大判例

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東京地方裁判所 昭和33年(行)47号 判決 1962年5月23日

東京都荒川区南千住町六丁目二一番地

原告

医療法人財団磯医院

右代表者理事

磯源也

東京都中野区新井町五四九番地

原告

医療法人財団織本外科病院

右代表者理事

織本一雄

東京都大田区仲六郷二丁目九番地

原告

医療法人財団同生会

右代表者理事

小川昇

東京都大田区池上徳持町八二番地四

原告

医療法人財団育仁会

右代表者理事

島田信義

東京都大田区女塚四丁目三番地

原告

医療法人財団済仁会

右代表者理事

柴田元喜

右五名訴訟代理人弁護士

小沢茂

佐藤義弥

池田輝孝

東京都荒川区日暮里町七丁目四八三番地

被告

荒川税務署署長

佐藤幸喜

東京都中野区新井町六二五番地

被告

中野税務署長

神保貞治

東京都大田区東蒲田四丁目一七番地

被告

蒲田税務署長

鈴木義男

東京都大田区市野倉町七三番地

被告

大森税務署長

飯田利男

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番地

被告

右代表者法務大臣

植木庚子郎

右五名指定代理人

法務省訟務局局付検事

加藤宏

法務事務官

那須輝雄

大蔵事務官

小松培一郎

外山喜一

被告蒲田税務署長指定代理人

大蔵事務官

田中裕司

右当事者間の昭和三三年(行)第四七号課税処分取消等請求事件について当裁判所は次のとおり一部について終局判決、その余については中間判決する。

主文

第一、

(一) 原告医療法人財団織本外科病院が被告国に対し被告中野税務署長の同原告に対する相続税金九九〇、一二〇円の更正処分が無効であることの確認を求める訴及び原告医療法人財団育仁会が被告国に対し、被告大森税務署長の同原告に対する贈与税金二、三三二、五四〇円の更正処分が無効であることの確認を求める訴は、いずれもこれを却下する。

(二) 訴訟費用中原告医療法人財団織本外科病院、同医療法人財団育仁会と被告国との間に生じた部分は同原告らの負担とする。

第二、原告らの主張のうち相続税法第六六条第四項が憲法に違反するとの主張、医療法に定める医療法人財団は、相続税法第六六条第四項に規定する「公益を目的とする事業を行う法人」に該当しないとの主張及び医療法に定める医療法人財団に対する財産の贈与又は遺贈に因り当該贈与者又は遺贈者の親族その他これらの者と相続税法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合はありえないとの主張はいずれも理由がない。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告ら訴訟代理人は「一、原告医療法人(財団)磯医院に対して被告荒川税務署長が昭和三二年八月三一日にした相続税金六五八、三二〇円の更正処分はこれを取り消す。二、原告医療法人財団織本外科病院に対して被告中野税務署長が昭和三二年一〇月二六日にした相続税金九九〇、一二〇円の更正処分はこれを取り消す。仮りに右更正処分の取消を求める訴が訴願前置の要件の点で不適法であるとすれば、被告国との間で右更正処分が無効であることを確認する。三、原告医療法人財団同生会に対して被告蒲田税務署長が昭和三二年八月二一日にした贈与税五八三、九五〇円の課税処分はこれを取り消す、四、原告医療法人財団育仁会に対して被告大森税務署長が昭和三二年一二月一〇日にした贈与税金二、三三二、五四〇円の更正処分はこれを取り消す。仮りに右更正処分の取消を求める訴が訴願前置の要件の点で不適法であるとすれば、被告国との間で右更正処分が無効であることを確認する。五、原告医療法人財団済仁会に対して被告蒲田税務署長が相続税金四八四、四一〇円につき昭和三三年二月二八日別紙第一目録記載の物件についてした滞納処分は無効であることを確認する、六、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求めた。

二、被告国指定代理人は本案前の答弁として「原告医療法人財団織本外科病院及び原告医療法人財団育仁会の被告国に対する各訴を却下する。右原告らと被告国との間に生じた訴訟費用は右原告らの負担とする。」との判決を求め、被告ら指定代理人は本案の答弁として「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告らの請求原因及び被告らの答弁に対する反論

一、(原告らの件格と被告らの課税処分等)

(一) 原告らはいずれも医療法第三九条第一項に基く財団形態の医療法人(以下単に財団たる医療法人という)であり、その各設立年月日及び資産総額は別紙第二目録記載のとおりである。

(二) 被告荒川税務署長は、原告医療法人(財団)磯医院(以下原告磯医院という。なお他の原告らの名称についても医療法人財団の語を省略する。)に対し昭和三二年八月二〇日昭和二七年度分の相続税金七〇一、〇八〇円の課税処分をし右原告に通知し、さらに右被告は同月三一日右原告に対して金四二、七六〇円を減額する更正処分(これにより結局相続税額金六五八、三二〇円の課税となる)をし、右原告に通知した。よつて右原告は、右被告に対して、同年九月五日右課税処分、更正処分について再調査の請求をしたところ、右被告は同年一〇月二二日再調査請求を棄却し、右原告に通知した。そこで右原告は、東京国税局長に対し同年一一月二一日審査請求をしたところ、右局長は昭和三三年一月一四日審査請求を棄却し右原告に通知した。

(三) 被告中野税務局長は、原告織本外科病院に対し、昭和三二年八月二〇日昭和二七年度分相続税として金八六三、一二〇円及び金一二七、〇〇〇円の二箇の課税処分をし右原告に通知した。よつて右原告は右被告に対し同年九月五日右両課税処分について再調査請求をしたところ、右被告は同年一〇月二六日、昭和二七年度分の相続税として金一二七、〇〇〇円を増額する更正処分をするとともに、先になされた金一二七、〇〇〇円の課税処分を取り消す旨の更正処分(これにより結局相続税額金九九〇、一二〇円の課税となる)をして右原告に通知し、同月二八日再調査請求を棄却した。そこで同年一一月二五日右原告は東京国税局長に対して審査請求をしたが、三カ月を経過しても右局長は右請求についてなんらの決定をなさないものである。

(四) 被告蒲田税務署長は、原告同生会に対して昭和三二年八月二一日昭和二九年分贈与税として金五八三、九五〇円の課税処分をし、右原告に通知した。よつて右原告は右被告に対して、同年九月一一日右処分について再調査請求をしたところ、同年一〇月二五日右被告は再調査請求を棄却し、右原告に通知した。そこで右原告は、同年一一月二一日東京国税局長に対して審査請求をしたが、三カ月を経過しても右局長は右請求についてなんらの決定をなさないものである。

(五) 被告大森税務署長は、原告育仁会に対して昭和三二年八月三日昭和二八年分贈与税として、右原告法人設立の際訴外島田信義の寄附によるもの二、二五八、九三〇円の、訴外明石嘉吉の寄附によるもの四〇、〇〇〇円の二個の課税処分をし右原告に通知した。よつて右原告は、右被告に対し同月一二日右の両処分について再調査請求をしたところ、右被告は、同年一〇月三〇日昭和二八年分贈与税として七三、六一〇円を増額する更正処分(これにより結局贈与税額二、三三二、五四〇円の課税となる)及び訴外明石嘉吉の寄附によるものについては課税しない旨の更正処分として右原告に通知し、同月三一日右再調査請求を棄却した。そこで右原告は、同年一一月二八日東京国税局長に対して審査請求をしたところ、昭和三三年一月一四日同局長は審査請求を棄却し、右原告に通知した。

