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東京地方裁判所 昭和32年(行)32号 判決 1960年4月28日

原告 宮本顕治

被告 外務大臣

訴訟代理人 朝山崇 外三名

主文

原告が昭和三一年一月二三日にした中華人民共和国行き一般旅券発給申請に対し、被告が同年六月一四日にした発給拒否処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、申立

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告の主張

一、昭和三一年一月上旬、中華人民共和国(以下「中国」という)の中国人民対外文化協会及び中国作家協会から、訴外中野重治及び阿部知二に宛て、中国と日本との文化交流をはかるため日本文学の現状についての講演会を催したいから講師として三ないし四名の文学評論家の訪中を希望する旨の要請があつたので、原告及び訴外中野重治、本多秋五、臼井吉見の四名を人選のうえ折返し右両協会へ通知したところ、改めて同協会から右四名に対し同年一月末に訪中されたいとの招待が来た。

二、そこで右原告ら四名は同月二三日被告に対し、中国人民対外文化協会および中国作家協会からの招待による日中文化交流および近代日本文学の講演のための中国行一般旅券の発給を申請したところ、被告は、原告と中野重治とに対しては、「旅券法第一三条第一項第五号の趣旨にかんがみ旅券を発給しない」と決定し、同年六月一四日その旨書面で原告および中野にそれぞれ通知したので、さらに右両名は被告に対し異議の申立をしたところ、被告は、「現下におけるわが国の国際的立場、申請人の渡航先がわが国と国交関係を有しないいわゆる中華人民共和国が支配している地域であること、および申請人の経歴等にかんがみ申請人の渡航は著しく且つ直接に日本国の利益を害する行為を行うおそれがあると認めざるを得ない。」との事由で、異議の申立がいずれも理由がないと裁決し、同年一一月九日その旨原告および中野にそれぞれ通知した。

三、しかしながら、原告は、次の理由により、旅券法第一三条第一項第五号所定の「外務大臣において著しく且つ直接に日本国の利益を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するといえないから、原告に対する本件旅券発給拒否処分は違法である。

(一)  旅券法第一三条第一項第五号の規定は旅券発給申請者個人についての個別的欠格条件を定めたものであるから、その欠格条件の有無は申請者自身の地位、人格及び渡航の目的等の主観的事情の如何によつてのみ定められなければならず、申請者が特定の国に渡航すること自体のわが国の利益に及ぼす影響等のいわば客観的事情はこれを度外視して考えなければならない。けだし、右規定の文理解釈のうえからもそうであるばかりでなく、(もし、客観的条件をも含ましめる趣旨なら、当然「その者の渡航により日本国の利益又は公安が害される虞があると認められる者」という規定の仕方をすべきはずである。)もし客観的事情まで考虞に入れ得ると解すると、海外渡航の自由は憲法第二二条により保障された基本的人権の一つであるのに右規定の仕方が甚だ抽象的で内容が漠然としているところから、外務大臣はこれを政治的に悪用する危険があり、とくに時の政府と反対の思想信条を有する者を、右規定に該当するものと一方的に認定することによつて、その渡航の自由を奪うことができ、かかる危険の発生をあらかじめ防止することは不可能に近いから、右規定においては国民の渡航の自由は尊重されておらず、また法の下の平等に反することとなり憲法に違反する無効の規定ということになるからである。ところで、原告は、昭和六年に大学を卒業して以来著述業に従事して今日に至り、人格的にもなんら非難されるべき者でなく、本件渡航申請については、わが国と中国との文化交流をはかり、近代日本文学の講演をする目的以外には全く他意がなかつたのであるから、原告の渡航によつてわが国の利益が害されるおそれは、全くなかつたものというべきである。すなわち、原告は右規定に該当せず、本件旅券発給拒否処分は違法である。

(二)  かりに、右規定の解釈上、客観的事情の如何をも考慮に入れ得るものとしても、原告の中国渡航が、わが国の利益を害するおそれあるものとはいえない。

(1)、わが国の立場

日本政府が昭和二六年九月いわゆる自由主義国家と単独講和条約を、米国との間に安全保障条約を結び、これが国会において承認されたことは事実であるが、かかる条約、協定を結んだことから直ちに、わが国が自由主義諸国とのみ友好関係を持つべきで、中国との友好関係を促進させることは外交政策上許されないものとはいえないむしろ、憲法は、その前文において、国際的友好関係の維持促進を、わが国の対外政策の基本原則と定めているのであるから、わが国が、世界の一つのブロツクに加入したからといつて、これと対立する国を外交上排斥ないし疎外することは憲法の精神に反する。わが国はすでに独立国家たる地位を回復したのだから、かりに自由主義諸国とくに米国が、その対日政策としてわが国と中国との接近を好まなくても、日中両国の友好関係を推進せしめることが日本政府に課された憲法上の責務である。

