大判例

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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)7154号 判決

原告 常磐相互銀行

証拠を綜合すれば次の事実が認められる。すなわち、訴外木元九平は司法書士であるが、昭和二十九年十二月初旬頃東京法務局世田谷出張所において、かねて知合の被告と共同で収入印紙の販売を行なうことを思いたち、被告に対してその仕入資金として金百万円の借受方の斡旋を依頼したこと、被告は質屋業を営み、右印紙の共同販売については程なくこれを拒否したが、右資金借入の斜旋は承諾し、過去十年余の取引があり且つその無尽契約加入の世話をしてきた原告銀行からこれを借り受けることとし、木元の所有家屋を担保に供するため同人から登記簿謄本、登記済権利証、印鑑等を預かつたこと、被告は原告銀行と交渉の末、木元に原告の無尽二口(金六十万円及び金四十万円)に加入させると共に、同月末頃金五十万円、翌三十年一月十日頃金三十万円を原告から受領し、何れもこれを木元に交付したこと、以上の事実が夫々認められ、右各事実からすれば、原告主張の本件貸金五十万円は、木元が被告の手を経てこれを受領したものであることは疑問の余地がない。

そこで本件貸金につき、果して被告が連帯債務を負担したものかどうかについて検討するのに、被告本人尋問の結果によれば、木元の前記所有家屋については、当時東都信用金庫のために抵当権が設定されていたので、被告は原告銀行池袋支店長と協議の結果、本件借受金をもつて右抵当権を抹消させ、その上で右家屋を原告のために担保に供することとし、その意味で被告は木元から前記登記関係書類、印鑑等を預かつたことが認められるところ、証拠によれば、本件貸金については、その理由は判明しないが、木元の家屋は担保に供されなかつたことが認められる。しかして、証人木元九平の証言によれば、元来木元は原告銀行と取引はなく、またその関係者とも面識がなかつたため、その手続一切を被告に委任し、金員受領の際も原告関係者と全然面接していないことが認められるから、仮りに木元が単独で本件金員を借り受けたものであるとすれば、木元の家屋が担保に供されなかつた理由は兎も角として、原告は全然面識のない木元に対して、ただ無尽二口に加入させたのみで無担保のまま金五十万円を貸し付けたことにならざるを得ず、かくの如きは銀行業務の実態を無視することになるであろう。のみならず、証拠によれば、本件貸金については、昭和二十九年十二月二十八日付木元と被告の共同振出名義の額面金五十万円、満期昭和三十年一月二十六日、支払場所原告銀行池袋支店なる約束手形(甲第一号証)が原告に差入れられているところ、右手形の記載事項のうち、木元及び被告両名の住所、氏名は原告銀行行員である神保道が記載し、その各名下の印影は同人が被告から各印鑑を借り受けて被告の面前で押捺したものであることが認められ、しかして被告本人尋問の結果によれば、本件以外に被告が当事原告から金員を借り受けたことはなく、従つてその頃被告が自己の印鑑を原告に預け、或いは貸与したこともなく、またその必要すらなかつたことが認められるのであつて、してみると右手形は偽造にかかるものではないといわなければならない。

以上認定したところに徴して考えると、原告は被告との長年の取引を通じて被告の人物、資力その他を信用したからこそ本件金五十万円を貸付けることとして被告に交付したのであり、従つて結局は木元がこれを受領して自己の用途に供したものであつたにせよ、少くとも原告に対する関係では被告が連帯債務を負担するものであつて、前記手形もその意味で原告に差入れられたと解するのが相当である。

もつとも、被告本人の供述によると「被告は昭和三十一年六月頃原告から前記手形の存在を始めて聞知し、原告銀行渋谷支店において支店長、次長、木元等と協議した結果、自分が無関係であることが明確になつた。しかしながら、手形の回収乃至自己に責任のないことの証明書をとることについてはこれを失念した。」というのであり、また証人木元は「その際自己名義の約束手形を振り出し、また念書を作成して原告に渡した。ただ念書の内容は記憶していない。」と証言している。そして甲第一号証には『皆済』印が一旦押捺された後、これが抹消されているが、右『皆済』なる記載を、被告が右手形関係について何らの責任がないことを表明するために、このような表現を籍りたものと解すれば、証人木元及び被告の右供述に符合するが如くである。しかしながら、被告は質屋業を営むものであつて、本件貸金について自己が無関係であることが判明しながら、手形の回収乃至何らかの証明書の交付を要求しないというようなことは通常考えられないところであるばかりでなく、况んや右『皆済』印が抹消されていることからすればなおさらである。

原告の請求は残元金及び商法所定の割合による限度において正当。

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