大判例

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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)4729号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と争点〕被告日光工材株式会社は貨物自動車を使用して土砂の運搬を業とするもの、被告鈴木清は右被告会社に雇われ自動車運転者として被告会社の業務に従事していたものであるが、被告鈴木は昭和三三年一一月二二日午前八時四〇分ころ被告会社のためその業務として被告会社所有の砂利運搬自動車を運転して茨城県古河市の中央部を南北に貫通する国道四号線を時速約二五キロメートルの速度で南進し、同市二丁目五六一九番地先道路上において折柄同所道路左側を本件自動車と同方向に向けて自転車で進行中の訴外鈴木信之介を追越したが、右追越しに際して本件自動車の左側車輪又は車体左側を信之介に接蝕させ、右接触により信之介が道路上に転倒したところを左後車輪でひき即死せしめた。

ところで本件事故現場は道路中央のセンターライン或は高速車道低速車道の通行区分は勿論歩道の区分すらもない幅員約七、八五メートルの道路で、しかも土盛りや電柱のためにその有効幅員が約一メートル余も減少しているところで、被告操縦の貨物自動車は幅員約二、四五メートルの大型自動車で、反対方向からこれと同程度の幅員をもつ大型乗合自動車とすれ違うため、被告鈴木が自己操縦の自動車を道路の左側に寄せたさいおきた事故であつた。原告は本件事故は被告鈴木が前方注視義務を怠り、先行車の追越す場合の注意義務を欠いたことによるものと主張し、被告らは本件事故は専ら被害者の過失によるものであると抗争した。(争点第一)判決はかような道路で対向車とすれ違う場合の自動車運転者の注意義務についてつぎのとおり判示し、被告鈴木に運転上の過失を認めた。

つぎに被告らの過失相殺の抗弁に関連してかような道路を自転車に乗つて通行する者の注意義務につきつぎのとおり判示し、被告らの抗弁を認め、その損害額の約半額を減額した。(争点第二)

最後に判決は死亡当時満五一才の健康な男子であつた鈴木信之介の労働可能年齢について後記のように判示した。

〔判決理由〕およそ自動車運転者が自動車を運転するには常にその前方に注意し、他に通行中の人もしくは車馬の交通に支障をきたさないよう務めてその安全を保持する義務あることはいうまでもなく、殊に本件の場合のように道路中央のセンターラインあるいは高速車道低速車道の通行区分は勿論、歩車道の区分すらもない幅員約七、八五メートルの道路で、しかも土盛りや電柱のためにその有効幅員が約一メートル余も減少しているところを、本件の如き車幅約二、四五メートルの大型自動車を運転してこれと同程度の車幅をもつであろう大型乗合自動車とすれちがうときには、右大型乗合自動車の動向によく注意してすれちがいによる接触等の危険を未然に防止する義務があることは勿論であるけれども、他方右すれちがいのために自動車を道路左側に寄せるについては、その前方も十分注視してそこに人もしくは車馬の通行があるかどうかを確かめたうえ、もし通行中の他の人もしくは車馬があれば警笛を吹鳴するなどして後方より自動車が接近していることをあらかじめ警告するか、あるいはその接近追越し等によつて危険が生ずるおそれがあるときはいつでも事前に急停車しうるよう徐行する等万全の措置を講じて自動車を進行させるべき注意義務あることは明らかである。しかるに被告鈴木清は事ここに出ず、叙上認定のように対進する大型乗合自動車の動向にのみその注意を奪われて道路左側の前方注視を怠り、ために道路左側を先行する信之介の自転車を全然発見することができず、従つて警笛の吹鳴、又は徐行等信之介の自転車との接触を回避するに必要な措置をなんら採ることなくして時速二五キロメートルの速度のまま大型乗合自動車とすれちがうために漫然と本件自動車を道路左側に寄せて信之介の自転車を前記土盛りと本件自動車との間にはさみその結果信之介をしてその自転車の運転を不安定ならしめ、よつてもつてこれを本件自動車左側面に接触させて本件事態をひき起したものであるから、信之介の側にも過失があるかどうかはしばらく別として本件事故が被告鈴木清の過失により生じたものであることは否定し得ないところである。

本件事故現場および本件事故発生の状況は前認定のとおりであり、信之介はなんら通行区分のない国道四号線上を自転車を運転してその左側を運行し、本件事故現場附近において前記土盛りのためこれを迂回して道路中央寄りに出てなおその進行を継続したものであるが、右土盛りを迂回して道路中央寄りに出るに当つては、右国道の有効幅員、対進する大型乗合自動車の存在等の諸情況からして自己の後方から同方向に向け進行する自動車があれば、その自動車の進路をふさぎこれに接触する危険も十分考えられるところであるから、一旦停車ないし徐行して後方を進行する自動車の有無を確かめ、事宜によつては後続車をやりすごすまで待機する等十分に注意して自ら事故を招かないようにすべきである。

信之介は本件事故による死亡当時満五一才(明治四〇年一一月三日生)の健康な男子で訴外鈴木醸造株式会社の代表取締役として勤務し、死亡当時一ケ月金五万円(うち金一万円住宅手当金)の現金と約金五万円に相当する醤油の現物支給合計約金一〇万円相当の給与を得ていたが(したがつて一ケ年合計金一二〇万円)同人の余命はなお二一年を下らず、その健康状況および死亡時の職業等からして少くとも同人が満六五才に達するまでの満一四年間は労働可能であつたと認めるのが相当である。(浅沼武 中川幹郎 荒木恒平)

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