(2) わが国と中国との関係

わが国と中国とは、いまだ国交が開かれていないけれども、歴史的地理的関係から、従来、政治経済文化等社会生活の全域にわたり相互に緊密な友好関係を結んできたもので、この関係を将来も永く存続発展させることはわが国の利益である。しかも、中国政府は、中ソ両国政府の対日関係にかんする共同宣言をはじめ、わが国と正常関係を回復する用意のあることを再三表明しているし日中両国の国民は、両国の親善を心から願い国交回復をなすべく真剣な努力をしているのであつて、その国民外交の積重ねは、ここ数年来両国の関係を著しく改善し、日中貿易の拡大、抑留邦人引揚の順調な進展、中国赤十字代表のわが国招待、わが国会議員の訪中、学術文化代表団の訪中、等友好関係を発展させ、わが国の各界の著名人を中心とする日中国交回復運動の巾広い国民層の全国的組織も結成されるに至つた。このように、日中両国間の関係は、事実上も友好的なものといわねばならない。かりに、非友好的な関係が多少残つているとしても、その原因は、日本政府が、日中両国が国家組織を異にすることを口実に、わが国民の間に中国に対する敵愾心を流布し、両国間の国交を調整しようとする努力を妨害し、両国間の非友好的関係は、もつぱら中国側の責任であるごとく虚構の宣伝をしてきたことによるのであるから、政府は、両国間の関係が非友好的であることを理由に、本件旅券発給申請を拒否することは許されない。

被告は、中国があたかもわが国の内政に干渉し、わが国をはじめ諸外国を侵略しようとしている旨主張するが、中国は、平和五原則に基ずく平和共存の方針を堅持しているのであつて、中ソ同盟条約も、その明文の示すとおり、アメリカ帝国主義と結託する日本の軍国主義的な侵略行為を警戒して締結されたものであつて、被告主張のようにわが国そのものを仮装敵国視し、わが国との友好善隣関係を拒否しているものではない。また、被告は、いわゆるコミンフオルム批判に関連する中国共産党の所説があたかもわが国に対する内政干渉であるかのように主張するが、世界各国の共産主義者が互に批判し経験を交換することを目して内政干渉と考えること自体、すでに思想信条の自由に対する侵害を是認するものであつて、鎖国的反民主主義を露呈するものである。わが国天皇等に対する戦犯裁判に関する中国政府の態度を非難するに至つては、中国に対する侵略戦争の責任を忘れ、依然軍国主義の夢を追つているものと称されてもやむをえないであろう。また日本人帰国問題、抑漁夫帰国問題に対する中国側の措置を非難するが、旧敵に対する措置としてはむしろ人道的寛大な措置といわねばならず、抑留漁夫は中国の主権を侵して領海に侵入したのであるから中国側の措置は当然である。日本の中国に対する残虐非道な侵略戦争、中国国民捕虜に対する仕打ち等を想起すれば被告の議論は身勝手にすぎるものといわねばならない。被告はさらに、平和攻勢なる言葉を弄び、中国政府がわが国民と政府を離間させようとねらつている旨主張するが、しかし、中国政府及び人民は、わが国との国交回復の一日も早く実現することを念願し、わが国民の絶対多数もそれを望んでいるのであつて、それにもかかわらず、日本政府がアメリカに盲従し右国交回復を拒否していることが唯一の原因になつて右念願が実現されないために、いわゆる国民外交という形で相互の交流、協定となつてあらわれたのである。したがつて日本政府としてはむしろこれを基礎に、正式の国交回復に努むべきであつて、これを離間策等というのは日本政府の狭量であり、国交回復えの国民的要求を妨害するものといわれてもやむをえないであろう。

