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東京地方裁判所 昭和32年(行)61号 判決 1960年12月21日

原告 株式会社 辻屋百貨店

被告 東京国税局長

訴訟代理人 河津圭一 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(双方の申立)

原告は、「被告が昭和三二年七月一一日原告に対してした東局法審第二一九号の法人税審査決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告は、主文同旨の判決を求めた。

(原告の請求原因)

一、原告は、昭和二九年一一月一日山梨県加納岩(現在は山梨)税務署長に対し、原告の昭和二八年九月一日より昭和二九年八月三一日までの事業年度における法人税につき、「同年度中の所得金額三九二、〇〇二円、前五年以内の繰越欠損金額三九二〇〇〇円、したがつて納付する法人税のない旨」確定申告したところ、同署長は昭和二九年一二月二八日「同年度中の所得金額四七五、九七〇円、前五年以内の繰越欠損金なし、したがつて納付すべき法人税額一九九、八七八円、過少申告加算税額九九五〇円」と決定した。

二、そこで、原告は昭和三〇年一月二八日同署長に対し再調査請求をしたが、右は同年三月三一日法人税法第三五条三項一号に基き被告に対する審査請求とみなされたところ、被告は昭和三二年七月一一日付東局法審第二一九号をもつて「原告の前記年度中の所得金額一八一、五七〇円、前五年以内の繰越欠損金なし、したがつて納付すべき法人税額七六、二三〇円、過少申告加算税額三、八〇〇円」と決定し、該決定は昭和三二年七月一三日原告に通知せられた。

三、しかしながら、右審査の決定はすべて違法であるから取り消されるべきである。

(被告の答弁及び主張)

一、原告主張一の事実は認める。

二、同二の事実も認める。

三、同三の主張は争う。被告の審査決定は次のとおりその内容及び手続のいずれからみても適法である。

四、決定内容の適法性

1、原告の本件係争年度の所得金額は結局二五三、六七五円であるから、この範囲内において原告の所得金額を認定したうえ法人税額等を決定した被告の上記審査決定は適法である。

2、右算定の根拠は次のとおりである。

(区分)

(原告の確定申告)

(被告の主張)

(一) 所得金額

三九二、〇〇二円

二五三、六七五円

(1) 会社決算利益

三八九、〇二四

三八九、〇二四

(2) 前期分に算入した仕入金額

――

(十) 六〇、〇〇〇

(3) 支払利子中否認金額

――

(十) 二五、六五〇

(4) 貸付金に対する認定利子

――

(十) 九三、〇一三

(5) 寄付金の損金不算入

一、九二八

一、九二八

(6) 源泉徴収加算税額の損金不算入

一、〇五〇

一、〇五〇

(7) 前記分に加算した借入金

――

(一) 三〇〇、〇〇〇

(8) 未納事業税

――

(一) 一六、九九〇

(二) 前五年以内の繰越欠損金

三九二、〇〇〇

なし

(三) 差引所得金額

二五三、六七五

3、右のうち被告の主張と原告の申告の喰い違う部分について以下順次述べる。

(一) 前期分に算入した仕入金額

(十)

原告会社の事業年度は、昭和二六年九月一日から昭和二七年八月三一日までが第一期事業年度、昭和二七年九月一日から昭和二八年八月三一日までが第二期事業年度、昭和二八年九月一日から昭和二九年八月三一日までが第三期事業年度(本件係争年度)であるところ、原告会社は、本件係争年度の決算において、その前年度たる第二期年度中に仕入れた訴外田中商店からの仕入金額六万円を損金に含めて所得金額を計算した。

しかしながら、右は当然第二期年度の仕入金額に含められるべきものであつたのに同年度の決算ではこれに含められていなかつたから、訴外加納岩税務署長は原告の第二期年度の法人税課税の際既にこれを損金に含めて処理している。したがつて、本第三期年度においては、これを損金より除算し、損金の減少は利益の増加となるから、この分だけ決算利益に加算することにしたものである。

(二) 支払利子中否認金額(十)

原告会社は、第三期年度中に訴外辻明人及び辻つまよから次のとおり合計七〇万円の借入金を設定し、これに対し同年度中に次のとおり合計二五、六五〇円の支払利子を計上している。

(借入金)

