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東京地方裁判所 昭和34年(行)119号 判決

○当事者

原告

黄色合同株式会社

右代表者代表取締役

王長徳

右訴訟代理人弁護士

和泉芳郎

被告

東京都知事東龍太郎

右指定代理人東京都事務吏員

三谷清

竹村英雄

○主   文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

○事   実

(当事者双方の申立)

第一 原告訴訟代理人は、次のような判決を求めた。

一 被告が原告に対し、別紙物件目録記載の建物について、昭和二七年五月一二日付をもつてした建築物除却命令は、無効であることを確認する。

二 訴訟費用は、被告の負担とする。

第二、被告指定代理人は、次のような判決を求めた。

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は、原告の負担とする。

(当事者双方の主張)

第一、原告訴訟代理人は、請求の原因及び被告の主張に対する反論として次のとおり述べた。

一 別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)は、原告の所有であるところ、被告は原告に対し、昭和二七年五月一二日付をもつて、「同年七月一〇日正午までに右建物を除却すべきことを命ずる」旨の建築物除却命令(以下本件除却命令という。)をした。

二 しかしながら、右除却命令は、次の理由により無効である。

(一) 本件除却命令によると、本件建物の除却を命ずる理由は「本件建物が、道路占用許可条件、河川法第一七条、第一八条、建築基準法第六条、第四四条、第六一条に違反しているから旧道路法(大正八年四月一一日法律第五八号、以下同じ。)第五一条、河川法第二〇条、第二二条、建築基準法第九条により除却を命ずる」というにある。ところで、建築物の除却を命ずるがごとき行政処分においては、除却を命ずる建築物のいかなる部分がいかなる法令に違反するか、すなわち各違反事実を各法令の構成要件ごとに明らかにすべきであるのに、本件除却命令には、このような記載がないから本件建物全部について、右各法令違反があるものと解せざるを得ないのであるが、本件建物のうち、鉄骨リブラスコンクリートブロツク造りの二階以下の部分については、昭和二六年三月二九日付をもつて建築確認通知書が交付されており、かつ階数は二階以下で耐火建築であるから、少くともこの部分については、建築基準法第六条、第四四条、第六一条違反の事実はなく、また、本件建物のうち河川に張出した木造部分(木造二階建延べ坪三〇坪)については旧道路法の適用はなく、また、木造部分を除く本件建物の敷地(以下本件土地という。)については、橋台敷地として旧道路法にもとづく道路占用許可の問題はありうるが、河川占用許可をうけるべき筋合いのものではないから河川法の適用の余地はないのである。しかるに、被告は、前記のごとく、本件建物全部について、右各法令違反の事実があるとして本件除却命令をなしたが、同命令にはこの点において重大かつ明白なかしがある。