(六) 原告済仁会は、昭和三二年八月一三日、被告蒲田税務署長に対し昭和二七年分の相続税の納付税額を四八五、四一〇円と申告したところ、右被告は同年九月六日右原告に対して右申告税額を同月一六日までに完納するよう督促したので、同月一三日右原告は右被告に対して申告する意思がなかつたことを理由として右申告書の取下げを申出た。ところが昭和三三年二月二八日右被告は右原告に対して、その所有に属する別紙第一目録記載の物件につき右相続税の滞納処分として差押をした。

二、(被告らの課税処分等の違法)

被告税務署長らの本件課税処分更正処分及び滞納処分(以下本件課税処分等という)は次の理由により違法である。

(一) (法第六六条第四項は憲法に違反し無効である)

<省略、(一)の判決と同じ。>

(二) (法第六六条第四項が準用する同条第一項第二項は憲法に違反して無効であるから右準用規定も無効である)

法第六六条第四項が準用する同条第一項及び第二項の規定は租税法律主義の原則に違反し無効であるからこれを準用する右第六六条第四項も無効であり、これにもとづく課税は違法である。すなわち

(1) 法第六六条第一項の「人格のない社団又は財団」という表現は、「社団法人」又は「財団法人」というのではないことは勿論であり、また「人格のない社団」「人格のない財団」という実定法上の熟語も存在しないし、かつ法第六六条には「政令で定むる」「人格のない社団又は財団」と規定されていないから、いかなるものが「人格のない社団又は財団」であるか確定するに由がない。もしこの法案を適用しようとするならば、いかなるものが「人格のない社団又は財団」であるかを税務担当の行政官の裁量によつて確定する以外に方法がない。納税の義務ある主体を税務担当の行政官の裁量を介入せしめなければ確定しえないような租税法規は、租税法律主義をじゆうりんするものであつて憲法に違反し無効である。

(2) 「人格のない社団又は財団」はいずれも人格者ではないのであるから財産権の主体となることはできない。人格のない社団の財産とは、社団の構成員たる個人「法第一条、第二条)又は法人(法人税法第一条)、時にはその両者全員の総有に属するものである。もし人格のない社団に財産の贈与、遺贈がなされたということ及び「○○○社団を設立するために財産の提供」があつたとみられる場合があるとするならば、それは社団の構成員の総有財産となりあるいは総有財産の増加したことを意味するにすぎないものである。また人格のない財団は人格のない社団と異なり構成員は存在しないのであるから、人格のない財団の財産というものを観念することはできず、これに対して財産権が移転することはありえない。したがつて人格のない社団又は財団に対し財産の贈与、遺贈がなされ、あるいはその設立のために財産が提供されたとしても人格のない社団又は財団は財産権を取得したことにはならない。財産権を取得しないものに対して贈与税又は相続税を賦課することは相続税法の原則に違反するもので、租税法律主義をじゆうりんし憲法に違反するものであつて、この意味で法第六六条第一項第二項は無効であるといわなければならない。

(三) (原告らは法第六六条第四項に規定する法人ではない)

法第六六条第四項に規定する「公益を目的とする事業を行う法人」がいかなるものであるにせよ、原告らがこの法人に該当するという法律上の根拠はない。

(1) 「公益を目的とする事業を行う法人」の「公益を目的とする」とは「法人」にかかるのではなくて「事業」にかかるものである。それは公益を目的とする法人ではなくて、公益を目的とする事業を行つているところの法人の意味である。したがつて、「公益を目的とする事業を行う法人」とは、法人の目的として行う事業が、法律上公益性を有する法人であると解せられる。もし目的とする事業が事実上公益性を有する法人であると解するならば、交通、運輸、電気、瓦斯等に関する事業は公益性を有することは明らかであるから、これらを目的とする法人は、すべて「公益を目的とする事業を行う法人」といわなければならなくなるのであるが、これらの法人が法第六六条にいう「公益を目的とする事業を行う法人」に含まれないものであることは多言を要しないであろう。

(2) 法第六六条第四項が引用する法人税法第五条第一項第三号に掲げる、法人たる労働組合及び国家公務員法又は地方公務員法に基く法人たる国家公務員又は地方公務員の団体は、「公益を目的とする事業を行う法人」ではない。なんとなれば、労働組合は「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合体」であり、国家公務員又は地方公務員の団体も大体右と同様の事項を目的とする団体であつて、その目的とする事業は法律上公益性を有するものではないからである。したがつて、法第六六条第四項が引用する法人税法第五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人は、「公益を目的とする事業を行う法人」の例示であるということはできない。

(3) 被告らは医療法人が、医療法により剰余金配当禁止(同法五四条)、設立又は定款寄附行為の変更に関する行政庁の認可(同法四四条、四五条、五〇条)、決算の届出(同法五一条)、業務会計の報告(同法六五条)、業務停止、設立認可の取消(同法六四条、六六条)、解散、合併、残余財産の処分に関する行政庁の認可(同法五五条、五六条五七条)の規定があることを挙げて医療法人が「公益を目的とする事業を行う法人」であるが故に、かかる監督規定が制定されたものであるかの如く主張しているが誤りである。なんとなばれ、右と同様あるいはそれ以上の監督規定は、日本銀行法、信託業法、保険業法、公益事業令、地方鉄道法等にも存在するが、これらの監督規定が存在する故にこれらの事業を営む法人を公益法人または「公益を目的とする事業を行う法人」ということはできないからである。医療法にかかる監督規定が存在するのは、医療法を改正して、医療法人制度を設けた立法趣旨である「医療事業の永続性」を図ることを確保する目的に由来するのであつて、医療法人の事業が法律上公益性を有することに由来するものではない。

(4)(5) <省略、(一)の判決とほぼ同じ。>

(6) 法第六六条第四項は同項所定の法人の設立後これに対して財産の贈与または遺贈がなされた場合でも、もしそれが右財産の贈与、遺贈をした者の親族その他の特別関係者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、贈与税又は相続税を課することを規定しているものである。しかるに原告らはいずれもすでに述べたような法人であつて、その所得に対しては法人税が課せられているものであるから、その設立後の受贈に対しては資産増加を理由として法人税が課せられることとなる。故にもし原告ら財団たる医療法人が右にいう「公益を目的とする事業を行う法人」であるとすれば、原告らは同一の課税物件につき一方では個人とみなされて相続税又は贈与税が課せられ、他方では法人として法人税が課せられることになるわけであつて、それが二重課税をもたらすことは法の前の平等の原則に違反する不合理を来たすることは明らかであつて、このように常に必然的に右の不合理をもたらす如きことはあり得ないのであるから、原告ら財団たる医療法人を法第六六条第四項の法人とすることの誤りであることは明らかである。

右のとおりであるから、原告らが「公益を目的とする事業を行う法人」に該当するものとして法第六六条第四項を適用し、相続税または贈与税を賦課することは違法である。

(四) (法第六六条第四項の「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合」との規定は憲法に違反する)法第六六条第四項の「親族その他これらの者と第六四条第一項に規定する特別の関係ある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合」との規定は憲法に違反し無効である。すなわち、「不当に減少する結果となると認められる場合」というのは事実を規定したものではなく判断の経過をあらわしたものである。結局これは税務担当の行政官が判断して不当に減少したことになつたと認めた場合をいうのであつて、その判断の基準についてはなんら規定するところがない。一体誰に対する相続税又は贈与税の負担が不当に減少したと認めるのか、「不当」とはいかなる意味か、「減少」とは相続税又は贈与税の全額の負担を免れたというのであるか、あるいは一部の負担を免れたというのであるか等の認定については、すべて税務担当の行政官に白紙委任されているのである。しかもその認定の内容は原告らに対する相続税又は贈与税の課税標準に関するものである。このような課税標準に関する事項が税務担当の行政官に白紙委任され、その裁量によらなければ実施しえないような租税法規は憲法の建前とする租税法律主義の原則に違反し無効であるといわなければならない。

