東京地方裁判所 昭和35年(ワ)10236号 判決 1964年2月27日
原告 高木光士
被告 国
訴訟代理人 岩佐善己 外一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
原告主張の請求原因事実第一、二項及び原告主張のとおり原告と訴外信子との間に婚姻無効確認請求事件が提起され、婚姻の無効を確認する第一審判決があり、原告はこれに対し控訴し、更に上告をしたことは、当事者間に争がなく、右婚姻無効確認請求事件について上告を棄却する判決があり、訴外信子の婚姻の意思がないことを理由として婚姻を確認した判決が確定したことは、当裁判所が成立を認める乙第一ないし三号証によつて認めることができる。以上の事実を要約すれば、原告は、訴外信子に原告との婚姻の意思がないのに婚姻届書を偽造し大田区長に婚姻届をしたが、右行為により私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使の罪について有罪判決を受けたので、大田区長は、右判決の確定により、右婚姻の戸籍上の記載は法律上許されないものとの理由で、東京法務局長の許可を得て、職権で右記載を訂正(消除)したということになる。
この事実によれば、原告の本訴請求は、自己の犯罪行為によつてなされた信子との婚姻の戸籍上の記載が消除されたことによる損害の賠償を求めることになるが、このように、自己の犯罪行為によつて生じた戸籍記載を消除されたことを理由に原告主張のような損害ありとしてその賠償を求めることは、法の趣旨から到底許すことができない。このことは、民法第七〇八条の規程の趣旨からも明らかである。従つて、原告の本訴請求は、その他の点を判断するまでもなく認容することができないからこれを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 上野宏 小堀勇 岡田潤)