(二) 仮に、右主張が認められないとしても、本件除却命令には、次のような重大かつ明白なかしがある。

(1) 本件建物は道路占用許可条件に違反しない。すなわち、本件建物の鉄骨リブラスコンクリートブロツク造りの部分の敷地七九、二三平方メートル(約二九坪二合)は、汐留川にかかる土橋の橋台敷地たる国有地で、道路の附属物として、道路法により国の機関である被告の管理にかかるものであるが、昭和二四年ごろは、戦災復興のいちじるしい周囲の状況にもかかわらず、その地上に港区所属の汚いバラツク建ての建物や、大衆雑誌の広告塔が存在していて、町の美観をそこなつていたので、原告は、右土地に将来建物を建築する目的で、被告に対し本件土地の占用許可願いを提出したところ、被告の部下で当時東京都建設局道路課長であつた滝尾達也らは、建築目的で右土地を占用使用させるについては、港区の右バラツク建ての建物を他に移築するとともに、同建物の居住者である須賀宇太郎に代替家屋を提供し、さらに広告塔の所有者であるロマンス社や、同広告塔による広告の施行者であるルビナー社より権利を買い取つて本件土地をさら地にしなければならない旨を述べたので、原告はその要請に応じ、総計金二、二五〇、〇〇〇円を費してこれを実行し、占用許可のための障害を除去したところ、被告は昭和二五年三月三〇日原告が本件土地に将来建物を建築することを認容した上で、とりあえず、材料置場とい名目で、期間は同年四月一日より昭和二六年三月三一日までの一年間、使用料は金七、二八〇円として右土地の道路占用を許可した。そこで、原告は本件建物の建築の準備を整え、東京都建築主事に対し、本件建物のうち鉄骨リブラスコンクリートブロツク造り地下一階地上二階建ての部分の建築確認申請をなしたところ、東京都建築局指導課班長新館正雄は、右建物の敷地の使用条件をまとめる必要があるとして、原告会社の代表者王長徳を伴い、同建設局の滝尾課長をおとずれ、敷地の使用条件を尋ねたところ、同課長は、本件土地に建築するも支障なしとの回答をしたので、同建築局は、建築主事大河原春雄名義をもつて、前記道路占用期間の満了に先立つ昭和二六年三月二九日付をもつて原告に対し建築確認通知書を交付し、同通知書には、右建築が敷地、構造及び建築物に関する法令に適合するものであることが明記されていたので、原告はそのころ、右申請の部分を建築した。以上のように、原告が本件土地上に建物を建築することは、あらかじめ、被告の諒解していたところであり、また占用の期間についても、右のごとく建築主事が本件建物の鉄骨の二階以上の部分について建築確認をするに際して、わざわざ道路課長に本件建物の敷地使用条件につき尋ね、同課長より支障がない旨の確答を得た上で、原告に対し右建築確認通知書を交付したものであつて、建築局といい、道路課といい、また建築主事といい、帰するところは同一行政主体にほかならないから、右建築確認通知書の交付をもつて、被告は、原告に対し前記道路占用許可の期間の更新をなし、さらに、占用目的が、堅固な建物建築を目的とするものであることを確認したものというべきである。したがつて本件建物はなんら道路占用の許可条件に反するものではない。仮に、しからずとするも、原告は、昭和二五年三月三〇日、被告より本件土地を、将来堅固な建物を建築し、所有する目的で、期間の定めなく、賃料年金七、二八〇円の約をもつて賃借して本件建物を建築したのであるから、本件除却命令には、重大明白な瑕疵があり、同命令は無効である。

(2) 本件建物のうち三階部分の建築は建築基準法第六条、第四四条、第六一条に違反しない。

原告は、前記建物部分の建築後、狭隘のため三階を増築する必要があつたので、昭和二六年一〇月二〇日ころ、被告の関係方面の了承を得た上で増築を始め、同年一一月二〇日建築主事あてに右増築部分の確認申請書を提出し、そのころ三階部分の増築を完成した。そこで同年一二月一〇日竣工届をしたところ、同月二〇日、建築主事大河原春雄より右建築の確認をすることに決定した旨の通知を受けたが、いかなる理由によるのかまだ増築確認通知書は発せられていない。しかしながら、建築主事が右増築確認をするについて、なんらの支障もなかつたことは次のような事情によつて明らかである。すなわち、原告は、前記のごとく、被告の関係方面より事実上増築について了解を得た上で、これに着手し、右工事の進行については被告の関係方面も熟知していた(工事進行中に建築局指導班長新館正雄が三階のバラスの検査のため原告会社を訪れている。)のであるから、もし増築が被告主張のように建築基準法に違反し、確認し得ないものであるならば、右工事を知つた際、速かに増築工事の中止命令なり、それに相当する指示をなすべきであり、このことは、同法第六条第三項が「建築主事が建築確認申請書の適法性を審理し、適法性なしとするときは、申請受理のときから七日以内に対し、文書をもつてその旨を通知しなければならない。」と規定している趣旨からしても当然であるのに、原告はこのような通知を受け取つた事実はないばかりか、かえつて、前記のごとく、増築工事の竣工後、建築主事より増築確認申請に対し確認をすることに決定した旨の通知を受け取つているのである。以上述べた事情によつて明らかなように本件建物の三階増築について、確認をなすにつきなんらの支障もなかつたにもかかわらず、いたずらに確認通知書の発行を遅らせ、増築工事の竣工後に及んで、突然その確認のないことを理由に、すでに完成した堅固な建物の除却を命令するがごときは、行政権の濫用として許されないものというべく、右三階増築部分が建築基準法第六条、第四四条、第六一条に違反するとなし同法第九条に基づき除却を命ずる被告の本件処分には重大明白な瑕疵があり、同処分は無効である。