借入先

年月日

金額

辻明人

昭和二八、九、一五

一五万円

九、二一

一五万円

辻つまよ

一一、二七

一〇〃

二九、二、二二

二〇〃

七、三〇

一〇〃

(支払利子)

対、辻明人

対、辻つまよ

昭和二八、九、二一

二、七〇〇円

昭和二九、一、一六

一、八〇〇円

一一、一五

一、三五〇

二、二二

三、六〇〇

二九、一、一七

二、七〇〇

三、一九

一、八〇〇

三、一七

二、七〇〇

五、二〇

一、八〇〇

五、二〇

二、七〇〇

七、一九

一、八〇〇

七、一九

二、七〇〇

計 一四、八五〇

計 一〇、八〇〇

しかしながら、右借入金の記帳は実は原告会社の売上によつて生じた資産増加の一部を借入金によつて生じたもののように仮装するために行われたものにすぎなかつたので、原告会社は第三期決算の際この点を正し借入金勘定から右借入金額を減額し、他方売上金勘定を右同額だけ増額した。

したがつて、右借入金が架空のものである以上、これに対する支払利子は否認され損金から除算さるべきものである。そうすると、損金の減少は利益の増加となるからこの分だけ決算利益に加算するものである。

(三) 貸付金に対する認定利子(十)原告会社は、第一、二期両年度の売上記帳の脱漏により、訴外辻芳明(原告会社代表者)に対し第三期の期首現在右脱漏額に相当する金九〇、一一六円の貸付金を有していたものである。以下その認定理由を述べる

(1)  辻芳明方の収入

昭和二六年九月から同二八年八月までの期間(すなわち第一、二期年度)の辻芳明及びその家族の収入は次のとおりである。

(給料)

辻芳明        三六四、五〇〇円

辻つまよ       一二三、〇〇〇

辻恵美子       一一七、〇〇〇

辻(現在、小沢)五月 一〇五、五〇〇

(家賃)       一一〇、〇〇〇

計          八二〇、〇〇〇

(2) これに対し、辻芳明方のこの間の支出及び預金状況は次のとおりである。

(支出)

辻芳明方の世帯人員は七人(但し、昭和二八年二月以降八人)であるから、その生活費は、総理府統計局調査の消費実態調査によれば金五八三、八九円となる。

(予金の増加)

辻芳明及びその家族名義の預金の増加(利子を除く)は、(イ)辻芳明名義のものが、協和銀行甲府支店に月掛預金にて二口計三二一、六〇〇円、(ロ)辻つまよ名義のものが、山梨中央銀行塩山支店に定期積金にて三二一、六〇〇円、普通貯金にて二九五、〇〇〇円、(ハ)辻明人名義のものが協和銀行甲府支店に普通貯金にて二〇八、〇一八円、以上合計一、一四六、二一八円となつている。

(3) すなわち、右(2)の合計は一、七三〇、一一六円に及ぶにもかかわらず、その資金とせられる右(1)は八二〇、〇〇〇円にすぎない。そこで、この差額九一〇、一一六円は、原告会社の第一、二期両年度の売上記帳脱漏額を社外に流出せしめたため生じた預金の増加額と認められるので、これは辻芳明に対する貸付金と認定すべきものである。

(4) そして、原告会社は法人税法第七条の二にいう同族会社であるから、同法第三一条の三の規定により右貸付金に対する利子の認定をするに、これを銀行が当時証書貸付をする場合の平均利率日歩二銭八厘によつて計算すれば九三、〇一三円となるのである。なお仮にこれを、右利率によらず、原告が当時銀行から借入金をした場合に支払つていた利子の利率二銭一厘によつて計算すれば六九、七六〇円となる(後者の場合においても、原告の所得金額は結局二三〇、四二二円となるから、被告の審査決定において認定した所得額を依然上廻つているものである)。

(四) 前期分に加算した借入金(一)原告会社が第三期年度中に辻明人及び辻つまよからの七〇万円の借入金を設定し、決算の際これを売上に振り替えたことは前記(二)において述べたが、これについて、訴外加納岩税務署長は右金額のうち、本年度の期首に近い昭和二八年九月一五日の一五万円と同年九月二一日の一五万円計三〇万円は第二期年度の売上の記帳脱漏であると認め、これを第二期年度の益金に加算して課税したので、これを第三期年度の所得から差し引くものである。

