東京地方裁判所 昭和33年(ワ)5749号 判決 1962年10月31日
原告 アメリカ合衆国
被告 株式会社明治ゴム製造所
主文
一、被告は原告に対し金一二、四一〇、五七五円二〇銭及びこれに対する昭和三〇年一〇月五日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。
一、訴訟費用は被告の負担とする。
一、本判決は、原告が金三、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供することを条件として、これを仮りに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は一九五二年(昭和二七年)六月三〇日東京において、その連邦議会制定法公法第四一三号軍事物資調達法に基き権限ある極東空軍資材補給隊司令部契約担当官アーネスト・シー・ジヨーンズ担当により、被告代表者松村英一との間に、軍需用トラクター用ゴム塊(以下単にラバー・ブロツクという)の製作供給を目的とする
(一) 被告は原告に対し原告の指定規格による非圧縮性のラバー・ブロツク合計七〇、〇五〇個を供給する
(二) 単価は金五二二円、契約総金額は金三六、五六六、一〇〇円とする
(三) 原告に対する引渡は米軍事郵便三二三号A地域極東方面軍司令部兵站担当者に対してする
(四) 引渡期限は一九五二年(昭和二七年)九月二〇日より一九五三年(昭和二八年)六月三〇日までの間四回にわたり毎回一七、五一二個、但し最終回は一七、五一四個とする
(五) 原告の前記軍事物資調達法の施行に関する規則所定の軍需品供給契約条項に関する一般規定(以下単にゼネラル・プロビジヨンズという)及び一般的明細書の各内容はいずれも契約の内容の一部をなす
旨の契約を締結したが、その後右契約は数量、単価、契約金額及び納期等に関して一九五二年(昭和二七年)一二月二四日、一九五三年(昭和二八年)五月九日及び同年六月一八日の三回にわたり双方の合意の下に修正を加えられて、結局
(一) 数量は合計五〇、〇〇〇個
(二) 単価は一・五二二ドル、従つて契約総金額は七六、一〇〇ドル
(三) 納期及び各納期の納入数量は
イ、一九五三年(昭和二八年)五月三〇日限り 二、〇〇〇個
ロ、同年六月三〇日限り 八、〇〇〇個
ハ、同年七月三〇日限り 一二、〇〇〇個
ニ、同年八月三〇日限り 一二、〇〇〇個
ホ、同年九月三〇日限り 一二、〇〇〇個
ヘ、同年一〇月一五日限り 四、〇〇〇個
と改められた。
右契約所定の供給の目的たるラバー・ブロツクはいうまでもなく原告の軍事上の需要に基いたものであるから、その数量、納期については特段の重要性が付与されており、契約の内容をなすとせられた前記ゼネラル・プロビジヨンズ中第一一項には契約義務不履行の効果に関して特に、契約業者(被告、以下同じ)が受注品の納入につき契約所定の条件に従つた履行を怠つた場合には、原告は契約業者に対する書面による通知をもつて右契約の全部または一部を解除することができる旨、原告がかようにして契約の全部または一部を解除した場合においては原告はその契約担当官が適当と思料する条件及び方法により当該契約解除にかゝる物件と類似の物件を他から調達することを妨げない旨、及びこの場合にもしも原告の右別途調達による支出額が契約業者との契約に従つて原告が契約業者に支払うべかりし金額を超過するに至つたときには、契約業者は原告に対して該超過支出額の弁償をなすべき責任がある旨の定めがなされていた。
然るに被告は一九五三年(昭和二八年)八月七日までの間に同年七月三〇日までに納入を終えるべきであつたラバー・ブロツク合計二二、〇〇〇個のうち僅に合計三、九〇五個の納入をなしたに過ぎず、その余の履行はこれをなさなかつた。そこで被告の右履行遅滞の事実にかんがみ、右納入のあつた三、九〇五個を除く契約所定の残総量四六、〇九五個については到底契約所定の条件に副う被告の履行が期待できなかつたから、原告は前記ゼネラル・プロビジヨンズ第一一項の定めるところにより、同年八月七日原告の契約担当官より発した被告宛の書面をもつて被告との間の前記契約を解除する旨の意思表示をなし、該書面は即日被告に到達した。
而して原告はその後同年九月二三日訴外新中央工業株式会社との間に同会社から被告が納入しなかつた数量に該当するラバー・ブロツク合計四六、〇九五個を被告に対し発注したと同一の規格により納入させる契約を締結し、その全量の納入を受けたのであるが、右別途調達においては原告は同訴外会社に対して約定単価二・三三ドルをもつて計算した代金合計一〇七、四〇一・三五ドルを支払つたので、結局右ラバー・ブロツク合計四六、〇九五個に関し被告との間の前記契約に基き被告に対して支払うべきであつた単価一・五二二ドルによる代金合計七〇、一五六・五九ドルを超過する合計三七、二四四・七六ドルを更に要した訳である。
