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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)3379号 判決 1961年7月31日

被告 農林漁業金融公庫

理由

本件の争点は既存の建物に接着して建築された建物が、既存の建物の構成部分として付加して一体となり、増築部分について建物としての独立の所有権の客体と認められず、既存の建物だけの所有権しか存在しないものであるか、又は増築部分が従物としての存在価値しか認められないかどうか(増築者を異にするかどうかの点を含み)、従つてこれにより既存建物についてなされた抵当権設定の効力がその設定契約前になされた増築部分に及ぶかどうかの法律判断の点にあつて、その余の原告主張事実は被告の認めるところである。

ところで、増築部分の建物が所有権の客体としての単位と認められるかどうかの点は、一般に物の所有権の認められる社会的経済的基盤に即し、個人の意思の尊重と取引の安全の要請とを参酌して決せられるべきであり、特にその物の経済的効用を重視し、合理的客観的に定められる筈であるけれども、建物においてはどの程度のものが経済的効用の単位として認められるべきかどうかの点は、社会生活の進歩発展に伴い一定の判定基準を設定することが困難といわねばならず、殊に一個の建物について区分所有を認むべき社会的経済的要請の強まりつつある傾向に鑑み、単にその物の客観的性状に止まらず、所有者たる個人の意思をも参酌して所有権の単位を決するのが相当と考える。

よつて、この観点から本件を見るのに、別紙第一目録記載の建物が昭和三十年七月に建築され、昭和三十三年十二月八日原告名義に所有権の登記が経由されたことは当事者間に争のないところであるから、反証のない本件では右の原告建築にかかるものと推認する外はない。そして原告はその実兄で養父である小泉宗一郎と同人所有の別紙第二目録記載の建物を使用しているのであるから、別段の事情の認められない本件では、原告は右建築について敷地所有者たる宗一郎の承諾を得ているものと認めるべきである。

ところで、当事者間に争のない事実と検証の結果によれば、右増築建物は階下に廊下と押入付の四畳半、階上に総二階の板の間があつて中以上の建築材料を用いていることが窺えるので、総建坪十坪弱であることに照し、建築費は数十万円を下らないと推察されること、及び右増築建物の西側は廊下を隔てて宗一郎所有の第二目録の建物と接着し、両建物の南側の廊下は相通じ、増築建物の西側の廊下は渡り廊下を経て第二目録の建物の湯殿台所に通じていて、増築建物には炊事場、便所、洗面所及び玄関と目すべき部分はなく第二目録の建物のそれを利用しているものと推察されるが、両建物には構造上共通部分はなく、増築部分は別個の建物として既存建物を切り離してもその存在と利用に支障のないものであり、道路からは表又は裏の出入口から靴脱石を経て出入できることが認められる。そして必要とあれば、炊事場、洗面所、便所などは余地があるので容易に付置し得る状況であることに鑑みると、右増築建物は既存建物からの別個独立の存在と居住に利用し得る経済的効用を兼備するものであつて、それ自体所有権の客体となり得るものと認めるのが相当である。

被告は右増築部分は宗一郎において既存建物の一部として又は原告がその一部とする意思で建築したと抗争するけれども、この事実を認むべき証拠はない。

次に被告は、増築部分は既存建物の従物であると主張するけれども、所有者を異にするから主物従物の関係は認められないところである。

してみると、右増築後宗一郎が第二目録記載の建物について抵当権を設定しても、その効力が第一目録記載の建物に及ぶ理由はないものといわなければならない。

そして当事者間に争のない原告主張の競売手続の経過と、本件弁論の趣旨に鑑み、確認の利益があるものと認むべきであるから、原告の請求は正当である。

<以下省略>

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