(五) 未納事業税(一)

訴外加納岩税務署長は、原告会社の第二期年度の法人税につき、差引所得金額を一四一、六〇〇円と決定したが、右金額に対する事業税(税率一二%)は第三期年度の損金に算入すべきものであるから、これを所得から差し引くものである。

(六) 前五年以内の繰越欠損金

(1) 原告会社は、第三期年度の確定申告において、第一期年度の欠損金八七三、五〇〇円、第二期年度の欠損金一二九、一〇〇円合計一、〇〇二、六〇〇円と申告している。

(2) しかし、訴外加納岩税務署長は、右第二期年度の法人税について、昭和二九年一二月二八日付で次のとおりの更正をした。

所得金額

四七九、九五七円

繰越欠損金

三三八、三一三円

差引所得金額

一四一、六〇〇円

(百円未満切捨)

したがつて、第三期年度においては、控除すべき繰越欠損金は全く存しないこととなるのである。

(3) なお、右加納岩税務署長が原告の第一期青色確定申告に対し申告是認という処理をしたこと、しかして同署長が右(2)記載のように第一期の申告欠損額を修正したうえ第二期分の修正をした際、右の是認を取り消さず且つ右修正の通知書に修正の理由を記載しなかつたことはあるが、そもそも右にいう是認といい修正といい、いずれも単に税務当局の事務上の便宜或いは納税者に与える事実上の便宜のために行われる事実上の行為にすぎず、何ら行政処分たるの性質を備えるものではないから、右の如く是認の取消、修正理由の記載がなかつたからといつて、右署長のした前記修正が無効になるものではなく、したがつて右(2)の修正は有効であるから第三期年度への繰越欠損金は存しないのである。

五、決定手続の適法性

1、原告会社は前述のようにいわゆる青色申告者であるところ、上記加納岩税務署長に対し、本件係争年度分の法人税につき納付すべき法人税のない旨予定申告をしたところ、同署長は原告会社に対し昭和二九年四月三〇日これを是認する旨の通知をした。

2、しかしながら、同署長は、原告会社のほゞ同趣旨の確定申告を俟つて充分これを調査したところその誤りであることを発見したので、上記のように決定し、また、被告の審査決定がなされたのであつて、右審査決定はその手続面からみても適法である。

3、なお、右署長の決定と右是認行為との関係については、そもそも右是認は、原告の確定申告の時期である昭和二九年一〇月三一日より前に為されたものであるのみならず、上述したようにこの是認という行為は行政処分ではないから、本件において、原告の予定申告に対し一旦是認がなされたからといつて、後にこれと異る決定(及び審査)をなす際必ず右是認通知を取り消す必要はなく、したがつて、本件において、右是認の存在は、本件決定及び審査決定の効力に何等の影響を及ぼすものではない。

(被告の主張に対する原告の答弁)

一、決定内容の違法性

1、被告主張四の1、の事実を争う。

2、同四の2、の事実中、原告の確定申告額及びこれと一致する部分の被告の主張額は認めるが、その余は争う。

3、同四の3、の事実については、被告が(一)ないし(六)として主張するところに対応して、以下(一)ないし(六)として答弁する。

(一) 被告主張(一)の事実中、前段は認めるが、後段は争う。

原告会社は第二期年度において欠損のため所得がなかつたのであるから、右第二期の損金は当然第三期に繰り越されるべきものである。

(二) 被告主張(二)の前段の事実は認めるが、後段は争う。

(三) 被告主張(三)については、その主張を争う。事実の認否は次のとおりである。

(1) 辻芳明方の収入の点は認める。

(2) 辻芳明方の支出及び預金の状況も認める。

(3) の事実は否認する。

(4) の主張は争う。

(四) 被告主張(四)については、これを争う。

(五) 被告主張(五)の事実については、原告会社が第二期年度において差引所得金額が一四一、六〇〇円であつたとの事実は否認する。

(六) 被告主張(六)の事実については次のとおりである。

(1) 原告の申告内容は認める。

(2) 被告主張のような更正処分のあつたことは認めるが、その内容を争う。

(3) なお、この点に関する加納岩税務署長の決定は手続上からみても次のように違法である。

すなわち、原告は第一期年度より青色申告者であるところ右署長は原告の右第一期確定申告に対し申告是認の処理をしたにもかかわらず、同署長は、右是認の処分を取り消すことなく、前記のように昭和二十九年一二月二八日付で第一期の欠損を修正することを前提とした第二期分についての修正の通知を発し、しかも右通知書にはその修正理由が記載されていない。

