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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)8621号 判決 1963年7月15日

原告 帝都高速度交通営団

被告 箱石千代子 外二名

主文

一、被告箱石千代子は原告に対し別紙目録(一)の工作物を明渡し、かつ昭和三十三年七月一日から右明渡済みに至るまで一カ月金一万八百円の割合による金員を支払え。

二、被告小林藤太は原告に対し別紙目録(二)の工作物を明渡し、かつ昭和三十三年七月一日から右明渡済みに至るまで一カ月金七千八百五十円の割合による金員を支払え。

三、被告永井久信は原告に対し別紙目録(三)の工作物を明渡し、かつ昭和三十三年七月一日から右明渡済みに至るまで一カ月金一万四千五十円の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用は原告と被告箱石千代子との間に生じた分は同被告の、原告と被告小林藤太との間に生じた分は同被告の、原告と被告永井久信との間に生じた分は同被告のそれぞれ負担とする。

五、この判決の第一項は原告が被告箱石千代子に対し金七万円の担保を供するとき、第二項は原告が被告小林藤太に金七万円の担保を供するとき、第三項は原告が被告永井久信に対し金八万円の担保を供するとき、それぞれ仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一項ないし第四項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は地下鉄新橋駅の構築物および別紙物件目録(一)ないし(三)の工作物を所有する。

二、右目録(一)ないし(三)の工作物の所有権取得の経過は次のとおりである。

(一)  原告は、昭和三十二年四月一日に被告等と各別に次の契約を締結した。この契約は賃貸借契約ではなく、仮りに賃貸借契約としても賃貸借の目的物が建物でないから借家法の適用はない。

(1)  原告は別紙目録記載の地下鉄新橋駅の別紙図面(1) の場所で被告箱石にパーマネント及び結髪業を、同図面(2) の場所で被告小林に軽飲食業を、同図面(3) の場所で被告永井に理髪業を夫々行わせる。

(2)  契約期間は、昭和三十二年四月一日から、同年九月末日までとし、協議の上期間を延長することができる。

(3)  原、被告等は何れも契約期間中に本契約を解除できる。この場合には少くとも七日以前に相手方に通告すること。

(4)  本契約が終了したときは、被告等が原告の許可を受けて施設した物件は原告の所有に帰する。

(5)  被告等は毎日の売上金を閉店時に原告に納入し、原告は原月の売上総額の一割に相当する金員を控除した残額を被告等に交付すること。但し当分の間、被告箱石については一ケ月の売上総額を金十万八千円、被告小林についてはそれを金七万八千五百円、同永井についてはそれを十四万五百円と夫々見積り、被告等は原告に対しその一割に相当する金員すなわち被告箱石は金一万八百円、被告小林は金七千八百五十円、被告永井は金一万四千五十円を、前月の二十五日までに原告に持参して支払うこと。

(二)  右契約締結後、右各場所において、原告の許可を得て被告箱石は別紙目録(一)の、被告小林は同目録(二)の、被告永井は同目録(三)の各工作物をそれぞれ施設し、営業を始め、前記特約金員を原告に支払い、かつ契約期間は、その後、原告、被告等協議の上、昭和三十三年六月三十日までとした。

三、前記(3) の解除の約定により、原告は昭和三十三年三月三十一日、被告等に対し、右契約を同年六月三十日を以て解除する旨口頭で申入をした。そこで被告等との右各契約は昭和三十三年六月三十日の経過とともに解除により終了し、且つ約定により前記工作物は原告の所有に帰した。

四、しかるに被告等は右解除後も引続き前記本件各工作物を占有している。

五、そして被告等の本件工作物の不法占有により原告は昭和三十三年七月一日以降右明渡済に至るまで前記約定納付金相当、即ち被告箱石については一カ月金一万八百円、被告小林については一カ月金一万四千五十円の割合による損害を蒙り居り又蒙るべきものである。

六、仮に右金額が損害金として不相当ならば予備的に不当利得を主張する。即ち被告等は昭和三十三年七月一日以降右明渡済に至るまで原告所有の右各場所を無権原に使用することに因り原告の損失において法律上の原因なく、少くも右納付金相当の利得を得又得べきものである。

七、原告は本件停車場構築物及び前記工作物の所有権に基き、被告等に対し各右工作物の明渡を請求し、且つ被告等に対し一次的に右損害の賠償、二次的に右各不当利得の返還を請求する。

