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東京地方裁判所 昭和35年(行)107号 判決 1965年12月15日

原告 東光商事株式会社

被告 関東信越国税局長

訴訟代理人 田中勝次郎 外二名

主文

原告の昭和三一年一〇月一日より昭和三二年九月三〇日までの事業年度分法人税につき、新潟税務署長の更正処分の一部を取り消し、所得金額を金五七、五九七、六五九円と認定した被告の昭和三四年一月二〇日付審査決定のうち、所得金額金四九、四三六、八〇二円を越える部分を取り消す。

原告の昭和三二年一〇月一日より昭和三三年九月三〇日までの事業年度分法人税につき、所得金額を金七一、一〇三、四九〇円と認定した新潟税務署長の更正処分を維持し、原告の審査の請求を棄却した被告の昭和三四年一一月五日付決定のうち、所得金額金六三、八〇五、六四三円を越える部分を取り消す。

原告の昭和三三年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日までの事業年度分法人税につき、所得金額を金八六、一〇五、二七八円と認定した新潟税務署長の更正処分を維持し、原告の審査の請求を棄却した被告の昭和三五年九月一六日付決定のうち所得金額金七七、四六二、八五四円を越える部分を取り消す。

原告の昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税につき、被告が昭和三三年七月九日付でした審査決定の取消しを求める原告の訴えを却下する。

訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一ないし第三項同旨及び「原告の昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税につき、新潟税務署長の更正処分の一部を取り消し所得金額を金四〇、〇四五、七九五円と認定した被告の昭和三三年七月九日付審査決定のうち、所得金額金三二、九七二、三三七円を越える部分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因及び被告の主張に対する反駁として、次のとおり述べた。

一、原告は、毎年一〇月一日より翌年九月三〇日までを一事業年度として、年一期決算を行なつているが、昭和三〇年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日までの各事業年度分法人税につき、新潟税務署長より別表第一欄記載のとおり各更正処分を受け、これに対する審査の請求に対し、被告は、別表第二欄記載のとおり各決定をした。被告は、右各決定において、原告の各事業年度分所得金額を認定するに当たり、別表第三欄記載のいわゆる株主優待金は損金に当たらないものとして、その所得計算上これを控除していない。

しかし、いわゆる株主優待金は、次に述べるとおり、損金に算入すべきものであるから、原告の右各事業年度分所得金額は、被告が各決定で認定した額より株主優待金相当額を控除した第四欄記載の原告主張額となるべきものであり、被告の各決定は、右原告主張額を越える限度において違法である。

二、原告は、被告の各審査決定の通知をそれぞれ各決定当時(昭和三一年一〇月一日より昭和三二年九月三〇日までの事業年度分については、昭和三四年一月二九日以降)受領したので、昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分審査決定の取消訴訟は、当時の法人税法第三七条第二項に定められた決定の通知受領後三ケ月間の出訴期間経過後に提起されたこととなるが、それは、次のような事情による。

右決定の通知書の決定欄には、「更正処分の一部を取り消します」と記載されているだけで、その余の部分について審査の請求を棄却する旨の判断が表示されていないところ原告は、従来審査の請求に対して、全部棄却するとの決定を受けたことはあるが、この場合のように一部棄却という例はなかつたため、原告の担当職員において、右決定は一部についてのもので、残余に対してはさらに決定通知があるものと誤信していたところ、その後昭和三一年一〇月一日より昭和三二年九月三〇日までの事業年度分についての審査決定の通知を受けて、はじめて前事業年度分の前記決定通知書が審査請求全部に対する判断であることを知つたのであつて、被告が、右決定通知書の説明に、相当の紙数を要している事実よりしても、これが原告の審査請求の全部についての決定かどうかは直ちに一般人をして誤解なく理解させることができるとはいえない。

従つて、原告が昭和三一年一〇月一日より昭和三二年九月三〇日までの事業年度分の審査決定通知書を受領することにより、昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分の審査の請求について全部決定があつたことを知つたのは、昭和三四年一月二九日以降であるから、結局出訴期間の遵守において欠けるところはないものというべきである。

三、1、原告は、金融業、映画演芸の経営を目的として、昭和八年三月一三日に設立された株式会社であるが、係争各事業年度当時その金融業について、いわゆる株主相互金融方式をとり次のような方法でその営業を行なつていた。

(一)  原告は、貸付資金の必要に応じて新株式を発行し、これを原告の役員等の縁故者に引き受けさせ、原告からその縁故者に対する貸付金によつて新株式の払込金に充当し、ついで一般大衆より株式買受希望者を募集し、原告がその買受方を斡旋する。

(二)  株式買受希望者が、株式買受代金を完済したときは、額面金額の三倍までの金額の融資を受ける権利を取得する。

(三)  株式取得者が、右融資を希望しないとき、または融資の返済を完了したときは、原告はその求めにより(六ケ月ないし一年間譲渡斡旋をしない約束のある場合を除く。)、その持株を他に額面金額で譲渡することを斡旋し、原告がその譲渡代金を支払う。

(四)  前記の融資を受けない株式取得者に対しては、引き続き六ケ月以上株主であることを継続するたびに、予め約束された一定利率で算出した金額を支払う。(この金員が、いわゆる株主優待金と呼ばれるもので、原告においては、これについて、優待金、優待費、奨励金、奨励費、謝励金等の名称を用いたが、その性質はいずれも同一である。)

以上(二)ないし(四)の事項は、原告が株式買受希望者を斡旋募集するに際し、営業案内等に記載して、一般に了知させた。

2、原告が、このような方法によつてその営業資金を調達したのは次のような事情による。

株主相互金融方式は沿革的には、第二次大戦後全国的に流行した殖産無尽の合法的な変形物で、昭和二四年法律第一七〇号貸金業等の取締に関する法律(なお昭和二九年以後は、同年法律第一九五号出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律の規制するところとなつた。)により、不特定多数の者からの金員の受入れが、禁止されたため、不特定多数の者から営業資金を調達するためには、増資による外なくなつたが、第三者としては、各事業年度の損益に応じて、その都度決定されることを要する浮動的で不確定な利益配当を受けるだけで、かつ株式取得後株式の譲渡による資金回収の途も確実でない(上場会社ではない原告の場合、そう簡単に株式の買い手を見つけることはできない。)状態では、資金調達に応じ難いので、原告は、株式取得者に対して、確定した金額の謝礼金(株主優待金)を受ける権利または株式金額の一定倍率の一定倍率の金額の融資を受ける権利を選択的に付与し、かつ、株式取得者がその株式を他に譲渡することを希望するときは、譲渡の斡旋及び株式額面相当額の支払義務を負うことを譲渡斡旋者として約束し、このような債権を与えることによつて、第三者が株式の買受けができようにして、資金の調達をはかつたもので、このような株主相互金融方式は、主務官庁において合法的なものと認められていた。

