東京地方裁判所 昭和32年(ワ)10120号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原被告は昭和三十一年十月十四日見合の上婚約し、同三十二年四月十四日結婚式をあげ、同日以降被告方で同棲していたが、原告は被告が正当の事由がないのに婚姻の届出を拒み予約の義務を履行しないのみならず、同居に堪えない侮辱ないし「いやがらせ」の限りをつくし、原告との間の婚姻予約を破棄したと主張し本件慰籍料を請求したところ、被告は原告の同棲生活における生活態度をひなんし原告は最初から被告との婚姻をつずける意思はなかつたので、婚姻予約の破毀は原告の予定の行動であつたと述べて、婚姻にあたつて交換した結納金実額の返還を求め、もし原告の慰籍料請求権が認められるならこれと相殺する旨の予備的抗弁を提出した。
判決は被告の結納金返還請求権を否定し、結納金の性質につきつぎのとおり説明した。曰く。
「原被告間に事実上の婚姻が成立し而も其後被告の有責行為に因つて婚姻関係が解消したことは前段認定のとおりであるから被告は原告に対し右結納金の返還を請求する権利を有しないと解すべきである。蓋し所謂結納なるものは婚約(将来婚姻をなすべき旨の約束の成立)を証するため又はこれと共に婚姻のために要する諸費用殊に婚礼費用として贈与せられるのが通例であり(従つて夫たるべき者の側から妻たるべき者の側に贈与される額が多い)一旦挙式の上事実上の婚姻乃至届出による婚姻の成立したときは、結納はその目的を達し以後その返還を請求し得ない性質のものだからである。」