東京地方裁判所 昭和37年(レ)57号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕本件土地はもと山林で所有者たる被控訴人の先代前田勇吉が昭和一六、七年頃から訴外飯田忠右衛門に開墾させ、無償で耕作させていたところ、昭和三〇年一〇月飯田が右使用貸借による権利を代金一〇、〇〇〇円で控訴人に譲渡した。その後これを知つた被控訴人は、右譲渡を承諾せず、無断耕作の謝礼の意味で控訴人から提供された二、〇〇〇円を受取つたことはあつたが、ひきつづき本件土地の明渡を求めていた。被控訴人の明渡請求に対し、控訴人は、本件土地については飯田から賃借権の譲渡を受けたのであり、これについて被控訴人が承諾を与えているのであるから本件土地を占有する正当な権原ありと抗弁した。
判決は、控訴人の右抗弁に対し、事実認定にさきだち、法定の許可を得ない以上その不当なるゆえんを次のように判示した。曰く、
「しかしながら、本件土地が農地であることは当事者間に争いがなく、農地の賃借権の移転については、農業委員会の許可を得なければならず、許可なくしてなされた農地の賃借権の譲渡はその効力を生じないことは農地法第三条第一項本文第四項において定められているところであり、本件農地の賃借権譲渡について、農業委員会の許可を得ていないことは当事者間に争いのないところであるから、仮に控被人主張のような賃借権譲渡の事実があつたとしても、それによつて控訴人が本件土地の賃借権を取得したものということはできない。もつとも、農業委員会の許可なくてなされた賃借権の譲渡契約も、絶対に無効というわけではなく、当事者間における債権契約としては有効であり、しかも賃貸人の承諾ある以上、これを理由として賃貸人の土地の返還請求を拒みうるものとする見解もありうるが、許可なくしてなされた賃借権の譲渡契約は、許可を法定条件として成立し、許可があればその時から将来に向つて効力を生ずるが、許可があるまではその効力が生じないまま不確定な状態にあり、賃借権譲渡契約はまだその効力を生じていないのであるから、許可なくして農地の賃借権を譲り受ける契約をした者は、許可があるまでは、たとえ譲渡につき賃貸人の承諾を得たとしても、それを理由として賃貸人の農地の返還請求を拒むことは許されないものと解すべきである(最高裁昭和三三年・第一〇五三号、同三七年五月二九日第三小法廷判決参照)。したがつて右許可がある前に本件土地の引渡しを受けた控訴人は、たとえそれが賃借権の譲譲契約の履行としてなされ、被控訴人がこれを承諾していたとしても、それを理由に本件土地の明渡しを拒むことはできないものと解するのが相当であるから、控訴人の右主張は理由がない。」