東京地方裁判所 昭和37年(ワ)1452号 判決 1962年11月09日
判 決
原告
宮入バルブ販売株式会社
右代表者代表取締役
宮入敏
原告
宮入敏
原告
宮入忠義
右三名訴訟代理人弁護士
朝比奈新
平沼高明
被告
日本興業株式会社
右代表者代表取締役
星野五三郎
主文
1 被告は、原告宮入バルブ販売株式会社に対し金一七六、七〇〇円、原告宮入敏および同宮入忠義に対し各金五、二三五円並びにそれぞれ右金員に対する昭和三七年三月一四日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。
2 原告宮入敏および原告宮入忠義の被告に対するその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は三分し、その二を被告の負担とし、その一を原告宮入敏および同宮入忠義の平等負担とする。
4 この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。
事実
原告等訴訟代理人は、「1 被告は、原告宮入バルブ販売株式会社(以下原告会社と称す)に対し金一七六、七〇〇円、原告宮入敏(以下原告敏と称す)に対し金五一、〇〇〇円およ原告宮入忠義(以下原告忠義と称す)に対し金五一、五〇〇円並びにそれぞれ右金員に対する昭和三七年三月一四日以降支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。2訴訟費用は被告の負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因としてつぎのとおり述べた。
一、訴外諸井稔は、昭和三六年一一月二四日午前一一時四五分頃普通乗用車(セドリツク・カスタム、五め六四五〇)を運転し、原告敏および原告忠義を同乗せしめて川崎市管二三八八番地先道路を東京から甲府に向つて走行していた。恰も時を同じうして訴外小河光雄は、被告所有の八トン積大型貨物自動車(一あ七二五九)を運転して諸井運転の右自動車に続いてその後方を走行していた。諸井運転の自動車の両方を走行していた小型貨物自動車があつたが、前方突発の障害によりこれがまず減速および停車の措置をとつたので、諸井もまたこれに続いて減速および停車の措置をとつた。しかるに、小河光雄は諸井車に後続しながら、応急の措置をとらず、その運転車を諸井車に激突せしめ、その衝撃で諸井車は前方の小型貨物車に追突するに至つた。
二、右事故によつて諸井の運転する自動車は、前後の両部分にわたつて傷害をうけ、これに乗車していた原告敏は、頸椎捻挫の、原告忠義は、頸椎捻挫および腹部打撲の各傷害をうけた。
三、右事故は、小河光雄が自動車運転者として当然つくすべき前方注視の義務および事故避止義務をつくさなかつたことによる過失によるものである。しかして、小河光雄は、被告会社の業務として米軍用の物資を積載した前記貨物自動車を運転していたものであるから、被告会社は、後記物的損害については小河光雄の使用者として、また後記人的損害については同人をしてその所有自動車を運転せしめることによつてこれを自己のために運行の用に供した者として右事故によつて原告らがうけた左記損害を賠償する義務あるものである。
四、原告らが右事故によつてうけた損害は、つぎのとおりである。
(一) 諸井稔運転の自動車は、原告会社が訴外太洋自動車株式会社から所有権留保附月賦販売契約によつて買入れ、使用していたものであつたので、原告はその損傷の修理をし、昭和三六年一二月二七日その修理代として金一七万二五一〇円の支出を余儀なくされ、同額の損害をこうむつた。
(二) 原告敏は、前記傷害により一週間の安静加療をし、その頃その費用として、一、〇〇〇円の支払を余儀なくされ、同額の損害をうけた。またこれによつてうけた精神的苦痛は相当大なるものがあり、その慰藉料は五万円をもつて相当とする。
(三) 原告忠義もまた前記傷害により一〇日間の安静加療をし、その頃その費用として一、五〇〇円の支払を余儀なくされ、同額の損害をうけた。これによつてうけた精神的苦痛は前同様相当なものがあり、慰藉料は五万円が相当である。
五、よつて、損害賠償およびこれに対する訴状送達の後なる昭和三七年三月一四日以降支払ずみまでその遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだしだいである。
被告代表者は、「1原告の請求を棄却する。2、訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。
一、請求原因第一項の事実は認める。同第二項の事実は知らない、同第三項前段(小河光雄の過失)は否認する。諸井は、事故直前に小河運転の自動車を追越し、その直後に急停車の処置をとつたのであるが、右追越の為先行車との間隔が急に詰つたため追突の事故を生じたのであつて、むしろ追越をした諸井の過失による事故というべきであつて、小河光雄の過失によるものというべきではない。同第三項後段小河光雄と被告会社との使用者の関係および小河光雄の自動車が被告のために運行の用に供されていたものであることは認める。同第四項の事実は否認する。