ところで、被告との間の前記契約については前記ゼネラル・プロビジヨンズ第二九項により契約の準拠法を米合衆国の法律とする旨の原被告の合意がなされていた。而して右契約の準拠法たる米合衆国の法律によれば、期限の定めが契約の要素をなす場合にある仕事をその定められた期限までに完了することを引受けた一当事者が、当該期限までに右契約の内容の実現を完了しなかつたときには、その履行遅滞による責任追及権を相手方である他の当事者が放棄しない限り、遅滞した当事者は契約上の責任としてよつて生ずる一切の責任を負担するべき地位にあり、少くとも名目上の損害賠償の責任に任ずる外、相手方当事者が右履行遅滞により現実に損害を蒙つた以上は該損害額を賠償しなければならず、事物自然の経過により生ずるべき通常損害の外に、加害当事者が契約締結の際知りまたは知り得べきであつた限りにおいて特別の事情によつて生じた格別の損害をも賠償するべきものであり、他方契約条項に契約解除権の特約がある場合はもとよりとして、かゝる特約がない場合でもその不履行が定期行為に関するものである場合または定期行為でなくともその不履行が契約の要素に関する重要なものである場合には、被害当事者は加害当事者に対して直ちに契約を解除する権能を認められていて、右契約解除の場合にはその効果として、被害当事者は自己の負担していた反対給付の義務から解放されると共になお損害があれば加害当事者に対して前記通常及び特別の損害の区別に従い金銭の支払をもつてするその損害の賠償の訴求をすることができるとされている。
かような次第で原告は前記特約に基き被告に対して被告の前記契約違反に基く損害につき別途調達によつて生じた前記超過支出額三七、二四四・七六ドルの内の三四、四七三・八二ドルの支払を一九五五年(昭和三〇年)一〇月四日に同日到達の書面をもつて請求した。右請求にかかる金額は原告が前記超過支出額三七、二四四・七六ドルに対して、被告が原告との間の契約上納入した物件に関して有する一、三七七・四一ドルの請求権、被告がその後原告に提供した包装材料九一〇ドル相当の各該当額及び被告が原告に対して一九五四年(昭和二九年)一二月一一日支払つた七〇・二〇ドル、一九五五年(昭和三〇年)二月一四日支払つた四一三・三三ドルを控除して右三四、四七三・八二ドルを算出したものである。
而して前記のとおりで準拠法である米合衆国法によれば、なお、いわゆる遅延利息について、それが損害賠償の請求に関するものである限りでは、契約違反または不法行為を請求原因とする訴訟において、既に弁済期の到来した元本につきこれを不法に抑留するものであるとの理由により、元本債権の弁済期到来の後その弁済がなされるまでの間、義務履行地の法律の定める利率に従い、また米合衆国内の州を異にする当事者間の訴訟においては法廷地法の定める利率に従つて、その請求をすることが許されている。そこで右米会衆国法によれば本件契約義務不履行に基く被告に対する損害賠償請求債権については日本国法の定める商事利率による遅延損害金の支払を求めることができることゝなるので、原告は原告が前記時期に書面をもつて請求したにも拘らず被告が支払わない前記三四、四七三・八二ドルを一ドル三六〇円の日本政府の対米公定為替換算率により日本円に換算した金一二、四一〇、五七五円二〇銭及びこれに対する該請求の日の翌日である一九五五年(昭和三〇年)一〇月五日以降完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。なお遅延損害金の基準となる法定利率については米合衆国政府の所在地であるコロンビア区の法律によるとしても同じく年六分である。と述べ、被告の抗弁に対し、被告主張の事実中、原告が被告に対して下請業者として訴外日本建鉄株式会社を推薦し要請または指定したりしたとの事実はこれを否認する。被告と訴外株式会社小島鉄工所及び前記日本建鉄株式会社との関係並びに日本建鉄株式会社の整理の事実は知らない。被告主張の内容によるゼネラル・プロビジヨンズ第一一項bの規定のあることは認めるが、本件が右第一一項bに該当することは否認する。本件原告の請求が権利の濫用であり、信義則違反であるとの主張は否認する。と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、原被告間に原告主張の日及び所においてその主張の担当者及び内容による当初の契約の締結があり、その後右契約については原告主張のとおりの変更が加えられて、該契約によれば数量、単価、契約金額、納期等に関してはすべて原告主張のとおり定まつたこと、該契約に関しゼネラル・プロビジヨンズ第一一項に原告主張の特約があること、被告が一九五三年(昭和二八年)八月七日までに右契約に基く履行として合計三、九〇五個のラバー・ブロツクを納入したのみでその余の履行をしなかつたこと、右事実により同日原告は被告に対して書面をもつて契約を解除する旨の意思表示をなし、該書面が同日被告に到達したこと、その後原告は一九五五年(昭和三〇年)一〇月四日同日到達の書面をもつて被告に対して三四、四七三・八二ドルの支払を請求したこと、並びに本件契約の準拠法は米合衆国の法律とするゼネラル・プロビジヨンズ第二九項のあること及び米合衆国法によれば遅延損害金の率が本件契約については原告の主張によるものであること、はいずれも認める。原告が訴外新中央工業株式会社との間にその主張の契約を締結し別途調達をしてその主張の金員の支払をなしたことは不知、原告主張の契約解除の効果、損害賠償義務の発生並びに損害及び賠償額の範囲はすべて争う。と述べ、
