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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)6217号 判決 1962年7月18日

原告 前原康子こと 前原ハツ

右訴訟代理人弁護士 尾崎忠衛

被告 久保井浜子

同 久保井五郎

主文

被告久保井浜子は原告に対し別紙第一および第二物件目録記載の土地につき、所有権移転登記手続をせよ。

被告久保井五郎は原告に対し別紙第一物件目録記載の土地につき東京法務局大森出張所昭和二八年一〇月一六日受付第壱六〇〇六号地上権設定登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

本件土地がもと訴外久保井銀次郎の所有であつたことは当事者間に争がない。

まず、原告は右訴外人から、本件土地を譲り受けたと主張し、被告浜子は本件土地を譲り受けたのは訴外ジヨン・レオナルドであると主張するのでこの点について判断するに、成立に争いのない甲第一号証≪省略≫をあわせ考えると、原告は当時夫であつた訴外ジヨン・レオナルドと写真現像業を営むため、昭和二六年一二月頃から右銀次郎所有の土地の譲り受けを求め、同人と交渉していたところ、昭和二七年二月七日に至り、原告と右銀次郎との間に右銀次郎が同人所有の東京都大田区馬込町西二丁目八番地の四、畑六畝一一歩中国道に沿つて長く百坪を金二〇万円で地目が宅地に変更されたなら売渡す旨の契約がなされたことが認められ、これらの事実と成立に争いのない甲第四号証、同第五号証をあわせ考えると、後日右土地の地目は宅地に変更されたが、右銀次郎の申出により原告も同意して国道に沿つた部分を短くして奥行を長く一〇〇坪五勺を売買することに改め、翌二八年一〇月二日これを右地番より同番地の八宅地一〇〇坪五勺として分筆し、右契約は条件成就並に目的特定により完結され、所有権は原告に移転したことが認められる。甲第八号証によれば、本件土地上の建物に関する建築確認通知書、承諾書の名宛人が原告に変更される以前ジオン・レオナルドとなつているが、これのみでは右認定のさまたげとなるものではなく、その他この認定に反する証拠は何もない。

被告浜子が右銀次郎から、昭和二八年九月二二日、右土地を譲り受けたことを原因として、昭和二八年一〇月二日に自己のため所有権移転登記をしたこと、および右土地につき、同人の夫である被告久保井五郎のために、期間二〇年、賃料月額坪二円、工作物および竹木の所有を目的として東京法務局大森出張所昭和二八年一〇月一六日受付第壱六〇〇六号地上権設定登記をしたこと並に右土地が原告主張のとおりの分筆、合筆の経過を辿つて別紙第一、第二の土地となつたことは当事者間に争いがない。

そこで原告は右被告浜子の所有権取得登記の存在するにかかわらず前記売買契約に基く本件土地所有権の取得を被告等に対抗できるか否かについて判断するに、成立に争いのない甲第二号証≪省略≫を綜合すると、

訴外銀次郎は前記認定のとおり昭和二七年二月七日、本件土地を代金二〇万円で原告に譲り渡す旨予約したがその後右代金を不満足に思うようになり、原告に代金の増額、追加支払を求めたが拒否され、ために右銀次郎は原告の登記請求にも言を左右にして応じなかつたこと、そこで右銀次郎は同人の娘である被告浜子に本件土地を譲り渡し、銀次郎は前記売買契約に基き、また被告浜子は前所有者である父親銀次郎の意に従い右の要求に原告が応ずるならば原告に対し、所有権移転登記手続に協力する用意があることを明らかにしていること、その後も原告、原告の父前原増八、兄前原英篤等が右銀次郎を或いは被告浜子を訪ねて移転登記を求めたが、既定の代金に不満のある銀次郎、浜子は理由不明の損害金の支払を求め、或いは代金の増加支払を求めて原告等の登記請求に応じなかつたこと、その間原告は本件土地を譲り受けた後間もなく得た銀次郎の承諾書に基き、本件土地上に木造ストレート葺平家建工場兼居宅一棟、建坪二六坪を建築所有し、更に後日木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二二坪二合五勺を建築所有し、本件土地を使用しているが被告等はこれについて、石垣の一部取毀要求や耕作物の損傷に対する抗議等派生的なことを除き、建築それ自体につき何等異議をのべなかつたこと等が認められる。これらの事実によれば被告浜子は原告が所有権を取得したことを前提として種々の行動をとつているのであるから、かかる被告浜子に原告の登記の欠缺の主張を許すことは著しく信義に反し、却つて取引の安全を害するものというべく、結局、被告浜子は民法第一七七条に定める第三者に該当しないと解するのが相当である。

然らば原告のその余の主張について判断するまでもなく、原告は前記売買による本件土地の所有権取得をもつて被告に対抗できるものと言わねばならない。

よつて原告は右所有権に基き、登記簿上の記載を現在の真実の権利状態と合致せしめるため、被告浜子に対し、移転登記手続を請求する権利を有するものと言わなければならない。

次に被告浜子が被告五郎のために別紙第一物件目録記載の土地に関してなした地上権設定契約について、原告はそれが通謀虚偽表示であると主張するのでこの点について判断する。

成立に争いのない甲第四号証、同五号証によれば本件地上権設定契約は原告が訴外銀次郎より本件土地の所有権を取得した直後の昭和二八年一〇月一六日である事が認められ、当時既に原告が右銀次郎の承諾をえて、木造スレート葺平家建居宅兼工場一棟建坪二六坪を建築して使用しているにもかかわらず、その後も何等それに対し異議が述べられていないこと前記認定のとおりで、証人前原増八の証言によれば、被告五郎は本件地上権を取得して八年後の今日本件第一の土地を使用したことがないのみならず第二の土地の全体についても荒れるにまかせられていることが認められ、被告両名が夫婦であることや、被告浜子が前記認定のようないきさつでその所有名義をえていること等を考えあわせると本件地上権設定契約は被告浜子が被告五郎と通謀して原告の本件土地に対する正当な権利を妨げる目的で恰も地上権設定契約を締結したかの如く、仮装して登記におよんだものであることを推認しうべく従つて右被告両名間の右地上権設定契約は無効である。よつて原告は所有権に基き被告五郎に対し右地上権設定登記の抹消登記手続を求める権利を有するものと言わねばならない。

よつて原告の本訴請求は全て正当であるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三好徳郎)

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