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東京地方裁判所 昭和35年(行)61号 判決 1968年12月24日

原告 中村権一

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 東城守一

右同 鈴木紀男

右同 久保田昭夫

右同 松崎勝一

右同 栂野泰二

右四名訴訟復代理人弁護士 後藤昌次郎

右同 小谷野三郎

右同 山本博

右同 舎川昭三

右同 水上学

被告 郵政大臣 河本敏夫

右訴訟代理人弁護士 永津勝蔵

右指定代理人 藤堂裕

<ほか二名>

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

第一本件処分の存在

原告中村は山形郵便局に、同宮下は高田郵便局に、同長光は安来郵便局に、同坂倉は鳥羽郵便局に、各勤務する郵政事務官であるところ、被告は昭和三五年一月二八日付で原告らの別紙処分説明書記載の違法行為を理由として原告らに同説明書を交付したうえ原告らを本件処分に付したことは、当事者間に争いがない。

第二本件処分の理由

被告主張の本件処分の理由について以下検討する。

一、原告らの行為

≪証拠省略≫によれば、組合は、その第二〇回中央委員会において、安保条約改定阻止、炭労の企業整備反対闘争、団交再開、I・L・O条約の批准、公労法改正の闘争と、当面の経済要求である裁定二五〇円の即時実施、当局の一方的俸給表および欠格基準の撤回、年末手当二ヶ月分の獲得、年末首繁忙手当の制度的確立、郵便および委託能対費の即時支給、非常勤職員の定員化を主目標に秋期年末闘争を闘うことを決定し、第八回中央執行委員会は、右闘争の具体的展開と戦術の大綱を決定すると同時に、右中央執行委員会を中央闘争委員会に切り替えることを宣言するとともに、昭和三四年一一月一七日付で、組合各級機関に対し、闘争指令第一号を発したことが認められる。

≪以下原告らの各行為の認定に関する部分省略≫

二、原告らの前記認定の行為に対する評価

(一)  原告中村について

本件処分の理由である原告中村の前記認定の行為のうち、昭和三四年一一月二七日午前九時頃約二五〇名の動員者と意を通じて仙台郵政局管理者側の制止を振り切って同局庁舎内に侵入した行為、同日午前九時一〇分頃および同一五分頃の二度にわたり同局管財課長らが原告中村に対し動員者を同局庁舎内から退去させることを命じたにもかかわらずこれに応ずる措置をとらなかった行為、同日午前一一時五分頃組合員ら約五〇名と共謀して同局人事部事務室においてスクラムを組んで労働歌を合唱して同局職員の執務を妨害し、同一二分頃右組合員らと意を通じ同室において同局渡辺管理課長、郵務部業務課長、大泉給与課長、大内電業課長補佐らに暴行を加えた行為、同年一二月九日午前九時三三分頃約二〇〇名の動員者と意思相通じて同局管理者側の阻止を排して同局庁舎内に侵入した行為、同日午前六時二分頃から同四〇分頃までの間動員者を指揮して同局管理者側の制止にもかかわらず同局庁舎の窓ガラス、ドア等に約三〇〇〇枚のビラを貼付した行為、同日午前七時三一分頃組合員と共謀して同局人事部長室ドアに約五〇枚のビラを貼付した行為、同日午前七時三七分頃同局疋田建築部長らに対し椅子を振り上げて床に打ちつけながら迫った行為、同日午後〇時二五分頃約一一〇名ないし一二〇名の動員者と意を通じて同局人事部長室で「ワッショイ、ワッショイ」と気勢を挙げた行為、同日午後二時一五分頃から同四〇分頃までの間組合員ら約一〇〇名と意を通じて同局管理者側の退去命令に応ぜず同局人事部長室において同部長に対し交々暴言を吐いた行為、同日午後二時五三、四分頃動員者と意を通じ動員者において同局人事部長室において同部長の身辺を巡ってデモをし同部長の着席していた椅子を小突いて同部長の膝を机にぶつけた行為、同日午後二時五八分頃同局人事部長室に入ろうとした際退去命令を連呼する同局管財課長に対し「うるさい。」と怒鳴って右命令に応じなかった行為、同日午後三時一分頃組合員約一五名に命じて同局人事部事務室内でデモをした行為、同日午後三時二五分頃同局人事部長室内で動員者らに対しいわゆる洗濯デモを命じ同局疋田建築部長、兵藤管理課長補佐、人事部考査係長に暴行を加え同局人事部長の机を連打した行為、同日午後三時三八分頃動員者らと意を通じ動員者らにおいて同局人事部長室内で坐り込みをした行為、同日午後三時二五分頃から同四時八分頃までの間において同局人事部長に対し暴言を吐いた行為、以上の原告中村の行為は、「官職全体の不名誉となるような行為」であり、かつ「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」であることが明白である。

