東京地方裁判所 昭和33年(レ)219号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕武蔵野市吉祥寺字本田北五六五番イ号(旧地番)宅地二二五坪一合二勺(甲地、乙地及び本件土地)はもと木本重郎の所有で、そのうち甲地及び本件土地一一四坪四合一勺を被控訴人等の先代が普通建物所有の目的で賃借し、その上に家屋を所有していたが、そのうち二〇坪八合六勺(丙地)の部分を乙地一一〇坪七合一勺の賃借人であつた野村愛生に無償で使用させて来た。ところが木本は昭和二二年頃五六五番イ号宅地二二五坪一合二勺を税金の物納として国に所有権を移転し、国は昭和二六年に右土地を縁故者に分割払い下げることになつて、本件土地と乙とを合わせ、これを五六五番の八とし、甲地を同番の九とし、右五六五番の八の土地は乙地上の建物を買い受けて乙地につき借地権をもつていた控訴人に払い下げた。被控訴人等は、もともと甲地及び本件土地上に登記ある家屋を所有していて、建物保護法第一条により、本件土地について所有権を取得した控訴人に対抗しうるにかかわらず、控訴人がこれを争うので、本件土地につき賃借権を有することの確認を求めて本訴を提起した。控訴人は、(イ)被控訴人等が賃借権ありと主張する本件土地は被控訴人等所有家屋の所在する五六五番の九の一部ではなく、隣地である同番の八の一部に当るが、同番の八の上には被控訴人等の登記ある家屋は存在しないから、建物保護法第一条によつて控訴人に賃借権を対抗することができない、(ロ)建物保護法により賃借権をもつて第三者に対抗しうる土地の範囲は、建物の敷地として現実に使用されている部分に限られるが、本件土地は昭和一六年以前から甲地上にある被控訴人等の所有家屋の敷地としては使用されず、乙地の建物敷地として使用されて来ているから、この点からみても被控訴人等は本件土地の賃借権をもつて控訴人に対抗することはできない、と争つた。
判決は、右(イ)、(ロ)の点につき次のように判示して被控訴人等の請求を容れた。曰く、
「しかしながら、ある宅地上に建物所有を目的とする賃借権を有する者がその土地上に登記ある建物を所有するときは、たとえその後において右土地の分筆の結果登記ある建物はその分筆された一方の土地の上にのみ存在し、他方の土地には存在しないこととなつても、なお右の賃借人は、その登記建物の存在しない他方の土地を含めて賃借した全部の土地につきその賃借権を第三者に対抗しうるものと解すべく、(最高裁判所第二小法廷昭和三〇年九月二三日判決、最高裁判所民事判例集九巻一〇号一三五〇頁参照)この理は、賃借に係る土地が、一筆の土地の全部であり、それがその後二筆以上に分筆された場合であると、賃借地が一筆の土地の一部であり、その土地の分筆の結果賃借地の一部が登記建物の存在しない他の筆の土地に属せしめられるに至つた場合であるとによつて異なるわけはないから、本件の場合においても、被控訴人らの賃借地の一部である本件土地が分筆の結果被控訴人らの所有登記のある建物のある前記五六五番の九ではなく、五六五番の八の土地の一部とせられるに至つたとしても、これにより被控訴人らの有する本件土地についての賃借権の対抗力は失われることはないといわなければならない。」
「建物保護法第一条の規定により借地権を第三者に対抗しうるための要件としては、借地人が建物所有を目的とする借地権を有する土地上に自己の所有登記のある建物を所有することをもつて足り、かかる要件を具備する限り、借地の全部が登記のある当該建物のための敷地として現実に利用せられていなくても(例えば、借地上に借地人所有の未登記の他の建物が存在し、借地の一部はもつぱらその建物の敷地として利用されている場合の如く)、借地人はなお借地の全部につきその借地権をもつて第三者に対抗しうる(上記設例の場合でいえば、借地人は未登記建物の敷地部分についても借地権を第三者に対抗しうる)ものと解するのが相当であり、これを所有登記のある建物の敷地として現実に利用されている部分に限ると解さなければならない理由はなく、この結論は、本件における如く、当該借地の一部が借地人の所有する登記建物の敷地として現実に利用されている部分から明白に区分され、あたかも借地人以外の者の所有する他の建物の敷地の一部となつているような外観を呈している場合においても異なるところはないというべきである。なぜならば、およそ設定行為をもつて一定の土地を建物所有の目的のために賃借した者がその賃借権を第三者に対抗しうるためには、その借地の全部が右借地上に在る借地人の所有名義の建物のために事実上利用されていることを必要としないこと前記の如くである以上、とくに事実上建物敷地として用いられない土地の部分につき、特約をもつて建物所有の目的に供するものたることを解消しないかぎり右の利用されていない部分の土地が実際にいかなる目的に使用されているかは借地権の対抗力になんら消長を与えるものではないというべきであるし(例えば借地人が借地の一部を他人に転貸し、その転借人が右転借地上に建物を所有している場合において、借地人が転貸地を含む同賃借地につき賃借権を第三者に対抗しうるというべきである)、また借地人の所有建物と借地との利用関係の欠如が外観上明白であるという点も、がんらい宅地上に土地所有者以外の者の所有名義の建物が登記せられているときは、その宅地の所有権を取得しようとする者は当然に右の建物所有者の借地権の有無およびその範囲を調査すべきものであるが、その調査に当つては、単に当該土地の利用状況の外形によつてのみ判断することなく、直接右建物所有者その他の関係人についてこれを調査確認すべきものであり、又かくすることによつて自己のこうむるべき損害を避けることができるのであつて、建物保護法は、建物所有者の借地権を保護するために、第三者に対してこの程度の犠牲を要求しているものと解せられることを考えれば、これまた上記結論を覆す理由とするに足りないからである。」