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東京地方裁判所 昭和34年(タ)76号 判決 1960年1月28日

原告 アルバート・アール・マキノン

被告 ドロシー・シー・マキノン

主文

(一)  原告と被告とを離婚する。

(二)  原被告間の長女サリイ・エム・マキノン(Sally M. Mackinnon)(千九百四十年二月二十九日生)二女ジユデス・エイ・マキノン(Jadith A. Mackinnon)(千九百四十五年八月十日生)の監護者を被告と定める。

(三)  原告は被告に対し、右両名が夫々満二十年に達するまで両名の養育費として毎月各七十五ドル宛合計百五十ドルを支払うべし。

(四)  アメリカ合衆国マサチユセツツ州ウエイマス・ローンパインパス二十五番地所在の動産及び不動産は被告の単独所有に属することを確認する。

(五)  原告は被告に対し、被告が現に所持する原告名義の戦時公債を現金化するため、被告を受任者とするの委任状を作成の上交付すべし。

(六)  原告は、現在有効の被告を受益者とする生命保険契約(保険会社名ナチユラル・サービス・ライフインシユアランスカンパニー及びニユーイングランドミユーチユヤルライフ・インシユアランス・カンパニー)につき原告死亡の際には被告において保険金を受領しうるように継続すべし。原告は右保険契約の受益者名義を変更してはならない。

(七)  訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項及び第七項同旨の判決を求める旨申立て、その請求原因として

一、原告は千九百十一年五月十五日アメリカ合衆国マサチユーセツツ州ノマアーヴイルにおいて出生し同国の国籍を有する者、被告は同年一月同州ボストンにおいて出生し同国の国籍を有する者であるが、原被告は千九百三十七年十一月十一日同州ボストン市において同国法に従い婚姻し、両者の間に、サリイ・エムマキノン(千九百四十年二月二十九日生)、ジユデス・エー・マキノン(千九百四十五年八月十日生)の二女を儲けた。

二、原被告は婚姻後二、三年は円満な夫婦生活をしていたが、その後は次第に夫婦仲が悪くなつていたところ、千九百五十一年の終り頃に至り、原告はアメリカ軍隊の軍人として日本勤務を命ぜられて来日し、翌千九百五十二年十二月には被告も亦原告の許へ来日した。原告は被告が来日する前、被告に対して毎月給料の四分の三にあたる三百ドルを送金していたにも拘らず、被告は之を費消していたため、日本へ来る旅費に事欠き家具類を売却して之に充てる始末であつた。

而して被告は婚姻前から飲酒の習慣を有し、婚姻後は更にその度を加え、来日後には益々その度を増し、常に深酒を飲んでは酩酊状態でいるので、家事を怠り、そのため原告が食事の仕度をしなければならないこともあつた。原告は被告に毎月二百五十ドル位生活費として渡し、別に女中の給料も支払つていたのであるが、被告は右生活費をも飲酒の費用に充てゝいた。原告は被告の飲酒を止めさせるため、アメリカ軍から支給される酒の配給帳を被告に渡さなかつたのであるが、被告はどこからか酒を手に入れて了うのであつた。又被告は酒癖が悪く、原告の友人や同僚の間で原告を困らせることが何度もあり、軍司令部主宰のパーテーの席上、深酒をして司令官の面前で床に倒れて了ひ、原告の面目を失墜させたこともあつた。

しかも被告は千九百五十三年頃から理由もないのに原告と寝室を同じくすることを嫌い、同年五月頃からは原告と被告とは寝室を別にするようになり、以降は夫婦間の肉体的交渉を絶つている。のみならず、千九百五十四年三月、原告が肝臓炎で約六週間入院した際にも、被告はこの間、金を貰うためにのみ二週間に一度宛、病院に来たにすぎなかつた。

而して被告は来日当時から、帰米したい、原告と離婚したいと云つていたが、千九百五十四年六月、アメリカ軍法務部に行き単身帰米することを交渉の上、その承認を得て、原告が反対するにも拘らず、同年八月十二日、原告の許を去つて帰米してしまつた。原告は被告の帰米後、約四ケ月経過した頃、軍籍を退き、以来永住の意思を以て日本に留まり、肩書地に居住し、被告とは別居したまゝである。

