東京地方裁判所 昭和32年(ワ)1179号 判決 1958年3月13日
同栄信用金庫
事実
原告同栄信用金庫は、被告東京コンクリートブロツク株式会社常務取締役渡辺靱負が訴外宝屋工業所に宛てて振り出した金額五十万円の約束手形の所持人であるが、右手形は被告会社の代表取締役からその職務の執行について全般的に代理権を付与されていた右常務取締役渡辺靱負が右権限に基いて振り出したものであるから被告会社は手形責任を免れない。仮りに渡辺靱負が右のような権限を付与されていたことが認みられないとしても、被告会社は右渡辺に対して常務取締役の名称を使用することを許していたのであるから、被告会社は商法第二百六十二条の規定により善意の第三者たる原告に対し前記手形金を支払う義務があると主張した。
被告は、本件手形は右渡辺が何らの権限なきに拘らず擅にこれを振り出したものであるから、被告会社には何らの責任はないと争つた。
理由
原告同栄信用金庫が被告会社の常務取締役渡辺靱負名義で訴外宝屋工業所宛に振り出された金額五十万円の約束手形一通を右宝屋工業所からの裏書により取得し、現にその所持人であること、及び原告が右手形を満期の翌日に支払場所に呈示して支払を拒絶されたこと、並びに右手形の振り出された当時前記渡辺靱負が被告会社の取締役であつたこと及び右約束手形の振出が右渡辺靱負によつてなされたものであることは、当事者間に争がない。
ところで証拠を綜合すると、本件約束手形は被告会社が訴外日本航空株式会社から請け負つた工事の一部を訴外宝屋工業所に下請させたことの報酬金の一部の支払のために振り出されたものであるが、本件手形が被告の常務取締役渡辺靱負名義で振り出されたのは、右手形の支払場所に定められた株式会社協和銀行渋谷支店における被告会社の預金口座がその常務取締役渡辺靱負の名義で開設されていたことによるものであること、渡辺靱負は右手形の振り出される以前の昭和三十一年六月頃から同三十二年三月頃まで(本件手形の振出日は昭和三十一年十月二十五日)被告会社の常務取締役として経理事務を担当し、被告会社が約束手形を振り出す場合には代表取締役の承認を得て、自ら保管していた被告会社の社印並びに右代表取締役の記名印及びその印章等を使用して代表取締役福山建定の名義で、また時には被告会社常務取締役渡辺靱負名義で手形の振出をしていたこと、本件手形は上述のような原因に基いて右渡辺靱負が被告会社の代表者福山建定の諒解の下に振り出したものであることを認めることができる。被告は本件手形は、渡辺靱負が権限なくして自ら擅に振り出したものであると抗争するが、かかる事実を認めて右認定を覆すに足りる証拠はない。
従つて、右認定事実によれば、本件手形は被告会社の常務取締役である渡辺靱負が、被告会社の代表取締役から付与された代理権に基いて振り出したものであるから、被告会社振出の約束手形として有効なものというべきである。