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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)2802号 判決 1962年11月20日

判   決

原告

広川孝

右代理人弁護士

陶山圭之輛

右復代理人弁護士

菅原光夫

被告

丸文交通株式会社

右代表者代表取締役

弓納持久

右代理人弁護士

戸田謙

右当事者間の昭和三六年(ワ)第二、八〇二号株主総会決議不存在確認請求事件につき次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は、「被告会社が、昭和三二年九月二六日開催の株主総会においてなした被告会社保有車輛中九輛の滅車売却を内容とする営業の一部譲渡の決議は存在しないものであることを確認する。訴訟費用は被告会社の負担とする。」旨の判決を求め、その請求原因として、次のとおりのべた。

(一)  被告会社は、一般乗用旅客自動車運送業等を目的とする会社であり、原告はその株主である。

(二)  被告会社は昭和三二年九月二六日午後一時臨時株主総会を開催し、前記請求の趣旨記載の決議をなしたとして、その頃車輛九輛を車輛ナンバー権とともに他に売却した。

(三)  然しながら、右株主総会が開かれた事実はなく、従つて右決議は存在しない。

(四)  本件車輛の売却は道路運送法第三九条の自動車運送事業の一部譲渡に該るものとして株主総会の特別決議を経て運輸大臣の認可を得たものであるが、この事実は右売却が商法第二四五条にいう営業の重要な一部譲渡に該当することを意味する。従つて株主たる原告としては、本件決議の存否について重大な関心を有する。蓋し右決議が存在しなければ、右運輸大臣の認可は無効であるし、営業の一部譲渡に特別決議を経なかつた本件車輛の譲渡はその効力を生じないものであるからである。

従つて原告は本件訴について確認の利益を有する。

二、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、請求原因に対し、「第一、第二項を認める、第三、四項は争う、被告会社は、原告主張の日時に適法に本件決議をなしたものである。」と述べた。

三、(立証―省略)

理由

まず原告が本件訴について確認の利益を有するか否かについて判断する。

一、証人(省略)の証言によれば、昭和三〇年頃東京都特別区内におけるハイヤー、タクシーは、その総数において一二、一二〇台と定められ、昭和三二年当時もその制限を維持して来たため、当時新たにタクシー営業を開始したり或はタクシーの営業台数を増加するためには、既存業者のタクシー事業を譲りうけるか或は既存業者から所謂ナンバー権付で車輛を譲りうけるより他なく、前者の場合(以下仮に事業譲渡の方法と呼ぶ)には、道路運送法第三九条により運輸大臣の認可を要し、後者の場合(以下仮に事業計画変更の方法と呼ぶ)には、売主においては同法第一八条、同法施行令第四条により都知事に対し、事業計画変更(台数の減少)の申請をし、その際同時に譲受人において減車に見合つた数の増車の申請をしてその認可を受けることとしていたこと及びその申請には前者の場合には株主総会の特別決議を要求し、後者の場合にはこれを要求していなかつたことが認められる。

二、そこで本件においてこれをみるに、証人(省略)の証言によれば、昭和三二年九月の本件決議の頃、被告会社は極度に資金に窮し、そのため当時一九輛あつたタクシーのうち九台を大東京タクシー及び日生交通に売却することとし、所轄庁に対しては事業計画変更の方法により滅車及び増車を申請してその認可を受けたものであることが認められる。この点に関し、原告は事業譲渡の方法によつたもののごとく主張するが誤りである。

三、ところで道路運送法施行規則第一三条には、事業計画変更認可申請についての必要書式が規定されているが、それには株主総会の特別決議を必要とせず、前判示のごとく所轄庁の実際の取扱も同様であつた。従つて事業計画変更の方法によつた本件車輛売却については株主総会の特別決議は必要なかつたものである。

以上の次第であるから、本件決議の不存在が確定すれば、本件車輛売却を認可した行政処分が無効となることを主張し、この点からして本件訴について確認の利益があるとする原告の主張は失当である。

四、次に本件車輛の売却が商法第二四五条第一号にいう営業の一部譲渡にあたるか否かについて考えてみる。

本件決議当時、タクシー業界においてはタクシー車輛をいわゆるナンバー権付で取引されていたのであるが、これは前に見たごとく当時東京都特別区内のハイヤー、タクシーの総数が限定されていたので無制限に営業台数を増加することが許されなかつたが、ただ車輛の売主が事業計画の変更として滅車の申請をする場合、それと同時に買主において減車に見合つた数の増車の申請をした場合には、これを認可する取扱としていたためであり、そのため業界において事実上車輛の売買にいわゆるナンバー権付として実際の車輛の価値以上に相当のプレミアムを附して取引がなされていたのであるが、そこで取引の対象とされるのは、単なる車輛であつて営業としての実態即ち社会的活力ある有機体を形成しているものではない。

本件もその場合であつて大東京タクシー及び日生交通への車輛の売却は営業の一部譲渡ということはできない。従つて本件車輛の売却は本来株主総会の決議を必要としない場合であつて、仮に本件決議が存在しないとしても、その売却の効果に何らの影響がないのであるから、その点においても確認の利益はない。

以上のとおりであるので原告は本件訴についての確認の利益を有しないものというべきである。とすればその余の点について判断するまでもなく、本件訴は不適法である。よつて本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

東京地裁判所民事第八部

裁判長裁判官 伊 東 秀 郎

裁判官 近 藤 和 義

裁判官 宍 戸 達 徳

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