東京地方裁判所 昭和32年(ワ)6800号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は宅地建物の売買交換等の仲介業者であるが、被告銀行春日町支店長から支店改築用地買入の仲介を依頼され、種々調査の結果訴外高野直治所有の宅地八〇坪を見出し、地主代理人中沢弁護士に面会し、同人からも売却方の依頼をうけ、両者の直接会談の運びをつけ、会談の結果坪数は八〇坪値段は一〇〇〇万円ということに定つたが、実測の結果六坪の余計の土地があつたため売買は一時延びたが、結局この分は買取らないことに決つて被告の希望どおり売買の話は落着した。しかして、原被告間には仲介手数料の額のとりきめがなかつたから、慣習に従い昭和二八年一〇月一日東京都告示第九九八号所定の割合による報酬金の支払を求めると主張した。
被告は原告の仲介による売買の話は、当がい土地に借地権を主張する第三者があつて地主と明渡訴訟中であることが判明したので、中絶の形になつていたが、地主から被告にみぎ訴訟の示談金借入の交渉によつて再燃し、ついに売買契約の成立をみるに至つたのであるから被告としては仲介手数料支払いの義務はないと抗争した。
判決はつぎのように事実を認定して本件においては、一時売買の話が中断状態にあつたけれども結局において原告の仲介によつて売買契約が成立したことは否めないと判断し、ついで報酬支払いに関しては、原告主張の告示は公定価格を定めたものと解することはできないこと、(この点についてはすでに何回か判決例を紹介した)ならびにこの告示額により支払いをするという慣習は存在しない、と判示した。判決はみぎ二点についてつぎのとおり述べている。曰く。
「被告と高野(地主筆者註)間の本件土地売買契約はその成立までの経過について原告の労を要した部分はまことに僅少なことが明かであるが、とにかく被告が本件土地を知るに至つたのは原告の申入れによつたものであること、そして成立までの経過はともあれ、これについて原告の情報として提供した代金額によつて売買の成立したことは、これを否定し去ることのできないところであり、しかも一方原告のような不動産仲介業者の業務の最も際立つた特色は、その個々の取引経過と知識ならびにその利用しうる業者間の特殊の情報によつて依頼者に最も適した取引の相手方を迅速に探し求めて、その間に契約締結の機縁を与えることにあることから考えてみると、被告主張のように前記昭和三〇年一一月一〇日の被告と高野間の売買契約中絶事態の発生、あるいはその後再燃した売買交渉過程に原告が何等関与しなかつたという事実のみを以つて被告の原告に対する仲介依頼が当然経了したものと認めることもできない。」
「そこでその額について考えてみると、この点当時者間に明示的約定のあつた事実は前記の通りこれを認め得ないところであり、又それかといつて黙示的に原告主張のその存在について当裁判所に明かな東京都告示所定の最高報酬額に依る合意のあつたものとも認め得ない。なぜならば右告示は文字通りその最高額であつて、宅地建物取引業法の規定の趣旨とするところ(同法一七条二〇条二五条)からみても業者が下当な高額の執酬を要求することを防止するためにのみ定められた額であつて、いわゆる公定価格ともいうべきものでないからである。又右告示所定の最高額を業者が請求していることが業者間の慣習になつていることは証人脇坂浩治の証言によつて明らかであるが、業者と依頼者との間にその最高額について支払いが行われるのが慣習となつているということは到底これを認めることはできないところである。したがつて右告示所定の最高額のみを以つて報酬の額を決定することはできないものであり、その額は不動産仲介業者の業務の特色というべきところの契約成立の機縁の醸成ということから考えてその提供した情報と成立した契約との関係を特に考慮してこれを定めるべきであり、取引額あるいは契約成立過程に提供した労務のみに重点を置くべきではないというべきである。」