東京地方裁判所 昭和37年(ワ)2108号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は、原被告は訴外鳥居広吉所有の共同住宅の各一室を賃借居住していたところ、被告の重大な過失に基く失火のため原告の家財道具を焼失し財産上の損害をうけたので、これが損害の賠償を求める、と主張した。
判決は、被告が電熱器を熱源として電気コタツ代りに使用していた事実を認定し、この点に被告の重過失があると判断し、「失火の責任に関する法律」の適用を排除して被告に損害賠償義務を認めたが、判決の認定した事実関係の詳細はつぎのとおりである。曰く。
「被告はかねてから電熱器(MK六二一型松下電気産業株式会社製品最高六〇〇W、ニクロム線の露出しているもの)を熱源とし、これをヤグラに入れ、その上からフトンを掛けて電気コタツの替りに使用していたものであつて、前日である二三日の夜平素のように使用を終つて電気スタンドと三〇〇ワツトのスイツチを入れた電熱器に連結している二又をコンセントから抜き取つて、就寝し翌二四日朝七時半頃起床し八時頃ワイシヤツにアイロンをかけるため右の二又をコンセントに差し込み、スタンドのコードの色は水色のビニール製であるのに反しコタツのコードは赤い綿のもので識別が容易であるのに拘らず、その確認をしないでコタツの方のコードを二又から抜き取つたものと思つてその一方を抜き、そのあとに電気アイロンのコードを差し込みこれを使用し、使用を終つて、そのアイロンのコードだけ二又から抜き取り登校を急いでいたため八時半頃電熱器の火気に注意しないで外出したこと、同日午後四時半頃帰宅して右室の西側に置いてあつた右コタツ付近から発火しているのを発見したが時既に遅く火は窓のカーテンに移り遂に同室、東隣の三畳、階上西側の三畳、原告居室の北の押入等を焼燬したこと、その結果原告主張のとおりその所有物件が半焼及び消防等のため水損し、その効用を失つたこと及び消火後の調査によれば、二又を通してコンセントに接続していたのはスタンドのコードではなく三〇〇ワツトのスイツチの入つた電熱器に通じるコードであつて、焼燬の程度からコタツが発火点と推定されることが認められる。右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によれば右火災は電熱器から発火したものであつて、被告が電熱器のコードを抜いたと思つたのは容易に判別し得たコードの区別を不注意にも誤認したものであつて、事実はスタンドのコードを抜いたものであり、したがつて被告が電熱器に通電していないものとして、これに注意しなかつたのは過失があつたというべきである。元来三〇〇ワツトのスイツチの入つた電熱器をフトンを掛けたヤグラコタツに入れて使用すること自体からしてニクロム線が露出しているため、引火の危険が重大であつてそれを放置すれば過熱によりフトンに引火し、容易に火災を起す危険のあることは明らかである。してみれば、スタンドのコードを電熱器のコードの抜き違いの点の過失が重大であるかどうか疑問があるとしても右電熱器をコタツとしてフトンに入れて使用することは重大な過失というべきであるから右二つの過失が競合して本件の火災を発生せしめたことは結局重大な過失に基因するものという外はない。それ故被告は右重過失に基く火災により原告が蒙つた損害について不法行為者として、これを賠償すべき責任を免れないというべきである。