抗弁として、元来本件契約にいうラバー・ブロツクとは金具にゴム加工をしたものであつて、これを製造するには金具部分製作の下請業者が必要であつたから、被告としては、昭和二七年七月中原告の承認の下に、ラバー・ブロツク金具部分製作の下請業者として訴外株式会社小島鉄工所を選定し、同会社との間の下請負契約に基き同会社の納入する金具を使用して本件ラバー・ブロツクの製作納入に当つていた。ところが同会社の製作した金具は原告の検査に合格せず、これがため被告の原告に対するラバー・ブロツクの納入が期日に間に合わなかつたのであるが、原告は昭和二八年三月頃から被告に対して下請業者の変更を要請し、下請業者として訴外日本建鉄株式会社を一方的に推薦して来た。被告としては同会社を下請業者とすることについては不安があり、また単価も高かつた(金四二七円四四銭で前記株式会社小島鉄工所の単価は金一九〇円であつた)が、前記下請業者株式会社小島鉄工所の不首尾により原告に対して納期を遵守できないでいる等の事情にあつたので原告の右要請及び日本建鉄株式会社の推薦を拒否する余地がなかつたため、被告は右原告の指定を承認して同年五月二八日前記日本建鉄株式会社との間に右金具合計五〇、〇〇〇個の売買仮契約を締結したうえ同日前渡金として同会社に対し金六、〇〇〇、〇〇〇円を支払う等して同会社を督励しつゝ同会社製造の金具により原告との本件契約上の義務の履行に努力して来ていた。然るに同会社は同年六月に至り突如として手形不渡を出し銀行取引停止処分を受け同月二四日には商法第三八一条により会社整理の開始を命ぜられて、同会社からの被告に対する金具納入は停止されるに至り、そのため被告は原告に対する本件契約上の義務の履行を完遂することが不能となるに至つたものである。
ところで原告がさきに本訴請求原因中に契約解除の根拠として示したゼネラル・プロビジヨンズ第一一項には原告援用部分以外に同項bにおいて契約業者の支配できない原因については「天災地変または公敵の行為、日本国政府または米国政府の行為、火災、洪水、伝染病、防疫隔離、罷業、貨物の輸送禁止、異常天候及びこれらの原因に基く下請業者の不履行(下請業者の供給すべき需品または役務を契約業者が他の方面から入手して規定どおりの納入を行うだけの時間的余裕があつたと契約担当官が判定した場合を除く)」と明らかにし且つ以上に限られない旨及び以上の場合には「契約業者は超過支出額を負担する責任はないものとする」旨規定されており、而して右被告の契約義務不履行の事情は、正に右同項bの箇条の規定する「契約業者の支配できない原因に基くものであつてその過失または怠慢によるものでない場合」に該当する。従つて被告の本件契約義務不履行は原告が下請業者として使用するよう指定した前記日本建鉄株式会社の整理によつて生じたものであるから、正に被告の支配できない原因に基くものというべきであり、また被告においては原告の指定により同会社を下請業者として使用するに当り同会社に対しては前記のとおり多額の前渡金を交付する等して同会社を督励しつゝ本件契約の履行に努力して来ていたものであるから、被告には被告が原告に対する不履行につき過失を有しまたは怠慢により不履行を招いたいずれの事実もない。従つて原告の本件契約解除は無効であり、仮りに右解除が無効でないとしても、被告に本件契約義務不履行に基く損害賠償の義務はない。
次に被告は原告の本訴請求が日本国民法第一条に規定する権利の濫用または信義則違反に当るものであることを主張する。即ち本件契約義務不履行が生ずるに至つた事情については前記のとおりであり、原告が被告に対して下請業者として使用するよう指定し、被告においてはこれを拒否することができず巳むを得ずその使用を承認した前記日本建鉄株式会社が会社の整理という事態を突如生ぜしめ、右突発事故により本件ラバー・ブロツクの金具の納入が停止され、これがため被告としては原告に対するラバー・ブロツクの製作納入をすることができなくなつたのであるから、本件契約義務不履行招来の事態については右下請業者を指定した原告においてこそその責任を負うことが当然であり、被告にその不履行の責任を帰せしめようとするのは、日本国民法第一条に規定する権利の濫用または信義則違反に該当する。而して同条規定の権利の濫用及び信義則に関する原則はおよそ前法律的な普遍的社会規範に属するというべきであるから、本件契約については準拠法を米合衆国の法律とする原被告の合意があるけれども、右法理は本件契約解除に関連する原告の本訴請求につき当然適用がある、というべきである。従つて原告の本件契約解除は無効であり、仮りに無効でないとしても、本件事案につき被告に損害賠償の義務はない。もつとも米合衆国の法律には権利の濫用または信義則に関する明文の規定はなく、従つてかような規定がないがために権利の濫用または信義則に関する法理が米合衆国の法律には存しないのであるとするならば、日本国法例第三〇条により、かような外国法の適用は排除されるべきであり、従つて外国法の適用が排除されると同時に本件については当然に日本国民法第一条の権利の濫用及び信義則に関する規定と法理の適用があるべきである。と述べた。<立証省略>
