東京地方裁判所 昭和34年(モ)1460号 判決 1959年11月10日
債権者 小川一誠
右訴訟代理人弁護士 松原正交
債務者 真城寿獲
右訴訟代理人弁護士 児島平
右訴訟復代理人弁護士 菅谷幸男
参加人 坂上精一
参加人 宮西フジ
右両名訴訟代理人弁護士 松原正交
主文
当裁判所が、昭和三十四年(ヨ)第二八〇号不動産仮処分申請事件について、同年一月二十六日した仮処分決定は、取り消す。
本件仮処分申請は、却下する。
参加人両名の参加申出は却下する。
訴訟費用は、参加によつて生じた分は参加人両名の負担とし、その余は債権者の負担とする。
この判決は第一項に限り、仮りに執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
(債権者の本件仮処分申請理由について)
一、先づ債権者が本件土地の所有者であるかどうかについて判断するに成立に争いのない甲第一、第四号証及び乙第九号証によれば、債権者は、昭和三十三年十月十五日、本件土地の所有者であった小柏達男から、本件土地を買い受け、同日、その旨の所有権移転登記手続を了したが、昭和三十四年四月三日、右土地を参加人両名に買却し、同月十四日、その旨の所有権移転登記手続を了したことが一応認められ、他にこれをくつがえすに足る資料はない。
それならば、債権者は、本件土地の所有権を有しないこととなるから、債権者の本件仮処分申請は、被保全権利に関する疏明を欠くこととなるのであるが、もとより本件においては保証をもってこれに代えることも適当でないから、進んで保全の必要性について判断するまでもなく理由がないものとして却下するほかない。
(参加人両名の参加申出の適否について)
二、参加人両名の参加申出が許されるのかどうかについて判断する。
保全処分命令に対する異議の申立は、それ自体訴の性質を有するものではないが、その訴訟手続については、口頭弁論による関係上、保全事件の特質に反しない限り、民事訴訟法の規定を準用するものと解すべく、同法第七十三条の準用についても、これを排斥すべきいわれはない。
しかしながら、右第七十三条による参加の要件については保全処分に対する異議訴訟の性格及び同法第七百四十九条、第七百五十六条の文意に徴すれば、一般民事訴訟法手続の場合と全く同一に扱うべきものではない。けだし、保全処分に対する異議の申立は、口頭弁論を開いて当該保全事件をその申請の当初に引き戻し、口頭弁論終結当時の状態において、該命令の当否を裁判することを求める申立であること、保全処分命令は、一般強制執行における債務名義の場合と異なり、保全命令の確定をまたずに、その成立と同時に即時執行力を生ずるから、保全命令には執行文を附記する必要がなく、ただ保全命令に表示された当事者の承継がある場合にのみ執行文を附記することを要するものである等のことからかく解すべきである。
そうすると、保全処分に対する異議訴訟における参加人が、同法第七十三条にいう「訴訟の目的たる権利を譲り受けたことを主張する」ときにあたる場合とは、単に債権者の被保全請求権の譲渡を受けたのみでは足らず、その承継執行文の附与を受けてその者の地位を承継したものと解すべきである。これを本件についてみると、参加人両名は債権者の所有に属した本件土地を買い受けたことを主張するのみで、本件仮処分命令について承継執行文を得ていないことは、参加人両名の主張自体により明らかであるから、本件参加の申立の点において参加人たる適格を欠くものといわなければならない。よつて、参加人両名の本件参加の申出は他の点について判断するまでもなく、不適法であるから却下すべきである。
(むすび)
三、よつて債権者の申請を認容してした主文第一項掲記の仮処分決定は取り消し、債権者の本件仮処分申請及び参加人両名の本件参加の申出はそれぞれ却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八十九条、第九十五条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を、それぞれ、適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 寺沢光子)