(五) (財団たる医療法人には相続税等の負担が不当に減少する結果となることは理論上ありえない)財団たる医療法人に対してなされた財産の贈与、または遺贈により当該贈与者又は遺贈者の親族その他これらの者と法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者(以下特別関係者という)の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になると認められるということは理論上ありえないことである。

(1)〜(5) <省略、(一)の判決とほぼ同じ。>

(6) 法第六六条第四項にいう「その他公益を目的とする事業を行う法人に対する財産の贈与、遺贈により当該贈与者、遺贈者の親族その他これらの者と第六四条第一項に規定する特別の関係ある者の相続税又は贈与税の負担に減少する結果となると認められる場合」ということについては次のことが検討されなければならない。すなわち、原告らは寄附財産の贈与を受けて設立されたものであるから、贈与者の親族の誰が贈与者の相続人とみなされているか、みなされている相続人が贈与者の生存中死亡しないと予想しているのか、あるいは贈与者の相続人たる親族が将来出生しないと断定しているのか、みなされている相続人は何人で、その相続分はいくらか、みなされている相続人の債務控除、基礎控除、配偶者控除、幼年者控除等はいくらか、税率はどうなるか、相続税額はいくらか、贈与者がいつ死亡すると考えられるのか、その時の相続税法は現行法と変更がないと考えられるのか。また贈与者の親族及び特別関係者のうち誰が贈与者より財産の贈与を受けるであろうとみなされるのか、贈与を受けるであろうものはいく人か、その贈与を受けるであろうとみなされる財産の価格はいくらか、税率はどうなのか、贈与税額はいくらか、親族及び特別関係者は贈与を受けるであろうと思われる時までに死亡しないし、その時の相続税法は現行法と変更がないと考えられるのか。これらの問題点は寄附がなされた時期を医療法人に対する贈与時現在として確定しなければならない。そして被告がこれを確定立証しうるならば「公益を目的とする事業を行う法人」に財産を提供贈与することがその限りでは租税回避の手段となるということがいいうるかも知れないのである。しかし贈与者の相続人の相続税を寄附の時期現在において立証確定すること及び贈与者より贈与を受けたといわれる者の贈与税を立証確定することは不可能であるから、これらの相続人、受贈与者の相続税または贈与税の負担が減少すると考えること自体が不可能であり無意味といわなければならない。

第三、被告らの答弁及び主張

一、被告国の本案前の答弁の理由

原告織本外科病院、同育仁会は、第一次的請求として各処分をした税務署長を被告として更正処分の取消を求め、予備的請求として被告国に対し右処分の無効確認を求めているが請求の主観的予備的併合は、わが民事訴訟法上許されないと解すべきである。のみならず原告らの各税務署長に対する請求と被告国に対する請求とは、実質的に同一であると考えられるから、各税務署長に対する訴の外に被告国に対する訴を別に許すべき利益はないというべきである。

二、請求原因に対する認否

(一) 原告ら主張の第二の一の各事実はその設立年月日及び資産総額を除き認める。その設立年月日及び資産総額は被告らの確認したところは別紙第三目録のとおりである。

(二) 原告ら主張の第二の二の事実のうち、本件課税処分等がいずれも法第六六条第四項の規定に基いて原告らに納税義務ありとしてなされたものであることは認めるが、その余は争う。

三、被告税務署長らの本件課税処分等は次の理由により適法である。

(一) 法第六六条第四項は憲法に違反しない。

原告らは法第六六条第四項は「公益を目的とする事業を行う法人」を納税義務者としているが右は明確を欠き、その適用につき行政官の裁量を介入せしめることとなるので憲法第三〇条、第八四条に違反すると主張する。しかし憲法第三〇条は国民の重大な義務としての納税の義務を宣言した規定であり、また憲法第八四条は租税は正当な立法手続を経た法律によつてのみ課されうるのであつて、法律に根拠のない行政権の発動として賦課徴収されえないことを定めているものであるところ、租税法といえども法律である以上他の法令と同じくその運用にあたつてはこれを解釈し、具体的事件に適用しなければならないのであつて、それはまさに法の執行者たる行政権の職責であり、憲法がこのことを行政権に対して禁じたものでないことは多言を要しない。原告らの右主張はひつきよう法令の具体的適用について行政権の解釈を許さないとの立場をとるものであるか、または行政権の解釈が不当であると攻撃するに帰する。もし前者であるとすればそれは右に述べたように正当とは考えられず、もし後者であるとすれば不当だとせられる解釈に基いてなされた行政処分の適否について司法権の判断を求めれば足り、本条項自体を違憲であると主張する理由にはならない。

(二) 医療法人は法第六六条第四項にいう「公益を目的とする事業を行う法人」に該当すると解すべきである。

(1) 現行法上法人の種類は少くないが、これを目的によつて分類すれば、まず、営利を目的とする法人としからざる法人とに大別でき、後者はこれを更に公益に関する法人と中間的法人(公益に関する法人と営利法人との中間という意味でこの名称を用いる)とに分けることができる。公益に関する法人はさらに二つに分けて考えることができる。すなわち一は専ら社会公衆の利益を図ることを存立の目的とし、営利を目的としない法人であり(例民法第三四条の法人、宗教法人)その二は存立の目的が主として構成員の私益に関するか(社団の場合)一定の目的に捧げられた財産の運用に関するか(財団の場合)ではあるが、これらの私利益がそれのみに止まらず、ひいては社会の利益ないし繁栄に影響するところが大きいためにこれをもつて公益の目的を有するとせられるべきものである(例商工会議所)。次に中間的法人とは労働組合または相互保険会社のように、同業者ないし同一の社会的地位にある者の相互扶助または共通の利益の増進を目的とする団体ないし公益と私益の中間的な事業を目的とする団体のうち法人格のあるものと定義することができる。

(2) ところで、法第六六条第四項は、法人設立のために財産を提供し、または法人に対し財産の贈与または遺贈がなされた場合一定の者の相続税または贈与税が回避される結果となる不公平な現象を防止するために設けられた規定であるが、右の「法人」中には営利法人は含まれる余地はない。けだし営利法人に対して贈与等がなされれば、必ず当該法人の社員または株主は、当該財産に対応する出資持分または株式を取得することになり相続税または贈与税回避の問題は生じえないからである。この立法趣旨と法第六六条第四項の「法人税法第五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人」との表現によれば、同条項にいわゆる法人は、前記法人分類中少くとも営利法人及び中間的法中公益性の少い法人を除く法人はすべてこれを含めて規定しているものと解すべきである。このように「公益を目的とする事業を行う法人」の概念を確定しうる以上これを確定しえないとする原告の主張は失当である。

(3) そして医療法人は医療事業の非営利性を損うことなしに、医療事業の経営主体に対して資金集積の方途を与え、近代的医療施設の建設維持を容易ならしめる目的で創設された制度であつて、医療事業がその性質上公衆の日常生活に欠くことのできない公益につながる事業であるところから、医療法人を財団及び社団とした上これについて種々の法的規制を加えている(例えば剰余金配当の禁止(医療法第五四条)設立又は定款寄附行為の変更に関する行政庁の認可(同法第四四、第四五、第五〇条)決算の届出(同法第五一条)業務会計の報告(同法第六三条)業務停止、設立認可の取消(同法第六四条、第六六条)解散、合併、残余財産の処分に関する行政庁の認可(同法第五五条、第五六条等)のであつて、これは前記の公益に関する法人のうち第二の類型に属するか、少くとも中間的法人中の公益性の大きい法人に属するものというべきであり、医療法人が「公益を目的とする事業を行う法人」に該当することは明らかである。なお医療法人は法人税法上営利法人と同様に取り扱われているがこれは医療法人の収益性によるのであつて、公益を目的とする事業と矛盾するものではない。

