東京地方裁判所 昭和33年(ワ)3721号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は、訴外松島正美を原告金庫の予金契約集金係りとして雇傭するに際し被告との間に、将来松島が原告に対して負担することあるべき損害を被告において弁償する趣旨の身元引受契約が成立したところ、松島は三六万一六三三円の積立金を費消横領し、原告に同額の損害をかけたから、前記身元引受契約にもとずき被告にたいしみぎ金員の支払を求める旨主張した。被告は身元保証書に調印の直後調査のため来訪した原告金庫方調査員太田勝三にたいし右契約の取消を申出で、この意思表示は同人を通じて原告に到達した。身元引受人は雇傭契約が成立する以前ならば雇主に対していつでも一方的に身元引受契約をとりけしうるものと解すべきであるから、本件身元引受契約も右取消により消減したと抗争した。
判決は、被告が抗弁として身元保証契約を取消したと主張するが、この主張は身元保証契約申込の撤回の趣旨を包含するものと解するとして、被告の抗弁を容れ、原告の請求を棄却したが、つぎのとおり説明している。曰く。
「一般に被傭者が身元保証人の署名押印のある身元保証契約書を雇主に提出する場合には、被傭者自身が身元保証人の使者、あるいは代理人として雇主に対して身元保証契約の申込をするものと解せられるから、雇主が異議を述べることなしに右契約書を受領するときには、当然に右契約が成立するものといいうることが多いであろう。しかし、右に認定したような原告金庫の採用慣行から考察するならば(原告金庫が外務職員を採用するには通常まず採用希望者中から凡その内定者を詮衡し、その者に所定の身元引受書を提出させ、ついで身元引受人の担保能力等を調査した上で、採用者を雇傭するという順序を経由するものであることは前段で認定されている。筆者註)本件のように雇傭契約を前提とする身元保証において、被傭予定者がその採否未定の間に雇主に対して身元保証契約書を提出する場合には、雇主としては身元保証人の担保能力の如何等が雇傭予定者の採否決定の要因となるのであるから、採否決定に至るまで特定の身元保証人の申込に対して諾否を保留する必要があり、また一方身元保証人としても、身元本人の採否未定にかかわらず申込が拘束されることは衡平を失するから雇主が身元保証契約を受領した段階においては、身元保証人の申込の意思表示が到達した状態が継続するだけであつて、身元保証人は申込が承諾されるか、あるいは雇傭契約が成立するまでは、いつでも申込を撤回できるものと解するのが相当である。」