(3) 本件建物の河川上増築部分(木造二階建延べ坪三十坪)は建築基準法及び河川法に違反しない。すなわち、原告は、昭和二六年一一月二〇日のころ、東京都消防庁及び同建築局指導課の係員より、鉄骨建物が二階以上の場合は人口が二つ以上なければならないから、本件建物の敷地に接する汐留川上に非常用桟橋を作るよう命令され、さらにその構造についても指示をうけたので、同月二四日、本件建物の非常用桟橋として、指示された構造どおりの木造二階建て延べ坪三〇坪の建築確認申請書を提出するとともに、その建築に着手し、汐留川上に大きな入口をもうけてこれを完成させ、同年一二月一〇日竣工届を提出したところ、消防庁及び建築局指導課の係員が検査した結果、前記命令に適合することが認められ、前記鉄骨三階の部分とともに、建築確認がなされることに決定した旨の通知をうけたものである。しかして、消防庁といい、建築局といい、または河川課といい、帰するところは同一行政主体にほかならないのであつて、右木造部分の建築の適法であることが被告の関係方面より認められた以上、被告がその違法を主張することは許されないものというべきであるから、右木造の増築部分が建築基準法及び河川法第一七条、第一八条に違反するとなし、同法第二〇条に基づき、その除却を命ずる被告の本件処分には重大明白な瑕疵があり、同処分は無効である。

(三) 仮に、以上の主張が理由がないとしても、本来行政訴訟は、行政庁の責任を追求するのが目的ではなく、行政法規の正当な適用を保障するため、その処分が違法であるかどうかを判断するのが目的であるから、口頭弁論終結時の法規及び事実状態を基準として行政処分の適法であるか否かを判断すべきものと解すべきところ、本件建物の敷地及びその周辺は、本件除却命令が発せられた後、時の推移と高速度交通道路工事の進捗に伴つて土地の形状が一変し、汐留川及び本件土地の公用は廃止され土地の法律上の性格にも根本的な変化を来たした結果、本件除却命令の根拠法令はその適用の前提を失い、本件除却命令は、もはや存続することが許されず、違法となつた。すなわち、本件建物(木造部分を除く。)の敷地は、もともと汐留川にかかる土橋の橋台敷地であつたために、土橋とともに旧道路法の適用をうけていたのであるが、汐留川の埋立ての結果土橋も事実上廃止され、したがつて本件土地も永久に橋台敷地としての効用を失つたものである。このように、公物が公用に供されうべき目的及び構造を永久に喪失し、その回復が社会通念上不能と認められるような場合には、なんら国家の特別の意思表示をまたず当然に公物たる性質を失うものと解すべきであり、ことに、被告主張のように汐留川の埋立工事が公有水面埋立法にもとづいて行なわれたものとするならば、公物としての汐留川の公用廃止は、埋立免許処分に包含せられ、独立の処分の形態をとらないものと解すべきであるから、すでに汐留川埋立の免許が告示せられ、工事の大半を終了し、陸地化した以上、汐留川及び本件土地の公用廃止は顕著な事実というべく、本件建物の敷地はもはや旧道路法したがつて建築基準法第四四条の適用をうけず、また汐留川にある本件建物の木造部分が河川法の適用をうけなつたことは明らかである。仮に、汐留川の埋立竣工の認可があるまでは汐留川の公物としての性質に変りがないとしても、汐留川の埋立工事はほとんど完了し、陸地化している現状にあり、埋立免許をなした当初の計画からすれば、当然埋立竣工の認可があつてしかるべき時期にある。しかも、本件除却命令により原告の建物が除却されたとしても、本件土地は早晩、公有水面埋立法第二四条により埋立免許をうけた者の所有に帰し、私法的規律に服することが明らかであるのに、被告は、自らの右埋立工事遅延に対する監督責任を度外視し、いたずらに形式的解釈に拘泥して前記各法条を適用し本件建物の除却を命ずるがごときは行政権の濫用として許されないものといわなければならない。したがつて、本件除却命令は、この点において明白かつ重大なかしがあり、無効というべきである。(以下省略)

○理   由

一、別紙物件目録記載の建物が原告の所有であること、被告が昭和二七年五月一二日付をもつて、右建物の除却命令を発したことは当事者間に争いがない。

二、原告の二の(一)の主張について、

本件除却命令の理由が、原告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、また、本件建物が、道路占用許可条件及び河川法に違反する点については、道路及び河川の管理者としての被告の立場から、建築基準法に違反する点については、同法による特定行政庁としての被告の立場から、旧道路法第五一条、河川法第二〇条建築基準法第九条により本件除却命令がなされたものであることは、右除却命令の理由から推知しうるところであるが、右各規定に基づく建物の除却命令には、法令上特に理由の附記が要求されていないから、本件除却命令の理由の記載が抽象的で、原告主張のごとく建物のいかなる部分がいかなる法令に違反しているか具体的に記載していないとしても、それだけで本件除却命令に形式上のかしがあるとはいえない。したがつて、この点についての原告の主張は理由がない。