(三) 原告らは、「財団たる医療法人の設立のために財産を提供し、又はこれらの法人に財産を贈与遺贈することにより贈与者、または遺贈者の親族その他これらの者と相続税法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合」の如き事態は理論上ありえないと主張するが、右主張は誤つている。すなわち、

(1) 法第六六条第四項の立法趣旨は、個人がその財産の所有権を一定の者に帰属させることにより通常であれば課されるべき相続税又は贈与税の負担を回避することを防止して租税負担の公平を図ろうとするにある。すなわち、財産の使用収益から生ずる利益を直接または間接に贈与者、または遺贈者の親族その他の特別関係者などが受けることとなると認められ、または当該財産が最終的にはこれらの者に帰属することとなると認められるに拘らず、贈与遺贈を受けた相手方が贈与者または遺贈者の特別関係者以外の者であつて、しかもその相手方が当該財産についてなんらの課税を受けないとすれば、贈与者または遺贈者の特別関係者は結局相続税又は贈与税を回避する結果となり不公平であるので、贈与、遺贈の段階でそれらの行為の相手方を個人とみなしこれに課税しようとするものである。ところがこれらの贈与等の相手方が自然人である場合には同人に相続税または贈与税を課すことができ、法人のうち営利法人等「公益を目的とする事実を行う法人」でない法人が贈与遺贈の相手方である場合には、当該財産に対応する出資持分が増加取得した者に相続税又は贈与税を課すことができるから相続税等の回避の問題は生じえない。そこで「公益を目的とする事業を行う法人」をその対象とすることによつてこの問題の解決をはかつたものである。

(2) ところで、医療法人の全部が相続税又は贈与税の回避の結果をもたらしうるとはいえない。なんとなれば、医療法人には社団と財団の別があるが、出資持分のある法人であれば、営利法人と同様相続税又は贈与税の回避の問題を生じえないからである。財団たる医療法人は、出資持分の定めがないから、相続税又は贈与税の回避の問題が生じうることととなる。法第六六条第四項は、右のとおり、贈与遺贈の行為をした者の特別関係者のいわば私的支配が行なわれているのに拘らず、相続税又は贈与税が課税されない不公平を除去するのが目的であるから、例えば(イ)定款又は寄附行為に解散の場合の残余財産の帰属について国又は地方公共団体に帰属する定めのないもの、(ロ)理事又は社員もしくは評議員のそれぞれの総数の二分の一をこえる者が贈与者、または遺贈者の親族、その他特別関係者であるもの、(ハ)医療法人の運営の方式からみて、贈与者等又はその特別関係者と完全に分離していないと認められ、かつ同人らに特別の利益を与えていると認められるもの等の場合には法第六六条第四項を適用すべき場合は十分考えうるのである。

(3) なお、原告らは、寄附財産は原告らの取得するところであつて、贈与者等の特別関係者が取得したものではないと主張するが、右規定の適用が問題となるのは、まさに原告らが寄附財産を取得した場合においてであつて、寄附財産を原告らが取得したものでなく、実質はいわゆる特別関係者が取得したというのであれば、実質課税の原則により当該特別関係者に対し相続税又は贈与税を課すべきこととなるから右規定の問題となるものではない。また原告らは医療法第五五条、第五六条によれば、特別関係者が寄附財産を将来取得する可能性はないと主張する。しかし原告らの寄附行為によれば多く「残余財産は理事会の決議を経、かつ主務官庁の認可を得て処分する」又はこれと同趣旨の規定をしているから、これと医療法第五六条の規定と対比すれば残余財産は特別関係者たる理事の一存で自由に処分しうることが明らかであつて、したがつて、いわゆる特別関係者が寄附財産を将来取得する可能性は十分あるといわなければならない。

理由

第一、本案前の申立に対する判断

原告織本外科病院、同育仁会は、第一次的請求として更正処分をした各税務署長を被告とし、各更正処分の取り消しを求め、予備的請求として被告国に対し右処分の無効確認を求めているところ、被告国はかゝる請求の主観的予備的併合は許されないから被告国に対する各訴は不適法である。よつて判断するに、右原告らの被告国に対する請求は、右原告らの被告国に対する請求は、右原告らの被告税務署長らに対する第一次の請求が訴願前置の点で不適法となることを条件としてするものであることはその主張自体明らかであつて、これをもつて一種のいわゆる主観的予備的請求と解することを妨げないが、その点における当否はともかくとして右第一次の請求については訴願前置の要件において欠けるところのないことはさきに事実摘示において示したとおり当事者間に争ない事実からおのずから明らかであるから、被告国に対する右予備的請求はすでにこの点で無用のものであり、かゝる請求を内容とする右訴は訴の利益を欠くことに帰着する。よつて原告織本外科病院、同育仁会の被告国に対する訴は不適法として却下する。

第二、当事者間に争いのない事実

原告らがいずれも医療法第三九条第一項に基き昭和二七年一月一日以降設立された財団形態の医療法人であること、被告荒川税務署長は原告磯医院に対し、昭和三二年八月二〇日昭和二七年度分の相続税金七〇一、〇八〇円の課税処分をして右原告に通知し、更に同月三一日右原告に対し金四二、七六〇円を減額する更正処分(これにより相続税額金六五八、三二〇円の課税があつたことになる)をし右原告に通知したこと、よつて右原告は右被告に対し同年九月五日右課税処分、更正処分について再調査の請求をしたところ、右被告は同年一〇月二二日再調査請求を棄却し、右原告に通知したこと、右原告は東京国税局長に対し同年一一月二一日審査請求をしたところ、同局長は昭和三三年一月一四日審査請求を棄却し右原告に通知したこと。被告中野税務署長は原告織本外科病院に対し、昭和三二年八月二〇日昭和二七年度分相続税として金八六三、一二〇円及び金一二七、〇〇〇円の二個の課税処分をし右原告に通知したこと、右原告は右被告に対し同年九月五日右両課税処分について再調査請求をしたところ、右被告は同年一〇月二六日、昭和二七年度分の相続税として金一二七、〇〇〇円を増額する更正処分をするとゝもに、先になされた金一二七、〇〇〇円の課税処分を取り消す旨の更正処分(これにより結局相続税金九九〇、一二〇円の課税となる)をして右原告に通知し、同月二八日右再調査請求を棄却したこと、そこで右原告は同年一一月二五日東京国税局長に対して審査請求をしたが、三カ月を経過しても右局長は右請求についてなんらの決定をなさないこと。被告蒲田税務署長は原告同生会に対し昭和三二年八月二一日昭和二九年分贈与税として金五八三、九五〇円の課税処分をし、右原告に通知したこと、右原告は右被告に対し同年九月一一日右処分について再調査請求をしたところ、同年一〇月二五日右被告は再調査請求を棄却し右原告に通知したこと、右原告は同年一一月二一日東京国税局長に対して審査請求をしたが三カ月を経過しても右局長は右請求についてなんらの決定をなさないこと。被告大森税務署長が原告育仁会に対して昭和三二年八月三日昭和二八年分贈与税として右原告法人設立の際訴外島田信義の寄附によるもの二、二五八、九三〇円の訴外明石嘉吉の寄附によるもの四〇、〇〇〇円の二個の課税処分をし右原告に通知したこと、右原告は右被告に対し、同月一二日右の両処分について再調査請求をしたところ、右被告は、同年一〇月三〇日昭和二八年分贈与税として七三、六一〇円を増額する更正処分(これにより贈与税額二、三三二、五四〇円の課税となる)及び訴外明石嘉吉の寄附によるものについては課税しない旨の更正処分をして右原告に通知し、同月三一日右再調査請求を棄却したこと、そこで右原告は、同年一一月二八日東京国税局長に対して審査請求をしたところ、昭和三三年一月一四日同局長は審査請求を棄却し右原告に通知したこと。原告済仁会が昭和三二年八月一三日被告蒲田税務署長に対し昭和二七年分の相続税の納付税額を四八四、四一〇円と申告したところ、右被告は同年九月六日右原告に対して右申告税額を同月一六日までに完納するよう督促したので同月一三日右原告は右被告に対して申告する意思がなかつたことを理由として右申告書の取下げを申出たこと、しかし右被告は昭和三三年二月二八日右原告に対してその所有に属する別紙目録記載の物件を右相続税の滞納を理由に差押えたこと。及び被告税務署長らの本件課税処分等が法第六六条第四項の規定に基き原告らに納税義務あるものとしてなされたことはいずれも当事者間に争いがない。