被告等は答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因事実のうち、一項の原告が地下鉄新橋駅の構築物を所有すること、二項(二)の被告等が原告主張の場所に原告の許可を得て原告主張の工作物を施設して営業を始めたこと、四項の原告主張の日より被告等が右各工作物を引続き占有していることは認め、その他の事実を否認する。

二、原告主張の各工作物は被告等の所有である。

すなわち、被告等は次の約定で原告主張の場所を原告から賃借し、これに各工作物を設置して所有しているのであつて、原告主張の契約は存在しない。

(一)  被告箱石は原告から別紙物件目録(一)の(1) の場所を左記約定により昭和三十年四、五月頃賃借した。

(1)  期限の定なし。

(2)  目的 パーマネント美容院店舗に使用。

(3)  賃料は月額金一万八百円、毎月二十五日限り翌月分前払。

(4)  店舗の造作(原告主張の工作物にあたる)は原告の指示をうけて被告箱石が費用全額を負担する。

(二)  被告小林は原告から別紙物件目録(二)の(1) の場所を左記約定により昭和二十一年八月頃賃借した。

(1)  期限の定めなし。

(2)  目的 飲食店営業店舗に使用。

(3)  賃料は当初月額金千百円。現在金七千八百五十円。毎月二十五日限り翌月分前払。

(4)  店舗の造作(原告主張の工作物にあたる)は原告の指示をうけて被告小林が費用全額を負担する。

(三)  被告永井は原告から別紙物件目録(三)の(1) の場所を左記約定により昭和二十三年頃賃借した。

(1)  期限の定めなし。

(2)  目的、理髪業店舗に使用。

(3)  賃料は現在月額金一万四千五十円、毎月二十五日限り翌月分前払。

(4)  店舗の造作(原告主張の工作物にあたる)は原告の指示をうけて被告永井が費用全額を負担する。

三、仮りに原告主張のごとき契約が原告被告等間に存するとしても、

(一)  右契約は借家法の適用ある賃貸借契約である。

即ち、契約に定められている原告主張の納付金なるものは売上歩合とは名のみで本件場所を店舗用に使用することに対する確定した賃料である。而も本件工作物の所在場所の構造、本件工作物の位置構造使用状態から見てあきらかなように、右契約はその表現呼称にかかわらず借家法の適用ある賃貸借契約である。

(二)  そこで借家法により原告主張のような契約期間(一年未満)は期限の定めなきものとなり又原告主張のような解除の特約、契約終了による店舗工作物(造作である)の所有権取得の特約は、いずれもなさざるものとみなされる。

(三)  従つて、仮りに原告主張の解除の申入の事実があつたとしてもその効力を生じないし、右契約終了を原因として本件店舗用工作物の所有権を原告が取得する理由もない。

証拠<省略>

理由

原告が、昭和三十二年四月一日に被告等と各別に原告主張の内容の契約を締結したこと(この契約の法律上の性質については次に述べる。)、右契約の期間が、その後原告と被告等との各別の合意によつて、昭和三十三年六月三十日までとなつたことは、成立に争のない甲第一ないし第三号証、証人山田清一の証言によつて認めることができる。

原告は右契約を無名契約であると主張し、被告等は賃貸借契約であると主張するので、その点について判断する。

本件契約においては、原告が請求原因二(一)の(1) ないし(5) に主張している内容の条項の他に(イ)被告等の営業する場所は原告の指定するところであり、かつ、原告はその指定をいつでも変更できる(ロ)原告は被告等の販売する商品が不適当と認めたときはその販売を中止させ、又は代品の販売をさせることができる(ハ)被告等が使用人を雇用、交替、解雇するときは原告に文書で届出なければならず、かつ、原告が被告等の使用人を不適当と認めたときは被告等はその使用人を交替させなければならない(ニ)被告等の販売した商品について購買者から返品、取替その他の申出があつたときは原告がこれを処理できる(ホ)被告等が休業するときは、あらかじめ文書で原告に届出て許可を受けなければならない(ヘ)被告等が営業場所の模様を変更するときはあらかじめ原告の許可を受けなければならない等の条項が定められていることが、甲第一ないし第三号証によつて認められる。これらの条項によれば原告は被告等の営業にかなり強く干渉することができるけれども、証人吉田正太郎の証言、被告小林藤太、同永井久信各本人尋問の結果によれば、被告等は原告の従業員でもなければ単に原告から事業の経営を委任されたものではなく、各営業の主体であると認めることができる。更に上記証言被告等本人尋問の結果証人山田清一の証言および検証の結果によれば、被告等の営業場所は営業およびそのための工作物の性質上、契約当初から固定して居り、前記(イ)の条項に拘らず簡単に変更することができず、そのことは原告と被告等も了解して居り、地下鉄新橋駅の構築物の固定した部分の使用の対価として確定額の金員を支払つていることを考えると、本件各契約は地下鉄新橋駅の構築物の別紙図面(1) ないし(3) の部分についての賃貸借契約と認めざるを得ない。

