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東京地方裁判所 昭和31年(行)125号 判決 1959年7月29日

原告 近藤栄次

被告 麹町税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(双方の申立)

原告は「被告が昭和三〇年四月一一日付で原告の昭和二九年度分所得税の総所得金額を六十二万二千二百四十円と更正した処分のうち、金三十六万一千百六円を超える部分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告は請求棄却の判決を求めた。

(請求原因)

一、原告は自転車の販売修理等の業を営んでいるが、昭和二九年度分所得税に関し総所得金額を三十万三千三百八十一円として、被告に対し法定期間内に確定申告したところ、被告は昭和三〇年四月一一日付でこれを六十二万二千二百四十円と更正し、その頃原告に通知した。原告はこれに対し所定の期間内に再調査請求をしたが、被告は同年六月二五日付でこれを棄却したので、原告はさらに法定期間内に東京国税局長に対し審査請求をしたところ、東京国税局長は昭和三一年一〇月三日付でこれを棄却し、その通知は同月四日原告に到達した。

二、しかし原告の昭和二九年度分総所得金額は、その後精査計算したところによると金三十六万一千百六円であるから、被告の更正処分のうち右金額を起える部分は過大に認定したもので違法である。よつてその取消を求める。

(被告の答弁及び主張)

一、請求原因第一項は認める。

二、原告の昭和二九年度総所得金額は八十四万八千五百八十五円であるから、その限度内でなした被告の更正処分は適法である。右金額の算定根拠は次のとおりである。

A  事業所得

(一) 売上金額 二、八二三、四〇〇円

(イ) 官公署に対する販売分(自転車、モーターバイク)

六〇六、四〇〇円

(ロ) 自転車((イ)以外の者に対する販売分) 三一三、八〇〇円

売上    月日    売上先  金額(円)

昭和二九、 一、三〇  伊藤   一九、〇〇〇

〃     二、一六  蟹江   一九、〇〇〇

〃     三、二六  日吉堂  一七、〇〇〇

〃     三、二六  小林電機 一八、〇〇〇

〃     四、二   パリ商会 二一、〇〇〇

〃     四、二〇  岡田   二〇、〇〇〇

〃     四、二三  谷上三松 一四、〇〇〇

〃     四、二四  水谷   一九、〇〇〇

〃     六、二六  浅野屋  一八、〇〇〇

〃     六、二八  中村   一八、五〇〇

〃     七、八   河原   二三、〇〇〇

〃     七、二五  波野    九、五〇〇

〃     八、三   魚長   一九、五〇〇

〃     一〇、一三 機田電機 一六、〇〇〇

〃     一〇、三〇 市川   一八、〇〇〇

〃     一二、二八 竹中    七、三〇〇

不詳          某    一八、五〇〇

(ハ) モーターバイク((イ)以外の者に対する販売分) 七二三、〇〇〇円

品名      月日    売上先   金額(円)

バイク     五、一四  松本    九五、〇〇〇

〃       五、一九  池田   一一五、〇〇〇

〃       八、一四  田中松吉 一〇三、〇〇〇

〃       九、一一  オナブタ  九〇、〇〇〇

〃       一〇、一一 石崎   一二〇、〇〇〇

〃       一二、二〇 自家用   九四、〇〇〇

中古ラビツト  四、二五  店頭売   三九、〇〇〇

〃       一二、三一 店頭売   一六、五〇〇

フリーエンジン 九、二九  早部    三六、五〇〇

中古カブ    不詳    連光寺   一四、〇〇〇

(ニ) 交換              五五、〇〇〇円

(ホ) 修理(部品の販売を含む) 一、一二五、二〇〇円

各種部品の期首在庫高(七八、三五六円)に年間仕入高(三四九、八九七円)を加算し、これから期末在庫高(三四、四三三円)を控除して部品原価(三九三、八二〇円)を算出した上、この原価に本人申立の修理における差益率六五%を適用して修理代一、一二五、二〇〇円を算出した。