第三 本件課税処分等の適否

一、(法第六六条第四項は憲法に違反するか)

(一) 原告らは税法において納税義務者が誰であるかは疑問の余地なき程明白に規定されていなければならないと解すべきところ、本件課税処分等の根拠とされた法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」という規定は、はなはだ明確を欠き、その適用につき行政官の裁量を介入せしめることゝなるので憲法第三〇条、第八四条の租税法律主義の原則に違反すると主張する。

よつて判断するに、租税法律主義は、課税要件を法定することにより行政庁の恣意的な徴税を排除し、国民の財産的利益が侵害されないようにするためのものであつて、近代諸国の憲法の多くが重要な内容の一つに数えているものである。わが憲法第八四条も「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定し、租税法律主義の原則を宣明している。すなわちこれにより法律に根拠のない慣習法や命令による租税の賦課は許されないし、租税の種類、課税の根拠、納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の課税要件に関する規定その他租税債務の変更消滅に関する実体規定のみならず、納税の時期、方式等に関する手続的規定についても、正当な立法手続を経た法律の定めを要すると解するのが相当である。したがつて、租税法律主義の原則から課税要件はできるだけ詳細かつ網羅的に規定せられると共に、その内容の明確化が要請されるわけである。しかるに他方税法の対象とする社会経済生活上の事象は、千差万別であり、生成変動も免れないのであるから、それらの一切を法律により一義的に規定しつくすことはとうてい困難であり、その間おのずから一定の制約あることを免れないのである(この場合右目的に奉仕するため法律自体が合理的に限界づけられた範囲内においてその細目の表示を命令に委任し、これにより法律を補充することも許されるであろうが、事は立法技術の問題にすぎない。)。およそ法律の規定を構成することばはすべて多かれ少なかれ一定の内包を有する意義をもつものであり、税法においても例外ではないから、その具体的適用にあたつて規定のもつ意味内容を解釈、認識することは不可避であり、また当然に許さるべきものであつて、租税に関する法律がその合理的な解釈により法律の定めるところの意味内容を客観的に認識し得る如く規定してあるかぎり、それによつて具体的な租税の賦課徴収を行うことはなんら前記租税法律主義に反するものではないのである。

そこで法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」という規定の意味内容が解釈によつて把握し得るものかどうかについて検討するに、なるほど実定法上「公益を目的とする事業を行う法人」という用語は必ずしも一般化されていないから、右概念の内容を類型的に把握することは困難であるが、「公益」及び「法人」の概念についてはすでになんびとにも通ずる一応の解釈が確立されているから、この面から前記規定の内容はおのずから一定の限界を劃し得、他面同条が租税負担の公平をはかるために規定せられたものであることはその規定自体からみやすいところであるから、かゝる目的に照らして一定の方向を選別し得るものというべく、ひつきよう「公益を目的とする事業を行う法人」の概念は同条の解釈によつて、おのずから客観化されうるものというべく、右の確定が行政庁の自由裁量に委ねられているものとはとうてい解することができない。したがつて法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」との規定は、課税要件法定の要請をみたしているものというべく、この規定自体が憲法第三〇条、第八四条に違反するという原告らの主張は理由がない。

(二)  原告らは法第六六条第一項、第二項は代表者又は管理者の定めのある「人格のない社団又は財団」を納税義務者としているが、これが確定のためにに、行政庁の裁量を必要とするし、また「人格のない社団又は財団」は財産権の主体となりうるものではないから、これに対し贈与税又は相続税を課すことは租税法律主義に反し違憲たるを免れず、したがつて、これらの規定を準用する同条第四項もまた違憲無効であると主張する。

よつて判断するに、相続税法第六六条第一項、第二項は代表者または管理者の定めのある人格のない社団又は財団に対する相続税、贈与税課税の規定であるが、同条第四項が同条第一項、第二項を準用していることは、「人格なき社団又は財団」に関する右の規定を、これと本質の異る「法人税法第五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人」の場合にあてはめることを意味し、それによつて同一規定のくり返しをさけようとしたもので、立法上の技術にほかならない。そして原告らが違憲であると主張する準用される規定の内容は、準用する規定においてはなんらあてはめられていないのであるから、同条第一項、第二項が仮りに原告の主張する理由で違憲無効であるとしても、これがため当然同条第四項までが違憲無効となるものでないことは明らかである。よつて原告らの右主張はこの点においてすでに理由がないといわなければならない。

二、(財団たる医療法人は公益を目的とする事業を行う法人か)

原告らは、財団たる医療法人は法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当しないと主張する。よつて判断するに、

(一) まず同条の解釈にはいるに先立ち、一般に財産の無償取得が行なわれた場合の課税関係について一べつしておく。財産の無償取得が行なわれた場合、財産移転の形態としては、(1)法人が法人から無償取得する場合、(2)法人が個人から無償取得する場合、(3)個人が法人から無償取得する場合、(4)個人が個人から無償取得する場合の四つの形が考えられるが、この場合法第六六条第四項の場合を除いて相続税又は贈与税の対象となるのは(4)の個人が個人から取得する場合であることは明らかである(相続税法第一条、第一条の二、第三条の三)。すなわちまず(1)の法人が法人から財産の無償取得をした場合と(2)の法人が個人から財産の無償取得をした場合についてみるに、無償取得を受けた法人が非課税法人(法人税法第四条)、公益法人等(法人税法第五条第一項)以外の法人であるときは一般にこの財産の無償取得は一の益金とみるべきものであるからその法人については、財産の無償取得による所得につき法人税が課せられ、その法人が公益法人等であるときは、それが収益事業から生じた所得にあたる場合についてのみ法人税が課税され、その他の所得については課税されない(法人税法第五条第一項)。右(3)の個人が法人から財産を無償取得した場合、一般にこの財産取得はいわゆる一時取得としてこれによつて生じた所得に対しては所得税が課せられ(所得税法第九条第九号)、その反面贈与税は課せられない(相続税法第二一条の三第一項第三号)。(4)の個人の個人からの財産の無償取得に対しては前記のとおり、相続税又は贈与税が課せられるが、その反面右財産の取得はその性質上一時所得であること(3)の場合と同様であるに拘らず、これについて所得税は課せられない(所得税法第六条第一二号)。このように財産の無償取得が行われた場合、税法は一ようにこれを課税の原因として把え、その移転の形態にしがたいそれぞれ一個の課税原因につきなんらかの課税権を行使するを原則としていることが認められ、このことをあらかじめ考慮にいれておく必要がある。

