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東京地方裁判所 昭和34年(ヨ)2125号 決定 1960年4月08日

申請人 尾張三郎 外一名

被申請人 銚子醤油株式会社

主文

本件各申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

第一、当事者の求める裁判

申請人ら代理人は、被申請人は申請人尾張に対し金二十一万九十八円及び昭和三十四年三月以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り金二万一千円の割合による金員を、

申請人根本に対し金十六万二千七百七十円及び昭和三十四年三月以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り金一万六千円の割合による金員を、それぞれ支払えとの裁判を求め、

被申請人代理人は主文同旨の裁判を求めた。

第二、当裁判所の判断

一、申請人らは被申請人に雇傭され千葉県銚子市にある銚子工場に勤務する従業員であつたところ、被申請人は昭和三十年九月二十七日附で申請人らを含む十名の従業員を懲戒解雇したこと、申請人らを含む右被解雇者十名は右解雇を不当として当裁判所に従業員たる地位を保全するための仮処分命令を申請し(当庁昭和三一年(ヨ)第四〇〇七号)、当裁判所は昭和三十一年八月二十二日前記解雇の意思表示の効力を停止する旨の決定(以下第一次仮処分命令という)をなしたこと、被申請人は右決定に異議を申立て(当庁昭和三一年(モ)第一一〇六五号)、当裁判所は昭和三十三年七月十八日第一次仮処分命令中申請人らを含む四名にかかる部分を取り消し、且つ右四名の仮処分命令の申請を却下する旨の判決をなしたが右取消部分について仮執行の宣言を附さなかつたこと、申請人らは右判決を不服として東京高等裁判所に控訴を申立て(同庁昭和三三年(ネ)第一六〇七号)、現在同庁に係属中であることは当事者間に争いがない。

二、申請人らは、被申請人の異議申立に基いて第一次仮処分命令を取り消した判決には仮執行の宣言が附せられなかつたのみならず、この判決が未確定である以上、前記解雇の効力を失わせ、申請人らが従前どおり被申請人の従業員たる地位を有する状態を形成した第一次仮処分命令についての広義の執行力には消長がないことを根拠として、本件仮処分申請が当然認容されるべきものであると主張する。第一次仮処分命令のように仮の地位を定める仮処分の裁判は疎明又は保証によつて被保全権利とその保全の必要性の両者が存在することを一応認定した上、本案判決確定のときまでの間における当該権利の実現の遅延その他の法律上の平和を攪乱する現在の危険を除去防止するための暫定的法律状態すなわち仮の地位を形成するものである。従つて仮の地位を定める仮処分の訴訟物は被保全権利とその保全の必要性の双方又は一方が異る場合には同一ではあり得ないのであつて、かかる場合においては、仮処分申請を認容した先行裁判が後の仮処分申請事件に関する裁判所の判断を拘束するものでないことは当然である。

本件においてこれを見ると、第一次仮処分命令は被申請人の申請人に対する解雇の効力を停止することによつて申請人らが被申請人に対して雇傭契約上の諸権利を有する包括的な仮の地位を形成し、しかもこの形成にかかる法律状態に基く申請人らの満足を専ら被申請人の任意の履行に期待するものであるのに対して、本件仮処分申請は右雇傭関係の存続を前提として申請人らが被申請人に対して有すると主張する具体的な賃金債権を被保全権利としてその仮の行使の必要性があることを理由とするものであつて、両者の訴訟物は完全に同一ではないのである。さすれば当裁判所は第一次仮処分命令が先行しているからといつて当然その拘束を受け本件仮処分申請を必ず認容しなければならない訳のものではなく、本件につき被保全権利及びその保全の必要性の存否につき独自の立場から判断することができるものといわねばならない。

ところで申請人らは本件仮処分申請について被保全権利に関する疎明を提出しない旨明言しながらも、第一次仮処分命令の裁判書を疎明として提出している(甲第一号証)ので、先に第一次仮処分命令がなされたという事実によつて本件につき被保全権利の存在が疎明されることはないかという点に言及して置く必要がある。しかしながら上述のとおり第一次仮処分命令は異議判決によつて取り消されたのであるから、第一次仮処分命令がなされたということが本件における被保全権利の存在に関して持つ疎明力はそれだけ薄弱であることを免れないものというべく、このことは、異議判決中の第一次仮処分命令を取り消した部分について仮執行の宣言が附されたか否かによつて何ら異るところはないのである。要するに単に第一次仮処分命令がなされたということだけでは本件仮処分申請における被保全権利たる賃金債権について疎明があつたとは認められないのである。しかも保証を立てさせることによつて本件のような仮処分をすることも相当でないと考えるので、本件申請はいずれもこれを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原正憲 駒田駿太郎 北川弘治)

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