したがって、原告中村は、国家公務員法第九九条に違反し同法第八二条第一号に該当し、かつ、同条第三号に該当する。

しかも、原告中村の右の違法行為の性質、態様からみて、原告中村の国家公務員法違反の情状は重いといわなければならない。

(二)  原告宮下について

本件処分の理由である原告宮下の前記認定の行為のうち、昭和三四年一一月二七日午前九時六分ないし同八分頃動員者約二四〇名を指揮して長野郵政局構内グランドに侵入した行為、同日午前九時三三分頃右動員者らと意思相通じて同局管理者側のピケを突破して同局庁舎内に侵入し同局管理者側の退去命令に応じなかった行為、同日午前九時四五分頃動員者らに対しいわゆるごぼう抜きを命じ同四六分から同五一分頃までの間に同局茂木管理課長補佐、伝田管理係長、青山管理課長、市川考査係長、武井労働係員らに対し暴行を加えた行為、同日午前一〇時二〇分頃動員者らに対しふたたび管理者に対していわゆるごぼう抜きおよび洗濯デモを命じ同局青山管理課長、轟人事課長補佐、伝田管理係長、武井労働係員、六鹿輸送施設課長、西沢主計課長補佐に対して暴行を加えその際右轟、伝田、武井、西沢および同局建築部高村技術課長、管理課矢野口事務官に傷害の結果を生じさせた行為、以上の原告宮下の行為は、「官職全体の不名誉となるような行為」であり、かつ、「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」であることが明白である。

