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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)851号・昭34年(ワ)3869号 判決

判   決

第一、当事者

一、原告(反訴被告)港区麻布網代町一番地

大和貿易株式会社

代表者代表取締役

長谷益雄

訴訟代理人弁護士

深沢貞雄

高野康雄

一、被告(反訴原告)新宿区神楽町二丁目一四番地

安居憲一郎

訴訟代理人弁護士

加藤晃

稲見緑郎

第二、主   文

一、原告の請求を棄却する。

二、反訴被告と反訴原告との間において、反訴原告が別紙の各不動産を所有していることを確認する。

一、反訴被告は、反訴原告に対し、右各不動産について反訴被告の有する所有権移転請求権保全仮登記(東京法務局武蔵野出張所昭和三二年一二月二八日受付一六、〇九九号)の抹消登記手続をせよ。

四、原告(反訴被告)は、本訴及び反訴の訴訟費用を支払え。

第三、事   実

A、本訴

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙の各不動産(以下本件不動産と略称)の所有権移転登記手続をせよ。

2  被告は、原告に対し、本件不動産を明渡せ。

3  前項について仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

請求棄却

三、請求原因

1  原告は、本件不動産の所有権を有している。

2  被告は、本件不動産の所有権の登記名義を有し、且つこれを占有している。

四、請求原因に対する認否

1項を否認し、2項を認める。

B、反訴

一、請求の趣旨

主文二、三項同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

請求棄却

三、請求原因

1  反訴原告は、本件不動産の所有権を有している。

2  反訴被告は、反訴原告の右不動産に対する所有権を争つている。

3  反訴被告は、主文三項の仮登記を有している。

四、請求原因に対する認否

1項を否認し、2項を認める。

第四、証拠≪省略≫

第五、理   由

一、まず、本件不動産の所有権の帰属について判断する。

被告が、従来本件不動産を所有していたことは、当事者間に争いがない。

原被告が、昭和三二年一〇月三〇日、原告が新株を発行するに際して、被告は原告に対して右不動産を現物出資し、原告は被告に対して新株式二万株(額面金額一株五〇〇円)を与える旨の合意をなしたことも、当事者間に争いがない。(尤も、被告は右の合意は通謀虚偽表示であつて、民法九四条Ⅰ項により無効であると主張しているが、同条項は株式の申込には適用のないものと解すべきであるから、右主張は理由がない。)

次に、被告は、原告に対し、払込期日である同年一一月六日に、右不動産を給付したから右給付により本件不動産が被告から原告に移転した旨の原告の主張に対して、被告はこれを争い、払込期日は未決定であつたため給付をすることができなかつたし、たとえ原告主張の日が払込期日と決定されていたとしても、実際に給付をしていない旨を述べている。そこで、右給付の有無について判断する。

現物出資の給付とは、現物出資者より会社に対して出資目的財産に関する権利を完全に移転することであるから、その行為の内容は権利を移転する旨の意思表示と権利移転の対抗要件の具備である。そして、資本充実の原則よりすれば、それらはすべて払込期日になされていることが望ましい。なんとななれば、それによつて会社は払込期日に対外的にも主張しうる権利を会社財産に加えることになり、且つ現物出資者による第三者への目的財産の二重譲渡を防ぐことができるからである。従つて、商法一七二条本文は払込期日における給付を原則としている。

しかるに、同条但書が登記、登録等の対抗要件を会社成立後になすことを例外的に認めているのは、全く会社の便宜のためである。即ち、会社設立の場合、払込期日に登記、登録をするとすれば、発起人名義にする外なく、会社成立後更に会社自体に名義を移転しなければならないから、会社は二重の手続と費用を強いられることになるからである。

しかしながら、右但書による例外は、全く会社の便宜のために認められているものであるから、できる限り右本文による資本充実の要請と合致するように解釈すべきである。従つて、例えば、同じ対抗要件であつても、動産の引渡は、払込期日に行われても会社に何等の不便をもたらすものではなく、且つそれによつて払込期日後における二重譲渡を防止できる訳であるから、右但書の適用を受けないものと解すべきである。又、不動産又はそれに準ずる権利の登記、登録の場合も、その手続をなすのに必要な権利証、委任状、印鑑証明書その他の書類は払込期日に発起人代表又は会社に交付されていなければならない。なんとなれば、右の行為は何等会社側に不便をもたらすものではなく、且つそれによつて同様に二重譲渡を防止できることになるからである。即ち、右但書は、現物出資者は会社側に対して現物出資の給付に関して自己のなすべき行為は凡てなしていることを前提として、その後に単に会社側だけでできる行為についてのみ会社の便宜のために会社成立後になすことを許容したものと解すべきなのである。商法一七二条は、本件但書とも、新株発行の場合に準用されているがこの場合は会社は既に成立しており設立の場合のような不便はないので、但書を準用する必要は乏しい。ただ、登記登録等の手続はその履行に時間を要することが多いのでこの点に関する会社の便宜のために準用がなされているものと解すべきである。そうすると、右に述べた但書についての解釈は新株発行の場合にはますます強く妥当することになるものといわなければならない。

そして、新株発行の場合は、株式引受人が払込期日に給付をなさないときはその権利を失う旨定められているが、(商法二八〇条の九項)、これは払込期日経過とともに現物出資契約が当然遡及して効力を失うにいたることを規定したものと解すべきであり、その結果、株式引受人は引受権を喪失すると同時に、目的財産に関する権利はたとえ権利移転の意思表示がなされていたとしても当初より会社に移転しなかつたこととなり且つ会社は目的財産の給付履行請求権を有しないことになるものと解すべきである。

本件においては、凡ての証拠によつても、被告が原告に対して原告主張の払込期日又はその他の日に本件不動産の所有権移転登記に必要な書類を交付した事実は認めることができない。従つて、被告より原告に対する右不動産の現物出資としての給付はなされなかつたものと言うべきであり、右不動産の所有権は依然として被告にあつて原告には移転しなかつたものと認めるべきである。

二、以上に述べたところにより、本訴はその請求原因1項を認めることができないのであるから、原告の請求は凡て棄却することとし、反訴はその請求原因1項を認めることができ、且つ同23項は右当事者間に争いないので反訴原告の請求は凡て認容することとする。

なお、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条適用。

昭和三八年一〇月三一日言渡

東京地方裁判所民事八部

裁判長判事伊 東 秀 郎

判 事 武 藤 春 光

判事補 宍 戸 達 徳

別紙≪省略≫

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