(3) 中国と自由主義国家群との関係

中国を含む共産主義陣営と自由主義国家群との関係は、世界諸国民の平和への努力によつて、国際的緊張緩和の方向をたどり、平和共存、平和五原則は、世界各国の間に普遍化しつつある。南鮮側の侵略に端を発し国連軍の侵略加担により進められた(このことは今や公知の事実である。I・F・ストーン著秘史朝鮮戦争参照)朝鮮戦争及びフランスのヴエトナムに対する侵略的干渉戦争が、ともに、義勇軍をこれに派遣した中国はじめ平和を愛する諸国民の力で停戦を迎えた後、平和を愛する諸国民の努力は、昭和三〇年を考えても、ヨーロツパの平和安全を保障するためのヨーロツパ諸国会議(ワルシヤワ会議)、ソ聯の軍縮原子兵器禁止提案、オーストリア国家条約の締結、ブルガーニン・ネール共同宣言、日本政府も参加しアジア二十九ケ国政府の意思として平和共存を確認し、民族の独立のために闘うことを話し合つたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)、等次々に歴史的な会議、宣言を記録し、この努力の結集は、ついにジユネーブの四大国政府首脳会議の開催となつて、国際緊張緩和への飛躍的な発展をもたらした。昭和三一年の、イギリス・イスラエルのエジプト侵略、帝国主義者の挑発と結びついたハンガリリーにおける反革命暴動は、緊張緩和を一時的に中断したが、やがて、全世界の平和愛好勢力の叡知と努力のもとに、国際情勢を冷たい戦争に逆転させることなく、いずれも結末をつけ、世界は再び平和五原則の立場に立つて、一層緊張緩和の方向へ進みつつある。なお、アメリカ・日本等は、いまもなお、中国人民の意思により成立し中国の土地、人民の大部分を統治する中華人民共和国の承認を拒み続けているが、インド、ビルマ、インドネシヤ、イギリス等をはじめとするアジアとヨーロツパの多数の国々は、すでに一九五〇年に新中国を承認し、同年三月には当時のリー国連事務総長が、国連における新中国の代表権を認めるよう各国政府に覚書を送り、かつ声明を発表し、また、イギリス、フランス、西ドイツ、イタリー等チンコム参加諸国をも含めた世界各国は、アメリカの対中国禁輸強化の申入に服さず、中国との貿易を押進めている等、中国に対し友好関係をはかるべく努力している現状である。

(4) 原告の所属政党等について

原告は終始一貫戦争と再軍備に反対し、平和のために斗つてきた日本共産党の党員で、本件申請当時、党の最高指導者の一人として、中国との友好親善のため積極的努力を続けていたものである。

被告は、中国への渡航は一般に、当時の国際情勢からみて、わが国の利益を害するものであると主張する。しかし、前記のような平和共存へ向いつつある国際情勢からみれば、中国との友好親善をはかるための渡航は、わが国と自由主義諸国との協力関係を破壊するようなおそれはないし、かりにそういうことになつたとしても、わが国にとつて、あらゆる国と友好関係を結ぶことの方がはるかに将来の利益であり、憲法の精神にも合致する。国内的にみても、渡航者が帰国後、中国の表面的美点を伝え、国論の統一がみだされるおそれがあるというが如きは、すでに幾度もの引揚邦人等を通じ、わが国民は中国等共産主義諸国の実情を知らされており、いまさら改めて、帰朝者の談話で、美点に惑わされるようなことはありえない。かりにもし、中国の事実の姿を知つたわが国民が、これと比べて日本政府の諸政策を批判し、国内に議論が沸とうするようなことになつたとしても、これを抑圧することは許されないから、そのことを理由に中国渡航を拒否することも許されない。要するに、一般に中国渡航がわが国の利益を害するものとはいえないことは明白である。

被告は、原告が日本共産党員でありその指導者の地位にあることをもつて本件申請拒否の一事由としている。しかし、旅券法の規定は、憲法上認められた海外渡航の自由を制限するものであるから、その適用は慎重であるべく渡航者個人に対する好悪感や、その所属政党の如何によつて適用を恣にすることは、法の下の平等に反し、許されないところである。原告は、中国との文化交流のみを目的とし、他意はないものであるから、被告主張のように、中国共産党の政治指導をうけるようなことはなく、共産圏諸国の政治目的に利用されるようなこともありえない。しかしかりに、中国共産党の指導をうけるようなことがあるとしても、日本共産党は、憲法上保障された合法政党であるから、右の故をもつて原告の渡航を拒否することは許されない。被告はまた、原告のような指導者の渡航を許すことによつて、あたかも、日本政府が日本共産党を鼓舞激励し、同党を通じてひそかに共産圏諸国との間に連繋を企図しているかのような疑惑を自由主義諸国に与えるおそれがある旨主張するが、そのようなおそれは全くありえないのみならず、かりに、原告の渡航を許すことで、自由主義諸国がわが国に対し疑惑と不信を抱くようなことがあるとしても、前記のとおり、わが国としては、世界のあらゆる国と友好関係を結ぶことが、憲法上の要請でありわが国の将来の利益でもあるから、たとえ日本と中国の両共産党の提携の下においてでも両国が友好関係を深めることができるなら、それはまさにわが国の利益というべきであるから、原告の渡航によりわが国の利益が害されるということにはならない。昭和二八年七月二九日衆議院は、日中貿易促進決議案を可決し、この決議に基いて、国会議員を中心とする総勢二十四名の中国通商議員団が、中国国慶節祝典に参加し中国各地を視察したが、このように、国民を代表する国会が、中国との国交回復のため推進力になる貿易促進を決議し、それに基いて、国会議員という国政の要職にある者が多数中国へ派遣されたということの方が、原告のごとき一政党しかも中国共産党と友党関係にある政党員が、文化交流のため訪問することよりも、はるかに大きく自由主義国とくに米国に疑惑と不信を与えるであろうことは論ずる余地のないことである。しからばあえて、原告の渡航により、自由主義国に疑惑を与えることをおそれる理由はないものといわねばならない。また、前例として、政府は昭和三〇年、日本共産党中央委員会常任幹部委員たる訴外志賀義雄が、故徳田球一書記長の遺骨を引取るため中国へ赴いた際、これに対し旅券を発給した事実があり、これと本件とを区別する理由は全くないから、右事実のみに徴しても本件拒否処分が違法であることは明らかである。さらに、政府は、わが国と国交の開かれていない国への渡航を許可した事実もあるから、中国との間に国交が開かれていないことをもつて拒否の一事由とすることは許されない。