3、従つて、株主優待金は、利益配当とは異なり、融資を受けない株主が、株式取得の際の原告との約定に基づき、確定した金額の株主優待金支払債務の履行として支払いを受けるもので、原告の利益の有無に関係なく、またその事業年度にかかわりなく、それぞれ株式取得の日を基準として一定時に随時支払われるものであり、その支払いについて株主総会の決議を要するものではなく、原告の日常業務として支払われていた。

この株主優待金を経済的、実質的に見れば、株主側よりすれば、原告の資金調達に応ずることによつて得る対価であり、原告側よりすれば、貸付資金調達のために必要やむを得ず支出する代償であつて、その意味では、消費貸借における利息と実質的には異ならないのである。

もつとも、株主相互金融方式による株主も株主である以上当然に株主としての固有の権利を有し、株主総会の招集の通知を受け、これに出席し、また残余財産の配分の問題がおこれば、これにあずかり得るものであり、さらに、係争事業年度当時原告では全く利益配当を行なつていなかつたため、その例はないが、将来利益配当を受けることも可能である。

なお、株主優待金の支払請求権を有する株主の取得株式数は、昭和三一年九月三〇日現在において、原告の発行済株式総数五三〇万株のうち、二九八万二、六八〇株であつたが、その後原告が株主相互金融方式によらない借入金の増加、内部留保の充実に努め、高率の株主優待金の支出の滅少をはかり、株主優待金の支払いを受け得る株主から譲渡斡旋の請求があつたときは、これを取引関係者等に株主優待金支払いの約束をしないで譲り受けてもらうことにし、その結果昭和三四年九月末には、発行済株式総数九一〇万株のうち、株主優待金の支払いを受け得るものの株式数は、三〇七万二、四八四株に減少した。

四、1、法人税法は、法人の所得について「各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」(第九条第一項)と定めるにとどまり、その益金ないし損金の意義について、なんらの規定もしていないが、その趣旨は、すべて営利法人は、私有財産制度のもとに、契約自由の原則に従い利益の獲得に向つて活動し、その活動の成果は、一般の企業会計規準によつて、正規の簿記の原則によつて仕訳けされ、事業年度末に当期利益金として、貸借対照表に表示されるものであり、経済事情の変遷に従つて変動する総益金、総損金の内容を法定することは不適当であつて、弾力性ある会計学上の理念に委ねることにあり、会計学上の損金の意義は、一定の金銭的価値の資産の減少をもたらす場合に、その対価として金銭的価値の資産の受入れがない一切の場合を指し、問題の株主優待金が、この意味において損金に該当することは明白である。

法人税法に関する国税庁長官の基本通達第五二項は、「総損金とは、法令により別段の定めあるものの外、資本の払戻し又は利益処分以外において、純資産減少の原因となるべき一切の事情をいう」としているが、右解釈は原告の主張と一致するものである。すなわち、会計学上本来損金に当たるものを租税政策上の見地から、明文の定めをもつて損金に算入しないこととすることは、立法上可能であり、法人税法及びその委任を受けた法人税法施行規則には、数多くの例外を定めているが、その趣旨は、かような明文の存しない限り、法人税法にいう総損金が会計学上の概念に従うことを示すことは明らかである。また、資本の払戻しが損金とならないのは、法人の総資産から資本と負債を差引いたものが法人の利益となることは、法人経理の基本原則であるところ、資本の払戻しによつて一方において資本が減少し、他方において総資産がそれだけ減少しても、利益額にはなんら変動をもたらすものではないから、資本の額の範囲内の資本の払戻しは、法人のある事業年度の所得計算とは無関係で、資本の払戻しによる金銭の支出を損金に計算する必要がないからである。さらに、利益処分が損金とならないのは、元来法人税法上の所得計算が事業年度単位に行なわれるところ、利益処分は前事業年度の所得計算の結果得られた利益を株主総会の決議に従い、次事業年度において処分するものであつて、その利益処分は、次事業年度の所得計算と無関係なることによる。

ところで、前記株主優待金の支払いについては、これを損金に算入しない旨の明文の規定は存在せず、これが前記の資本の払戻し又は利益処分に当たらないことは明白であるから、これが損金に算入することを否定すべき理由は、なにも存在しない。

2、仮りに、株主優待金が、株主に対する一種の利益の供与に当たるとしても、株主優待金は、原告の利益の有無にかかわらず、契約上の義務として支払われるものであるから、それが純粋の利益処分と全く性質を異にするものであることは明白である。

租税の賦課については、租税法律主義の原則の存するところ、租税法律主義は、罪刑法定主義とその基本的思想を一にし、後者が処罰によつて国民の生命、自由、財産が奪われることの保障であるのに対し、前者は、課税によつて国民の財産が奪われることに対する保障である。罪刑法定主義において、いかに常識的にまたは道徳上非難すべき行為であつても法律に規定のないときは、これを犯罪として処罰することができないと同様に、租税法律主美のもとにおいては、課税上損金に算入しないことがいかに適当に見えても、具体的に明文の規定の存しない限り、これを損金に算入しないことにして課税することは許されない。もし損金に算入しないことにしようとするならば、税務官庁の主観的裁量に委ねるべき問題ではなく、法人税法第九条第八項の規定を適用して、委任命令としての施行規則中にその旨を明らかにする規定を置くべきものである。

しかるに、株主優待金については、そのような定めはないから、これが単に株主に対する一種の利益の供与に当たるということだけで損金に算入しない取扱いをすることはできない。

