東京地方裁判所 昭和33年(ワ)7282号 判決 1959年4月30日
原告 高幸株式会社
被告 株式会社紅葉館
主文
原告から被告に対する建築工事請負代金請求について、昭和三三年八月二〇日建設省中央建設工事紛争審査会がなした別紙目録一記載の仲裁判断のうち金四八八、六九五円及びこれに対する昭和三三年五月五日より完済に至るまで年六分の割合による金員の支払いにつき執行することができる。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は十分しその九は原告、その余を被告の負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の申立
原告は「原告の被告に対する金六、三九七、七八八円およびこれに対する昭和三三年五月五日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払えとの別紙目録一記載の仲裁判断にもとずく執行をすることができる。訴訟費用は被告の負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、
被告は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。
第二原告の主張
一、原告は肩書地を本店とし、建築業を営み株式会社であり、被告は肩書地に於て結婚式場、宴会場等を営む株式会社である。
二、原告は被告に対する請負代金請求権に基ずき、建設省、中央建設工事審査会に対し仲裁手続による仲裁々定の申立をなしたところ昭和三三年八月二〇日別紙目録一記載のとおりの金六、三九七、七八七円及びこれに対する昭和三三年五月二日から完済まで年六分の割合による金員を支払えとの仲裁判断があり同仲裁判断の決定正本は同月二八日被告に送達ずみである。
三、しかるに、被告は昭和三三年九月五日附原告の支払請求に対しこれを支払わないので、右仲裁判断に対する執行判決を求める。
四、被告の抗弁事実はすべて認める。
第三被告の主張
一、原告主張の事実はいずれも認める。
二、抗弁として、右仲裁判断のあつた後、次に述べる事実の発生によつて、右債権はそれぞれその範囲で原告に対する関係においては消滅したものであるから、原告の請求する執行判決をなすべきでない。
(1) 金一、〇七四、四七六円。
原告は同年九月九日右仲裁判断にかかる債権金六、三九七、七八七円の内金一、〇七四、四七六円につきこれを訴外丸西産業株式会社に債権譲渡し、その通知は翌一〇日に被告に送達された。
(2) 金四、二五七、二四五円。
訴外湯之谷村東部農業協同組合は原告に対する別紙目録二記載の債権の弁済にあてるため十日町簡易裁判所昭和三三年(ロ)第五〇号仮執行宣言付支払命令にもとずき、新潟地方裁判所長岡支部より昭和三三年一一月二五日付債権差押命令並びに転付命令を得、右命令は翌二六日に被告に送達され、本件請求債権はその限度で同訴外人に移転した。
(3) 金三二八、〇〇〇円
訴外中島エレベーター製造株式会社は原告に対する別紙目録三記載の債権の弁済にあてるため、東京地方裁判所昭和三三年(ワ)第五一八七号工事代金請求事件の確定判決に基き昭和三三年一二月四日、新潟地方裁判所より本件請求債権に対する債権差押命令並に転付命令を得、同月八日被告に送達せられたので、本件請求債権は右の限度において同訴外人に移転した。
(4) 金二四九、三八一円
訴外浜田建設材料商事株式会社は原告に対する金二四九、三八一円の債務名義にもとずき、昭和三四年二月二五日、新潟地方裁判所長岡支部より本件債権に対する転付命令を得、同年三月三日被告に送達されたので、本件請求債権は右の限度において同訴外人に移転した。
三、執行裁決は仲裁判断の取消を申立てることができる理由の存することができないとの規定があるがこの民事訴訟法第八〇二条第二項にいう取消とは、単に同法第八〇一条所定の取消原因に限らず、請求異議の訴における異議として主張しうべき事由即ち仲裁判断後に生じた実体上の抗弁事由をも包含するものであるから、右四口合計金五、九〇九、〇九二円の部分については執行判決を許すべきではない。
第四証拠方法
原告は甲第一号証を提出し、乙号各証の成立を認めた。
被告は乙第一ないし第四号証を提出し甲号証の成立を認めた。
理由
被告は原告主張事実を認め、原告は被告の抗弁事実をいずれもすべて認めている。
又本件仲裁判断につき民事訴訟法第八〇一条所定の取消理由のないことは当事者がこれを争わぬし、又甲第一号証によつて認められる。
ところで、被告は本件仲裁判断による原告の請負工事代金債権につきその主張のような第三者からの転付命令及び第三者への原告からの債権譲渡がなされたことを理由にその範囲における執行判決の許すべからざることを主張する。仲裁判断に対する執行判決は原告に対して仲裁判断の執行力を付与するものであるから、原告が仲裁判断による請求権を有する範囲においてのみ執行判決をなすべく、原告が仲裁判断による請求権を失つたことが明かなときはその範囲においては原告は執行判決を求めることができないものというべきである。即ち、被告は執行判決を求める訴において仲裁判断後に生じた実体上の請求の変更、消滅に関する事由をもつて抗弁となし得るものである。
ところで原告の申立てている金六、三九七、七八八円のうち、金五、九〇九、〇九二円については、被告主張の第三者に請求権が移転し、原告は金四八八、六九五円の請求権を有するにすぎないことは当事者間に争いがない。よつて原告の請求は、右残額及び、これに対する右仲裁判断の認めた昭和三三年五月二日後である同月五日より完済まで年六分の商事利率による遅延損害金の支払に対する執行判決の限度において理由があると認めてこれのみを認容し、その他を棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第八九条、第九二条を仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 三渕嘉子)
目録
一、昭和三二年(仲)第一号仲裁判断
新潟県十日町市本町二丁目辰甲三四二番地
申請人 高幸株式会社
右代表取締役 高橋幸作
右代理人 高幸株式会社東京支店長
赤城登
東京都港区芝公園二五号地ノ一
被申請人 株式会社紅葉館
右代表取締役 青木[金庸]吉
中央建設工事紛争審査会
仲裁委員 川島武宜
仲裁委員 永田年
仲裁委員 大島満一
二、一、金四、〇九三、九八〇円
但し約束手形金
一、金一五一、九五五円
但し右約束手形金の内金三、七八〇、〇〇〇円
に対する昭和三三年四月一日以降、
内金三一三、九八〇円に対する同年五月一日以降それぞれ同年一一月一五日迄の各年六分の割合による金員
一、金一一、〇九〇円
但し督促手続費用
一、金二二〇円
但し仮執行宣言手続費用
合計金四、二五七、二四五円。
三、一、金三〇〇、〇〇〇円
但し工事代金
一、金二八、〇〇〇円
但し右工事代金に対する昭和三二年五月一〇日以降昭和三三年一一月三〇日まで年六分の割合による遅延損害金
合計金三二八、〇〇〇円。