これを要するに被告の本件拒否処分は、時の政府与党と政治的見解を異にする者を、その思想、信条により不当に差別待遇することに出でたものであるから、明らかに違法である。

(三)  なお、原告の本件旅行目的は、中国からの前記招待に応えるものであるから、一般的には日中両国間の文化交流に寄与することであり、具体的には近代日本文学の講演を中国人民に対して行い、かつ、中国文化人と懇談して双方の思想を交流させることにあつた。そのついでに、中国各地を旅行して視察することも予想されていた。右講演等の予定日程は、昭和三一年一月以降できるだけ早い時期に彼地に到着し、招待者である中国人民対外文化協会及び中国作家協会の担当者と具体的計画を協議確定のうえ、一ないし二ケ月の期間内に中国各地(とくに北京、上海、その他の大都市を中心として)において講演ならびに懇談を行うことに予定されていた。たゞし、中国側では原告に対し日本政府が旅券発給をおくらせるばあいのあることを予想していたので、発給あり次第渡航して講演等をすることに諒解がなされており、したがつて現在もなお、右招待は有効に存続している。

四、以上のとおり、被告のした本件旅券発給拒否処分は違法であるから、その取消を求める。

第三、被告の主張

一、原告の主張第一、第二項の事実はいずれも認める。

二、同第三項の事実については次のとおり主張する。

(一)  旅券法第一三条第一項第五号の規定は、旅券発給申請者についての個別的欠格条件を定めたものであるが、旅券発給の許否は、単に申請者自身の地位、人格及び渡航の目的から見て申請者自身が右に規定する行為を行う危険があるか否かを審査することのみに基いて定められるべきものでなく、その他或る者が特定の国に渡航すること自体を客観的に見て、そのこと自体が著しく且つ直接に日本国の利益を害する結果を招くおそれがあるときは、右規定により旅券の発給を拒否できると解すべきである。すなわち、右規定にいう「行為」には、渡航すること自体をも含むと解すべきである。けだし右規定は、公共の福祉を守る観点から、国外渡航を制限すべき場合を定めたものであるが、国外渡航によつてわが国の利益が著しく且つ直接に害される可能性は、渡航者の渡航後の具体的行為による場合のほか、国際情勢の如何によつては、渡航すること自体による場合も当然考えられ、かかる場合、渡航の自由を制限する必要性においてなんら両者を区別する理由はないからである。したがつて、原告がその主張のような地位、職業を有しそのことが本件拒否処分の一つの理由となつたとしても、それをもつて直ちに本件拒否処分が違法であるとはいえないのであつて、右のような地位にある原告が中国に渡航することそれ自体が、著しく且つ直接にわが国の利益を害するおそれがあると認められるならば、原告は右規定に定める者に該当するといわなければならない。

(二)  そこで、本件渡航申請当時、原告の中国渡航がわが国の利益に如何なる影響を及ぼすものであつたかについて考えてみる。

(1) わが国の立場

わが国は、昭和二六年九月旧連合国のうちの、米英その他のいわゆる自由主義国家と講和条約を結んで以来、これら諸国との間に緊密な協力関係を堅持し、それとの友好親善を促進することを外交政策の基調とし、国の安全については、主として米国の軍事力に頼ることを国の最高方針として採用し、その前提の下に、米国との間に安全保障条約を結んでいるのであつて、このことは国権の最高機関である国会によつて承認されたことである。