(二) ところで法第六六条第四項は、同項所定の一定の法人に対し財産の贈与、遺贈があつた場合一般には法人に対する財産の無償譲渡として当該法人について相続税又は贈与税が課せられないたてまえからして、これによつて相続税、贈与税負担の軽減を図ることのあるべきことを予想し、これを防止するため、右の法人に対し財産の無償移転があつたときは、これにより相続税または贈与税の負担が不当に軽減されるおそれがあると認められる場合に限り、その法人を個人とみなし相続税または贈与税を課することを目的とする規定であることは同条の解釈上疑をいれないところである。「公益を目的とする事業を行う法人」の意義を定めるにあたつても、いかなる法人がこれにあたるかはそのことばのもつ通常の意義に即するほか右に述べた同条の立法趣旨に照らし解釈しなければならないことはさきに述べたとおりである。

そこでまずこの立法趣旨の側から考察するにいつたいいかなる形態の法人につき同条にいう相続税、贈与税回避の問題が生じうるのであろうか。それについてはまず、出資持分の定めのある法人については同条が適用される余地はないと解するのが相当である、なんとなれば。財産の提供により出資持分の定めのある法人を設立した場合に、あたかも現物出資により株式会社、有限会社の設立があつたと同様一の資本の払込であり、法人税の対象にはならず、出資者の提供した財産は、出資持分に変形するのみで、それ自体財産の無償移転ともいうを得ないのみでなく、自己の持分に対する支配権はその出資者にあるから、出資後その出資持分を他に贈与するか又は相続がなされたときをとらえ贈与税又は相続税を課税すれば足りるものであり、もし出資者が自己の出資に相応する持分を全部取得することなく、第三者として取得せしめた場合にはその部分につき右第三者に財産の無償取得があつたものとして課税すればよいからである。またすでに設立された出資持分の定めのある法人に対し第三者が財産を贈与または遺贈した場合において、それによつてあらたに持分を生じたときは右の場合と同様でありあらたに持分を生ずることなく従前の出資持分の価額が増加したにとどまるときは、これをもつてその贈与等があつた時において、その出資持分を有する者が実質上その増加した部分に相当する金額の財産を法人に対し贈与又は遺贈した者から無償取得したものと解する(昭和二八年一二月二五日直資一四一国税庁長官通達参照)少くとも右増価した持分につき贈与、相続等のあつたとき自然右増価部分についても課税されることゝなるから、この場合も相続税、贈与税の回避の問題は生じない。しかして以上の結果は財産の提供者もしくはこれと特別関係あるものと当該法人との関係の親疎、実質支配の有無等によつて左右されるものでないこと、事の性質上自明である。

これに反し、出資持分の定めのない法人については異なる。すなわち、財産の提供によりかゝる法人を設立する場合、そのまゝでは財産提供の際右法人に対し相続税、贈与税を課税することができないものであり、右法人については出資持分がないため持分の移転の際に相続税または贈与税を課するということはあり得ず、また右財産は資本の払込として提供されるのであるから財産の無償取得を理由に法人に対し法人税を課すこともできず、結局財産の無償取得についてはなんら課税権を行使しえないわけである。従つて今右の如き財産の提供によつて法人の設立があるにかゝわらず、右法人がその贈与者もしくはその親族その他特別の関係ある者によつて依然として支配運営されているというような実情があるならばこれは右贈与者の個人有財産と択ぶところがないにかゝわらず、将来その者の死亡によつて事実上相続がなされるにかゝわらず、これに対し相続税を課し得ないことゝなり、あるいは親族その他特別関係者が法人に贈与された財産の利益を事実上享受しながら、この者につき贈与税等を課することができないことゝなるため、贈与者もしくは遺贈者の親族その他特別関係者の相続税の負担が不当に減少する場合を生じえないとはかぎらないからである。またすでに設立された出資持分の定めのない法人に対し財産の贈与または遺贈がなされた場合も、右法人と右贈与者遺贈者又はそれらの親族その他特別関係者との関係によつてはその相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果を生じ得ないとはいえないこと右と同様である。もつともこの場合右法人に対し財産の無償取得により生じた所得につき資産の増加を理由に法人税を課することもできるから、同一課税物件に対し法人税のほか相続税ないし贈与税を課税するとすれば、一種の二重課税の事態を生ずることゝなるから、このような場合にはさきに考慮した財産の無償移転に対する課税の一般的態度からみて現実には右相続税等の負担が不当に減少する結果となると認められることはまずないであろう。

しかし法人税は、当該事業年度における法人の所得をその課税の対象とするから、仮りに右法人に対し財産の贈与もしくは遺贈が行なわれたとしても、当該事業年度において損金(負債)が大であれば所得を生じないこともありえようし、また設立後であつても右法人が定款ないし寄附行為を変更し、資産の増加(資本の払込)として財産を無償取得するのならば、法人税の対象とはならないから、一定の場合に二重課税が起りうるということ自体から設立後になされた出資持分の定めのない法人に対する財産の提供につき法第六六条第四項の結果が生じ得ないものとし、ひいて出資持分の定めのない法人は同条項にいう法人に当らないとすることは相当でない。

以上の理由から法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」というその「法人」とは、少なくとも出資持分の定めのない法人を意味するものと解するのが相当である。したがつて一定の出資持分にもとずき構成員たる社員の利益を目的とする法人、換言すれば社員に対する利益の配当又は残余財産の分配を目的とする営利法人についてはたとえそれが交通、通信、報道、出版等の公益に関する事業を営むことを目的とするものであつても右に該当しないものといわなければならない。これに反し公益社団法人及び財団法人は、同条の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当するものというべきである。けだし公益社団法人、財団法人は本来公益を目的とし営利を目的せざる法人であり、公益社団法人の社員は公益法人の性質上利益配当請求権や残余財産分配請求権を有しないから、財産上の権利としては、せいぜい社団の設備を利用する権利等が考えられるにすぎず、それを課税の対象としてとらえることは無意味であり、また財団法人は一定の目的に捧げられた財産を中心とし、これを運営する組織を有するものであつて構成員たる社員は存在しないから、財団法人については社員の出資持分ということを構想する余地は全くないからである。

そして右の解釈は、法第六六条第四項中の「法人税法第五条第一項第一号及び第三号に掲げる法人」と対比して考えれば一層明瞭となる。すなわち法第五条第一項第一号は、民法第三四条の規定により設立した法人の外日本赤十字社商工会議所、社会福祉法人、宗教法人、学校法人等を掲げていものであるが、これらの法人はいずれも公益目的から国家的監督の必要上設立に際し許可主義がとられており、更に構成員たる社員がないか、もしくは構成員が存在しても利益の分配ということが考えられない点において特別法により設立される公益私法人と解せられるし、また同条第一項第三号にいう法人たる労働組合及び法人たる国家公務員または地方公務員の団体は同一の社会的地位にある者の間の相互扶助または共通の利益の増進を目的とするいわば公益法人と営利法人の中間に位するものであり、それは公共の利益とゝもに直接的には構成員の利益を目的とするものではあるがそのいずれもがそれらの組合又は団体の一員であることに財産上の利益がともなうものでないことは自明であつて、その地位の変動等について相続税又は贈与税の課税を考えることはできない。従つてこれらの法人に対する財産の提供において、提供者ないしその親族その他の特別関係者と右法人との関係いかんによつては贈与者又は遺贈者の親族その他特別関係者の相続税もしくは贈与税を不当に減少させる結果となることもありうることはおのずから諒解されるのである。

(三) そこで次に財団たる医療法人が法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当するかどうかについて検討する。