そこで右によれば、同署長の右修正処分は、第一にその前になされた申告是認という行政処分に抵触するがゆえに無効であり、第二に右修正処分は更正処分と目すべきところその通知書に更正理由の記載を欠くから法人税法三二条に違反する無効のものである。

そうしてみると、原告会社の第一期年度の申告(欠損八七三、五〇〇円)は依然として効力を有するから、これに第二期年度の申告(欠損一二九、一〇〇円)を併せると、第三期に繰り越されるべき欠損は一、〇〇二、六〇〇円となりしたがつて当期控除額は、右のうち、第三期の原告所得額に見合う三九二、〇〇〇円となるのである。

二、決定手続の違法性

1、被告主張1の事実は認める。

2、同2の事実は争う。

3、同3の事実も争う。

原告の予定申告に対する是認処分のなされたのは昭和二九年四月三〇日であるところ、本件確定申告の期日は同年三月三一日であるから、右是認処分は本件確定申告に対する是認として有効である。仮にそうでないとしても、原告の予定申告に対する是認処分があつた後右申告と殆んど同一内容の確定申告がなされた際、前記署長は右是認の取消又は変更の措置を執らなかつたのであるから、右是認処分は本件確定申告に対する是認と同一の効果を生ずるものである。

しかして、右にいう是認処分は行政処分であるから、同署長が右是認処分を取り消すことなく上記決定をしたのは違法であり、したがつて亦この点を認容したうえ為された被告の本件審査決定も違法である。

(立証)<省略>

理由

一、原告の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、被告は、本件審査決定はその内容及び手続の双方においてともに適法であると主張し、原告はこれを争うので、先ず右審査決定の内容面から検討するに、第一に本係争年度における原告会社の所得金額算出の諸係数のうち、被告主張四の2の(一)、(5)及び(6)については当事者間に争がないから、右(一)の残余の係数について順次検討し、次いで第二に本係争年度前五年以内の繰越欠損金の有無について検討したうえ、本係争年度の差引所得金額をみることとする。

三、前期の仕入金額相当分の加算。

被告主張四の3の(一)前段の事実は当事者間に争なく、しかして加納岩税務署長が右仕入金額六万円を第二期年度の損金に含めて処理ずみであることは成立に争のない乙第一三号証によつて明らかである。原告の反論は、右第二期年度が欠損のため所得がなかつたことを前提とするものであるが、その失当であることは後述のとおりである。したがつて、この点についての被告の主張は正当といえる。

四、支払利子中否認金額相当分の加算。

被告主張四の3の(二)前段の事実は当事者間に争ない。被告は、右借入金は仮装のものであるからその支払利子分も否認さるべきだと主張するところ、証人中沢圭吾の証言と本件口頭弁論の全趣旨とをあわせればこれを肯認するに足りる。したがつて、この点についての被告の主張は正当である。

五、貸付金に対する認定利子相当分の加算。

被告主張四の3の(三)については、(1)及び(2)の事実は当事者間に争なく、右争なき事実によれば同(3)の被告の主張は相当である。しかして右辻芳明に対する貸付金につき利息を徴した形跡は認め得ないから、右は無利息のものであつたとすべきところ、原告会社が法人税法第七条の二にいう同族会社であることは証人中沢圭吾の証言及び原告本人尋問の結果によつて明らかであるから、右無利息の貸付金と認定した金員については同法第三一条の三の規定によつて被告は右行為又は計算を否認し利子の認定をすることを得るものと解すべきであるが、その利率は、銀行が一般に証書貸付をする場合の平均利率によるべきではなく、原告が当時銀行から借入金をした場合に支払つていた利子の利率によるのが相当であるところ、証人広瀬忠良の証言により原本の存在及びその成立を認め得る乙第一二号証によれば右の利率は日歩二銭であることが認められるから、右認定利子額は六六、四三九円となる。したがつて、この点についての被告の主張は右の限度で正当である。