五、被告は株主優待金は隠れたる利益処分に当たると主張する。

1、しかし、わが法人税法は、いわゆる隠れたる利益処分に関しては、同族会社の行為、計算の否認について明文を置くにとどまり、非同族会社については、このような規定は存在せず、法規の構造及び前記のような租税法律主義の要請よりすれば、わが法人税法について、明文の定めがないのに、非同族会社にまで隠れたる利益処分なる法概念を入れることは許されず、被告の主張は立法論にすぎない。被告がよりどころとするドイツの例においても、判例において、隠れたる利益処分の概念が採用されなかつたため、被告の引用するように法律により立法的に解決したものであつて、明文の存しないわが法人税法について、ドイツの立法例をもつてその解釈の資とすることは許されない。

さらに、被告は、法人税法における損金も、営業に必要な経費に限られると主張するが、法人税法には所得税法第九条第一項第四号のような規定はなく、かえつて、純資産の原因となる事実のうち特に損金に算入しないものだけについて、法令により明文の定めを置いているのであつて、これらの事実よりすれば、法人税法の損金について、被告主張のような制約はないものというべきである。

なお、これらの点に関し被告の掲げる通達は、同族会社に関するものであつて、同族会社と非同族会社とを区別する法入税法の下で、これを非同族会社に類推する余地はない。

2、のみならず、被告は、株主優待金は、株主が株主ということだけで受ける無償の利益供与であると主張するが、前記のとおり、株主優待金は原告の資金調達のためには株式取得者に対しては、融資または株主優待金を受ける権利を与えることが不可欠であつたところから支出されたもので、経済的、実質的に見る限り、会社の営業に必要な経費であり、この点の被害主張は極めて皮相なものである。

3、なお、被告は、原告が昭和三三年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日までの事業年度分法人税の確定申告において、株主優待金の損金算入を自己否認していると主張するが、右否認にかかる優待金は、株主総会の承認を経て、融資、不融資と無関係の他の普通株主の一部の者に供与したもので、本訴で問題のいわゆる株主優待金とはその性質を異にするものであるから、右事実をもつて、原告が株主優待金の損金算入を自己否認していたというのは当たらない。

六、以上の次第で、株主優待金は損金に当たらないとした被告の各審査決定は違法であり、原告の係争各事業年度の所得は、別表第一、第二欄により被告が審査決定で認定した所得金額より別表第三欄の株主優待金額を控除した別表第四欄の原告主張額であるから、被告の各審査決定のうち、別表第四欄記載の金額を越える部分の取消しを求める。

原告訴訟代理人は、以上のとおり述べた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は、本案前の答弁として、主文第四項同旨の判決を求め、その理由を次のとおり述べた。

法人税法第三七条第二項によれば、審査の決定の取消しを求める訴えは、審査の決定の通知を受けた日から三ケ月以内に提起しなければならないところ、原告の昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税について被告がした審査の決定の取消しを求める訴えは、原告が審査の決定通知書を受領してから三ケ月以上を経過した後に提起されたものであることは原告の自認するところであるから、不適法な訴えである。もつとも、原告は、右通知書には「更正決定の一部を取消します」とあるだけで、その余の部分の請求を棄却すると記載されていなかつたため、その余の部分についてはさらに判断があるものと考え、直ちに出訴しなかつたものであると主張するが、右通知書には、所得金額、法人税額等について、「更正処分又は再調査決定」欄、「審査決定」欄、「取消額」欄が設けられ、所得金額等について、更正決定等の認定額、審査決定の認定額及びその差額としての取消額が記載されており、これによれば、更正決定において認定された所得金額金四〇、二三二、一九九円のうち金一八六、四〇四円が取り消され、審査決定においては所得金額を金四〇、〇四五、七九五円と認定した趣旨であることは明白であつて、なお審査請求に対し判断が残されているものと解する余地はない。のみならず、原告の審査請求の理由は、更正処分における減価償却金二八〇、九二四円の否認といわゆる株主優待金の損金支出の否認を不服とするものであるが、被告が株主優待金の損金支出を認めるはずがないことは、原告は熟知していたのであるから、前記通知書を見れば、原告の不服とする二点のうち、減価償却否認に関し、その一部が容認されたものであり、その余について、これが認められなかつたことは、原告において、十分知つていたはずである。従つて、審査決定通知書の記載の一部をとらえて、原告が審査決定のあつたことを知らなかつたということは、とうてい許されない。

本案について、被告訴訟代理人は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め原告の請求原因について次のとおり答弁した。

請求原因第一項の事実のうち、新潟税務署長及び被告が、原告主張の各事業年度分法人税につき、原告主張の内容の各更正処分及び各審査の決定をしたこと、右各決定において原告主張のいわゆる株主優待金の支払いを損金に計上しなかつたことは認めるが、これが違法であるとの原告の主張は争う。同第二項の事実のうち、原告がその主張の頃各審査決定の通知を受領したことは認めるが、昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税に関する審査決定のあつたことを原告が知つたのは、昭和三四一月二九日以降であることは否認する。同第三項の1、の事実のうち、原告会社の目的、原告の新株式を縁故者が引受け、その買受希望者に対する斡旋を原告が行なつていたこと、原告がいわゆる株主優待金を支払つていたこと、以上の事実を認めるが、原告の会社設立日、原告が株主より譲渡斡旋を求められた際原告が譲渡代金を支払うとの点は不知、株主に融資を受ける権利があるとの点は否認する。同第三項の2、及び3、同第四、第五項の主張は争う。

被告訴訟代理人は、被告の主張として、次のとおり述べた。

一、純資産の減少の原因となる事実のうち、利益処分が損金とならないことは明らかであるが、ここにいう利益処分とは、原告の主張するよう貸借対照表上に公然と利益であることを示して行なわれる商法上の利益配当に限られるものではなく、実質上は会社の利益の処分であるのに、貸借対照表上には利益として表示しないで、損金として処理されている場合、いわゆる隠れたる利益の処分をも含まれるものといわねばならない。もしそうでなければ、法人は、取引の自由の原則を根拠に、法形式をととのえて、実質上の利益を処分してしまえば、貸借対照表上には利益として表示されないこととなるから、法人は、この方法によつて自由に利益を減額し、課税を免れることとなつて、その不当であることは明らかであるからである。