三、法例第十六条第二十七条第三項により、本件離婚の準拠法はその原因事実発生当時における夫たる原告の本国法即ちアメリカ合衆国マサチユセツツ州の法律によるべきところ、同州の国際私法によれば、離婚につき当事者双方若しくは一方の住所の存する法廷地法によることとされているので、法例第二十九条により結局本件については我が民法が適用される。而して前記離婚原因事実は同法第七百七十条第一項第二号及び第五号に該当するというべきであるから、原告は右事由により裁判上被告との離婚を求める。

四、尚前記原被告間の長女及び二女は被告の許で養育されている上原被告間に離婚の場合は両名の監護者を被告とする旨の合意が成立しているので、両名の監護者を被告と定めることを求める。

と陳述し、被告の監護料、財産分与の請求には異議がない。被告主張の原被告間に被告主張の如き財産分与等に関する合意の成立している事実は認めると述べ、

立証として甲第一乃至四号証を提出し、原告本人アルバート・アール・マキノンの訊問の結果を援用した。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実を認めると述べ、原告の本訴離婚請求の理由のあるときは、主文第三乃至六項同旨の判決を求める旨申立て、その申立の理由として、原被告間に離婚の場合には(1) 原被告間の長女、二女の監護者を被告となし、両名の監護料として両名が共に成年に達するまで毎月百五十ドルを支払う、(2) 財産分与として、(イ)アメリカ合衆国マサチユセツツ州ウエイマス・ローンパインパス二十五番地所在の動産及び不動産を被告の単独所有とする、(ロ)被告が現に所持する原告名義の戦時公債を現金化し、之を被告の所有とする、尚之がため、原告の委任状を被告に交付する、(ハ)現在有効の被告を受益者とする生命保険契約(保険会社名はナチユラル・サービスライフ・インシユランス・カンパニー及びニユーイングランド、ミユーチヤル・ライフ・インシユランス・カンパニー)につき原告の死亡の際に被告において保険金を受領しうるよう之を継続する。又これがため、受益者名義の変更をしない旨の合意が成立しているので、被告は原告に対し、右合意の如き監護料の支払と財産の分与を求める。

と述べ、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、公文書であるから真正に成立したものと推定すべき甲第一号証(婚姻証明書)原告本人アルバートアール・マキノンの供述及び被告の自陳を綜合すれば、原告主張の請求原因事実を認めるに十分である。

二、法例第十六条第二十七条第三項によれば本件離婚の準拠法はその原因事実発生当時における夫たる原告の本国法即ち原告の出生したアメリカ合衆国マサチユセツツ州の法律によるべきところ、一般に同国の州においては離婚につき当事者双方若しくは一方の住所の存する法廷地法が適用される旨規定されているので、法例第二十九条により結局本件については我が民法が適用される。而して前段認定事実によれば、被告は同人が原告の許を去つてアメリカ合衆国へ帰つた千九百五十四年八月十二日以降、悪意を以て原告を遺棄したものというべく、又原被告の婚姻は既に破綻しているものというべきであるから、日本民法第七百七十条第一項第二号に所謂悪意を以て配偶者を遺棄したときに該当し、且つ同条第一項第五号に所謂其の他婚姻を継続し難い重大な事由があるときにも該当するというべきである。従つて原告の本訴離婚請求は理由がある。

三、次に離婚の場合の未成年の子の監護者の指定、その方法は離婚を契機として生ずる親子間の関係に外ならないから、法例第二十条により父の本国法即ち本件に於てはアメリカ合衆国マサチユセツツ州の法律によるべきであるが、同州の法律(Annotated Laws of Massachusetts, chap. 208. sec. 28,33 )によれば、離婚当事者間の未成年の子の監護、養育、養育費の負担、何れの当事者が監護者となるかは、離婚の裁判に於て乃至はその後の裁判を以て、裁判所が子の利益を考慮して定め得べき旨規定する。又離婚配偶者間の財産の分与は、離婚の効果としてなされたものであるから、離婚の準拠法がその準拠法となるべきであり、従つて本件においては離婚の準拠法たる日本民法によるべきである。而して(1) 前段認定の如く原被告間の長女、二女は現在被告に養育されていること、(2) 原告本人アルバート・アール・マキノンの供述によれば、原被告間に、監護者の指定、その方法及び財産分与等について、被告主張の如き合意の成立していること、(3) 監護の方法、財産分与に関する被告の申立に対し、原告において異議がないこと等を斟酌し、原被告間の長女、二女の監護者を被告と定め、且つ養育料、財産分与についての被告の各申立は申立の通り之を定めるのを相当とする。

四、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木忠一 田中宗雄 柏原允)

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