医療法人は病院又は診療所を開設経営することを主たる目的とし、これによつて医療事業を行うものであるところ、そもそも医療事業は、国民の健康保持のために不可欠なものであり、その業務は直接国民の生命の保全、身心の健康等公衆衛生に深いかかわり合いをもち、全体として国自身がこれに責任をもつものであつて、その故にこの事業は多くの点において国の監督規制を受け、事の性質上利益の追及を第一義とするものでないことは多言を要しないところである。従つてこれをひろくことばの通常の意味において公益を目的とする事業とよぶことはなんら誤りではない。しかしすべての国民に必要最少限度の医療を確保するには、公的医療機関のみならず、民間医療機関の整備並びに充実強化がはかられなければならないのであるが、私人による病院又は診療所の建設、設備の改善等は資金難から多くの障害をともなうのであり、また個人の開業医の死亡にともなう医療事業の中絶等のため、病院等の経営維持に困難をきたす例がみられることから、資金の集積を容易ならしめるとともに、事業の永続性を確保するため私人の病院等に法人格を与える必要性が認められていたところ、医療事業に法人格を附与するに当り、これを商法上の会社とすることは、前記医療の非営利性という点から望ましいものではなく(医療法第七条第二項)、他方すべてその病院が民法第三四条による公益法人たる資格を取得することも期待しがたいので、かかる医療事業の特殊性にかんがみ、医療事業については特別法による特別の法人制度、すなわち医療法第三九条に基く医療法人制度が設けられたものと解せられる。そして医療法が、医療法人は社団又は財団の形態をとるものとし(同法第三九条)、剰余金配当の禁止(同法第五四条)、設立、定款、寄附行為の変更に関する行政庁の認可(同法第四四条、第四五条、第五〇条)、決算の届出(同法第五一条)業務会計の報告(同法第六三条)、業務停止、設立認可の取消(同法第六四条、第六六条)解散、合併、残余財産の処分に対する行政庁の認可(同法第五五条ないし第五七条)等に関し種々の法的規制を加えていることは、医療法人の公益性を確保し、これが営利企業化することを防止するためと法人形態の社会的信用を確保するため、一定規模の設備の維持、充実、組織内容の公示、行政監督の徹底をはかる趣旨と解するのが相当である。したがつて医療法人はいわゆる営利法人ではなく、さりとていわゆる公益法人そのものでもなく、いわば両者の中間に位し、むしろ公益法人に類似した法人というべきであり、法第六六条第四項にいう「公益を目的とする事業を行う法人」たるに該当するものといわなければならない。

(四) もつとも原告らは、医療法人に関する各種の法的規制は、日本銀行法、信託業法、保険業法、公益事業令、地方鉄道法等にも存在し、しかもこれらの事業を営む法人を公益法人または「公益を目的とする事業を行う法人」と解することはできないから、かかる監督規定が存在するからといつて、医療法人を公益を目的とする事業を行う法人ということはできないと主張する。しかし日本銀行法、信託業法、保険業法、公益事業令、地方鉄道法には剰余金の配当を禁止する規定は存在せず、これらの法律によつて規制される各法人はその利益を社員に配分することをさまたげないものであり、かつ右各法人の社員は出資持分を有しているから、法第六六条第四項に規定する租税の回避行為が起りうる余地はなく、したがつて、同条の「公益を目的とする事業を行う法人」にもあたらないのである。これに反し、医療法人においては、剰余金の配当が禁止され、その収益は、すべて法人自体に還元させることを要求している点において、医療法人の行う事業の公益性は顕著に示されているものといわなければならない。よつて原告らの右主張は理由がない。

次に原告らは、医療法人が財団又は社団の形式をとつているのは、「資金蒐集」「事業の永続性」確保という医療法人制度制定の歴史に由来するものであつて、医療事業の公益性によるものではなく、医療事業は営利事業であると主張する。なるほど医療法人が「資金蒐集」「事業の永続性」確保のため法人格を認められた制度であることは前記のとおりであり、営利事業でもなく、利益配当をもたらすものでない事業に通常資金の蒐集が期待しがたいことはいちおう是認しなければならないが、それはあくまで営利のため資金を利用しようとする場合についてであり、しからざる限り非営利事業に資金を集積することのあり得ることは周知のとおりである。事業の永続性はこれを法人とすることによつて個人の開業医がその死亡とともに事業を中断するが如きことのないようにするところに期せられるのであつて、事業の営利性にもとずくものではない。医療法人が、法律上非営利的な特殊法人として設立を認められたのは、医療に対する国民の伝統的な感情から医療事業を営利法人とすることが好ましくないのみでなく、前記のように医療事業が国民の保健衛生上欠くことのできない公共性をおびていて、その性質上非営利的であるべきことに基くものにほかならない。もとより医療事業により収益をあげることは可能であり、医療事業も収益事業と認められることがありうるけれども(法人税法施行規則第一条の三第一項第三〇号。昭和三二年三月三一日政令第四六号((法人税法施行規則の一部を改正する政令))参照)公益法人等(法人税法第五条第一項)も収益事業を営むことはなんらその本質に矛盾するものではないのであるから、医療法人が収益事業を営むからといつて、そのことから直ちに医療事業を営利事業ということはできない。よつて原告らの右主張も理由がない。

原告らはさらに、個人の医療事業は、相続税法上公益を目的とする事業でないとして法第一二条第一項第三号、第二一条の三第一項第三号は適用されず、所得税法もこれを営利事業としているところ、これが法人形態に変ることにより法律上公益性を附与されることはありえないし、また法人税法は医療事業を営利法人と同様に扱つているから、これを相続税法上公益法人に類似した法人とすることは租税体系上の矛盾であつて許されないと主張する。

しかし医療事業がひろく社会福祉への貢献を目的とし、公衆の日常生活にとつて欠くことのできない公益性をおびていて、本来非営利的性質を有する事業であることは前述のとおりであるから、医療事業を営む者は、法第一二条第一項第三号、第二一条の三第一項第三号の関係においても「公益を目的とする事業を行う者」に該当するというべきである。ただ通常個人の開業医の財産が相続税法上の非課税財産としての取扱を受けることのないのは、たとえ個人の開業医が医療施設を相続または贈与により無償取得し、これを医療事業の用に供することが確実な場合であつても、一般にこれら条項の定める政令の要件をみたすことができないためであり、とくに相続税法施行令第二条但し書により同条第一号の事実を否定し得ることがほとんどまれであるためにほかならず、医療事業が公益を目的とする事業にあたらないからではないのである。

また所得税法第九条は、医療事業から生ずる所得を事業所得として規定しているが、所得税法の課税の対象となるべき所得は、一定の期間内において各人に帰属する経済的利益のすべてをいうから、医療事業が収益をあげうる以上、それから生ずる利益が所得税の対象たるべきことは当然といわなければならない。しかし前記のように、収益事業であることから直ちにこれを営利事業ということはできないから、医療事業から生ずる所得が、事業所得として規定せられていても、そのことから医療事業を営利事業と解するのは相当でない。したがつて、医療法人が法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」であるとするならば、医療事業は法人格を取得することにより、はじめて公益性が附与されることになつて矛盾であるとする原告らの主張は理由がない。

また、公益法人等及び公益を目的とする事業を行う法人が、公益目的遂行のために要する財源獲得の手段、ないしは公益目的の実現として収益事業を行うことは、なんら右法人の性質と矛盾するものではないと解すべきこと前記のとおりであるところ、医療法人は法人税法上非課税法人、公益法人等以外の一般の法人として課税上は営利法人と同様の取扱を受けているけれども、それは、前記のとおり医療法人が収益事業を営むからにほかならず、医療法人が営利法人たる性質を有するからではない。また医療法人が営利法人と課税上同様の取扱いを受けているにしても、このことから当然医療法人の性格を営利法人と同じにみなければならないということもできない。したがつて、もし医療法人が法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」に含まれるとしても租税体系上矛盾を生ずるものということはできず、この点の主張も理由がない。