このような趣旨から、諸外国においては、一方において損金の意義について客観的基準を設けることに努力が払われ、アメリカにおいては、損金とは所得を得るために通常にして必要な経費に限るとの原則が立てられ、ドイツにおいては、損金は事業の遂行に原因する支出に限るものとされ、他方において、隠れたる利益処分という法概念を認め、納税者は、契約自由の原則を乱用して、法人税を軽減することはできないという原則が認められているのであり(ドイツ租税調整法第六条参照)、この理は、当然の事理として、我国法人税法にも適用されるものであり、法人税法基本通達第三五五項において、例えば、「社員・・・・・の所有資産を不当に高価で買い入れた場合においては、その買入れ金額のうち時価を超過する部分の金額は、これを原則としてその社員に対する利益処分による賞与とする」とあるのは、隠れたる利益処分の法概念が、わが法人税法においても妥当することを示すものである。

二、隠れたる利益処分の特質は、会社が株主に対し会社財産を無償で供与しながら、これを損金支出の方法によつてするため貸借対照表上には利益として表面に現われないことにあり、その当然の結果として隠れたる利益処分は、決算期において行なわれることはなく、事業年度の途中において行なわれるものである。

このような観点から、本件株主優待金を見ると、これが株主に対する会社財産の無償供与であつて、隠れたる利益処分に当たることは明らかである。原告は、株主優待金をもつて預金の利子または消費貸借の利息に当たるものと主張するが、株主優待金にあつては、株主が負担するのは株式の買入れ代金(すなわち株式の払込み金)だけであつて、利子、利息に相当する元本は存在せず、株主優待金は、まさに株主が株主であるという理由だけで会社より受ける利益に外ならないから、これを利子、利息と同一視する根拠はない。さらに、原告は、株主優待金が法人の利益の有無にかかわらず支払われるものであることを理由に損金に当たると主張するが、かくては法人は契約自由の原則にのつとり、いかなる内容の契約をも結び得るのであるから、会社の利益の有無にかかわらず、株主や会社役員に、一定金額を無償で供与する契約を結びさえすれば、自由に会社の利益を減じ、課税を免れることとなり、その不当なことは明らかであり、損金となるかどうかは、前記のような客観的基準によつて判断さるべきものである。

三、以上の次第で、いわゆる株主優待金は損金に当たらないからこれを原告の所得の計算上損金に算入しなかつた被告の処分には、なんら違法はない。

なお、原告は、昭和三三年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日までの事業年度分法人税の確定申告書において優待金三、九三一、七七二円の損金算入を自己否認しているが、右事実は、原告自身株主優待金の損金性を否定しているものというべきである。

被告訴訟代理人は、以上のとおり述べた。

(証拠省略)

理由

一、被告の本案前の抗弁について。

当時施行の法人税法(以下単に法人税法という。)第三七条第二項によれば、審査決定の取消訴訟は、審査決定の通知を受けた日から三ケ月以内に提起すべきところ、原告の昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税に関する審査決定の取消訴訟が、その決定通知の日から三ケ月以上を経過した後に提起されたものであることは、当事者間に争いがない。

原告は、右決定の通知書には、更正処分の一部を取り消すとの記載があるだけで、その余の請求を棄却する旨が明示されていなかつたため、原告において、その余についてはなお後日決定があるものと考えて直ちに出訴せず、その後翌事業年度分法人税について審査決定があつてはじめて、右通知書が審査請求全部に対する判断であることを知り、それより三ケ月以内に出訴したものであるから、出訴期間の遵守において欠けるところはないと主張する。なるほど、成立に争いのない甲第五号証(問題の審査決定通知書。乙第八号証も同じ。)によれば、原告の主張するように、更正処分の一部を取り消す旨記載され、その余の請求を棄却する旨の言葉はないが、しかし、原処分の認定した所得金額、法人税額等とともに、審査決定で認定した所得金額、法人税額等とその差額としての取消額とがそれぞれ明示され、かつ理由欄には、「審査請求について審査した結果、新潟税務署長の更正には一部誤びゆうがあるので、その一部を取り消し、従つて所得金額及び法人税額は上欄に示された審査決定額となる」旨が明らかにされており、このことに、法人税の審査決定は、更正または再調査決定で認定された課税標準または法人税額の適否を判断するものであり、従つて、課税標準たる所得を構成する個々の事実のうちの一部について判断を留保して審査決定を行なうということは考えられないこと、及び法人税法は、審査請求の一部を理由があると認めるときは、審査請求の目的となつた処分の一部を取り消す決定をすべきものとしていること(第三五条五項三号)などを合せて考慮すれば、前記審査決定通知書の記載をもつて、審査請求の全部についての判断を表示する趣旨と通常了解するに十分であり、その通知の方法に欠けるところはなかつたものというべきである。従つて、仮りに原告において、その主張するような誤解があつたとしても、それによつて出訴期間の起算日としての「審査の決定の通知を受けた日」を原告が誤解に気付いた日と解する余地はなく、また前記のような事情の下で、原告の誤解をもつて、民事訴訟法第一五九条にいう追完事由と認めることもできない。

よつて、原告の昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税に関する被告の審査決定の取消しを求める訴えは不適法のものである。