したがって、原告宮下は、国家公務員法第九九条に違反し同法第八二条第一号に該当し、かつ、同条第三号に該当する。

しかも、原告宮下の右の違法行為の性質、態様からみて、原告宮下の国家公務員法違反の情状は重いといわなければならない。

(三)  原告長光について

本件処分の理由である原告長光の前記認定の行為のうち、昭和三四年二二月二七日、安来郵便局道順組立室および同局裏庭において同局局長の退去命令に応ぜず、同局管理者側の制止にもかかわらず組合員らを同道して二度にわたり同局事務室に侵入し管理者の退去の要求に応じなかった行為、同年一二月一〇日、浜田郵便局事務室に侵入して同局郵便課長の退去命令に応ぜず、さらに同局管理者側の阻止を突破して動員者約二〇名を同局構内に導入し、同局管理者側が提出した「局舎の使用を認めない」旨の懸垂幕を引き落そうと試み、動員者約五〇名とともに藤本課長補佐、小林保険課長らに暴行を加えたうえ同局局長室に侵入し、同局の業務阻害の結果を生ずるに至らせた行為、同月一一日、同局事務室において動員者らとともに同局郵便課長を取りかこみ同課長らの退去命令に応ぜず郵便一号便の配達作業を中断するに至らせ、同局松本郵便課長に暴行を加え、同局の業務阻害の結果を生ずるに至らせた行為、同月一二日、同局事務室に侵入し同局庶務会計課長の退去命令に応ぜず、さらに同局管理者側の阻止を突破して同局道順組立室に侵入し同局局長の退去命令に応ぜず、広島郵政局郵務部藤本輸送施設課長補佐を同室外に押し出し浜田郵便局松本郵便課長に暴行を加え、同局の業務阻害の結果を生ずるに至らせた行為、同月一四日、同局管理者側の阻止を排除して同局道順組立室に侵入し同局郵便課長らの退去命令に応ぜず騒いで室内を混乱させ、さらに同局貯金課事務室および道順組立室において同局局長から退去命令を受け、ついで同局郵便課長席付近において同局庶務会計課長から退去命令を受けたが、いずれもこれに従わず、同局の業務阻害の結果を生ずるに至らしめた行為、同年六月二五日、木次郵便局裏庭から外勤事務室に侵入し同局局長の退去命令に応ぜず、同局裏庭において同局外勤者佐藤の腕をとり、同狩野の自転車のハンドルを掴まえてその出発を阻止し、さらに前記佐藤の自転車を掴み腕を取って同人らの出発を阻止した行為、昭和三三年一二月三日、松江郵便局外勤控室に侵入し、翌四日、同局外勤室、道順組立室に侵入し、いずれも同局庶務課長らの退去命令に応じなかった行為、同月五日、同局郵便窓口職員から取扱い中の年賀はがき等を取り上げ、同局郵便外務員松野の自転車に施錠して鍵を奪ってその出発を妨害し、同局現金窓口職員田中の腕をつかんでその就業を妨害し、さらに同日午後一時二五分頃同局武政庶務課長、竹内会計課長に暴行を加え、武政庶務課長に傷害の結果を生じさせた行為、同月六日同局安達貯金課長に暴行を加えた行為、同月七日同局郵便事務室、道順組立室において同局次長の退去命令に応ぜず、同局郵便課長の郵便物運搬を阻止しようとした行為、以上の原告長光の行為は、「官職全体の不名誉となるような行為」であり、かつ、「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」であることが明白である。

したがって、原告長光は、国家公務員法第九九条に違反し同法第八二条第一号に該当し、かつ、同条第三号に該当する。

しかも、原告長光の右の違法行為の性質、態様からみて、原告長光の国家公務員法違反の情状は重いといわなければならない。

(四)  原告坂倉について

本件処分の理由である原告坂倉の前記認定の行為のうち、昭和三四年一二月一日津郵便局において同局神田労務主事を壁に押しつけ、同主事からビラを奪い取った行為、同月八日同局郵便課長席において同局郵便課長の退去命令に従わなかった行為、同月九日同局郵便外務主事席において同局郵便課長らの退去命令に従わなかった行為、同月一一日同局廊下においてビラ剥しのため同局伊藤庶務課長の選んで来たバケツを蹴飛ばし同課長のビラ剥しおよび前記神田主事の写真撮影を妨害した行為、同月一五日同局郵便課長席および道順組立室において同局伊藤郵便課長に対して暴行を加え、暴言を吐いた行為、同月六日松坂郵便局郵便現業室に侵入し同局郵便課長の退去命令に応じなかった行為、同月七日午前中、組合員一〇数人とともに同局局長室に侵入し同局局長らの退去命令に応ぜず、同局飯田局長に暴行を加え、さらに同局宮田会計課長にも暴行を加え、前記飯田局長の執務を妨害し、同局の業務阻害の結果を生ずるに至らせ、ついで、同日午後、ふたたび前記飯田局長および同局田中庶務課長に暴行を加えた行為、以上の原告坂倉の行為は、「官職全体の不名誉となるような行為」であり、かつ、「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」であることが明白である。

したがって、原告坂倉は、国家公務員法第九九条に違反し同法第八二条第一号に該当し、かつ、同条第三号に該当する。

しかも、原告坂倉は、前記認定のとおり、昭和三四年八月二四日付で、名古屋郵政局長から、同年一一月三日を始期とする一年間の停職処分に付されており、その処分理由である原告坂倉の行為の主たるものは、昭和三四年七月中旬、津、松坂、鳥羽、伊勢各郵便局において、集団的威力をもって各局管理者等の制止にもかかわらず局舎にビラを貼り、管理者の業務命令の発出を実力で阻止してその職務の執行を妨害し、または管理者に対して実力を行使した行為であって、本件処分の理由である原告坂倉の違法行為と同種の行為であることからみて、原告坂倉の国家公務員法違反の情状は重いといわなければならない。