(2) わが国と中国との関係及び中国国家の性格

中国は、昭和二四年末中華民国政府を台湾に駆逐し、以来中国大陸を支配しているが、わが国は、中国政府を承認しておらず、両国間にはいまだ国交が開かれていない。ところで中国は、中国共産党の支配するいわゆる党国家であるが、いわゆる国際共産主義陣営の一環として、ソ連と密接な協力関係にあり、アジアにおける国際共産主義の推進基地としての役割を演じ、その対外活動の方針としては、アジア十億被圧迫民族の解放運動を展開し、アジアにおける強力な民族解放軍とその根拠地の建設の促進及び武装斗争と合法非合法の大衆斗争との結合の促進を唱えており、このような基本的方針のもとに締結した昭和二五年二月の中ソ友好同盟条約において、わが国を仮装敵国視する意図を明らかにし、わが国に対し非友好的な態度をとつてきた。その具体的なあらわれとして、日本共産党に対し、同党が指導者となつて全国的な統一戦線を結成し、武装斗争によつて革命を達成することを強く希望し(昭和二五年一月七日付人民日報「日本人民解放の途」と題する社説)、また、中国に残留していたわが国民で帰国の希望を有する者を積極的に送還しようとせず、マツカーサーライン越境、スパイ容疑等の口実のもとに多数の日本漁船を不法にだ捕し日本人乗組員を抑留してきた(昭和二六年以降同二九年七月までに漁船一五八隻、船員一、九〇九名)。もつとも中国は、このような従来の態度に対し、昭和二八年頃から突如その対日政策をいわゆる平和攻勢に転じ、抑留船員を昭和二九年七月までに帰還させ、また、わが国の各種左翼団体をはじめ、いわゆる民主グループに属する各種団体を、それぞれの代表団と銘打つて中国に招待し、これとの間に三十数件にのぼる民間協定(日中貿易協定、日中漁業協定等)、申合せ(日本人居留民帰国援助問題に関する申合せ等)、共同声明(日本国交回復に関する社会党議員団と日中国交回復国民会議代表団との共同声明等)をつくり、さらに右日中漁業協定の成立の関係もあつて新たな漁船のだ捕も跡を絶つたが、右各種団体の招待の真意は、これらの協定、申合せ等のいわゆる国民外交の積み重ねを通じてわが国内に対中国接近の与論を醸成し、それによつて日本政府と日本国民との離間をねらうものであり(いわゆる招待戦術)、また、本件処分当時、漁船の大半(一〇四隻)は依然だ捕されたままであつて、要するに、いわゆる平和攻勢は、情勢の変化にともなう戦術の転換にすぎず、わが国を仮装敵国視し、日本共産党の指導のもとに日本国内において武力革命を達成することを強く希望する基本的意図の放棄を意味するものではないから、当時いまだ両国間に友好的な空気が支配するに至つたものとはとうてい断じえない。日中関係が、真に「平等互恵であり、互に独立と主権を尊重し合うという基礎のうえに立つて中日両国の平和友好を実現することが、中国人民共同の願いである」(昭和二八年七月周恩来演説)ならば、わが国が当時申入れた、消息不明者約四万人の調査協力方依頼に対し、でたらめないし責任転嫁である等の言辞を弄してこれを拒否するような態度はとりえないはずである。これに対しあるいは、中国の意図が前に述べたところは異り、真に平和的共存にあるという論もあるかもしれないが、国際政治の現実は、そのような考えを空想論ないし偽装論としか受取りえないほど冷厳なものであり、わが国を含めて自由主義国家群の、これに対する確信は、少くとも本件処分当時においては、とうてい杞憂に過ぎなかつたものとはいえないのである。したがつて、このような国際情勢に応じ、政府が、わが国政治外交の当路者として、中国に対しては一線を劃し、慎重に対処すべき立場をとつていることは、国際信義上のみならずわが国の独立を擁護するうえからもきわめて当然のことである。

(3) 自由主義国家群と中国との関係

中国は国際共産主義陣営の一環として、自由主義国家群と対立している。中国のとつてきた行動の一、二の例を示せば、まず昭和二五年から三年余に及んだいわゆる朝鮮事変において、国連軍がいわゆる南鮮側を援助する態度をとつたのに対し、志願兵の形式をとつたとはいえ、国連軍に抗争するいわゆる北鮮軍に自国の軍人を参加させ、朝鮮国民の生命財産に多大の損害を与え、国際与論の厳しい非難をうけたのみならず、国連からは侵略者のらく印を押され、経済制裁をうけたほか、つとにインドシナの民族運動に介入し、ホーチミンを援助してヴエトナム民主共和国独立に成功し、仏印赤化の足場にこれを利用し、さらに自由主義国家群に属し、わが国と友好関係にある中華民国政府の存在を否定して、これと敵対関係を続けている。ところで、世界における自由、共産両陣営の対立は、昭和三〇年七月ジユネーブで開かれた米英仏ソ四国首脳者会談によつて一応緩和されたかの感があつたが、重要議題の話し合いはすべて不調に陥り、両者の関係は再び元の対立状態に戻つた。ことに本件処分当時においては、ソ連軍のハンガリー侵入、英仏軍のスエズ占領等の大規模の動乱が相ついで起り、その他中東諸国における民族斗争は両者の対立を一層激しいものにした。アジアにおいても、韓国ヴエトナムの両国では、それぞれ自由、共産両陣営が対立して武力斗争に転化する可能性を含み、また中華民国政府の最前線である金門島附近においては、しばしば戦斗が交えられていた状態である。要するに、本件処分当時に至る国際的緊張緩和の傾向は、世界的なすう勢であるといえるにしても、なお決して楽観は許されない情勢にあつたのである。