二、「隠れたる利益処分」として損金算入を否認しうる場合。

純資産の減少の原因となる事実のうち、利益処分が損金とならないことはいうまでもないところ、利益処分が純資産の減少をもたらすものでありながら損金に算入されないのは、利益処分なるものは、本来その事業年度までに生じた利益を、法人が法令、定款の定めに従つて処分するものであり、徒つてそれは、決算により利益が決まつてから後の問題であつて、利益を定める要素とはなり得ないことによるのである。このことから考えれば、法人が決算完了前に、または決算とは形式上無関係に支出を行ない純資産を減少すれば、そこに利益処分の問題は起らず、右支出は常に損金となるともいえよう。そして、この立場に立てば、本件で問題のいわゆる株主優待金は、あらかじめ約定されたところに従い、原告の決算利益の有無と一応無関係に支出されるものであることが当事者間に争いがないから、当然に損金となることになろう。しかし、損金とならない利益の処分を、このように、形式上、決算を前提とするかどうかにより、厳格に解すると、例えば、法人があらかじめ利益の発生を見込んで、それに相当する分を株主等に創業何周年記念等の名目で金銭その他の財産で支出した場合においても、その支出は損金に計上されることとなり、その結果、決算のうえ利益処分を行なつた場合に比べて不公平を生じ、不当に租税を軽減することとなる。その外、かような見解をとるときは、法人が自由に行為計算の方式を選択し実質上益金に当たるものを形式上損金として支出することによつて不当な租税を軽減しうることとなることは、みやすい道理である。従つて、損金とならない利益処分とは、法人が決算のうえ行なう形式的な利益処分に限られるものと解すべきではなく、形式的には利益処分の形をとつていなくとも事情により、実質上の利益処分として取り扱いうる場合のあることは、これを認めねばならないであろう。かような場合を「隠れたる利益処分」と呼ぶならば、わが税法の下でも、或る範囲において、「隠れたる利益処分」として損金算入を否認しうる場合があることは否定しえないところであろう。

問題は、いかなる場合に「隠れたる利益処分」として損金算入を否認しうるかであるが、元来、法人税法は、法人が純経済人として、経済的に合理的に行為計算を行なうべきことを前提として、かような合理的行為計算に基づき生ずべき所得に対し課税し、租税収入を確保しようとするものであるから、法人が通常経済的に合理的に行動したとすればとるべきはずの行為計算をとらないで法人税回避もしくは軽減の目的で、ことさらに不自然、不合理な行為計算をとることにより(損金、益金の問題についていえば、法人税軽減の目的がなく、経済的に合理的に行為計算を行なつたとすれば、通常、決算上、利益処分として取り扱うべきはずのもの、すなわち経済的、実質的にみて利益にほかならないものを、法人税軽減のために、ことさらに損金の形式でこれを支出した場合)または、直接法人税の回避軽減を目的としないときでも、経済的合理性をまつたく無視したような異常、不自然な行為計算をとることにより(たとえば、債権者を詐害する目的で、会社資産を不当に低い価格で会社役員に譲渡した場合)、不当に法人税を回避軽減したこととなる場合には、税務当局は、かような行為計算を否認して、経済的に合理的に行動したとすれば通常とつたであろうと認められる行為計算に従つて課税を行ないうることは当然である。けだし、これが許されないとすれば、法人が通常、経済的に合理的に行為計算を行なうべきことを前提として租税収入を確保しようとする法人税法の目的は達せられないこととなるからである。しかしながら、かような否認の許される根拠が右述のとおりである以上、不自然、不合理な行為計算によつて不当に法人税の回避、軽減を図つたものと認められるかどうかは、当該行為計算が民法、商法その他税法以外の法律の見地において不適法とされるものであるかどうかによりこれを決すべきでないのはもとより、その行為計算が、単に、結果において法人税の軽減を来たすということのみによつてこれを決すべきものではなく、不自然、不合理な行為によつて不当に租税の軽減を図つたものであるかどうかは、もつぱら、当該行為計算が、経済的、実質的にみて、経済人の行動として、不合理、不自然なものと認められるかどうかによりこれを決断しなければならない。この点につき、被告は、株主に対し、損金の形式で、会社財産を無償で供与した場合は、すべて「隠れたる利益処分」に当たると主張する。なるほど、株主に対する会社財産の無償供与が、結果において、法人税の軽減を来たすことは明らかであり、また、それが法人税軽減の目的をもつて行なわれることが多いことも否定しえないところである。しかし、株主に対し会社財産を損金の形式で無償で供与したことが、経済的、実質的に考察した場合に、必ずしも不合理と認められない理由に基づくものと認められる場合(本件の株主優待金がこれに当たることは後述するとおりである。)がないではないから、株主に対し損金の形式で会社財産を無償で供与することが、常に「隠れたる利益処分」として否認の対象となるとすることは正当でなく、この点に関する被告の見解は、ひつきよう、株主に対する会社財産の無償供与が結果において法人税の軽減を来たすということのみによつて否認が許されるとするものであるか、もしくは、その経済的実質ないし合理性の有無を考察することなく、株主に対する無償供与という法形式のみを基準としてその損金性を否定し得るとするものであつて、当裁判所の賛同しえないところである。

なお、被告が主張のよりどころとして挙げる通達は、同族会社の行為、計算の否認を定める法人税法第三一条(昭和三七年法律第六七号による改正前)に関するものであるところ、法人税法が同族会社につき行為計算の否認の規定をおいたのは、同族会社においてはとくに租税回避行為が容易ひんぱんに行なわれるところから、同族会社に対する正当な課税を容易にするためにこれを設けたに過ぎないものと解すべきであつて、非同族会社についてはこの規定がないからといつて、前述のような、法人税法の基本目的より当然認められるべき否認が許されないと解すべき理由はないと同時に、否認の規定の設けられている同族会社についても、右基本目的から認められる範囲を越えて否認が許されると解することは相当でない。換言すれば、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、もつぱら、経済的、実質的見地において、当該行為計算が経済人の行為として不合理、不自然のものと認められるかどうかを基準としてこれを判定すべきものであり、同族会社であるからといつて、この基準を越えて広く否認が許されると解すべきでないと同時に、非同族会社についても、右基準に該当するかぎり否認が許されるものと解すべきである。被告が同族会社に関する否認の規定を根拠に、隠れたる利益処分の概念を広く認めようとするものであれば、それは、法人税を不当に減少する結果となる、ということの解釈を誤るものというべきであつて、否認の規定を根拠として、隠れたる利益処分の概念を被告主張のように広く認めることは正当ではない。

