東京地方裁判所 昭和33年(ワ)4188号 判決
判 決
第一、当事者
一、原告
東京都杉並区永福町三五六番地
田路周一
訴訟代理人弁護士
広瀬通
一、被告
同都中央区日本橋兜町二丁目三三番地
偕成証券株式会社
代表者代表取締役
川島紀雄
訴訟代理人弁護士
村上信金
同
高橋勝徳
第二、主 文
一、被告は、原告に対し、金一、二九四、四五七円及び之に対する昭和三五年三月一九日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、原告は訴訟費用四分の一を、被告はその四分の三を支払え。
四、この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
第三、事 実
一、請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一、六六二、〇三五円及び之に対する昭和三五年三月一九日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
請求棄却
三、請求原因
1(一)原告は、被告に対し、被告の代理人山本雅寿を通じて、別表(一)記載の通り、原告所有の株券を返還の時期を定めることなく寄託した。
(二)右株式は、右表記載の通り、売却されて、被告の原告に対する右株式の返還債務は履行不能となつた。
(三)原告が右の履行不能によつて蒙つた損害は右表記載の通り、合計金一、一〇一、七三五円である。
2(一)原告は、被告に対し、被告の代理人山本雅寿を通じて、別表(二)記載の通り、株式の買付を委託し、且つその代金(手数料を含む)として合計金五五九、三〇〇円を交付した。
(二)原告は、被告に対し昭和三五年三月一八日、右各委託契約を解除する意思表示をした。
3(一)原告は、被告に対し、昭和三五年三月一八日、第1項の損害金債務の履行を請求した。
(二)被告は証券業者であり、被告の右損害金債務及び原状回復債務は商行為によつて生じたものである。
四、請求原因に対する認否
1(一)(二)(三)、2(一)を争い、2(二)、3(一)(二)を認める。
五、第二次的請求原因
1(一)請求原因1(一)に同じ。
(二)右山本は、被告の使用人として、右株式を保管中、別表(一)記載の通り、これを他に売却してしまつた。
(三)原告が右不法行為によつて蒙つた損害は、右表記載の通り、前記履行不能の場合と同額である。
2(一)請求原因2(一)に同じ。
(二)右山本は、被告の使用人として、右金員を保管中、各受領の頃着服横領してしまつた。
六、第二次的請求原因に対する認否
全部争う。
七、抗弁
1請求原因1に対し
(一)本件の株券の寄託は、原被告間の契約により単純な寄託ではなく、消費寄託とされた。従つて、履行不能ということはありえない。
(二)本件の履行不能に関しては、原告にも過失がある。
2請求原因2に対し
別表(二)中2、3の株式については、委託の趣旨に従つて買付済であるので委託事務は完了しており、委任契約を解除することはできない。
3第二次的請求原因1、2に対し
(一)被告は、前記山本の選任及びその事業の監督について相当の注意をなした。
(二)本件の不法行為に関しては、原告にも過失がある。
八、抗弁に対する認否
全部争う。
第四、立証≪省略≫
第五、理 由
一、請求原因1(一)(二)(三)を認めることができる。<証拠>を綜合すると、原告は、被告に対し、右山本を通じて、昭和二六年頃より株式の売買の委託を行つてきたが、買付けた株式は、通常、株券を引取ることなく被告に対し、所謂保護預りとしておき、適当な期間を置いて売付けていたが、本件の株式も凡て別表(一)の寄託年月日の頃それぞれ買付け(但し、東洋レーヨンの三一、一〇、一の五〇〇株は新株発行によるもの)、これをそのまま被告に保護預りとして預けていたものであることを認めることができる。又、同表記載の頃に右山本が各株式を売却してしまつたため、被告は原告に対して右株式を返還することができなくなつてしまつたこと及びこれによる原告の蒙つた損害額は、株式の時価相当額(通常は売却価格から手数料等を差引いた手取り額)であり、それは同表記載の通りであることを認めることができる。
