東京地方裁判所 昭和34年(ワ)2955号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と争点〕原告はその所有の本件土地を、昭和一二年四月一日被告に対し建物所有の目的で期間を二〇年と定めて賃貸したが、第一次請求として、右賃貸借契約は昭和三二年三月三一日期間満了し、同年四月九日原告が正当事由ある異議を述べたから終了したとして、被告に対し本件建物収去土地明渡を求めたほか、予備的請求として、代替家屋(但し借家)または一五〇万円の提供を条件として正当事由を補完し、新たに解約の申入をして、被告に対し右条件を受諾して本件建物を収去し本件土地を明渡すべきことを求めた。
判決は、右予備的請求について、代替家屋の提供は、その敷地が第三者の所有で原告の父が賃借しているものであり、また被告の畳職営業と住居とに適合していない等の点で、改修築、敷地利用等について将来競争の先ずる余地が考えられ、また被告の不安と採算上の不利益を考えても、正当事由を形成するには不十分であるとしたが、金銭の提供について次のように判示して、予備的請求を容れた。
〔判決理由〕そうとすれば、他に残された方途は金銭をもつて原告が被告の前記ぎせいを補う方法であるが、そのため適当な金額を判定するのに役立つべき適切な資料はなく、当裁判所の釈明にもかかわらず当事者双方はこれを十分に提供する手段を講ぜず、僅かに原告において明瞭な根拠を示すことなく一五〇万円の引越料支払いを申し出ているのみであり、被告は金額の如何にかかわらず、他に移転することを拒む意思を表明するのみである。しかし、原告が金銭支払をすることによつて右解約の正当事由形成の希望を有しているかぎりでは被告のぎせいが相当程度に補われ、右正当事由が形成され得るという客観的な条件を原告独自の判断で申し出たに止まり、原告の申し出た右金額及び被告の金銭受領拒否の意向にとらわれることなく、既存の不十分な資料と当裁判所が職務上知り得た知識及び公知の事実とからして確実を保し得る判定をもつて右正当事由の形成に足りると思料する原告の支払うべき金銭の額を算定することは当事者の申立範囲を超えるものではなく、それによつて不利な判断を得たとする当事者は資料の提供に欠けるところがあつたものとして忍ぶの外ない。以上見地に立つて、右金額の算定をするのに、……によれば、本件土地より若干離れた類似場所の借地権価格が一坪約三〇万円であつたとのことであるが、その正確な比較対照はできないので、その確実性を保するためにあえて減額して推定すれば、本件土地の借地権価格は少くとも二〇万円、計八〇万円を下らぬものと思われ、前記のとおり被告の借地権はなお存続しているので、被告が本件土地を原告に明渡すにおいては右価格相当の損失を被ることになる。次に被告の本件土地上の所有家屋は前記のとおりの建築経過を経ているが、そのまま経常的修補を加えて本件土地上で使用するにおいてはなお相当年数使用に耐えられるであろうことは明らかであるが、本件土地を明渡すためには、右家屋を最大限に利用するとしてもその移築が困難であろうことは敷地未定の現在明らかであつて、せいぜい取毀し材料の利用の外なく、新家屋建築が必要となるであろうから、その費用は確実を保するため最小限坪当り六万円とみても、現家屋と同程度の広さで合計一二三万円を要し、新築による耐用年数延長の利益を差引いても最小七〇万円は右新築による損失とみられる。その他被告が本件土地を明け渡す場合には移転先の調査、家財等の運搬、その間の営業休止等多くの物質上精神上の負担を余儀なくされるであろうが、原告において以上借地権の価格及び地上家屋新築による損失合計四五〇万円を被告に支払うならば、被告は忍ぶべきであり、前記その他の原、被告の諸利害を考慮して、原告において被告との間の本件土地賃貸借契約の解約をなすべき正当事由が形成されるものというべきである。ところで、右正当事由の認定は本件口頭弁論終結の時期を基準としてなされたものであり、その妥当性は将来長く維持され得るものでないから、原告の右金銭支払は本判決確定後三カ月以内になされるべきであり、原告が右期間内に被告に対し右支払の提供をしたときにおいて正当事由が発生するので、これによつて本件土地賃貸借解約申入の効果が発生し、被告は右金銭支払の提供を受けた日から六カ月経過後別紙物件目録記載の家屋を収去して本件土地を原告に明け渡すべきであり、もとより原告が右期間内に右支払の提供をしないときには遂に右解約の申入れも失効し、被告の右家屋収去、本件土地明渡の義務は発生しない。(畔上英治)