三、所得を得るために通常必要な経費をもつて損金とする見解について。

被告は、また、損金というためには、諸外国におけると同様所得を得るために通常必要な経費であることないしは事業の遂行に原因する支出であることが必要であるとも主張するが、わが法人税法においては、所得税法第九条第一項第四号のように「必要な経費」なる用語を用いず、法人の所得は「各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」と定めるにとどまり、税務当局においても、「総損金とは、法令により別段の定めのあるものの外資本の払戻又は利益の処分以外において純資産減少の原因となるべき一切の事実をいう」(法人税法基本通達第五二項)ものとして取り扱われており、損金かどうかを被告の主張するような基準によつて判断すべきものとはしていないので、ことさら本件に限つてそのような基準を持ち込むことは相当でない。もつとも、法人が通常の取引を行なう限り、原則として事業遂行に不必要な支出をすることはないはずであるから、経営と無関係な支出があつた場合には、これを実質的に見れば、利益処分と認められる場合もあり得るわけで、その場合には、前記のとおり損金とはならないのである。従つて、特定の支出が事業の遂行と一応、無関係、不必要であるということは、それが実質的に利益処分かどうかを判断するうえで、一つの大きな要素となることは承認されなければならないが、被告の主張するように、それ以上に、この基準が損金かどうかを判断するについての唯一の決め手となるものと解することは正当とはいえない。

そればかりでなく、仮りに、損金の概念を「所得を得るために通常必要な経費」または「事業の遂行に原因する支出」と解するとしても、この概念にあてはまるかどうかは、もつぱら、経済的に考察して、所得を得るためまたは事業の遂行上合理的必要性があるかどうかによりこれを決すべきものであつて、明文をもつて特別の規制をしないかぎり、単にその支出が過大であり、もしくはその支出を損金として認めることが結果において租税の軽減を招来するとの一事によつて、その損金性を否定し得べきものではなく、また、その支出が税法以外の法律の見地において適法視されるものであるかどうかによつてこれを決すべきでないことも、さきに「隠れたる利益処分」について述べたところと同様である。

以上のような見解の下に以下において、本件株主優待金の実態につき事実関係を考察した上、これを損金として取り扱い得るかどうかを検討する。

四、本件株主優待金の実態。

当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証、証人稲田市作の証言及び原告代表者本人尋問の結果を総合すると次のような事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、昭和八年に設立された株式会社で、金融業、映画館の経営等を目的としているが、昭和二六年頃よりその金融業を次に述べるような方式で行なうようになつた。原告は、貸付金の資金調達の方法として、新株式を発行し、これを原告の役員等の縁故者に引き受けさせ、その払込金は主として原告より引受人に対する貸付金によつて充当された。このようにして縁故者が取得した株式を原告が譲渡の斡旋をし、原告名義で買受希望者を募集したが、その際株式の買受代金は、均等割で五〇日、一〇〇日、二〇〇日、三三三日の日払、一〇ケ月の月払または一時払の方法が認められ、日払、月払の場合には、原告が一時買受代金を立て替えるという形式がとられた。そして、株式買受人が買受代金を完済した時は、株式の額面金額の三倍の融資を受けることができ、また、株式買受人が融資を希望しないときは、原告は、株主の希望により株式の転売を斡旋し、転買人が決まるまで、原告がその転売代金を立て替えて支払い、その際日払い、または月払いの期間に応じて、年九分ないし一割の奨励金名義の金員を支払い、さらに株主が株式の転売を希望しないで、六ケ月又は一年間株主であることを持続するときは、原告は、優待金等の名義で、年一割ないし一割三分の金員を支払う。これらの場合、譲渡の斡旋は一〇〇株又は二〇〇株単位で行なわれ、譲渡価格は常に額面金額(五〇〇円)によるものとされていた。以上のような方式の下に、原告は、「株主間の利植と金融」を謳つて、申込額、払込方法、奨励金、優待金等を記載したパンフレツト(甲第二、第四号証)を配布して右方式による株式買受希望者を募集するとともに、買受希望者との間で、前記のとおりの譲渡斡旋、奨励金、優待金等の支払いなどを約定した契約書を作成し、日払い、月払いによる買受希望者については、原告従業員が集金を担当した。以上の事実を認めることができる。

原告のような方式による金融業(以下、株主相互金融という。)はいわゆる殖産無尽(講元にあたる経営主が加入者に日賦又は月賦で掛金を払い込ませ、加入者中の希望者に掛金額の何倍かの金額を貸し付け、貸付けを受けた加入者からは、日掛又は月掛で貸付金を回収し、貸付を希望しない加入者には、掛金額に応じて一定率の利息を支払うもの。)の変形物で、殖産無尽は終戦後全国的に流行したが、経営方針の放漫や高金利のための貸倒れなど経営者、加入者双方の不信行為があつて、幣害が顕著になつたため、貸金業等の取締に関する法律が制定され、不特定多数の者から貸金業者が預り金を受け入れることが禁止された(同法第七条)。そこで、この制限から脱れるために考案されたのが、株主相互金融の方式であり、資金の受入れを株式代金の支払いの形で行なうことによつて、右の禁止を免れることにしたのである。この方式は、それが利廻りの高い有利に見える利殖手段であつたところから、一時は一般大衆から巨額の資金を吸収したが、昭和二八年株主相互金融の一種として匿名組合方式をとつていた保全経済会が倒産したことから、大衆の信用を失い、その大部分があいついて倒産した。以上の事実は、世上常識として知られている事柄として、当裁判所に顕著な事実である。

