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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5111号 判決 1962年5月15日

原告 森道男

被告 辰巳物産株式会社

右代表者代表取締役 宮下貞美

右訴訟代理人弁護士 藤光巧

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し金一五万円およびこれに対する昭和三五年五月二〇日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「原告は、被告振出に係る、金額一五万円、支払期日昭和三五年五月一九日、支払地東京都千代田区、支払場所芝信用金庫神田支店、振出地東京都千代田区、振出日昭和三五年二月一五日(白地を後に補充)、受取人(白地を後に補充)並第一裏書人浜田繊維工業株式会社、第二裏書人石川孝之、各裏書とも白地裏書、なる約束手形一通の所持人であつて、支払期日に支払場所に呈示して支払を拒絶せられた。よつて右手形金および手形法所定利息の支払を求める。」と述べ、被告主張の抗弁に対し、「被告の訴外砂川九二一に対する割引依頼に関する事実は不知、その余の事実は否認する。」と述べ、

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「原告主張事実は認めるが、本件手形は、被告が訴外砂川九二一に割引を依頼したためその占有を喪失し、原告は、右事情につき悪意又は重過失善意によつてこれを取扱つた無権利者である。仮りにそうでないとしても、受取人浜田繊維工業株式会社は原告となんらの取引関係もなくその営業所も不明であつて、本件手形を割り引いた事実もなく、本件手形につき原因関係存在せず、原告は右事情を知りながら、従つて被告を害することを知つて、本件手形を取得したものであるので、被告は原因関係不存在の抗弁をもつて原告に対抗し得る。」と述べ、

立証として≪省略≫

理由

原告主張事実は当事者間に争がない。被告主張の抗弁のうち、原告無権利の抗弁について判断するに、成立に争のない乙第一、二号証≪省略≫を綜合すれば、次の事実が認められる。すなわち、本件手形を含む五通の約束手形を受取人欄白地で振り出し、社員北沢清の紹介する訴外砂川九二一に割引を依頼して預け渡したところ、砂川はこれを手形ブローカーに交付して転輾先き不明となりその占有を喪失する結果となつた。一方、原告は、手形割引や金融で利用し合つている友人の紹介で、染物業をしている訴外石川孝之(現在所在不明)から本件手形の割引を依頼され、石川が取引上の受取手形だというだけで多くは語らないのを軽信し、今までに石川との間に手形割引関係もなく最初の割引であるにかかわらず、同人の信用状態について調査もせず、その取引先きをも確めることなく、第一裏書人浜田繊維工業株式会社にも振出人被告会社にもなんら照会することなく、軽々に石川から直接本件手形の裏書交付を受けてこれを割り引いた。以上の認定を覆えすに足る証拠はない。

右事実によれば、本件手形は、ひつきよう被告が占有を喪失したものを原告が重過失善意によつて取得したものと認めることができ、手形法第一六条により、原告は無権利者といわねばならない。よつて、原告の本訴請求は失当として棄却を免れないので、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 立岡安正)

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