理由
原被告間に、昭和二七年六月三〇日東京において、原告主張の担当者及び内容による原告の軍需用トラクター用ラバー・ブロツクの製作供給を目的とする当初の契約の締結があつたところ、その後右契約は同年一二月二四日、昭和二八年五月九日及び同年六月一八日の三回にわたる双方の合意による変更を受けて、原被告間には、結局(一)被告は原告に対し原告の指定規格による非圧縮性のラバー・ブロツク合計五〇、〇〇〇個を供給する。
(二) 単価は一・五二二ドル、従つて契約総金額は七六、一〇〇ドル
(三) 原告に対する引渡は米軍事郵便三二三号A地域極東方面軍司令部兵站担当官に対してする
(四) 引渡期限及び納入数量は次のとおりとする
イ、昭和二八年五月三〇日限り 二、〇〇〇個
ロ、同 年六月三〇日限り 八、〇〇〇個
ハ、同 年七月三〇日限り 一二、〇〇〇個
ニ、同 年八月三〇日限り 一二、〇〇〇個
ホ、同 年九月三〇日限り 一二、〇〇〇個
ヘ、同 年一〇月一五日限り 四、〇〇〇個
(五) 原告の連邦議会制定法公法第四一三号軍事物資調達法の施行に関する規則所定の軍需品供給契約条項に関する一般規定(ゼネラル・プロビジヨンズ)及び一般的明細書の各内容はいずれも契約の内容の一部をなす
旨の契約が成立していたこと、右契約の内容をなすとせられている前記ゼネラル・プロビジヨンズ第一一項には原告主張の内容による契約業者の契約義務不履行に関する契約解除権留保の定及び右契約解除の場合における契約物件の別途調達にかゝる超過支出額の契約業者による賠償義務の定があること、被告は昭和二八年八月七日までの間に同年七月三〇日までに納入を終えるべきであつたラバー・ブロツク合計二二、〇〇〇個のうち僅に合計三、九〇五個の納入をなしたに過ぎずその余の履行をしなかつたこと、右事実により原告が同年八月七日被告に対して書面をもつて前記契約を解除する旨の意思表示をなし該書面は即日被告に到達したこと、並びに本件契約の準拠法は米合衆国の法律とするとのゼネラル・プロビジヨンズ第二九項があること、以上の事実は当事者間に争がない。
右に対して、被告は、原告主張の本件契約解除の意思表示の効果につき、その主張の事情を挙げて、その主張のゼネラル・プロビジヨンズ第一一項bの契約解除権留保適用除外もしくは免責規定該当による旨の抗争をなし、原告の契約の解除は無効であり、仮りに然らずとするも被告に契約義務不履行に基く損害賠償の義務はないと主張し、被告主張の内容によるゼネラル・プロビジヨンズ第一一項bのあることについては原告もこれを認めるところであるから、以下にまず本件契約の準拠法に照らして、本件契約の内容をなす前記ゼネラル・プロビジヨンズ第一一項につき検討し併せて原告の本件請求の法律上の性質についても検討することゝする。
まず弁論の全趣旨及びいずれも成立に争のない甲第五ないし第八号証によれば、本件契約の内容をなすゼネラル・プロゼジヨンズは米合衆国連邦議会制定法公法第四一三号軍事物資調達法(その後改正されて現在は米合衆国制定法典タイトル一〇、第二三〇一条以下に取載されている)第二節c(1) の規定に基く民間業者との間の軍需品調達のための随意契約締結の一条件として、同法施行のための規則第一六節の定めるところに従い、原告のために契約締結権限のある契約担当官において、契約の一部をなすものとして付属せしめることが国法上義務づけられているものであることが認められる。そこで右事実と、本件においては米合衆国が訴訟の提起をしていること、並びにそのゼネラル・プロビジヨンズの条項中には前記のとおり特に契約義務不履行に関して契約関係解消のための告知の条件、方法、清算等について触れている外、その他の効果として一般的な法による原告の救済手段に言及している点のあること、及び前記制定法の解釈と近接の関係ある事案については米合衆国連邦裁判所が合衆国の締結した契約につき制定法の定める以外またはその性質に反しない限りでは一般的に契約法上の原則の適用があるとしているのが認められること等より見れば、本件ゼネラル・プロビジヨンズ第二九項にいう本件契約の準拠法たる米合衆国の法律とは、即ち本件契約上の双方の権利義務の確定や効果等につき、その所要の限度で、これを律するのにすべて前記制定法またはその関係法令につき或いはこれらに関する争訟につき米合衆国連邦裁判所が判例上示した法たる判例理論、及び前示のとおり制定法の域外では一般的に適用があるとされている同裁判所が採用している契約法理論、なお右契約法理論として肯定されている限りで同国内で広く一般的に承認支持されている判例理論で、地域的法律牴触に関する法原則をも含むものを、前記制定法及びその関係規則等と併せて指称しているものと解することができる。