証人稲田市作の証言及び原告代表者本人尋間の結果によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告が株主相互金融方式により貸金業を行なうことになつたのは、次のような事情による。原告は貸金業の資金調達のため、多数の者から多くの資金を吸収する必要があつたが、通常の方法による増資によつては、出資者は、事業年度の利益に応じて決定される浮動的かつ不確定な利益配当を得け得るだけで、しかも、上場会社でもない原告の場合に、株主となつた者が取得株式を譲渡して資金を回収することも困難であるから、原告程度の信用では、広く出資を期待し、営業資金を調達することが不可能なところから、昭和二六年当時流行しつつあつた株主相互金融の方式により、資金調達をはかることにし、原告の株式買受希望者を募集するに当り(なお、新株の引受は、原告の縁故者が主として原告よりの借入金によつて払い込むため、新株の引受によつては、実質的に会社資金は調達されず、株式買受希望者の支払う株式代金によつて、縁故者より貸付金の返済を受けた時に、はじめて原告は資金調達の目的を達し得ることとなる。)、融資を約束し、また融資を希望しない株主には、一定割合の奨励金、優待金等の支払いを約し、かつ株式の譲渡斡旋の求めに応じ、その場合には、原告がその譲渡代金を即時立て替えて支払うことにして、一般大衆の資金を営業資金として調達する途を開いたのである。このような方式によつて、株主になつた者に対して、原告は、通常の株主と同様株式を交付し、その名前等を株主台帳に記載し、株主総会の通知等をしていたが、実際に株主総会に出席した者はごくわずかであつた。また、原告においては、昭和二九年以降は、利益があがつていたが、株主に対する配当は行なわず、昭和三四年頃五〇万株の優先株式を発行し、それ以後右優先株式に対しては、年五分ないし六分の利益配当を行なつているものの、普通株式についてはまだ利益配当を行なつたことはない。しかし、業績が上昇すれば、株主相互金融方式による株主も含めて普通株主に対しても利益配当を行なう予定である。原告の発行済株式のうち、株主相互金融方式によつて取得された株式の割合は、昭和三一年九月末現在で発行済株式総数五三〇万株中二九八万二、六八〇株で、昭和三四年九月末当時は、発行済株式総数九一〇万株中三〇七万二、四八四株であり、係争事業年度の後の昭和三五年九月末には、発行済株式総数九七六万株中二一七万五、〇八四株となつており、次第にその割合を減じているが、それは、原告において資金の内部留保につとめ、原告の信用が高まるにつれて、株主相互金融方式により、奨励金や優待金等の支払を約さなくても、原告の取引先等が原告の株式を買い受けてくれるようになつたため、株主相互金融による株主より、株式の譲渡斡旋の依頼を受けた株式を、前述のような株主相互金融に特有な約束ないし負担のつかない、通常の株式として、取引先等に譲渡したことによるものである。

五、株主優待金の損金性。

以上認定の事実によれば株主相互金融の方式は、会社の営業資金調達の便法であり、法律上の制約さえなければ、これを増資の形式で行なうべき必要性はなく、しかも、通常の増資の手続によつたのでは、信用も薄く、利益配当の可能性ないしその率が不確定で、しかも株式の譲渡も容易ではないため、とうてい新株式の引受人または買受人が現われることを期待することができなかつたところから、株式の買受人には、融資または融資を受けない場合には、株式の買受価格(それは常に額面金額であつた。)に一定割合による金員(株主優待金)を支払うこととして、株式の買受人を募集し、実質的に会社資金の調達を図つたものであり、これに応じて株式を買い受けた一般大衆も、会社の事業目的、事業内容を検討して、株主として会社の営業の成果にあずかる趣旨から株主となつたものではなく、融資を希望しまたは会社の約束する株主優待金が、銀行預金等の利子に比較して高利になるところから、そのような高利の取得を希望して、会社の求めにより形式的に株主となつたもので、原告が支出した株主優待金も以上のようなものであることは明らかである。かような株主優待金の実態よりすれば、これを経済的、実質的に見る限り、それは銀行等の金融機関の支払う預金の利子と異ならないものと認むべきことは明らかと思われるが、さらにこの点を分説することとする。

第一に、株主優待金の支払いが約束されたのは、会社が資金を調達する場合に通常の増資によつて、つまり利益配当が行なわれ得るということだけでは、とうてい資金を調達することができないところから、高利になる株主優待金の支払いをすることによつて、資金調達の実をあげようとしたものであり、従つて当事者の実質的な狙いは、金利としての株主優待金の授受を前提とする資金調達とこれへの応募であつて、それが増資の外観をもつて行なわれたのは、貸金業等の取締に関する法律の違反に問われるのを避けるための手段としてであり、当事者の経済的目的は、会社の株主となることにはなかつたのである。従つて、これを経済的、実質的に見る限り、金融機関が不特定多数の者から預金を受け入れ、これに利子を支払う関係と異ならないこととなる。第二に、株主優待金のこのような基本的性格よりして、その取引の外形においても、預金類似の方法がとられ、出資者は、会社が定めた定型的な方式により、日掛、月掛、一時払いの方式により資金を提供し、日掛、月掛の満了または一時払い後一定期間を経過したときは、いつでも株主は、株式の取得価格に一定割合の優待金を即時に会社より取得できることとなつており、それは、金融機関の行なう日掛、月掛の積立預金または定期預金とその外形においても実質においても異ならない。

従つて、第三に、株主優待金は、会社の事業年度の決算をまつことなく、確定的かつ継続的に支払われるものであり、株主優待金の額の決定も、会社の利益と無関係に、金融機関の預金の利子との対比において、原告においては、その二倍として定められている(この事実は、原告代表者本人尋問の結果によつて認める。)。そして、第四に、株主優待金の以上のような性質から、それが支払われるのは、株主優待金の支払いの約束ある株主に限られ、融資を受ける株主、又はこの約束のない株主に対しては支払われなかつたが、そのことについて、違法、不当の非難が起ることはとうてい考えられない。(株主に平等に支払わるべき利益配当であるならば、その配当を受けない株主より非難の声があがるはずである。)第五に、株主優待金を受ける株主の意図が、会社の事業目的、成果と一応別個に、ひたすら高利を期待するものであつたところから、株主相互金融方式をとる一社が倒産して、このような金融形態について信用が害されたとき、先に認定したように、同種方式による業者のあいつぐ倒産を招来し、金融機関の信用恐慌に類似する現象を生じたのであるが、このことは、業態の実質が金融機関と異ならず、株主優待金の支払を受ける株主の地位が実質上金融機関における預金者の地位に類するものであることを示唆するものである。(もつとも、原告は倒産はしなかつたが、証人稲田市作の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、それは原告が中央を離れた東北において営業を行ない、その経営基盤が強かつたことによるが、それでも当時相当の株主が原告に株式のいわゆる譲渡斡旋を求めたことが認められる。)

以上の説明から明らかであるように株主優待金は、これを経済的、実質的に見る限り金融機関の預金利子と異ならないものであり、これを益金処分の形式によらず損金の形式で支出したのは、あたかも、正規の金融機関が預金の利子を損金として支出するのと同様の、経済的、合理的理由に基づくものであつて、経済的実質的に考察するかぎり、法人税軽減の目的がなかつたとすれば、通常、決算上、利益処分としこれを支出したはずであるということがいえないのはもとより、それが経済的合理性をまつたく無視した行為計算であるといいえないことも明らかである。

