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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)3741号 判決 1962年10月04日

原告 白山ヒサ

被告 本田技研工業株式会社

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、原告は訴訟費用を支払え。

事実

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、昭和三五年五月二一日発行にかゝる被告の新株式一〇〇〇株を交付せよ。

2  被告は訴訟費用を支払え。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

三、請求原因

1  被告は、昭和三四年一二月二日開催の取締役会において、次の趣旨の決議をした。

a  記名式額面普通株式五、七六〇万株を発行する。

b  発行価格は、一株につき金五〇円とする。

c  新株式は、昭和三五年二月二九日午後五時現在株主名簿に記載されている株主に対し、その所有株式一株について新株式二株の割合で割当てる。

d  申込期間は昭和三五年四月二五日より同年五月一〇日までとする。

e  払込期日は昭和三五年五月二一日とする。

f  申込証拠金は一株について金五〇円とし、払込期日に払込金に振替充当する。

2  原告は、昭和三五年二月二九日午後五時現在の被告会社の株主名簿に五〇〇株の株式を有する株主として記載されている。

3  原告は、被告より、昭和三五年四月二五日、一〇〇〇株の新株割当通知書及び株式申込用紙の送付を受けた。

4  原告は、同年五月二日、右申込用紙に所定事項を記入の上、申込取扱場所である払込取扱銀行において一〇〇〇株の申込をなした。

5  原告は、右申込と同時に申込証拠金五〇、〇〇〇円の払込をなした。

四、請求原因に対する認否

全部認める。

五、抗弁

1  原告は、訴外田中佐一に対して、昭和三五年一月二八日、請求原因第2項記載の株式を譲渡した。

2  右田中は、被告に対し、同年二月一六日右株式の名義書換手続を請求した。

3  被告は、右田中に新株引受権を付与したが、同人は同新株につき申込をなし、且つ払込金全額を払込んだ。そこで被告は、同人に対し、新株券を発行交付した。

4  被告より原告に対してなした新株割当通知は無効である。

a  第1項に述べたように、原告は新株割当日において実質的株主ではないから、新株引受権を有せず、従つてこれに対してなされた新株割当通知は無効である。

b  被告は原告が実質的株主であると信じて右通知をなしたのであるから、その動機において錯誤があり、しかもこの動機は右通知自体に表示されているから要素の錯誤となり、従つて右通知は無効である。

5  被告は、原告に対して、昭和三五年五月三日、新株割当通知の撤回をし、申込証拠金五〇、〇〇〇円を返金した。

六、抗弁に対する認否

第1項は認める。第2、3項は不知。第4項は否認する。

七、再抗弁

仮に、抗弁第4項bの事実があつても、被告には重大な過失がある。

八、立証<省略>

理由

一、請求原因事実は当事者間に争いがない。

二、抗弁事実第1項は当事者間に争いがない。

三、抗弁事実第2項は、証人小佐野の証言及び乙四34、五234号証(乙四4中田中佐一の欄の成立は右証人の証言によつて認め、その余は成立につき当事者間に争いがない)の各記載を綜合してこれを認める。

株式譲受人が譲受株式につき分社に対して名義書換の請求をしたにかかわらず、会社が正当の理由なくその請求に応じないときは、会社はいまだその名義書換のないことを理由として右譲受人の株主であることを否定しえないものと解すべきである、右証人小佐野の証言によれば、被告会社が訴外田中佐一の名義書換請求に応じなかつたのは、被告会社係員の過失によるものであることが認められるから、被告は本件割当当時同訴外人を株主と認めざるをえず、その反面において、原告は被告会社に対しもはや自己が株主であることを主張しえなくなつたものといわざるをえない。従つて、原告は、本件割当日において、株主名簿記載の株主とは云えないことになるから、その余の抗弁事実について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。

四、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条適用。

(裁判官 長谷部茂吉 武藤春光 宍戸達徳)

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