東京地方裁判所 昭和37年(ワ)1265号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は、被告が日本教育刷新協議会会長名義で振出した約束手形の所持人として手形金の支払いを求め、予備的主犯としてかりに本件手形が訴外宮部正夫により振出されたとしても、同訴外人は前記協議会の事務局長として会長たる被告から同会の経理事務一切の代理権をあたえられていた。かりにそうでないとしても、被告は会長として宮部にたいし同協議会の趣意書、規約、新聞等の発行ならびに発行に必要な印刷を業者に注文して請負契約を締結すること等の権限を与えていた。そして日本教育刷新協議会が存在しなかつたのであるから、前記授権行為は被告個人がなしたことに帰する。したがつて宮部の本件手形の振出行為がみぎ権限を踰越していたとしても、原告は宮部がみぎ各手形を振出す権限を有するものと信じ、かつそのように信じたことについて正当の事由を有するから、かりに本件手形の振出行為が被告から宮部に与えられた前記代理権の消滅後になされたものであつても、被告は民法第一一二条、第一一〇条の趣旨により本件手形振出の責に任じなければならない。と主張した。
判決は原告の予備的主張のうち最後のもの(民法第一一二条、第一一〇条の趣旨によるもの)を認容したが、本件日本教育刷新協議会は創立総会を開いて一応形式的に発足したが、未だ組織的に活動しうる財産的基礎は全くなく、人的組織的基盤も殆んど定つていない団体で、被告はこのような設立準備中の状況、活動の概要を知り乍ら会長の地位に就いたという事実を認定した上、被告の宮部にたいする前記授権行為については民法第一一七条の趣旨を類推適用すべきであるとして、つぎのように説明している。曰く。
「被告は会長としての資格において宮部に対し昭和三五年四月一三日頃、宮部が日本教育刷新協議会の事務局の責任者として、同協議会の名の下で、同協議会の実質的な設立準備に必要な寄附の依頼、広報活動、広報文書の作成、そのために要する最少限度の用紙の購入や印刷(すなわち用紙の売買契約、印刷業者との間の印刷請負契約等の締結)、機関紙に掲載する広告の受注(広告することを内容とする請負または準委任契約の締結)、連絡および広報文書の発送等をなす包括的権限を、黙示的に授与したものであると認めることができる。ところで、この事実によれば、被告は日本教育刷新協議会長の資格において、宮部に対し、右包括的な権限を与えたことになるのであるが、日本教育刷新協議会が独立した権利能力者として存在するものでないことは、すでにみたように当事者間に争いのないところであるから、被告は、後記のように宮部が被告を会長とする日本教育刷新協議会の代理人であると信じて取引した原告に対し、民法第一一七条の趣旨を類推して、被告が会長としてなした前記授権行為について被告個人が授権者であり、かつ本人である場合と同様な責任を負わなければならないものと解するのが相当である。」