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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)6807号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔争点〕原告は証券業者登録原簿に登録せられて証券業を営んでいる会社、被告三村芳夫は昭和二七年九月上旬原告に雇われ、昭和二八年二月ころまで原告会社に勤務し、有価証券の売買、募集もしくは売買取引の委託の勧誘に従事していたもの、被告百瀬文雄、同三村誠次郎は三村が原告に雇われるに際し、原告との間で三村が勤務中その行為により原告に損害を生ぜしめたときは、これを同被告と連帯して原告に賠償する旨の身元保証契約をした。被告三村は右義務に従事中その得意先となつた訴外川瀬為吉から同人が原告に対する有価証券売買等の注文は三村芳夫名義でして欲しいとの依頼をうけ、その旨原告に報告しその了承を得爾来、同人の注文は同被告名義で原告に通じ、原告も同被告が同被告名義でする有価証券売買等の注文はすべて川瀬からの注文として処理し、同人との間に決済してきた。ところが被告三村芳夫はこれを利用して自己の思惑から同被告自身が右有価証券の売買取引をしようと考え、川瀬からなんの買注文の依頼もなかつたのに従前同人からの注文を原告に通じていたのと同様の形式で原告に対し同人名義で訴外安田火災海上保険株式会社の新株式二万株の買注文をした。原告は右買注文は川瀬がしたものと信じ、昭和二八年二月一二日ころまでに代金合計一四、六〇万二、五〇〇円で買付け、二万株の申込証拠金領収証を川瀬に提出し支払を求めたところ、同人から買注文をした事実なしということで代金支払を拒絶され、はじめて原告は被告芳夫の思惑買いであることを知り、右新株式を売却せざるをえなくなり同年三月四日これを売却したが、値下りのため差額金七一〇万二五〇〇円の損害をこおむり、被告芳夫の不法行為によつて原告は同額の損害をうけた。よつて原告は被告芳夫およびその連帯保証人である他の被告らにたいし各自金七一〇万二五〇〇円の金員の支払を求めると主張した。

被告三村、同百瀬は身元保証契約の成立を争つたほか、仮定抗弁として被告らの責任は身元保証に関する法律第五条による減免の事由があるとして、川瀬が外務員としての登録をうけてをらず、原告の同人に対する監督が十分でなかつた等の点をあげて賠償額の減免を主張した。

判決は証拠によつて原被告間に原告主張のような身元保証契約の成立を認めたが、原告会社の内部の規則が乱脈をきわめていた外務員の職務に伴う事故や弊害防止の措置がなに一つ採られた形跡がなかつたこと、身元保証契約成立の経緯、その他を考慮して、被告らの賠償額を大巾に減額し僅か一〇万円で足りる旨判示したが、その説明の詳細はつぎのとおりである。

〔判決理由〕証券業者がその使用人を外務員として前記のような有価証券に関する業務に従事させるには当該使用人の氏名、住所、経歴等を大蔵大臣に届出るとともに(証券取引法第五六条)、東京にあつては東京証券業協会(証券取引法第六七条により、東京の証券業者が有価証券の売買その他の取引を公正ならしめ、投資者の保護に資する目的で組織した団体で大蔵大臣により登録させているもの)にも前同様の登録申請書を提出して、同協会の審査を経たうえで同協会備付けの外務員登録原簿に登録されること(同協会制定の公正慣習規則第四号有価証券外務員に関する規則第五条、第一一条)を要するとされているところ、原告は被告三村芳夫を有価証券外務員そのものとしてではなく同見習として雇用し、前示手続、登録を経ることなく(同被告の届出、登録がされていないことは当事者間に争がない)、又、必要な知識、経験を得るための研修等を終えることなく、未経験の同被告を、入社後直ちに正規の外務員と全く同様の職務に従事させていた。しかもその間その職務に伴う事故や弊害防止の措置はなに一つ採られた形跡はなく、会社内部の規制は乱脈をきわめていた。とくに同被告は川頼の係として同人の注文を会社に通ずるについて同被告名義でしたのであるが、このように顧客の注文を外務員(見習)名義ですることは、注文主を混迷ならしめ、その間外務員がこれを利用して自己のため思惑をする危険を生ずることはみやすいところであるから(この種取引において、顧客がしばしば仮名を使用するとしても、その場合はそれ自体注文主の注文として特定するのであつて、外務員の名義を使用するときとは、その危険性において同日の論でない)、証券業者たる原告としては、たとえ顧客の要請から出たものであるとしても、これを禁止すべきであり、仮にこれに応じたとすれば注文主の混迷をふせぐべき特段の用意があつてしかるべきであるのに、容易にこれを了承したのみならず以後、漫然同被告名義の注文はすなわち川瀬の注文なりとして、その売買報告書も同被告名義で作成し、かつ、川瀬に直接送付するのではなく、同被告に手渡していたため、被告三村芳夫が川瀬からの注文のように装つて自己の注文をしてもこれを発見しうる方途ももたず、直接その真偽を確かめる措置も講じなかつた(もつとも本件買注文については、原告は、その注文を履行したのちに、被告三村芳夫に、川瀬から買付証明書を貰つてくるよう命じ、そのころ、川瀬名義の買付証明書を同被告から受取つたことはあるが、これ右注文を履行した後であるうえその注文をした同被告に命じているのであつて、およそ調査として無意味であり、右川瀬名義の買付証明書は、被告三村芳夫の偽造にかかるものであると認められる)。その後原告は川瀬を相手方として損害賠償の訴を東京地方裁判所に提起したが、昭和三四年に同裁判所においてその請求を棄却されるや、ようやく、被告三村芳夫の不法行為責任を追求することとし、同年八月身元保証人である被告らに事の次第を通知するとともに、本件を提起したものであるが、原告会社から被告らに対しかような通知がされたのは、実に身元保証契約後七年近くの後である。一方、被告百瀬文雄は被告三村芳夫の義兄、同三村誠次郎は同三村芳夫の叔父であり、当時、被告三村芳夫の東京在住の親族としては、同被告の兄弟の外には被告ら以外にはなく、かような関係で、被告三村芳夫から就職の為に身元保証の依頼を受けるや、親族の義理上拒みがたくこれに応じたものであるが、そのさいには同被告から、有価証券外務員見習として証券会社に勤務するということを聞いたのみで、その職務内容は単に有価証券売買の勧誘等に用いるパンフレツト等を配布するが如きものであろうと軽く考え、又、身元保証をすることにより如何なる責任を負うにいたるかにも深く思いをいたすこともなかつた。以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る的確な証拠はない。右事実によつて考えると、原告は未経験な被告三村芳夫をその所定の手続をとることなく法規に違背して外務員と同様の職務に従事させたものであつて、この点につき、過失があるのみならず、その間社内の規律は乱脈をきわめ、なんら不正防止の為に有効適切な監督手段をとらず、とくに顧客の注文を外務員名義で受けるというそれ自体不正行為を招き易い注文をあえて自ら承認しその結果生ずることあるべき事故防止のための具体的方策を考慮することなく、漫然放置したものというべきであつて、ひつきようその損害の大半は原告自ら招いたものといつても過言ではない。この点に被告らが親族間の情誼上拒みがたく、かつ、軽卒に本件身元保証に応じ、しかも多年経過の後はじめて本件請求を受けたものである等の事実をあわせて考えると、被告らの賠償責任は未だ全然これを免ずるには足らないとしても、相当大幅に減額されてしかるべきものである。結局、被告らの賠償責任は金一〇万円の限度に止めるのが相当であると解する。(浅沼武 中川幹郎 荒木恒平)

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