三、原告の二の(二)の主張について、

本件土地が汐留川にかかる土橋の橋台敷地(国有地)で、旧道路法(新法施行後は新道路法により)道路の附属物として国の機関である被告が管理するものであること、被告が昭和二五年三月三〇日付をもつて、原告に対し、右土地を(1)占用期間は翌二六年三月三一日まで、(2)占用目的は材料置場、(3)占用料は金七、二八〇円の条件を付して占用許可を与えたこと、本件建物のうち鉄骨の二階以上の部分につき、昭和二六年三月二九日付をもつて建築主事が建築確認をしたことはいずれも当事者間に争いがない。原告は、右道路占用許可における占用目的は、一応材料置場ということになつているが、被告は初めから原告が右土地上に将来建物を建築することを認容しており、さらに昭和二六年三月二九日付をもつて、建築主事が鉄骨の二階以下の部分につき建築確認通知書を交付した際、占用目的が堅固な建物の所有を目的とするものであることを確認するとともに、占用期間の更新を認めたものであると主張し、証人(省略)の各証言及び原告会社代表者王長徳本人尋問の結果には、右主張に符合するような供述があるが、右供述は後記諸証拠に照らし、にわかに採用し難く、かえつて(証拠―省略)を綜合すると、次のような事実が認められる。すなわち、本件土地は前記のように汐留川にかかる土橋の橋台敷地で、道路法に基づき被告が管理していたものであるが、昭和二五年二月一六日付をもつて原告より右土地を材料置場に使用する目的で占用願いが提出されたので、被告は調査した結果、右出願を相当と認め、同年三月三〇日付をもつて前記のごとく道路占用の許可を与えたが、その際右土地は前記のように橋台敷地で、建物を建築することは橋台敷地の維持管理上支障があり、また、右土地上に港区所属の建物があつて、同区役所土木課が材料置場に使用していた関係にあつたので、前記条件のほかに特に(一)、占用区域内には、仮設物といえども建築物を設置しないこと、(二)、使用目的を変更しないこと、(三)、既存の港区役所土木課材料置場の整理については、同土木課の指示に従うこと、の条件を明示して、占用許可を与えたものであること、しかるに原告は、右占用期間の経過後、占用目的に違反して昭和二六年六月ころ本件土地上に鉄骨コンクリートブロツク造りの本格的な建物を建築しはじめたことを発見したので、当時本件土地の管理事務の一部を委任されていた港区長は、同年一〇月二日代指令書をもつて、原告に対し本件土地の建築物一切を撤去し、原状に回復すべきことを通告したが、原告はこれに従わずそのころ本件建物を完成したこと、そこで被告は道路の管理者としての立場から、旧道路法第五一条に基づき、原告に対し本件建物の除却を命ずることになつたが、原告の右建物は道路占用の許可条件に違反しているばかりでなく、三階の部分及び木造部分については、建築主事の建築確認をうけておらず、さらに木造部分は、汐留川に張り出して建てられているが、同河川の占用について被告の許可を得ていないことがわかつたので、河川管理者として、また建築基準法の特定行政庁としての被告の立場から、右河川法第一七条、第一八条、建築基準法第六条、第四四条、第六一条違反の事実も本件建物除却理由の一つに加えて本件除却処分を発したものであること、前記のように、東京都建築主事は、昭和二六年三月二九日、本件建物のうち鉄骨コンクリートブロツク造りの二階以下の部分について建築確認をなし、その確認通知書を原告に交付しているが、それは原告主張のように右建物の敷地が道路占用許可条件に違反していないことを認めた上で建築確認をしたものではなく(建築主事にはこの点を審査する権限はない)、単に右建物が、建築基準法その他建築行政関係の諸法令に適合することを確認したにすぎないこと、またその際、東京都建設局道路課の係員が原告主張のように本件土地上に建物を建築することを認容した事実はなく、原告より前記道路の占用目的の変更及び占用期間の更新について、被告に許可申請をしたことはなく、したがつて、被告がこれを許可したこともないこと等が認められ、他に原告主張の事実を認めて右認定を覆えすに足りる証拠はない。原告は、仮に右建物が道路占用許可条件に違反しているとしても、原告は被告より昭和二五年三月三〇日、本件土地を堅固な建物所有の目的をもつて、期間の定めなく、賃料年七、二八〇円の約で賃借し、本件建物を建築したのであるから、本件除却命令は違法であると主張するので、この点について考えてみるに、道路の附属物である本件土地が、所有権の移転、抵当権の設定、移転を除き、私権の目的となり得ない(旧道路法第二条、第六条)ことは明らかであるから、原告の右主張はそれ自体理由がない。のみならず、この点については成立に争いがない甲第二号証及び同第一三号証があり、これらには原告が昭和二五年四月一日より新橋一丁目一二番地の一、都管理の土地七九、二三五平方メートルを賃貸されたことを港区長が証明する旨の記載があるが、これを前記認定の事実及び前記乙第一号証、第七号証、第八号証の一ないし三、第九号号証及び成立に争いのない乙第四号証の一、二と対比して考えると、この記載内容は事実に合するものとは認めがたくこれによつては原告が前記道路占用許可に基づく使用権限とは別に、本件土地の賃借権を取得したことを認めるに足りないし、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は理由がない。