なお一般に、証券の外務員は、証券会社が顧客から株式の売買の委託を受け、又は株券の寄託を受けるに際し、両者の間を仲介するとき、証券会社の代理人として行動するものと解すべきであり、特に顧客が外務員に対して代理権を与えたという特別の事情のない限り、顧客の代理人となるものではないと解すべきである。甲一12号証によれば、本件における山本は被告の外務員であり、従つて前記の原告より被告に対する株式の買付及びその後の買付株券の保護預りについて被告の代理人として行動したものと解すべきであつて、特に原告が山本に代理権を与えたという事情を認めることはできない。
二、請求原因2(一)を認めることができる。
前項に掲げた証拠、<中略>によつて右の事実を認めることができる。
三、抗弁1(一)を認めることができない。
右事実を認めるに足りる証拠は特にない。むしろ(証拠―省略)によれば、本件の株券の寄託は所謂保護預りであつて、この場合には特定の株券をそのまま預けるのであつて、単純寄託であり、消費寄託ではないことを認めることができる。
四、抗弁1(二)を認めることができる。
<証拠―省略>によると、被告は顧客からの株式の売買の委託を執行した時は必ず売付又は買付報告書を作成してこれを交付し、又株券を保護預りするときは預り証を作成してこれを交付したことを認めることができる。右の手続の趣旨は、顧客に対して、自己の委託の結果を確認させ、同時に証券会社に対しては、これと顧客との間を仲介した外務員その他の係員の不正行為を防止することを可能ならしめることにあると考えるべきである。従つて、顧客としては、右の手続を知つている限り、売買の委託後相当期間を経ても前記の書面が交付されない時は、証券会社に対して右委託の執行の有無及び右書面未交付の事情等について一応確かめるのが自己のためには勿論、相手方である証券会社に対しても信義則上当然であり、外務員の言葉のみを信用すべきではない。
本件において、<証拠―省略>によると、原告は、被告に対し株式の売買の委託を始めた昭和二五、六年頃から同三〇乃至三一年頃まで被告から前記の書面を受取つていたが、それ以後は右山本が右書面を自己の手許で握りつぶしていたため、それらを受取ることがなかつたのに、その点について疑問を抱かず、山本から渡されるメモ(甲六号証もその一である)を信用して、被告に対して直接問合せをしなかつたこと及び原告のこのような態度が山本をして勝手に別表(一)の株券を処分する行為に走らせ結局被告の債務不履行を生じさせる一因となつたものと認めることができる。尤も本件においては、前記証拠によれば、原告は被告に対し架空人名義で売買の委託をしていたため、被告は原告の住所を知らず、前記書面を山本に渡しており原告に直送していなかつたことを認めることができ、原告に右書面が交付されないことに対し、被告に責任はあるけれども、この場合でも原告が被告に右書面未交付を確かめなかつたのは過失があるというべきである。
そこで、本件においては、以上に認定した事情から判断して、損害賠償の金額中三分の一を過失相殺として減額するのを相当とし、結局原告が被告に請求しうる額は金七三五、一五七円であると認定する。
五、抗弁2を認めることができない。
<証拠―省略>によれば、右抗弁事実を認めることができるように見えるが、更に<証拠―省略>を総合して考えると、別表(二)中2、3の株式は、右山本が原告からその買付を委託された際、山本自身が同種銘柄の株式を有していたので、山本がそれらをもつて買付株券に代えようという意図を抱いたのにすぎず、結局右意図を実現せず、買付を行わないまま、買付代金を他に流用してしまつたことを認めることができる。
六、なお、訴訟費用の負担について民訴法第九〇条、仮執行宜言について同法第一九六条適用。
昭和三八年七月一九日
東京地方裁判所民事第八部
裁判長裁判官 伊 藤 秀 郎
裁判官 武 藤 春 光
裁判官 宍 戸 達 徳
別表(一)(二)≪省略≫