(米合衆国が不統一法国であること、判例を法としていることは顕著なる事実であるが、本件当事者が上述のごとき趣旨で準拠法の指定をなすことは、米合衆国判例理論上これに明白に背離するものではなく、またわが法例上もこれを許すべきものであると解する。)そこで本件ゼネラル・プロビジヨンズ第一一項を検討するに当り、右のごとくである本件準拠法としての米合衆国の契約法上の一般原則につき必要の範囲で観察するのに、原告の援用する、いずれも成立に争のない甲第九、第一〇号証殊に後者たるアメリカン・ジユリスプルデンスのうち第一二巻中契約に関する部分、第一五巻中損害賠償に関する部分等に照らして検討すれば、契約法上の義務違反に関する救済及び損害賠償に関する通則として、一般に契約において履行期限が明言されまたは四囲の状況からしてその期限が契約の要素をなすと解せられ契約締結の当時当事者によつてもかく解されたと看做し得る場合に、該期限を遵守せず履行を遅滞した者はその内容または態様においてそれぞれ異にするが、免責事由がなく相手方もその問責を放棄せず、契約上の義務違反に当るとされるときには、契約所定の義務を何らなさない者と同じくその効果として、普通法上、相手方に対し金銭をもつてする非懲罰的損害賠償の責に任じ、相手方にこれに関する訴権を与えるとされるのが原則であり、損害賠償の範囲に関しては、あたかも契約が履行されたと同様の地位を相手方に与えしめるがために、たとえ確たる損害額の立証がなくとも少くとも名目上の損害賠償を相手方に得しめ、相手方が契約義務違反により現実に損害を蒙つた以上は、その違反に原因してよつて通常生ずる合理的な範囲内で通常の損害賠償として、また自然の経過により生ずるが必然的とは云えず従つて法においては当然には措定され得ない損害については、契約締結の当時当事者がこれを予見しまたはまさに予見し得べき事情にあつたときに不確定、遠因に属しないものでない限り特別の損害賠償として、喪失利益も反対の特段の事由がない限りもとより右損害に含められるものとし、以上の区分をなすことが可能であること、当事者はいわゆる確定賠償額の予定をなす等契約義務違反の効果につき明示の約定とこれに基く訴訟上の請求を許されること、一方契約関係の解消の原因の一として、契約の実質的見地より見てその基礎に触れる契約上の義務違反即ち全体的違反が指摘されることがあるが、普通法上双務契約においてかゝる全体的違反のあつた場合、相手方は契約関係は破壊されたものと看做し反対債務に関する爾後の契約上の拘束は受けない自由を有し、かような場合契約上の義務を受けるべきであつた権利者はいわば契約関係を放棄するのであるが、完全なる履行により受けるべきであつた利益については損害賠賞としてその回復を求めることができるとされており、ここに義務違反をなした者に対する爾後の履行請求権も損害賠償請求権に取つて替られ、契約関係は義務懈怠により招来された状況に応じて終熄する、もとより契約関係の継続を許し、或いは特段の事情のない限り損害賠償請求権のみを保有しもしくは将来の履行についてのみ拘束を免れることができる、併し特に継続的契約関係については全体としての契約の終了を相手方に許すか否かは個々の事例によつて異なり、邦語の解除に当る用語も多種であり、また多義的な用法にあるところ、契約条項のうちに契約を終了せしめる権限を一または双方の当事者に留保すること、殊に一当事者に他方の義務不遵守の判定をなさしめて契約を終了せしめる権限留保の約定をなすことも判断の善意公正の逸脱がない限り有効とされていること、なお履行拒絶並びに予想的または先行的契約義務違反の観念がある等して場合により契約の全面的な維持が事前または履行の途中において不可能と看なされる事例のあること等、並びに本件と類似の公共目的の契約の留保条項に基き特約の別途調達による超過支出額の訴求をなし得ることに関しては既に判例のあること、を認めることができる。