三、次に原告らは、法第六六条第四項の「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となる」と認められる場合かどうかの判断は、税務官吏の裁量に委ねられるものであるから、かかる規定は憲法第八四条に違反し無効たるを免れないと主張する。

しかし同条が前記のとおり租税回避行為を防止するため、あらたな租税法律関係を設定する規定であることにかんがみると、右条項に該当する結果となるか否は、当該法人と右贈与者遺贈者又はその親族その他の特別関係者との関係、当該法人運営の実態等に照らして、具体的客観的に決せられるべきものである。すなわちたとえば法第六六条第四項掲記の法人に対し財産の贈与があつたにかかわらず、右法人の定款もしくは寄附行為の定め又は右贈与者等の理事その他の役員としての関与等により実質上贈与者が従前どおり贈与にかかる財産の使用収益からの利益を享受しており、将来右贈与者の死亡によりその親族相続人が事実上右財産の利益の享受を承継することとなるような場合には、相続税の負担を免れることとなる。また贈与者自身は右法人の運営に関係せず、もしくは財産が遺贈にかかる場合でも、当該法人の定款もしくは寄附行為の定め又は右贈与者もしくは遺贈者の親族その他の特別関係者が理事等役員として関与することによつて実質上これらの者が現に右財産の使用収益から生ずる利益を享受しているような場合には贈与税(法改正前は相続税)を免れることとなるものといい得るのである。これらはいずれも右法人への財産移転の過程を経ることによつて、しからざる場合に比し相続税等の負担を軽減するものといい得るのであり、このような場合いずれの段階をとらえて相続税または贈与税を課すべきかは一に立法上の政策に属するところであり、法第六六条第四項はすでに右財産の贈与又は遺贈のあつた段階においてこれをとらえ当該法人からこれを徴しようとするものに外ならないのである。もし法人に対する贈与又は遺贈があつても、定款又は寄附行為の定め、当該法人と贈与者遺贈者またはその親族その他特別関係者との関係、その支配の状況、財産利用の実情等から見て当該財産が実質的にも右の者らの支配を脱し、これにその利益を享受せしめることがないような場合には、仮りに右財産の移転について相続税または贈与税を課する機会がないとしても、それは租税法上当然のことであつて、なんら相続税または贈与税の負担を不当に軽減する結果となるものではないのである。してみればこのような認定は当該税務官吏が右の如き諸般の事実に基きその実態に即して経験則に従い合理的になすべきき束行為であつて、その自由裁量に委ねられているものではないといわなければならない。従つてこの点の原告らの所論も失当でなる。

四、(財団たる医療法人については相続税等の負担が不当に減少することとなると認められる場合はあり得ないか)

次に原告らは、仮りに法第六六条第四項が前記の理由により憲法に違反するものでないにしても、財団たる医療法人に対してなされる財産の贈与もしくは遺贈により、当該贈与者、遺贈者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になると認められるということはありえないことがらであるから、本件課税処分等は違法であると主張する。

しかしその各具体的場合の実状のいかんによつては右の結果となると認められる場合のあり得ること前段に説明したとおりであるから、原告らの右主張は理由がない。

これに対し原告らは、だれが財産の受贈者又は相続人とみなされるのか、その課税財産、税額はいくらであるか等が確定的に明らかにされない以上、財産提供者の親族その他特別関係者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になるかどうかは判明しないと主張する。しかし、前記のとおり法第六六条第四項の規定は、同項所定の法人に対する財産の提供により、なんびとも相続税又は贈与税を負担することなく提供者の親族その他特別関係者が寄附財産を相続・受贈したと同じ結果となるような事実関係が認められるとき、租税負担の公平をはかる目的で法人を個人とみなし、相続税又は贈与税を課するものであるから、相続税又は贈与税の負担を不当に減少する結果となるかどうかは、結局その際における定款もしくは寄附行為の定め、その法人と財産提供者その他特別関係者との関係、法人運営の態様等によつて判明することがらであること前記のとおりであるから、原告らが主張するような、受贈者、相続人、課税財産、税額等が確定されなければ相続税又は贈与税の負担が不当に減少するかどうかを理論上判断しえないということはできない事はあくまで現実の課税処分が右法案の要件をみたすものであるかどうかによつて決せられるのである。よつて原告らの右主張は理由がない。

また医療法人に対し相続税又は贈与税を課する場合があるとしても、それは医療法人制度の立法趣旨となんら矛盾するものではない。なるほど医療法人制度は、一方において医療事業の永続性をはかる目的を有するものであり、従来個人の開業医による医療事業が相続税、贈与税の圧迫のため一代にして中絶することのあつたことは否定しえないが医療法人が事業の永続性を一目的とするといつても、それがためにいかなる場合においても相続税又は贈与税を課さないこととしたものと解するのは相当でなく、とくに財団たる医療法人は相続税贈与を免れしめることによつて医療事業の永続性を確保せんとするものであるとするのは独断である。けだし、仮りにいかなる医療法人に対してもそれが医療法人なるが故に相続税、贈与税を課しえないとするならば、個人の関業医は、医療事業の実態はそのままにしながら、法人格を取得することによつて、容易に相続税又は贈与税を免れることができ租税負担の公平を害するのみならず、かような医療法人はたんなる形骸として租税回避のために利用せられるに過ぎなくなるからである。

さらに原告らは、税法上の行政罰(法第五一条ないし五四条)及び刑事罰の制度により租税回避行為は規制しうると主張する。しかし法第五一条ないし第五四条は利子税及び加算税に関する規定であつて、本税に対する附帯税の賦課を規定するにすぎず、かかる規定や刑事罰で相続税または贈与税自体についての租税負担の公平がはかられるものでないことは明らかであり、また行政罰刑事罰の制度があるからといつて法第六六条第四項に基く課税処分等が違法となると解することはできない。よつて右主張も理由がない。

五、結論

以上説明したとおり、法第六六条第四項はなんら憲法に反するものでなく、財団たる医療法人は、同条項の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当すると解するのが相当であり、財団たる医療法人に対する財産の贈与又は遺贈により、当該贈与者又は遺贈者の親族その他これらの者と法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、当該具体的な場合の実情に即して事実の取調をまつてはじめて明らかになるものであつて、およそ財団たる医療法人については、理論上いかなる場合においても法六六条第四項が適用される余地はないとする原告らの主張は理由がないものといわなければならない。

そして以上の諸点は、民事訴訟法第一八四条にいわゆる独立した攻撃防禦方法に関する争いであつてこれらの諸点についての原告らの主張はいずれも理由のないこと前記のとおりである以上、原告らの場合がはたして事実において法第六六条第四項に該当するかどうか、その他被告らの処分がその他の点においても適法であるかどうかを判断しなければ原告らの請求の当否を終局的に決定し得ないことは明らかである(これらの点について被告らの事実上の主張は本判決の事実摘示からは省略してある。)従つて当裁判所は前記の諸点について原告らの主張が理由がない旨の中間判決をすることを相当であると認める。なお、原告織本外科病院、同育仁会の被告国に対する訴は前記のとおり不適法であるからこれを却下することとし、この点の訴訟費用の負担については同法第八九条第九三条を適用する。

よつて主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二部

裁判長裁判官 浅 沼   武

裁判官 時 岡   泰

裁判官小中信幸は転任につき署名捺印することができない。

裁判長裁判官 浅 沼   武

第一、第二、第三目録(省略)

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