東京地方裁判所 昭和37年(ヨ)2174号 決定 1962年9月22日
申請人 若木泰 外四名
被申請人 東京水道労働組合
主文
一、被申請人の第二〇回臨時大会(昭和三七年七月七日開催)における組合解散決議の効力を停止する。
二、被申請人代表者は右決議を執行してはならない。
(注、保証金八〇万円)
(裁判官 吉田豊 橘喬 松野嘉貞)
〔参考資料〕
仮処分命令申請書
申請の趣旨
一、債務者の第二〇回臨時大会(昭和三七年七月七日開催)における組合解散決議の効力を停止する。
二、債務者代表者は右決議を執行してはならない。
との裁判を求める。
申請の理由
一、債務者は、東京都水道局勤務企業職員約八、五〇〇名をもつて組織する労働組合であり、債権者等はいずれも右組合の組合員である。
二、債務者組合では、昭和三七年三月に組合専従書記による組合費使いこみ事件が表面化して以来、これを口実に組合組織を破壊しようとする分子の策動が活発になつた。
昭和三七年五月二五日に開催された第一九回臨時大会において、中央執行委員会は総辞職し次期大会で新中央執行委員会を選出することとなつたが、それまでの間従来の中執が「代行委員」として本部業務の執行にあたることに決められた。
この大会では「組合解散」の動議が提出されたが、反対意見が強かつたため採択されるに至らなかつた。
右大会後、組合解散を策する一部分子は、代行委員の一部や係長等下級職制を中心に「再建同志会」と称する分派組織の結成にのりだし、現組合解散・新組合結成の賛同署名運動を公然と展開した。
債務者組合代行委員長(中央執行委員長)坂本喜一は、組合の最高責任者たる地位にありながら右分派組織「再建同志会」に加入し同分派と気脈を通じつつ、昭和三七年七月五日に再建同志会結成大会、同月七日に新組合結成大会を開くという同分派の方針にあわせ、同月七日に第二〇回臨時大会を招集し組合解散決議の強行をはかつた。
三、このようにして昭和三七年七月七日に開催された第二〇回臨時大会において、「再建同志会」派は、大会役員の独占に成功したのを幸いに、代議員からの緊急動議や議事運営に関する発言を黙殺し、一方的に討議を打切つて組合解散の動議を採決に付した。
このような非民主的な議事運営に憤激した代議員が立ち上つて議事運営について発言を求め、発言を求める起立者と解散賛成起立者との区別もつかない程の混乱の中で、議長は採決を強行し「賛成者多数により組合解散を決定し、本日の大会を終了する」旨宣言し一部代議員とともに退場してしまつた。
退場した代議員等の一部は「再建同志会」が予め用意してあつた会場に集合し新組合を結成したが、解散前組合の代行委員長(中央執行委員長)坂本喜一は、代行委員二〇名中一四名が「再建同志会」=新組合に加わつたのを幸いに代行委員会(中央執行委員会)のメンバーをもつて残務処理委員会を構成し清算業務の執行にあたらせようとはかり、残務処理委員会を数回招集して数千万円におよぶ組合財産の処分計画を立案中であり、既に一部分は処分済である。
四、ところで、前記第二〇回臨時大会における組合解散決議はその要件を欠き無効のものである。
「再建同志会」側の発表によれば、右決議は大会の代議員総数七〇九名、出席代議員数六七四名の賛成を得たということになつている。採決時の混乱に照らせば、賛成者が果して四六五名にも達していたかどうか甚だ疑問であるが、仮に右発表が正確であるとしても、右決議は無効である。
即ち、労働組合法第一〇条は
「労働組合は、左の事由によつて解散する。
一、規約で定めた解散事由の発生
二、組合員又は構成団体の四分の三以上の多数による総会の決議」
と定めているが、債務者組合規約には解散事由を規定した条項がない。従つて右労働組合の解散は労働組合法第一〇条第二号によつてのみ行なわれるべきものである。しかるに本件解散決議が組合員もしくは代議員総数その四分の三以上の賛成はおろか出席代議員の四分の三以上の賛成も得ていないことは明らかである。
五、よつて、債権者等は組合員として組合の組織と財産をまもるため債務者に対し前記解散決議無効確認訴訟を提起すべく準備中であるが、前述の如く債務者代表者等は組合財産の処分をいそいでおり、本案判決をまつていたのでは回復しがたい損害を蒙るおそれがあるので、本件仮処分申請に及んだ次第である。