そこで右賃貸借契約の目的物である前記各構築物部分が借家法にいう建物であるか否かについて判断する。検証の結果によれば前記各構築物部分はいずれも原告の経営する地下鉄の新橋駅の通路の一部であり、そこを利用して壁等を設け建物として利用しているのであり、本来建物として永続的に使用され得るものではなく(この点で本来の建物でなくても一旦建物として使用を開始すれば本来の建物と同様に使用できる高架線下の工作物と異る。)、本件各構築物部分は借家法にいう建物とは認められない、従つて本件契約に借家法の適用はない。

尚、被告等が答弁二の(一)ないし(三)に主張する契約を認定するに足りる証拠はない。(被告箱石との間の契約については、成立に争いのない甲第五号証によつて認められる契約は原告と被告箱石を代表取締役とする有限会社レデイ商事との契約であり証人吉田正太郎、同鹿島利雄、同中谷弘の各証言もこの契約について述べているに過ぎず、被告小林との契約については、同被告本人尋問の結果、証人渡辺三省の証言によつても、又、被告永井との契約については、同被告本人尋問の結果、証人中谷弘の証言によつても、いずれも認定することはできない。)

以上に述べたところから明らかなように、原告は被告等との間の本件各契約を七日以上の予告期間を以て解除することができ、そうして右契約が終了した際被告等が原告の許可を受けて施設した物件は原告の所有に帰す訳である。ところ、原告が原告の従業員訴外山田清一を通じて昭和三十三年三月三十一日に同年六月三十日を以て右各契約を解除する旨同被告等に申入れたことは証人山田清一の証言によつて認められるから右各契約は昭和三十三年六月三十日の経過によつて終了し、かつ、別紙物件目録(一)ないし(三)の工作物が原告の許可を受けて被告等の施設したものであることは当事者間に争いがないから、原告は右契約の終了と同時に右工作物の所有権を取得したというべきである。(右各工作物の部分をなす地下鉄新橋駅の構築物が原告の所有に属することは当事者間に争いがない)

そして、被告等が右工作物を右契約終了の後も引続き占有していることは当事者間に争がなく、他に被告等の占有権限について主張、立証がない以上被告等は原告に対しその占有する右各工作物を明渡すとともに、契約終了の日の翌日である昭和三十三年七月一日から明渡ずみに至るまで不法占有として損害金を支払わなければならず、その額は特に反証のない限り本件各契約によつて被告等が原告に支払うべき金額、すなわち、被告箱石については一カ月金一万八百円、被告小林については一カ月金七千八百五十円、被告永井については一カ月金一万四千五十円の割合の額となる。

よつて原告の請求をいずれも正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中宗雄 三枝信義 菅野孝久)

目録

(一)一、存在場所 東京都港区芝新橋一丁目八番地 帝都高速度交通営団地下鉄ストアーのうち別紙図面(1) の場所

二、構造 天井、奥壁及び床は地下鉄通路部分の鉄筋コンクリート部分を利用して、これに塗料を加工し、外部の側壁は硝子及び人造大理石

三、面積 間口二十三尺〇寸、奥行八尺三寸、この坪数五坪三合

(二)一、存在場所 同所別紙図面(2) の場所

二、構造 天井、奥壁及び床は地下鉄道路部分の鉄筋コンクリートを利用し外部の側壁は硝子張、ベニヤ板張及び木製衝立式間仕切で設置

三、面積 間口二十尺四寸、奥行九尺九寸、この坪数五坪六合一勺

(三)一、存在場所 同所別紙図面(3) の場所

二、構造 天井、床及び奥壁は地下鉄道路部分の鉄筋コンクリートを利用し外部の側壁は木製衝立式間仕切、硝子張及びタイル張で設置

三、面積 間口三十三尺〇寸、奥行七尺二寸、この坪数六坪六合

図<省略>

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