東京地方裁判所 昭和35年(ワ)10535号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は東京弁護士会所属の弁護士であるが、昭和三一年四月ころ、被告から、被告が訴外財団法人東京都医療保健協会に対する左記二口の債権すなわち(A)金額一八万円貸付日現行利息制限法施行(昭和二九年六月一五日)の前日以前、弁済期の定めなく、利息は月五分、但し昭和三一年三月末日迄の利息は受領ずみ、(B)金額三五万円貸付日昭和二九年一〇月、弁済期昭和三一年四月末日、利息月六分、但昭和三一年三月末日迄の利息受領ずみの貸金の請求ならびに取立について委任をうけ、その際報酬について、原告が右訴外協会から受領した金員のうち貸付元本については一割五分を、又遅延損害金については五割を支払う、その他の事項についてはすべて東京弁護士会報酬規定に徒う旨約した。そこで原告は被告の訴訟代理人として昭和三一年六月一日訴外協会を相手どり東京地方裁判所に貸金請求訴訟を提起した。そして本件貸金には複利にするという特約はなかつたが、その請求取立にあたつては民法第四〇五条の法定重利で処理されたいと被告から依頼をうけていたので、原告は昭和三二年四月二九日付右(A)(B)の債権につき内容証明郵便で弁済期を同月末日と定めて金員の請求ならびにもし期日までに弁済がない場合には利息損害金を元本に組入れ、昭和三二年五月一日からはみぎ利息損害金を加えた金額を元本としこれに損害金を加えて請求する旨、さらに昭和三三年四月二七日付内容証明郵便で同趣旨の催告ならびに通知をしたが、訴外協会は支払わなかつた。ところが被告は原告に前記のとおり債権の請求と取立を委任しておき乍ら、原告に何の相談もせず直接訴外協会と本件債権について和解をすゝめ、昭和三三年九月三日から同年一二月末日までの間に直接示談金を受領し、原告の訴外協会に対する委任業務の遂行を不可能にした。この結果原告はやむなく昭和三四年三月二日訴外協会にたいする前記訴訟を取下げた。もし被告が訴外協会との間で勝手に示談金を受領もず債権を消滅させなかつたならば、原告は訴外協会に対し昭和三四年四月二八日付、更に昭和三五年四月二八日付内容証明郵便で前記同様の請求をなし、昭和三五年一一月三〇日当時における被告の訴外協会に対する(A)(B)両債権の総計は二六四万九一五二円、その内訳は貸付元金四二万四〇〇〇円、利息損害金は二二二万五一五二円となる。(なお訴外協会が原告の催告どおり支払わないであろうことは従来の訴訟の経過にてらしあきらかである)ところで東京弁護士会弁護士報酬規定第五条に「依頼者が受任者の責によらない事由で解任し、或は無断で取下、放棄、認諾、和解等をなし事件を終了せしめ、又は委任事務の遂行を不可能ならしめたときは成功と看做し、謝金の全額を請求することができる」旨の規定があり、原被告間の報酬契約はこれに従う旨の条項があるから、原告は被告が無断で訴外協会と和解したことにより成功と看做され、全額を請求できるのであつて、これにより原告の報酬を計算すると貸付元金四二万四、〇〇〇円の一割五分と、利息損害金二二二万五一五二円の五割、合計金一一七万六一七六円の報酬を被告に請求できるから、その支払いを求めると述べた。
判決は被告と訴外協会との示談が昭和三三年一二月末日成立したことは当事者間に争いがないから、このときまでに発生した元金、利息損害金を基準として前記規定第五条による報酬を計算すべきであるとして、原告の請求を一部棄却したが、みぎの点につきつぎのとおり説明している。
「原告は、若し被告が原告に無断で和解をしなかつたならば、被告のした和解の日以後においても、なお、訴外協会に対しその主張のように催告ならびに通知をしたのであるから、この仮定的事実を前提として昭和三十五年十一月末日当時における貸金額を計算しこの金額を基にして前記規定第五条によつて報酬額を算定すべきものであると主張する。然し、右第五条の趣旨を考えると、同条には無断の和解取下後における前記組入行為を前提として報酬額を算定することを許容するものと解釈できる趣旨はうかがわれない。けだし、和解取下等の行為をし、事件を終了させた時において、事件は成功裡に終了したものと看做されるのであつて、その時における請求額を基準として決せられるべきものであるからである。而も本件においては受任者に無断であるとはいえ、依頼者が相手方と和解等をした場合にはその債権は消滅したものであるからそれ以後の受任者の行為を斟酌することは当を得ない。従つて本件報酬額は被告が原告に無断で和解をした日、即ち遅くとも昭和三十三年十二月末日迄における被告の訴外協会に対する債務総額を基準とし、これに原被告間の報酬の約定率を乗じて計算すべきものでそれ以後のものは失当として排斥を免れない」。