(二) 売上原価〔(イ)+(ロ)-(ハ)〕 一、八一〇、四〇〇円

(イ) 期首たな卸額                二〇六、六〇六円

(ロ) 仕入金額                一、八一八、二七七円

(ハ) 期末たな卸額                二一四、四八三円

(三) 必要経費                一八九、四一二円

(四) 雑収入                   四、〇〇〇円

(五) 所得金額〔(一)-((二)+(三))+(四)〕

八二七、五八八円

B  不動産所得                    二〇、九九七円

C  総所得金額〔A+B〕              八四八、五八五円

(右主張に対する原告の答弁)

被告主張のA、(一)、(ロ)の昭和二九年四月二三日谷上三松に金一万四千円で売つた分、同年一二月二八日竹中に金七千三百円で売つた分、月日不詳某二名に計三万七千円で売つた分及びA、(一)、(ハ)の同年九月一一日オナブタに金九万円で売つた分、同年一二月二〇日自家用として金九万四千円で売つた分、同年一二月三一日金一万六千五百円で店頭売した分、月日不詳連光寺に金一万四千円で売つた分並びにA、(一)、(ホ)の差益率は否認するが、その余は認める。

(証拠省略)

理由

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争ない。

二、そこで本件更正処分の適否につき考える。

A  事業所得

(一)  売上金額

官公署以外の者に対する自転車及びモーターバイクの販売分として被告が主張するもののうち、原告において否認する昭和二九年四月二三日自転車を谷上三松に金一万四千円で、同年一二月二八日自転車を竹中に金七千三百円で、月日及び相手方ともに不詳であるがともかく同年中に自転車二台を計金三万七千円で、同年九月一一日モーターバイクをオナブタと称する者に金九万円で、同年一二月三一日中古ラビツトを店頭で金一万六千五百円で、月日は不詳であるが同年中、中古カブを連光寺に金一万四千円で、それぞれ販売した事実は、成立に争ない乙第一号証及び証人松本正寿の証言によつて認めることができ、また、同様原告において否認する同年一二月二〇日モーターバイクを金九万四千円で自家用に供した点は右証拠により、右月日頃原告がモーターバイクを自家用に供したこと、原告はこれを期末在庫に計上したが右現に自家用に供したことからみて売上に計上するのが相当であり、その価格は他の車の販売価格との比較において金九万四千円とするのが相当であることが認められ、その余の売上分についてはすべて原告の認めるところである。したがつて官公署以外の者に対する自転車及びモーターバイクの売上額は、被告主張の明細のとおり、計三万六千八百円と認めるのが相当である。つぎに修理における部品原価が、被告主張のように金三十九万三千八百二十円であることは、原告において認める事実であるところ、前顕乙第一号証及び松本証言によれば、東京国税局管内の修理(部品販売を含む)の差益率は六五%で、これにより本件原告の修理代を算出することは相当であると認められるので、これを前記部品原価に適用すれば、修理代は金百十二万五千二百円となる。

右認定に反する原告本人尋問の結果並にその供述によつて原告の営業上の帳簿であることが認められる甲第四ないし七号証の各一、二、及び右帳簿にもとずいて原告訴訟代理人が作成したものと認められる甲第八号証の各記載内容は措信できないし、他にも右認定を左右するに足る証拠はない。

最後に官公署に対する自転車、モーターバイクの売上額が金六十万六千四百円であること、交換による収入が金五万五千円であることはいずれも当事者間に争ない。したがつて昭和二九年度における売上金額は、以上の合計金二百八十二万三千四百円である。

(二)  売上原価が金百八十一万四百円であること、(三)必要経費が金十八万九千四百十二円であること、(四)雑収入が金四千円であること、はいずれも当事者間に争がない。

そこで、昭和二九年度における事業所得は、右売上金額から売上原価と必要経費との合算額を差引いたものに雑収入を加えた金八十二万七千五百八十八円である。

B  不動産所得

原告が昭和二九年度において、金二万九百九十七円の不動産所得を有することは当事者間に争ない。

そこで昭和二九年度における原告の総所得金額は、右事業所得と不動産所得の合計金八十四万八千五百八十五円である。

したがつて、右金額の範囲内で、原告の昭和二九年度総所得金額を六十二万二千二百四十円とした被告の更正処分には、原告主張のような違法はないものといわねばならない。

よつて原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 地京武人 石井玄 桜井敏雄)

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