大判例

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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)5119号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕債権者は訴外梁某に対する仮執行の宣告附の家屋明渡の判決の執行として昭和三十二年八月一日執行吏から本件家屋の引渡しを受けてその占有を取得した。ところがその翌日債務者は実力を以て債権者の占有を奪つたので、債権者は翌三日自力で再び占有を回復したところ、債務者は同月七日またもや実力を以て債権者の占有を奪いその為引続いて本件家屋を占有しているので債権者は占有訴権に基き明け渡し断行の仮処分を求めた。

債務者は前記明渡しの執行当時債務者はすでに独立の占有をしていたに拘らず、執行吏がこれを看過して債権者に引き渡しをしたのであるから、この違法な執行によつて取得した債権者の占有は不法で法律の保護に価しないと抗争した。

判決は、かように交互に占有の侵奪と奪還が繰返された場合には最初の被侵奪者の占有のみが法の保護に価するものであると判断し、被告の抗弁に対しては執行手続を私力実現の手段として第三者の権利を侵奪したというような場合のほかは執行手続上の瑕疵は問題にならないと判断して債権者の申立とおりの所謂断行の仮処分命令を発した。判決はつぎのように説明している。曰く。

「本件訴保全権利が債権者の占有回収請求権であることはその主張自体に明らかなところ、右の事実関係のようにわずか一週間の期間内において特定の建物に対する占有者の占有が排除され、さらに当初の占有者がこれを奪還するというかたちで、同一の当事者間で交互に占有の侵奪と奪還が繰返されたような場合には、当初の占有被侵奪者(のちの占有侵奪者)の占有だけがいわゆる法の保護に値する事実的支配状態であり、その者はこれを理由に当初の侵奪者があり、かつ現在の占有者であるものに対して占有回収を訴求しうるものと解するのが相当である。――中略―― 債務者の占有がその意思に反して排除された結果債権者から占有を取得した事実はさきに説示したところから明らかであるが、その反面債権者の占有が強制執行によつてもたらされたとの事実を全く顧慮することなしにその強制執行のいささかの瑕疵を主張して、ただちに法律上の手続によつて取得したところの事実的支配状態さえ法の保護に価しないというような、あるいは債務者の占有こそそれに価するというような結論を導くことが果して許されるであろうか。思うに一定の物に対する事実的支配状態が、それが実体上の規範に合致するかどうか問うことなしに、占有訴権という法律上の保護が与えられる所以は、その事実支配そのものが、安定した社会生活の一部を形成しているため、そのままの状態で尊重されることが望ましく、みだりに自力救済(実力行使)を許すべきでないとの見地から、これを一応法律秩序上是認される状態として取り扱うべきであるからに外ならない。しかして、事実的支配状態は通常それが時間的に継続すればするだけ社会生活との適合性を増大するものであるが、逆に時間的継続を伴わない場合であつても、法律秩序上是認すべき方法をもつて平穏に事実的支配がかく得された場合は(通常、その後にその状態が平おんに継続することが予想される)、ただちにこれを保護すべき事実的支配状態として取り扱い、これに占有訴権を認めることはなんら差支えないことである。明渡の強制執行によつて執行債権者が取得する占有のごときはまさに右のような事実的支配状態というべきであり、仮にその執行手続に瑕疵があつたため第三者の権利を侵奪する結果となつたとしても、第三者としては、執行法上の救済手続をとるか、あるいは、実体上の権利に基いて回復を図る等法律上是認された手続をとることは格別、執行手続におけるある種の瑕疵を云為して、私力で自己の権利を回復することは法律的にも、社会的にも、もとより許さるべきでないことはいうまでもない。したがつて、第三者において、執行債権者が強制執行によつて取得した占有を侵奪した場合には、執行債権者はこれを理由に、第三者に対して占有回収の訴を提起することが許されるものであり、その場合当がい強制執行に若干のかしがあつたかどうかということは原則としては問題にならないことであり、このようなかしのあつたことは侵奪者の実力行使を正当化するものでは決してあり得ないといわざるをえない。ただ執行債権者の強制執行の申立が当がい第三者に対する関係おいて重大なかしがあり、第三者の権利侵奪を自的としていると認められるような場合、換言すれば執行手続の外形は有していても、実質的には執行機関を自己の私力実現の手段として利用し、不法な私力と同視すべき方法で、第三者の権利を侵奪したというような事情が認められる場合には、改めて執行債権者が占有被侵奪者としての法律上の保護に値するかどうかが検討されなければならない。本件がこのような場合に当るものとは到底認められない。」

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