六、前期繰り入れの借入金の除算。

被告主張四の3の(四)の事実については、これを認めるに足る直接の証拠はないが、右事実は本件において被告に不利益な事実を自認するものであるのみでなく、前記四において認めたところからすれば本年度の期首に近い時期における二口合計三〇万円については、特段の事情の認められない本件においては右事実自体から被告主張のように推認するのが相当である。したがつて、この点についての被告の主張もまた正当である。

七、未納事業税の除算。

原告の第二期年度の差引所得金額が一四一、六〇〇円と確定したことは、後記のとおりであるから、その事業税を本件係争年度の所得から控除すべきこと及びその額は被告主張のとおりである。

八、以上によれば、原告の本係争年度における所得金額は、二二四、一二三円と認めるのが相当である。

これに対して、右年度前五年以内の繰越欠損金の有無の点をみるに、被告主張四の3の(六)につき、(1)の事実は当事者間に争なく、また、(2)の修正のあつたことも当事者間に争がない。そして、原告会社の第二期年度の所得金額及び繰越欠損金額の決定に対しては原告において本件審査請求にあわせて審査請求をしたが、後右第二期年度の分の審査請求を取下げたことは、証人高石契司の証言によつて成立を認め得る乙第一号証の一、二及び証人中沢圭吾、同高石契司の各証言によつてこれを認めることができ、右に反する甲第八、第九号証の各一ないし五並びに証人小沢五月の証言及び原告会社代表者本人尋問の結果はこれをにわかに措信し得ず、他に右認定を左右する証拠はない。この事実によつて考えれば第二期年度の所得金額、欠損金額等は被告主張のとおりに認めるのが相当である。

原告は、更に、右修正行為の手続上のかしを主張してその効力を否定しようとしているが、加納岩税務署長が原告のした第一期確定申告に対し、これを是認する旨通知した行為は、法律上の要請にもとずくものではなく、もつぱら税務当局の事務上の便宜或いは納税者に対する便宜の供与という事実上の行為であつてこれによつて納税者に直ちになんらかの法律上の効果を生ぜしめるような行政処分とは観念し得ない。

次に右税務署長が第一期年度の欠損金額についてした修正通知の行為もまたなんら法律上の要請にもとずくものではない。すなわち原告の第一期年度は欠損であつて課税標準たる所得額はなかつたものであり、その欠損金額が次年度にくり越さるべきものであつたことは弁論の全趣旨から明らかであるから、右修正は法人税法第二九条第一、二項にいわゆる更正ではなく、たんに次年度にくり越される欠損金額が法人の自ら認識するところと、政府のそれとの異なることを通知し、次年度の計算に資せしめようとする便宜上のものに過ぎないのである(これに不服がある場合は次年度の課税標準の計算を争うことによつてする。)従つて右署長が原告に対し、たとえ右の是認を取り消すことなく右修正行為をなし、また、右修正にはその理由が記載されていなくても、同修正行為の効力に何等の消長をきたすものではないと解せられるから、この点についての原告の反論は失当であり、右第一期の欠損金額をくり越した第二期の課税標準及び法人税額について税務署長のした決定に対する審査請求を原告が取下げたことは前認定のとおりである。

九、ゆえに、本件係争年度への前五年以内の繰越欠損金は存しないと認められるから、結局原告会社の本係争年度における差引所得金額は前示のとおり二二四、一二三円と認めるべきである。

一〇、そこで次に本件審査決定の手続上のかしの有無をみるに、被告主張五の1の事実は当事者間に争なく、しかして前記税務署長が原告に対してした本係争年度分の予定申告に対する是認を取り消すことなく、これが確定申告を俟つて決定処分をしたとしても、右是認の性質が前示のようなものであり、且つ、右是認はあくまで予定申告に対する是認であつて確定申告に対する是認でないということ(この点に関する原告の主張は採用し得ない)という点からみれば、右決定、ひいては本件審査決定の有効なることはおのずから明らかである。

一一、以上のとおりであつて、被告のした本件審査決定が手続上適法であり、且つ、内容面からみても、被告が右審査決定で定めた額は、当裁判所が認定した範囲内に属するから、結局被告のした本件審査決定処分はすべて適法といわなければならず、したがつて原告の請求は理由なきものとしてこれを棄却すべく、訴訟費用は敗訴した原告の負担として主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 菅野啓蔵 小谷卓男)

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