東京地方裁判所 昭和35年(ワ)3135号 判決 1962年11月29日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
原告 被告
(求める裁判) (求める裁判)
一、被告は、原告に対し、金三一五、〇〇〇円とこれに対する昭和三五年四月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。 一、原告の請求を棄却する。 二、訴訟費用は、原告の負担とする。
二、訴訟費用は、被告の負担とする。
三、仮執行の宣言を求める。
(主張する事実) (答弁)
一、原告(相手方)と被告(申立人)間の東京簡易裁判所昭和二九年(ユ)第二六七号家屋明渡等調停事件において、昭和三〇年二月二日次のような内容の調停が成立した。 一、認める。
(1) 相手方(原告)は、申立人(被告)所有の東京都千代田区飯田町二丁目一番地家屋番号同町一三番木造スレート葺二階建店舗兼居宅一棟建坪一二坪七合五勺二階坪一二坪七合五勺(以下「訴外建物」という。)を権原によらない
で占有していることを認め、これを昭和三〇年二月末日限り申立人(被告)に明渡す。 (2) 申立人(被告)は、相手方(原告)が昭和二七年五月一六日申立人(被告)所有の千葉県千葉郡幕張町馬加四〇八番地家屋番号同町一、〇一四番の五木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪一四坪七合五勺(以下「本件建物」という。)を根抵当として申立外株式会社日本相互銀行から借入れた債務元金二〇万円の元利金及び遅延損害金を、相手方(原告)に代位して弁済して、右銀行を競売申立債権者とする千葉地方裁判所昭和二九年(ケ)第八五号不動産競売事件を債権者をして取下げさせ、且つ、これか根抵当権設定登記の抹消登記手続を了した上、本件建物所有権を相手方(原告)に贈与する。 二、右調停条項による被告の債務は、
(1) 原告の右日本相互銀行に対する元本四一二、五〇〇円とこれに対する昭和二九年七月八日からの日歩五銭の損害金債務を原告に代位して弁済する(調停条項にはないが同期日に原告は被告に右債務全額を支払わないと銀行は根抵当権を抹消しない旨告げ被告はこれを了承し、根抵当権を (1) 否認。 調停条項にあるように、被告の代位弁済すべき額は根抵当権により担保された範囲内の被告の債務に限定されていた(調停期日に原告主張のような話は全然でなかつた。)。
抹消させた上贈与すると約した。)
(2) 右銀行に対する原告の債務を消滅させその競売申立を取下げさせ、根抵当権の抹消登記手続をとらしめる。 (2) 認める。
(3) その上原告に本件建物を贈与するものであつた。 (3) 認める。
三、被告は、右調停条項による債務の内 右銀行に対する根抵当権の抹消登記手続をとらしめること及び原告に対する贈与を履行しなかつたため、 右日本相互銀行は、昭和三三年四月一〇日右根抵当権に基いて本件建物につき千葉地裁から競売手続開始決定をうけ、訴外宮沢漸は、昭和三四年四月二四日競売許可決定により昭和三五年一月七日競落代金を支払い、同年二月五日その旨の所有権移転登記を経た。 よつて、被告は、原告に対する贈与を履行不能とした。 三、原告主張のように日本相互銀行が競売手続開始決定(但し強制競売開始決定である。)をうけ、訴外宮沢漸が競落し代金を支払い所有権移転登記を経たことは認める。 その余の事実は否認する。
四、原告は被告の右債務不履行により、本件建物の価格相当の金三一五、〇〇〇円の損害をうけた。 否認。
五、よつて損害賠償として右金員及びこれに対する本訴状送達の翌日(同三五年四月二九日)から支払済まで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。 争う。
(答弁) (抗弁)
一、被告主張の日に日本相互銀行が調停条項に記載の競売申立を取下げ、競売申立の抹消登記がなされたことは認める。 その余の事実は否認する。 一、被告は、調停条項に従い、原告に代位してその根抵当権の原告の被担保債務元金二〇万円とこれに対する昭和二八年一二月一日から昭和三〇年六月一〇日までの利息並びに損害金五五、七〇〇円及び競売手続費用予納金六、〇〇〇円の合計金二六一、七〇〇円を日本相互銀行に対して東京法務局に同年六月九日弁済供託し、同銀行は、同年八月二四日供託金の還付をうけ、同日千葉地方裁判所に対し競売申立の取下をなし、同月三〇日調停条項記載の競売申立記入登記は抹消された。
二、原告が根抵当権抹消のための費用を負担するとの特約はなかつた。 二、被告は、右代位弁済により、右日本相互銀行の根抵当権の被担保債権は消滅したから、同銀行に対した右根抵当権の抹消登記手続を求めたところ、同銀行からは、原告に対して別に債権を有しているので猶予してくれとの申出があつたため、この旨原告に伝えると共に抹消登記請求の訴訟費用を原告が負担するなら被告において訴を提起することをつけたが、原告はこれに応じないし、又被告から、原告に本件建物を贈与しその旨の移転登記手続をする用意あることを申入れたのに対し、原告は、その債権者等から差押等をうけることをおそれて、移転登記手続をしばらくし
ないようにしてくれと要請したため、被告はその移転登記をしなかつたまでのことで、被告としては調停条項を誠実に履行したにも拘らず、原告がこれに応じなかつたものであつて、被告に債務不履行の責任はない。
三、否認する。 三、日本相互銀行の昭和三三年四月の競売申立は、右のように右根抵当権は既に消滅しているのであるからこれの実行としてなさる筈はない。 仮りに、右銀行の右競売申立が右根抵当権の実行によるものであつても、被告は本件調停条項は前示のように履行しており同銀行の原告に対する右根抵当権の被担保債権以外の債権によるものであり、被告の責ではない。
四、否認する。 四、なお、原告は、日本相互銀行の昭和三三年の競売申立後、金一〇万円の援助方を懇請し、同銀行にこれを提供して右申立を取下げさせるよう交渉したいと被告に申入れたが、被告は、調停条項以上に原告のために出費を負担する理由はないので拒絶した。
証拠(省略) 証拠(省略)