものであるから、すべてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福島逸雄 裁判官 篠原弘志 糟谷忠男)