(4) 原告の所属政党等

原告は、昭和六年日本共産党に入党し、本件処分当時同党中央委員、常任幹部会員、書記局員等として、同党の最高指導者の地位にあつた。

以上の(1)ないし(3)に述べた事実関係を前提として考えると、一般にわが国民の中国渡航を許すことは、渡航者の人格、地位及び渡航の目的の如何にかかわらず、一面においては、わが国が従来協力関係を堅持してきた米国等の自由主義国家に対し、わが国が共産主義陣営とも友好関係を希望しているかのような疑惑を与えて、わが国と自由主義諸国との協力関係にひびを入らせ、国交上好ましからざる事態を生じさせるおそれが少なくなく、他面において、わが国民をして、わが国と中国との間に友好関係を確立されたかのような幻想を抱かせ、中国がわが国を依然仮装敵国視しているという冷厳な現実を国民の前に糊塗するに至るものというべきであり、また、共産主義諸国への渡航者は、共産主義陣営の宣伝のために利用される結果になる場合が多く、渡航先が中国の場合もその例外でなく、渡航者が帰国後、中国の真相を伝えることなくただその表面的美点のみを伝える結果、当時既にわが国民一般が、中国の実情を知悉していたとはとうてい考えられない情勢においてわが国民が中国側の宣伝に踊らされ、国論の統一が乱される結果を生ずるおそれが多分にあつた。事実、中国のいわゆる招待戦術のねらいの一つが、その美点の誇張的宣伝による友好的国内与論の喚起にあることは、公知の事実である。したがつて、中国への渡航は一般に、わが国の利益を著しくかつ直接に害するおそれあるものというべきである。のみならず、本件申請については、右(4)の事情も考慮すべきであり、原告が、日本共産党の指導者の地位にあるところからその中国渡航を許すときは、中国共産党の政治的指導をうけるとともに、中国その他の共産圏諸国の政治目的に利用される公算が甚だ大であると考えられるから、わが国が日本共産党に便宜を与え、指導的共産党員を鼓舞激励し、同党を通じてひそかに共産圏諸国との間の連繋を企図しているかのような印象を米国その他の自由主義国家に与えることになり、その結果これらの諸国家が抱くであろう疑惑と不信の念は、一般国民が中国に渡航する場合に比すべくもない程大きいといわねばならない。原告は、日本共産党は合法政党であるから、その友党である中国共産党の指導をうけることがあつても、その故をもつて原告の渡航を拒否することは許されないと主張するが、中国の国家的性格が先に述べたとおりであり、その終局的意図に変更がない以上、その意図する事態は、現在のわが国民一般の意思に反するものであることはもちろん、自由主義国家群のまさに防止せんとするところのものであること前記のとおりであるから、日本共産党がこのような中国共産党と友党関係にあるとすれば、原告の同党内における地位から考え、原告の渡航を許すことは、その表面的渡航理由の如何にかかわらず、中国共産党の政治的指導をうけ、その意図実現に便を与えるとともに、わが国に対する自由主義諸国の不信の念を起させる結果となるおそれは甚だ大きいといわねばならない。したがつて、原告の中国渡航は、著しく且つ直接にわが国の利益を害するおそれがあるものというべきであり、そのようにいうことは、日本共産党が合法政党として認められていることなんら矛盾することではない。

原告は、国交未回復の国への渡航を許した例は他にあるから、中国との間に国交が開かれていないことをもつて拒否の理由とすることは許されないとし、また、衆議院が日中貿易促進を決議し、国会議員多数を中国に派遣したことをとらえて本件との比較を論じている。しかし、政府は、中国の国家的性格を先に述べたようなものと解し、これへの渡航は国際関係からみて原則としてわが国の利益を害するおそれあるものと判断し、とくにそのおそれのないと認められる場合にだけ、例外的に渡航を許す方針であるから、個々の場合に、右特別事情の有無により差異の生ずるのは当然である。そして国会議員団の渡航は、わが国の経済的要請にかんがみ、国交回復と切り離して日中貿易の促進をはかることの意義が考慮され、かつ一般民間人の場合と異り、国会議員として責任ある行動が期待され、渡航にともなつてわが国の蒙るべき前記諸般の不利益もないものと判断されたところから、もつぱら貿易促進の瀬ぶみの目的で、貿易関係の専門家を加え、公務の旅行としてとくに許可したものであるから、本件の場合とその取扱を異にしたのは当然である。

