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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)9339号 判決 1959年7月11日

平和相互銀行

事実

東京建設株式会社(以下東京建設という)は昭和三十一年九月十七日蔡麗紀に対し、一千万円を貸与したが、右債権担保のため、蔡麗紀は同人所有の家屋について順位第一審の抵当権を設定し、翌十八日その旨の登記がなされた。ところで原告株式会社平和相互銀行は、昭和三十一年十一月二十四日及び翌三十二年二月末日の二回に亘り、東京建設の求めにより、蔡枝元(蔡麗紀の夫)が前記債権弁済のため同会社宛に振り出した額面合計一千万円の約束手形計九通の割引をなすと共にこれらの手形の裏書を受け、なお昭和三十一年十一月二十四日手形振出の原因関係である東京建設の蔡麗紀に対する債権一千万円と本件抵当権の譲渡を受けた。しかるに、原告は東京建設の協力を得られなかつたため本件抵当権の移転登記手続をすることができないでいたところ、昭和三十一年三月十九日に至り、東京建設に対する債権者として同社の社印を共同保管していた被告等八名は、同人等の東京建設に対する債権の弁済に代えて本件抵当権とその被担保債権の譲渡を受けたと称して、東京建設の社印を冒用して抵当権移転登記に必要な一件書類を作成の上、登記官吏をして不動産登記簿原本に右被告等八名が本件抵当権を被担保債権と共に譲渡を受けた旨不実の記載をなさしめた。以上のように、右被告等八名のなした本件抵当権移転の登記は事実に副わない無効のものであるから、東京建設から本件抵当権の譲渡を受けている原告は、移転登記手続こそ経てはいないが、右抵当権に基いて、同被告等に対し右無効の登記の抹消を求める、と主張した。

被告等八名は答弁として、被告等は昭和三十二年三月十七日東京建設の代表者山本良作から本件抵当権をその被担保債権と共に譲渡を受けたものであるから、原告の請求は失当である、と主張した。

理由

証拠を綜合すると、原告が蔡枝元振出にかかる本件手形を割り引いた第一回の昭和三十一年十一月二十四日、本件抵当権とその被担保債権を東京建設が原告に譲渡すべき旨の話合が東京建設の山本良作(代表者)ないし浅海大輔(会計課長兼総務課長)と原告銀行の稲井田隆ないし菅原専務との間になされた事実が認められるが、債権並びに抵当権譲渡証書(甲第二号証)にはその作成の年月日の記載を欠き、譲渡債権の金額も八百万円であつて原告の主張するところと異なるばかりか甚だ明確性に乏しく、相互銀行である原告が受領すべき債権並びに抵当権譲渡証書としては誠にその形式が不充分であるのみならず、右債権の譲渡通知に関しては僅かに証人稲井田隆の「一千万円の債権については蔡麗紀に対し債権譲渡の通知をしたと思いますが、はつきり記憶はありません。」という甚だ漠然とした証言があるだけでその譲渡通知の事実は認め難く、従つてこの点についても相互銀行としての原告が債権の譲渡を受けた場合としては余りにもこれに関する手続に欠けるところがあり、更に前記手形割引は昭和三十一年十一月二十四日及び同三十二年二月末日の二回に亘つてなされたのにもかかわらず、すでにその第一回目である昭和三十一年十一月二十四日に右手形金合計一千万円に対応する貸金債権と本件抵当権が譲渡されたとする理論上の不合理があることなどから、結局、前記第一回の手形割引に際し、本件抵当権とその被担保債譲渡の話合がなされたことはこれを認めることができるけれども、その話合に基いて実際にその譲渡行為が実行された事実はこれを認めるに由ないものといわなければならない。

次に原告は、手形の裏書譲渡には当然その原因関係たる債権の譲渡が伴う旨主張するからこの点について判断するのに、勿論手形債権とその原因関係たる債権との間にはその間密接な関係があり、これを本件について考えても、若し前記手形が基本関係である前記貸金債務支払のため振り出されたものであるとすれば、右手形金の弁済は当然貸金債権の消滅を来すべく、また貸金債権の請求に対しては手形債務者である蔡枝元は手形の返還をもて対抗できるであろうけれども、もともと手形関係とその原因関係は法律上別個の法律関係であつて、手形債権の譲渡はこれに当然原因関係たる債権の譲渡を伴うという見解はこれを採用できない。

してみると、本件抵当権の譲渡を受けたことを前提とする原告の請求はその前提を欠き、すでにこの点において失当であるとしてこれを棄却した。

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