そうだとすれば、本件ゼネラル・プロビジヨンズ第一一項は、契約業者が、契約所定の期限もしくは期限の延長があつた場合には当該期限までに契約所定の目的物件の引渡等の履行をなさないとき、または契約業者につき検査並びに瑕疵の補正等他の契約所定の条件の不遵守があり契約所定の履行につき著しい遅滞が生ずると認められたときに、契約業者に対する書面をもつてする不履行通知により、原告は一方的に契約を全部または一部につき終了せしめ得る権能を有することをまず(a)において明記し、(b)において右(a)に定める権能の適用除外に当る条件を定め、(c)においては(a)による契約終了の際の別途調達の可能とその範囲でのこれによつて生ずる超過支出額の契約業者による負担義務、(d)においては以上の場合の付帯の取決めたる完成品、半製品等の引渡要求権とこれに伴なう補償につき定めるものであつて、右(a)における契約義務履行上の遅滞またはその他の義務不遵守の判定が恣意的なものでない限り、原告が本件において主張する期限の不遵守、遅滞に基く契約の解除と、これに原因する別途調達の超過支出額請求を支持するに足りる特約であることはいうまでもないところであつて、右主張の契約の解除とは、契約業者の義務違反に基く損害賠償請求権と両立し得同時に爾後の契約関係については一方的にこれを解消せしめ得る約定により留保された権限の行使と解すれば足り、同項(b)は特にかゝる特約による原告の契約終了の権能の行使と別途調達による超過支出額の被告の負担義務の適用除外に関して解釈上の疑義を少からしめるために設けられた文言であり、別途調達による超過支出額については事案の性質上その額を確定せず、別段の定めがなかつた限り、一般の損害賠償の法原則によりこれを定めることとしたものと解することができる。
従つて原告の意思表示による所論本件契約の解除は、被告が契約の定めるところによれば昭和二八年七月三〇日までにラバー・ブロツク合計二二、〇〇〇個を納入するべきであつたのにも拘らず、現実には同年八月七日までに僅にそのうちの三、九〇五個しか納入せずその余は納入しなかつたから、本件契約の軍需品調達の目的並びにその性質にかんがみ、右違反は契約の明文に反しまた甚だ重大であるので、前記ゼネラル・プロビジヨンズに明記する前記認定の約定の契約終了の権限に基き、本件契約関係を少くとも爾後は全面的に解消するに至らしめたものであり、原告は本訴としてそのゼネラル・プロビジヨンズに明記する特約に基き、その主張の別途調達にかゝる超過支出額の負担を被告に対し請求し、その請求金額については、原告が本件の事情の下で被告に対し減額するべきものであると自認する一部金額を控除するものであると認めるのが相当である。
而して原告主張の超過支出額の支出及びその算定については、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二、第三号証により、原告が昭和二八年九月二三日訴外新中央工業株式会社との間に、同会社から被告が納入しなかつたラバー・ブロツク合計四六、〇九五個を被告に対し発注したと同一の規格により納入させる契約を締結し、その全量の納入を受けたのであるが、右別途調達においては原告は同訴外会社に対し単価二・三三ドルとして代金合計一〇七、四〇一・三五ドルを支払つたことが認められるところ、他に右認定を左右するほどの証拠はない。而して右認定によれば原告が被告との間に締結した本件契約においては前記のとおり単価は最終的には一・五二二ドルと定められていたから、右四六、〇九五個につき被告との間の契約における代金に比し原告が合計三七、二四四・七六ドルの超過支出額を要したことは計数上明らかである。
そこで進んで被告の抗弁につき前記認定に従いながらその当否を検討することゝする。
まず被告主張の本件契約上の履行をなし得なかつた事情のうち、本件ラバー・ブロツクが被告主張のごとき物品でありこれを製造するには金具部分製作の下請業者が必要であつたこと、被告が昭和二七年七月中原告の承認の下にラバー・ブロツク金具部分製作の下請業者として訴外株式会社小島鉄工所を選定し、同会社との間の下請負契約に基き同会社の納入する金具を使用してラバー・ブロツクの製作納入に当つていたこと、ところが同会社の製作した金具は原告の検査に合格せず、これがため被告に対するラバー・ブロツクの納入が期日に間に合わなかつたことがあること昭和二八年四月中に被告が前記金具部分製作の下請業者を右同会社から訴外日本建鉄株式会社に変更したこと、同年五月二八日には被告が右日本建鉄株式会社との間に金具合計五〇、〇〇〇個の売買仮契約を締結して同日前渡金として同会社に対し金六、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、同会社製作の金具部分により原告に対する本件契約上の義務の履行に努力して来たこと、然るに同年六月に至り同会社は手形不渡を出し銀行取引停止処分を受け同月二四日には商法第三八一条により会社整理の開始を命ぜられて同会社からの被告に対する金具納入は停止されるに至り、そのため被告は原告に対する本件契約上の義務の履行につき事実上困難な状況に逢着したことは、いずれも原本の存在及び成立につき争のない乙第一号証の二、同第二号証、各成立に争のない甲第一号証、乙第四号証、証人曾和貞哉の証言により真正に成立したと認める乙第一号証の一、同証人及び証人岡塚正雄の各証言によりこれらを認め得るところである。
