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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)162号 判決 1959年4月24日

原告 規格建設株式会社

被告 池上通信機株式会社

主文

被告は原告に対し金四三六、三九六円及びこれに対する昭和三十三年一月二十三日以降右金員完済にいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金一〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

(一)  原告は土木建築の請負施工を主たる目的とする会社であるところ、昭和三十二年五月十六日頃被告から、川崎市元木町に建設する予定の電気機械組立工場の設計及び見積りの依頼をうけたので、

(二)  原告は右被告の依頼に基き、右工場の設計をなし設計図面、構造計算書、見積書、建築出願書類等設計及び見積りに関する一式の図書を作成し、同年六月二十一日に被告にこれを交付した。

(三)  よつて原告は被告に対し被告の依頼に基き右工場の設計をなした上右図書一式を作成交付したことによる相当な報酬として社団法人日本建築家協会制定の「建築設計監理業務規程」に拠るを相当と考えるので右に基いて算出した金四三六、三九六円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三十三年一月二十三日以降右金員完済にいたるまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める

と述べ、

立証として、甲第一号証、第二号証の一、二、第三乃至第六号証を提出し甲第一号証は被告会社作成の前記工場の図面であり、甲第二号証の一は原告会社作成の同工場の図面であると附陳し、証人碇山邦夫、同三 正直の各証言並びに原告会社代表者橋本乾一尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立は不知、同第二号証の成立を認める、同第三、第四号証が木田建設株式会社の小野弘一が作成したものであることは不知、同第五号証の一、二、の成立は不知、と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

(一)のうち、原告が土木建築の請負施工を主たる目的とする会社であることは認めるが、その余の事実は否認する。

被告は原告に対し前記工場の見積書は徴したけれども、設計の依頼をしたことはない。

(二)のうち、原告からその主張の頃前記工場の設計図面、構造計算書、見積書、建築出願書類を受取つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)は否認する

と述べ

立証として、乙第一乃至第四号証、第五号証の一、二を提出し第三、第四号証は木田建設株式会社の従業員である小野弘一が作成したものであると述べ、証人三 正直、同小野弘一の各証言並びに被告会社代表者斎藤公正尋問の結果を援用し、第二号証の二、第三、第四号証の成立を認め、第五、第六号証の成立は不知甲第一号証、甲第二号証の一に関する原告の附陳事実は認めると述べた。

理由

(一)  原告が土木建築の請負施工を主たる目的とする会社であることは当事者間に争がない。

(二)、成立に争のない甲第一号証、第二号証の第三、第四号証に被告会社の作成した図面であることに争のない甲第一号証、原告会社の作成した図面であることに争のない甲第二号証の一と証人碇山邦夫、同三 正直(後記措信しない部分を除く)の各証言及び原告会社代表者橋本乾一尋問の結果を綜合すると、原告は昭和三十二年四月十八日頃被告会社の専務取締役三 正直から、被告会社では電気機械の組立工場を建築計画中であるがその予定敷地が適当であるか否かを現地で見てもらいたいとの申込をうけたので、原告会社代表者橋本乾一と取締役工事部長として工事の見積り、契約締結、工事施工の管理等を掌理する碇山邦夫とは、右三 の案内で武蔵小杉にある右土地を見に行つたところ、右土地は工場用地としては適当でなかつたので、好意的に、原告がさきに自己の新設工場の敷地にしようと考えていた川崎元木町所在の土地を被告会社の新設工場の敷地として斡旋し、続いて被告会社の右三 から右土地は住居地域の中に位置しているので建築法規上前記工場を建てることができるかどうかについて疑問があつたので、調査してほしいと依頼があつたので原告会社の右碇山に於て右の点の調査並びに右建築の許可を得るため所轄川崎市役所に度々交渉した結果同年四月下旬に至り漸く右土地に前記工場建築の許可を受けることが判明したので早速その結果を被告会社に伝えたところ、被告会社は右土地で前記工場を建築する方針を立て、一方原告側も建築する工場は当然自社に発注されるものと考え、被告会社と打合せて漸次右建築の計画を進めて来た。然るところ、同年五月十六日頃、原告会社を代理して右碇山、被告会社を代理して、右三、専問的な立場からの参考人として日本放送協会の熊谷某等が会合した、その席上、被告会社側から建築計画についての最終的な案が提出され原告に右工事を請負はせる予定であるからその前提としての見積りをしてほしいと原告に依頼があり、原告側は、右新設工場に関する細部にわたる技術的な問題についても被告会社の意向を質し、こゝに設計に関する最終的な打合せを済ませた。

