東京地方裁判所 昭和33年(ワ)6585号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は訴外東亜プラスチックス工業株式会社に対し合計金九十二万二千八百十円の債権を持つているが、右訴外会社は昭和三十三年二月十日不渡手形を出して銀行取引を停止され、債務整理を発表して事実上営業を休止した。被告会社は同年四月十七日設立登記されたが、同月十五日付で原告ら数十名の取引先に対し、「訴外会社の営業を継承の上経営を強化すると共に新規製品をも加えて発足する。」旨通知した。原告は、被告は右通知により訴外会社からそ業を譲り受け、かつ訴外会社の営業によつて生じた債務を引受ける旨の広告した者として商法第二十八条により、すくなくとも同条の準用により、原告に対し、本件債務を弁済しなければならない、と主張した。
被告は原告主張のころ原告その他の特定の取引先にたいして原告主張のとおりの文面の通知をしたことはみとめたが、右通知は単に訴外会社と同種の営業を始めることになつたからよろしくたのむという趣旨の挨拶状にすぎず、なんら債務引受の旨の記載はない。また右通知は特定の取引先六、七十名に対して発送したにすぎないから、これを出したことは商法第二十八条の広告をしたことにはあたらない。また、かりに右通知状の文面が債務引受の意味に解せられるにしても、本件の場合には訴外会社の債務の処理については同会社の焼津工場を売却して弁済する者の債権者委員会の決議があり、原告もこれを知つていたからやはり右通知は挨拶状と解すべきである。と抗争した。
判決は被告のした本件通知状は一般的にいえば商法第二十八条にいわゆる債務引受の旨を表示した書面にあたるとし、同条の準用をみとめたが、本件の場合は、被告主張のような債権者集会の決議があるから、みぎ通知状にある「営業を承継した」という文言は債務引受の趣旨とは解せられないとして被告の抗弁を採用して原告の請求を棄却し、つぎのとおり説明している。曰く。
「被告が昭和三十三年四月十五日付書面で同月中、訴外会社の取引先に対し『訴外会社の営業を継承して発足する。』旨の通知をし、原告がこれを受取つたことは争いないが、右通知状については四十枚あまり丈を発送したにすぎないことがみとめられるから、被告が右の通知をしただけでは商法第二十八条の広告をしたものということはできない。ところで商法第二十八条の立法趣旨は、営業の譲受人が譲渡人の営業によつて生じた債務を引受ける者を表示したときは、たとい債務引受契約をしない場合でも、債務を引受けたと同じような外観を作り出したという理由で、特に右債務弁済の義務を負わせることにしたのであるから、営業譲受人が債務引受の旨を広告によつて表示した場合にかぎらず、営業譲渡人の債権者に対して個別的に通知することによつてその旨を表示した場合にも、その債権者との関係で同法の趣旨にしたがい、営業譲受人に債務弁済の責任を負わせるのが相当である。
ところで「営業の継承」という文言は「債務引受」の旨の表示と認むべきかどうか。「営業の継承」とは組識化された営業財産を一体として譲受け営業活動を引きつぐ趣旨であり、債務があるときは債務をも引きつぐ趣旨を含むと普通解されているから、「営業を継承」したという表示は特別の事情のない限り「譲渡人の営業によつて生じた債務をひき受ける」意味を含むものと認めるのが相当である。
しかしながら、本件においては昭和三十三年四月二日に訴外会社の債権者集会が開かれて、「訴外会社の一切の財産債権債務の処理を債権者委員会に一任する。債務は訴外会社所有名義の焼津工場を売却して弁済する。」旨の方針がきめられており、原告の命を受けたその従業員もその席に出席しており、したがつて訴外会社の債務整理の方針については原告も他の債権者と同様にこれをよく知つていたことが認められる。してみると原告は右債権者集会後いくばくもなくして被告会社設立の通知をうけとつたとき、その文面にある「営業を継承した」という文書を債務引受の趣旨に解することはできなかつたものといわなければならない。