併しながら、被告の主張する、被告が前認定のように下請業者を株式会社小島鉄工所から日本建鉄株式会社に変更したのは、原告が被告に対しそのような措置をとるべきことを一方的に要請し且つ推薦しまたは指定したり等したため、被告としてはこれを拒否する余地がなかつたためであるとの点については、なるほど証人高橋博、同坂本英一の各証言中に右主張に副う証言部分(昭和二八年三月二三日頃被告が極東空軍資材司令部東京現地調達事務所長メイジヤー・ホワイトから下請業者を日本建鉄株式会社に変更すべき旨指示され、被告としては事実上これを拒否する余地がなかつた旨の供述)があるが、前記甲第一号証と成立に争のない乙第五号証、証人曾和貞哉の証言と照合すると容易にこれを措信できないし、他に右被告の主張を認めるに足りる証拠はない。かえつて、前顕甲第一号証と乙第五号証の各記載に証人曽和貞哉の証言とを綜合すれば、前記認定のとおり株式会社小島鉄工所が原告の極東空軍の検査に合格せず、同会社の品質管理能力は同空軍を満足せしめることができなかつたので、同空軍契約担当者は本件契約の履行の確保につき対策にいたく苦慮していたこと、その様な関係で前記同空軍のメイジヤー・ホワイトは昭和二八年一月六日頃及び同年三月二三日頃被告側と右履行遅延問題につきその対策を協議したが、その際同人としてはかねてから満足すべき品質管理能力を有する下請業者として同空軍に信用のあつた日本建鉄株式会社を例示はしたが、右例示は事の性質上被告に対し被告が本件契約を確実に履行する一方法として下請業者を同会社に変更する様強制し、他に下請業者を選定しては原告の意に反して本件契約の維持が不可能となるとまでの意味でなされたものではなく、下請業者を変更せざるを得ない事態であるならば日本建鉄株式会社程度に信用性の担保のあるものにするべきであると被告が十分に契約上の義務の履行につき努力するよう慎重な検討を要求したものであつて、日本建鉄株式会社の名を挙げたからといつて、その名の指示は被告の下請業者選定については単に示唆であつたものに止まること、のみならず被告が右下請業者を変更した際にも被告には十分な時間的余裕があり他の下請業者を選定し得る余地も十分にあつたことを認めることができる。原告提出の前顕甲第一〇号証(アメリカン・ジユリスプルデンス)によれば、米合衆国の契約法上、履行不能が給付を受けるべき権利者の直接間接の行為により生じたときには右事実は責任追及に対する阻却事由になるとの極めて広い提言がなされている部分のあることが認められ、本件については被告の契約義務不履行はなるほど日本建鉄株式会社の会社整理に端を発していると認められること前記認定のとおりであるけれども、日本建鉄株式会社の名を挙げての示唆は上に示したとおり被告に対し拘束的命令的なものでなかつたのであるから、被告の契約義務不履行については最も遠い縁由の一に属し、その責任を否定する事由としては他に特段の事由がなければ考慮に値し得ないものというべきである。
そうだとすれば被告の前記抗弁は原告の日本建鉄株式会社の一方的な推薦、要請または指定を立論の前提とするから、既に理由のないことは明らかであるが、前記認定に採用した証拠及び弁論の全趣旨によれば、なお被告は元来本件契約上の義務の履行については万全の所要の措置を自ら選択して完遂するべき地位にあつたものであるが、前記日本建鉄株式会社整理の後原告の本件契約終了の権限行使に至るまでの間には優に一月余の期間があり、本件契約上の義務達成に必要なラバー・ブロツク金具部分の入手についてはその手段が絶無であつたとの確証はない情況下において、資金関係の逼迫を主たる理由としてしたものゝ、被告は本件契約関係の維持継続についてはもはや断念するに至つたものであることが明瞭であるから、前記ゼネラル・プロビジヨンズ第一一項bの規定の趣旨、殊にその後段の但書規定のあることに照らしてもこの抗弁の全く採用するに足りないことは明らかであるところ、前同様によつて認められる米合衆国契約法の示すところによつても、契約上の義務を負う者の特有の事由による場合に該当し、義務違反の責任追及に対する阻却事由たり得ない場合であると解することが相当であり、また以上の認定事実に徴すれば、原告の契約終了の権限行使が恣意的であるということも云い得ない。
次に被告の、原告の本訴請求が権利の濫用または信義則違反である旨の主張については、その基礎をなす事実の主張については前記原告所論の契約解除に対する無効等の抗弁におけると全く同一であるから、これに対する判断は全部ここに引用することゝし、わが日本国民法第一条に照らしてもその理由のないことは全く明瞭であるから、爾余の点につき判断を加えるまでもなく失当としてこれを排斥するのが相当である。
なお本件ゼネラル・プロビジヨンズ中には、原告主張の契約より生ずる紛争であつて事実に関する問題については、特段の定のない限り契約担当官の裁決、またはこれに不服のある場合は、紛争額が五〇、〇〇〇ドル以下なるとき所要の手続によりなされる極東空軍司令官またはその授権を受けた者の裁決をもつて契約当事者間において終局的な判断とする等の旨の条項があり、被告もこの点については明らかに争わないのであるが、両当事者は本件訴訟手続においていずれも右条項の内容につき触れず、明らかにこれを援用しないものである。