これを要するに、原告はすべての国と等しく友好親善関係を結ぶべきであると論じ、これがその主張根底をなしているようであるが、被告としても、世界の全諸国と友好親善関係を結ぶことが可能であるなら、原告とともにこれを希望するものであることはもちろんであり、理想論としては原告の見解に反対しない。しかし現実の国際関係は、自由主義国家群と国際共産主義陣営の対立があり、一方に身を投ずることは他方と離反することを意味するのであるから、この冷厳な現実に対処するためには、単なる理想論をもつて足れりとするわけにはいかない。ここに原告と政治的見解を異にするわけであるが、それはともかく、申請者の渡航自体が旅券法の欠格事由に該当するか否かは、わが国の置かれた政治上外交上の立場からみて、それが国際的国内的にいかなる影響を及ぼすかを検討することによつて初めて結論を見出しうることがらであり、しかも、我が国内外の政治情勢の認識とこれに基く判断には、多分に政治的要素の入ることはことの性質上当然である。だからといつて被告は、この判断が時の政府のまつたくの政治的裁量に委されているとまで主張するわけではないが、しかしすくなくとも、かような一国の対内外の利害に関する綜合的判断は、これに合理性が欠けているならともかく、そうでない限り政府の判断は当然に尊重さるべきである。したがつて、政府の政治的見解と異る見解に基く内外情勢の認識判断を基礎としての非難は、政治的批判としてならばともかく、政府の判断を違法とまで主張することは飛躍であつて許されない。

第四、証拠<省略>

理由

昭和三一年一月上旬、中国の中国人民対外文化協会及び中国作家協会から、訴外中野重治及び阿部知二に宛て、日中両国の文化交流をはかるため日本文学の現状についての講演会を催したいから、講師として三名ないし四名の文学評論家の訪中を希望する旨の要請がなされたこと、これに対し、原告及び訴外中野重治、本多秋五、臼井吉見の四名を人選のうえ右両協会に通知したところ、改めて同協会から右四名に対し、同年一月末に訪中されたいとの招待がきたこと、そこで右四名は同月二三日被告に対し、右両協会からの招待による日中文化交流及び近代日本文学講演のための中国行一般旅券の発給を申請したところ、被告は、原告及び中野重治に対しては、「旅券法第一三条第一項第五号の趣旨にかんがみ旅券を発給しない」と決定し、同年六月一四日その旨書面で原告及び中野にそれぞれ通知したこと、そこで右両名は、さらに被告に対し異議の申立をしたところ、被告は、「現下におけるわが国の国際的立場、申請人の渡航先がわが国と国交関係を有しないいわゆる中華人民共和国が支配している地域であること、及び申請人の経歴等にかんがみ、申請人の渡航は著しくかつ直接に日本国の利益を害する行為を行うおそれがあると認めざるを得ない。」との事由で、異議申立がいずれも理由がないと裁決し、同年一一月九日その旨原告及び中野にそれぞれ通知したこと、はいずれも当事者間に争がない。

原告は、旅券法第一三条第一項第五号所定の「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するか否かは、もつぱら申請者の地位、人格、渡航の目的等の主観的条件の如何によつてのみ決せられるべきで、申請者がその渡航をすること自体の及ぼす影響等の客観的条件を考慮に入れることは許されないと主張する。しかし、旅券発給の審査には、申請者の地位、人格、渡航の目的、意図等がその重要な対象となることはもちろんであるが、外国への渡航の性質上国際情勢の如何等によつては、右のような主観的条件の如何にかかわらず、渡航者の渡航自体が客観的にわが国の利益又は公安を害する場合もありうることであるから、右規定の適用にあたつては、申請者の地位、人格及び渡航の目的、意図等の主観的条件とともに、その者の渡航が客観的にみてわが国の利益又は公安に如何なる影響を及ぼすかをも併せ審査すべきものと解するのが相当である。