以上のように、本件鉄骨建物全部が道路占用許可条件に違反している以上、その三階部分が、さらに建築基準法に違反しているかどうかを判断するまでもなく、右鉄骨建物の除却を命じた本件除却命令は適法というべきであるが、さらにこの点について判断するに、原告が右三階部分について、建築主事の建築確認を得ていないことは当事者間に争いがない。

原告は、右三階部分については、あらかじめ被告関係筋の了解を得て増築し、同年一一月二〇日増築確認申請書を提出したところ同年一二月二〇日、建築主事より右申請は確認することに決定した旨の通知をうけたのであるから、右三階部分の建築確認がないことを理由に、右部分の除却を命ずるのは行政権の濫用であると主張するが、この点に関する原告会社代表者王長徳本人尋問の結果は、後記証拠に照らし、にわかに措信し難く、他に右原告主張の事実を肯認するに足りる資料はない。かえつて、(証拠―省略)を綜合すると、原告より昭和二六年一一月二〇日三階部分の増築確認申請があつたが、東京都建築主事大河原春雄は、本件建物が都市計画道路内にあつて、鉄骨建物は二階までしか確認できないことになつており、また右申請書類に不備な点もあつたので、その旨を告げて、右確認申請書を原告に返戻したこと、したがつて右三階部分の増築確認の通知をした事実もなかつたことが認められるから、原告の右主張は理由がない。

次に、河川法違反の点について判断するに、本件建物のうち木造部分について原告主張のような消防庁及び建築局指導職員による指示や適法な建築であるとの認定があつたこと及び建築確認がなされることに決定した旨の通知がなされたこれを認めるに足りる証拠がない。そして、この木造部分が汐留川上に突き出して建築されているにかかわらず、原告が右建築及び河川の占用につき、河川法第一七条、第一八条に基づいて、その管理者である被告の許可を得ていないことは、原告において明らかに争わないところである。してみれば、右木造部分が河川法第一七条、第一八条に違反していることは明らかであり、被告が右河川の管理者としての立場から、同法第二〇条に基づき、右木造部分の除却を命じた本件除却命令には、原告主張のようなかしはないから、この点についての原告の主張は理由がない。

三、原告の(三)の主張について、

原告は行政処分が違法であるかどうかは、口頭弁論終結の時を基準として判断すべきところ、本件建物の敷地及びその周辺は、本件除却命令がなされた後、汐留川の埋立工事のため土地の形状が一変し、汐留川及び本件土地の公用は廃止され、土地の法律上の性質も根本的な変化を遂げたから、本件除却命令はもはや存続することが許されず違法となつたと主張するので、この点について考えてみるに、仮に行政処分の無効確認訴訟における行政処分が違法であるかどうかの判断の基準時を口頭弁論終結時とすべきものとし、かつ汐留川の埋立てにより事実上その河川敷地の公用が廃止されたとしても、道路法により道路又はその附属物として同法の適用を受ける土橋及びその橋台の敷地たる本法土地等の公用が当然に廃止されたものということはできないし、汐留川の上に建てられた本件建物の木造部分が建築基準法に違反していることに変りはないのである。のみならず、本件除却命令がなされた後、原告主張のように本件土地及び本件建物の木造部分の整地の公用が廃止され、公物たる性質を失つたとしても、除却命令の対象となつた建物が存する以上、本件除却命令がその意義を失い、違法ないし無効となるものと解すべき根拠はないものというべくもとより右除却命令をもつて行政権の濫用ということができないことは明らかである。したがつて、原告のこの点に関する主張も理由がない。

四、よつて、原告の本訴請求は理由なしとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 田嶋重徳 裁判官 桜林三郎)

物件目録(省略)

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