そこで以上の理由により被告提出の抗弁はいずれも理由がなく他に原告の請求原因に対する反対の主張立証はないから、被告は本件契約ゼネラル・プロビジヨンズ第一一項(a)(c)の定めるところにより、原告主張の別途調達にかゝる超過支出額中原告の主張額にして且つ賠償額として相当と認められる三四、四七三・八二ドルを支払うべき義務があるところ、原告は併せてその遅延損害金を求めるから、次にこの点について検討する。
まずその性質上前記認定のとおりの準拠法によりこれを判断するべきものであるところ、前顕甲第一〇号証(アメリカン・ジユリスプルデンス)についてこれを見ても、米合衆国連邦裁判所においては一般に確定額によらない通例の損害賠償請求事件については損害賠償としての利息の請求を認めないのが原則であるが、同時におよそ損害賠償は被害者に公正な損失填補を与えるのが根本の趣旨であると解されていること、従つて公正な損失填補を与えるために必要の範囲では裁判所の相当なる裁量の下に利息またはこれと同価値のものを訴求者に認めるのがこの間の法原則なりとされ、当事者において確認し得る性質の金銭損害に当る等の事情の下では、漸次損害賠償としての遅延損害金を容認するに至つていることを認めることができる。本件における事実関係の認定については上記のとおりであるところ、特に、契約義務違反の効果として他の業者による別途調達の可能なこととその際の超過支出額の被告の費用負担義務のあることについては既に契約の当初に契約条項中に明記されているところで被告もこれを知つていたものであること及びその合理的な範囲内で超過支出額の確認をなすことは被告において必ずしも不可能であつたとは認められないこと等の事情を汲んで考えると、上記損害賠償の根本の趣旨に照らして、本件においては、先例の示すところに做い、少くとも理由を備えた原告の本件賠償請求のあつた日の後以降は、財産権の拘束という実質的理由で利息またはこれと同価値のものとして、遅延損害金の請求を原告に対して認めるのが相当であると考えられる。そこで進んでその額の範囲について検討するのに、上記趣旨でその訴求を認容する判例によれば、これを適正な利率によるとするのであり、しかも法定利率を採用しているものである。然るに米合衆国において連邦を通じて適用のある法定利率の定めは、およそ本件に適用されるべき場合に関する限りでは立法上の措置がなく、判例理論に委ねられているところ、一部の異論はあるけれども、その適正な利率を定めるに当つては、地域的法律牴触の法原則により、あたかも本件のごとく契約締結地と義務履行地が同一なる場合には該地の法律によりその法定利率を定めるのが相当であるとされている。ところで右地域的法律牴触に関する法原則は右のごとく補充的に採用されていること及び前記認定の意義の本件契約の準拠法たる米合衆国の法律に対し右地域的法律牴触に関する法原則が副次的法規範に属することを考えると、本件遅延損害金の額の決定に当つては直ちにこれに拠ることを得ないと考えられるし、また当事者が本件において右地域的法律牴触に関する法原則適用の結果を実質法的に援用したものであるとも直ちに認めがたい。そこで本件遅延損害金の利率に関する限りでは、適正なものによるという外にその定めは明らかにし得ないものであるので、一定地の法定利率を採用する前記判例理論の立場に即し、且つ当事国間に拘束力ある昭和二八年条約第二七号日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約第四条第一項、同第一七条第二項の規定の趣旨等に照らして本件については本邦国内私法による法定利息の利率を適用するのを相当と認め、弁論の全趣旨によればわが国法上商事法定利率を適用するべき場合であることは明らかであるから、結局、年六分の割合による遅延損害金の請求を原告に対して認めることゝし、その起算日については訴訟外の請求があつた日の後であることについては当事者間に争のない前掲昭和三〇年一〇月五日とする。
よつて当裁判所に顕著である日本政府の対米公定為替換算率により前記金額を日本円に換算した額により、被告は原告に対し金一二、四一〇、五七五円二〇銭及びこれに対する昭和三〇年一〇月五日以降完済まで年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるので、原告の請求を全部認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言については同法第一九六条により、原告において金三、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供することを条件として、その請求金員につき仮りに執行することを認め、よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 田中宗雄 江尻美雄一 岡山宏)