二、よつて、原告らの請求は理由がない。
立証関係≪省略≫
理由
一、請求原因第一項の事実(追突)は当事者間に争がなく、同第二項の事実(損傷および傷害)は、(証拠―省略)によつてこれを認めることができる。
二、そこで事故の原因たる過失について検討するに、当事者間に争のない前記認定の追突の事実および(証拠―省略)を併せ考えるときは、本件追突の事故は諸井車に先行する小型貨物自動車の前方を左から右に道路を横断する者があつたためとられた急停車の処置にもとづくものであることを認めることができる。このように自動車が他の自動車に追従進行する場合には、つねに先行車との追突をさけうる相当の距離を保つべきであり、前行車が急停車した場合には前方を注意していてそれに応じて徐行、急停車等の措置をとつて追突をさけるべき義務があるというべきである。しかるに、後行車の運転手たる小河光雄がこのように追突の事故を起したのは、当然とりうべきこれらの注意義務を怠り、漫然進行したためと思われるのを相当とする。
したがつて、小河光雄には自動車運転者としての注意義務を怠つた過失があるといわなければならない。この関係は、たとい諸井運転車が小河運転車を追越し、その前に割り込んだのであつたとしても、事故発生前すでに諸井運転車と小河運転車とが前後の列を作り、先行車と追従車の関係をもつて進行していたものと認められる本件の場合にはかわらない。
つぎに、小河光雄の自動車運転が被告会社の業務のためにされたものであることは当事者間に争がないから、被告会社は、本件事故によつて生じた後記物的損害について民法七一五条のいわゆる使用者責任を、また後記人的損害について自動車損害賠償保障法三条の保有者責任を負うものといわなければならない。
三、右事故によつて、原告らのうけた損害について判断するに、(一)証人諸井稔の証言によれば、諸井運転車は、原告会社が訴外太洋自動車株式会社との所有権留保附月賦販売契約によつて使用していたものであつたことを認めることができ、同証言によつて成立を認める甲第一、第二、第三号証によれば、原告会社は、右自動車を訴外太洋自動車株式会社に修理させ、昭和三六年一二月二七日その修理代として金一七六、七〇〇円を同会社に支払つたことを認めることができる。(二)つぎに、原告宮入敏の供述およびこれによつて成立を認める甲第五、第六号証によれば、原告敏および原告忠義は、前認定の傷害により、それぞれ山梨県立病院で診療をうけ、診療費としてそれぞれ二三五円の支出をしたことを認めることができる。原告敏の供述中には、右認定以外に多少の診療費の支出があつた旨の供述があるけれども、該供述は、的確性を欠き、当裁判所の心証を惹かない(元来そのような支出については領収書等をもつて具体的にかつ的確に立証することが可能である、たとえ、紛失した場合にも再発行を求めることも可能である。したがつて、さような立証方法をもつて供述の的確性の欠如を補足すべきであるのに、本件ではその措置がとられていない)。
なお、原告および原告忠義は、精神的苦痛に対する慰藉料としてそれぞれ五万円の請求をしているところ、原告宮入敏の供述によれば、原告敏は原告会社の代表取締役社長であり、原告忠義は原告敏の父であつて、両人は、本件傷害によつてそれぞれ二、三回前記山梨県立病院の医師の診療をうけたことを認めることができるけれども、その傷害によつてうけた苦痛がいかなるものであつたかを的確に認定しうる客観的な資料は提出されていない。甲第四、第五号証にはそれぞれ要治療日数の記載があるけれども、初診から五ケ月余を経過した後の診断にもとづいて作成された診断書としては、杜撰であり、慰藉料算定について被害者の苦痛を知るための実際に要した診療日数を認定する資料として相当なものといえない。しかし、右に認定した限度においてでも、原告敏および同忠義がその傷害によつて相当な苦痛をうけたであろうことは容易に推察のつくことであるから、右に認定した諸般の事情を斟酌してその慰藉料はそれぞれについて金五、〇〇〇円をもつて相当と認める。
五、以上のしだいであるから、被告は、原告会社に対し自動車修理代一七六、七〇〇円、原告敏および同忠義に対しそれぞれ診療費および慰藉料合計五、二三五円および右各金員に対し訴状送達の翌日であることの記録上明かな昭和三七年三月一四日以降右支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の遅延損害金を支払う義務があるというべく、したがつて原告の請求はこの限度において正当として認容すべきであるが、原告敏および原告忠義の請求中これを超える部分は失当として棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担について民訴八九条九三条、九二条の規定を、仮執行の宣言について同一九六条の規定を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二七部
裁判官 小 川 善 吉