原告は右打合せ事項を基礎としていわゆる本設計に取りかゝり、同月二五日頃これを完了し、同日頃右設計図面、構造計算書、工事仕様書を被告会社に示したところ、これで結構だからこれに基いて見積りをしてほしい旨いわれたのでこれに基いて精密な工事費の計算をなし、見積書(甲第四号証)を作成し、同年六月二十一日前記設計関係書類及び建築出願書類と併せてこれを被告に交付した。

しかるに被告はその後右工事を原告に請負わしめず、他社に請負わしめるに至つたことをそれぞれ認めることができる。(昭和三十二年六月二十一日被告が原告より上記設計図面構造計算書、見積書建築出願書類の交付をうけたことは当事者間に争がない。)右認定に反する証人三 正直の証言並びに被告会社代表者斎藤公正の供述は前掲証拠に照らし措信しない。

(三)、次に証人碇山邦夫、同小野弘一の各証言及び原告会社代表者橋本乾一尋問の結果によれば、建築業者が建築施工主から工事見積の依頼を受けてなす工事見積りには、概その工事費を算出する概算見積りと、工事着工の前提となる工事の実施に必要であり、工事費算出に必要なる詳細な設計いわゆる本設計をなし精密な設計図書、構造計算書等を作成し、これに基き正確な工事費を算出する精見積りとがあり、概算見積りをする場合は建築業者から自社に請負の申込をせしめんための勧誘の手段としてなされる場合もあり、依頼による場合であつても、請負契約締結に必然的に結びつくものではないので請負契約締結に至らなくともその報酬を請求しないのが慣例であり、現に訴外木田建築株式会社は被告から依頼され本件工場建築の概算見積りをしたが、その報酬は請求していないが、精見積りをした場合にはかゝる慣例のないこと及び精見積りをなすにはその前提として前記の通り本設計をなすことが必要であり、原告のなした見積りは右の精見積りによつたものであることをそれぞれ認めることができ、右認定に副わない証人三 正直の証言並びに被告会社代表者斎藤公正の供述は採用できない。

(四)、以上の事実に徴すると、昭和三十二年五月十六日頃原告が被告から依頼を受けた本件建築の見積りは右にいわゆる精見積りであつて、当然その前提となる本設計をなすことの依頼が含まれているものというべく、これについては明示の報酬額の約定は認められないが商法第五一二条に照し、原告は被告に対し原告の営業の範囲に属する本件建物の設計をなし、前叙設計図面書及び構造計算書、等一式の図書を作成交付したことに対する相当な報酬を支払わなければならないものというべきである。

(五)、そこで、右報酬額が幾何が相当であるかについて判断する。成立に争のない甲第四号証並びに証人碇山邦夫の証言によつて真正に成立したことを認めることができる甲第五号証に、同証人の証言原告会社代表者橋本乾一の供述を綜合すれば、建築業界においては建築工事の設計等に対する報酬は、通常建築並びにこれに伴う設備の設計監理業務等の業務を行うに当つて拠るべき基準を示すものとして社団法人日本建築家協会の制定した「建築設計監理業務規程」なるものに準拠して行われていることを認めることができるので、当裁判所もこれに拠つて算出するのを相当と考える。さて同規程によつて本件報酬額を計算すると、本件の場合、原告のなした設計は同規程第六条の実施設計図書の作成に当り、又、前記認定の如く結局工事施工は原告の関与するところとならず、設計業務のみの委嘱があつた場合に当るから同規程第一六条の適用があり、工事見積り額を同規定第七条及び料率表に当てはめると、設計監理報酬の率は三、九五%を以て相当と考えられるのでこれに基き計算すると、設計報酬の額は

工事費(見積額)13,810,000円

設計報酬額13,810,000×395/100×80/100 = 436,396円

となる。

(六)  以上説明の事実から明らかなように、被告は原告に対し、本件報酬金として金四三六、三九六円及び、これに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三十三年一月二十三日以降右金員完済にいたるまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきであるから、右金員の支払を求める原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷富茂人)

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