ところで、被告は、本件申請当時において、一般にわが国民に中国渡航を許すことは、渡航者の人格、地位及び渡航目的の如何にかかわらず、対外的及び対内的の両面からみて、著しくかつ直接にわが国の利益を害するおそれがあつたと主張する。そして証人松本儀郎の証言によると、当時日本政府は旅券発給について、いわゆる共産圏国のうち、わが国と国交の回復した国への渡航は許すが、国交未回復の共産圏国へは原則として渡航を許さない、たゞし例外として貿易に関する渡航に限り許す、という方針をとつていたことを認めることができるが、外国渡航の自由は憲法上保障された国民の基本的人権に関するものであつて、旅券法第一三条第一項第五号の規定も、渡航の性質上公共の福祉の保持の立場からたゞ旅券申請者の渡航によつてわが国の利益又は公安が著しくかつ直接に害されるおそれのある場合にのみ例外的に渡航の自由を制限し旅券の発給を拒否できることを定めているものと解すべきであるから単に渡航先がわが国と国交未回復の国であるというだけで直にその渡航が前記規定のわが国の利益を害することになると解することは、右規定の制定過程、その規定の仕方等から考えて不当な拡張解釈というべく、国民の渡航の自由を実質的に否定する結果となるもので許されないものと考える。よつて右規定の解釈に当つては、当時わが国の置かれた国際的、国内的情勢と当該申請者の渡航がわが国の利益にいかなる影響を及ぼすものであつたかを十分具体的に検討して審査すべきものと解すべきである。(国交未回復の国への渡航は、場合によつては、旅券法第一九条第一項第四号所定の、旅券名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められることもあるであろうが、この点は、本件拒否の理由として被告の主張しないところである。)

原告が日本共産党員で、同党の最高指導者の地位にあることは当事者間に争ないところであるが、成立に争ない甲第一、二号証に証人中野重治、同本多秋五の各証言及び弁論の全趣旨によれば、本件旅券申請にあたつては、招待者側からの招待の趣旨に応じ、日本文学の評論家として、原告、訴外中野重治、同本多秋五、同臼井吉見の四名を人選し、右四名から旅券申請がなされたものであるところ、被告は、右申請の審査の最終的段階において、原告及び中野には旅券を出せぬが、本多と臼井には旅券を発給するとの見解を示したが、右四名の人選は、過不足のないようそれぞれの講演分担を定めてのものであつたから、四名全員が渡航しなければ目的を達しないところから、本多、臼井の両名も、その後の申請手続を進めることなく、結局右両名に対しても旅券は発給されなかつたこと、そこで原告及び中野から、旅券発給拒否を不服として本訴が提起されたが、訴訟進行中、前記中国の両協会から更に日本文芸家協会に対し、日本文学代表団派遺の招待があり、今回は主として日中両国文学者間の交流をはかる趣旨で、中野重治、本多秋五、他五名が人選され、右七名から一般旅券の発給を申請したところ、被告は、中野に対しても、その提起した本訴を取下げるならば旅券を発給する旨の意向を示したので、中野は、昭和三二年一〇月一六日本訴を取下げ、右旅券の発給をうけ、同日他の六名とともに中国へ渡航することができたこと、原告ら四名の本件渡航の目的は、一ケ月ないし二ケ月の期間内に、主として日本文学の発展状況について各分担のテーマにつき講演し、あわせて中国の文学の現状を視察し、中国の作家等と自由に話し合うということであつたこと、の各事実を認めることができ、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認める乙第一号証によると、昭和三一、二年当時には中国へ相当数の旅券の発給がなされたことを認めることができる。

右認定の事実によれば、被告が、原告及び中野の旅券申請を拒否したのは、同人等が、同じ目的で同時に申請した他の本多、臼井と異り、ともに日本共産党員であることを重視したものであると推認されても致し方なく、前認定のように、すでに本多、臼井には旅券発給を許諾する意思を示したのは、被告自らが、当時、一般に中国渡航がわが国の利益を著しくかつ直接に害するものとは考えなかつたからにほかならないし、さらに、中野に対して、本訴進行中、訴訟取下げを求めて、渡航目的のさして異ならぬ申請に対し旅券を発給した事実は、本件原告及び中野に対する拒否処分が右発給の約一年前のことではあるものの、その間、国際、国内情勢に中国への旅券発給上考慮すべき変化があつたことを認めるに足る証拠もない以上、本件原告及び中野に対する拒否処分当時も、被告自ら中国渡航自体がわが国の利益を著しくかつ直接に害するものとの確信を有しなかつたと推測されるのである。

被告は、原告ら中国に渡航することは、当時の国際国内情勢の下においては、わが国の利益を著しくかつ直接に害するとしてその事情を縷々主張しているけれども、当時一般的に中国に渡航すること自体が旅券法第一三条第一項第五号に該当すると解すべきでないことは前に説明したとおりであり、原告が共産党の幹部で指導的地位にあつたということ以外に、原告に旅券発給を拒否するについて右規定に該当する要件事実の存することについては、一般的な国内国際情勢の点は除き、被告は具体的には主張せず、又それを認めるに足る証拠もない以上、原告が被告の主張するような地位にあることは原告も認めるところであるけれども、右のような地位にある原告の渡航が、直に前記規定に該当するものと解することは、被告主張の国内国際情勢を考慮してもなお許されないというべきである。

以上説明するように、被告の本件旅券発給拒否処分は、他に正当な理由の存することの認められない本件においては、不当に外国渡航の自由を奪つたものとして違法な処分というべく、取消を免れない。

よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 桜井敏雄)

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