なるほど、株主相互金融なる方式が商法その他税法以外の法律の見地においては、種々の点で、その適法性に疑問があることは否定しえないところである。しかし、問題の行為計算が税法以外の法律の見地において不適法とされることは、その行為計算が経済的考察において不合理、不自然とすることの理由となりえないことは前述のとおりである。また、株主優待金を損金の形で支出することが結果において法人税軽減を来たすことも否定しえないところであるが、行為計算が単にその結果において租税の軽減を来たすということのみによつてこれを否認の対象とすることのできないことも、ここにくりかえすまでもないところである。さらに、株主優待金をその経済的実質に即して預金の利子に類するものとする場合には、その金利が正規の金融機関のそれに比して異常に高利率であることも疑いのないところであるが、原告のような株主金融の方式をとつた業者が当時おかれていた経済的条件の下でかような高利の金利を払つても資金を調達する合理的必要性がなかつたとはいいえないことは、純経済的に考察するかぎり否定しえないところであつて、かような事業方式が業態として不健全なものであつて批判に値するものであり、法的規制を受けるに値するものであるとしても、そのことは純経済的見地において、原告のとつた行為計算の合理的必要性を否定する理由となるものではない。これを要するに、原告が株主優待金を益金処分の形で支出せず損金として支出するについては、それ相応の経済的、合理的理由があるものと認められる以上、これを否認の対象とし利益処分として取り扱うことは許されないところといわねばならない。

もつとも、株主相互金融による株主も、法形式的に株主であり、従つて、原告において、株主総会の通知等の関係でこれを株主として扱い、そしてこれに対し利益配当が行なわれていないことは、前認定のとおりである。従つて、株主優待金のうちのなにほどかは、実質的に利益配当の意味をもつ部分(或いは利益配当に代えて支払われる部分)を含むと解する余地もないではないように思われる。しかし、かような見解をとる場合でも、株主優待金のうち利子部分と利益配当部分とを、立法をまたないで、行政上合理的に区分することは不可能であるからこれを納税者の不利益に、全部益金と認めることは許されないところであり、法律の規定がない以上、結局、その全部を損金として取り扱うほかはないものといわねばならない。

なお、被告は、原告自身において、株主優待金が損金に当たらないとして、確定申告書において自己否認していると主張し、成立に争いのない乙第六、第七号証によれば、昭和三三年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日までの事業年度分法人税の確定申告書において、優待金三、九三一、七七二円につき原告が損金算入を自己否認していることは明らかであるところ、原告は、右優待金名義の支出は名称は類似しているが株主優待金とは異なり、株主総会の決議に基づいて支出されたもので、性質を異にすると争つているにかかわらず、右支出が被告の主張するように、本訴で問題の株主優待金と同性質のものであることについては、なんらの立証がなく、かえつて、原告が本訴で同事業年度分所得額として主張する額(すなわち、本訴において当事者間に争いがない株主優待金の額金八、六四二、四二四円を損金として控除すべきものとした場合の所得額)は、金七七、四六二、八五四円であるのに対し、確定申告において「優待金三、九三一、七七二円」の損金算入を自己否認した後に算出された所得額が金七六、七六八、二五二円であること(前掲乙第六号証により明らかである。)よりすれば、本訴で問題となつている株主優待金額の中に、右自己否認にかかる「優待金」の額は入つていないものと認められ(もし、これも入つているとすれば、本訴における原告主張の所得額は、確定申告のそれよりも低額になるはずである。)、このことよりして、本訴で問題の株主優待金と確定申告で自己否認した「優待金」とは性質を異にするとの原告の主張は一応推認できるばかりでなく、本来、特定の支出が損金に当たるかどうかは法律判断であつて、当事者の主張や態度によつて左右されるものではないから、被告主張のとおりの事実があつたとしても、株主優待金を損金に算入すべきものと判断することについて、なんら差障りとなるものではない。

六、結論。

原告の本訴請求のうち、昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税の審査決定の取消しを求める訴えは、出訴期間を徒過した不適法な訴えである。

原告の昭和三一年一〇月一日より昭和三二年九月三〇日まで、同年一〇月一日より昭和三三年九月三〇日まで、同年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日までの各事業年度分法人税について、原告主張のような更正処分、審査決定があり、原告主張の額の株主優待金を右各審査決定において損金に算入しないで、所得金額を算出したことは当事者間に争いのないところ、前記のとおり、株主優待金は損金に算入すべきであるから、右各事業年度の所得金額は、審査決定認定額より右株主優待金相当額を控除した別表第四欄記載の原告主張額となり、被告の右各事業年度分審査決定のうち、右金額を越える部分は違法であつて、取り消さるべきものである。

よつて、原告の本訴請求のうち、昭和三〇年一〇月一日より昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税に関する審査決定の取消しを求める訴えは、これを却下し、原告その余の請求はいずれも理由があるからこれを認めることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 浜秀和 町田顕)

(別紙)

事業年度

更正処分(第一欄)

審査決定(第二欄)

株主優待金額(第三欄)

原告主張所得額(第四欄)

年月日

認定所得額

年月日

決定内容(認定所得額)

自昭三〇、一〇、一至昭三一、九、三〇

三二、七、三一

四〇、二三二、一九九

三三、七、九

一部取消(四〇、〇四五、七九五)

七、〇七三、四五八

三二、九七二、三三七

自昭三一、一〇、一至昭三二、九、三〇

三三、六、三〇

五七、八二〇、二九九

三四、一、二〇

一部取消(五七、五九七、六五九)

八、一六〇、八五七

四九、四三六、八〇二

自昭三二、一〇、一至昭三三、九、三〇

三四、七、三一

七一、一〇三、四九〇

三四、一一、五

棄却

七、二九七、八四七

六三、八〇五、六四三

自昭三三、一〇、一至昭三四、九、三〇

三五、五、三一

八六、一〇五、二七八

三五、九、一六

棄却

八、六四二、四二四

七七、四六二、八五四

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