第三不当労働行為、懲戒権濫用の主張について

一、不当労働行為の主張について

原告らはいずれも組合員であり、かつ、本件処分当時、原告中村は組合東北地方本部執行委員長、同宮下は同信越地方本部書記長、同長光は同島根地区本部書記長、同坂倉は同三重地区本部書記長の各地位にあったことは、当事者間に争いがない。

原告らは、本件処分は昭和三三年七月から同年末にかけての組合のための原告らの活動を理由としてなされたものであり、かつ、原告らが組合の前記役職にあったため、原告らを解雇することにより組合の弱化を図らんとしてなされたものと主張するが、原告らには前記のとおり国家公務員法違反の所為があって、その違反の情状も重いものであるから、本件処分は原告らの右違反を理由としてなされたものと見るのが相当であって、本件処分が原告らの右違反行為に託つけて、真実は原告らの正当な組合活動を嫌悪したため、又は組合の弱化を図るためになされたと認めるに足りる証拠はない。

二、懲戒権の濫用の主張について

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

被告は、昭和三三年四月、組合中央本部の執行委員長等いわゆる組合三役を含む七名の役員を解雇したが、組合が同年七月の全国大会において右被解雇者をふたたび役員に選任したため、被告は被解雇者を組合員とし、かつ、その役員とすることは当時の公共企業体等労働関係法第四条第三項により組合は同法の保護を受くべき労働組合としての資格を喪失したものであるとして、組合との団体交渉を拒否する方針を定めた。各郵政局、郵便局においても、被告の右の方針に従い、組合の地方本部、地区本部、支部等との団体交渉を一切拒否するに至った。そこで、組合は、団体交渉の再開を主目的とする闘争を計画実行するに至った。組合がその各級機関に対し昭和三四年一一月一七日付で発した前記闘争指令第一号、同じく昭和三三年一二月二日付で発した前記闘争指令第一〇号は、いずれも団体交渉の再開を目的として発せられたものである。なお、この間、昭和三三年末には、郵政当局は、地域によっては、組合の下部機関との間で労働基準法第三六条の協定をしたこともあった。そして、その後、昭和三四年一二月二二日には、被告は、公共企業体等労働委員会の斡旋により、被解雇者を役員としたままの状態の組合との間に団体交渉を再開し、労働基準法第三六条の協定をするに至った。

以上のとおり、右の期間被告が組合との団体交渉を拒否していたため、組合は団体交渉再開を目的として前記闘争指令第一号、同第一〇号を発したものであり、本件処分の理由である原告らの前記違法行為は、原告長光の昭和三四年六月二五日木次郵便局における行為以外は、いずれも右各闘争指令を実施する目的をもってなされたものである。また、各郵政局、郵便局管理者側は、原告らが前記違法行為をなした際、原告らとの団体交渉を拒否し原告らに応答しない態度をとっていたのである。

以上のように認められる。

しかしながら、原告らの前記行為が以上の郵政局、郵便局の管理者側の組合との団体交渉の拒否を起因とするものであるとしても、この団体交渉の拒否は原告らの行為特に管理者に対する暴行などの実力の行使を正当化する事由とならないことは明白である。またこのような事情を原告らのための事情として考えて見ても、本件処分が社会的に不相当で懲戒権の濫用と評価すべきものとは認められない。すなわち、本件処分の理由である原告らの前記違法行為は、国家公務員法第九九条に規定する「官職全体の不名誉となるような行為」であり、かつ、同法第八二条第三号に規定する「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」であって、しかも原告らの情状は重いものといわなければならないから、前記団体交渉拒否の事情を考慮してみても前記違法行為を理由に原告らを懲戒免職処分に付したことが懲戒権の濫用であるとは認められないのである。

第四むすび

以上の事実によれば、被告が、国家公務員法第八二条に基づき、原告らを懲戒免職処分に付した本件処分は、いずれも、適法である。

よって、本件処分の取消を求める原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚正夫 裁判官 宮本増 大前和俊)

<以下省略>

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